【6】
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さてはて、諸々の一件も終わりフォール達が『氷河の城』を旅立った後のことである。
アゼスは一人、またこたつの中に潜り込んでこれでもかというほどぐーたれていた。
そう、彼女は他の四天王のように旅へ同行することはしなかったのだ。いや、その性格と引き籠もりの出不精を考えれば当然とも言えよう。
まぁ、何はともあれ今日は彼女にとって数十年分の労働に値する一日だった。少しぐらいぐーたれるぐらいなら構うまい。尤も、彼女のぐーたらはこのまま数年単位で続くことだろうけれど。
「…………」
そんな彼女が何だかスッキリしたこたつの中でプレイしているのはフォールから取り戻したあの『秋の風が吹く頃に』である。
アゼスも認めるあの神作のデータ確認も含めて楽しんでいる、のだが、どうにも彼女の表情が晴れ晴れとしない。フォールの当てたパッチのお陰で画質は最高峰、音楽も最高音質だと言うのに、どうにも表情が死んでいるようだ。
いや、無理もあるまい。何故なら登場人物の外見が全てスライム化した上に何故か『スライムルート』とかいう新たなトゥルーエンドまで追加されているのだから。
「………………」
気を紛らわせようと、彼女は愛してやまないジャンクフードが押し込められた箱に手を伸ばす。
まぁ、その中に入っていたのはにぼしと干し野菜だけだったんですけれども。
「……………………」
――――アゼスへ。勇者です。
貴様の(対象は兎も角として)愛情云々は認めるが、その堕落した生活は目に余る。生憎と負傷のせいで生活強制はできないが、代わりにスナック菓子やジャンクフードの類いは全てリゼラの腹に破棄した。これからは栄養に良いおやつを食べなさい。一日一袋、三時にのみだ。
三食の後には歯磨きを忘れないこと。幾らアンデット族とは言えその腹はどうかと思う。
あとこたつや衣服も洗濯してゴーレム達に預けておいたから、清潔な衣服に着替えるように。こういった事は普段から心掛けるだけでも大分違ってくる。貴様の体臭は明らかにアンデットだからという理由ではない。気を付けろ。
ゴーレムに頼るのが悪いとは言わないが動かなければそれだけ贅肉がつく。貴様も少しぐらい運動して健康を目指すことをオススメしておく。
「…………あ、あの」
その書き置きとコントローラーを粉砕しつつ、怒りに震えながら、一言。
「クソ勇者ぁあああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーッッッッ!!!」
結局、今日一番『氷河の城』に響き割ったのはその叫び声だったというオチ。
まぁ彼女なら強く生きて行くだろうから心配は要らないだろう。ただし体臭はどうにかした方が良いと思う。
何はともあれ『最硬』の四天王アゼス・ゲンヴ。彼女との決着は、こうして迎えられることになるのであった。
「グ、グエーーーーーッ!!」
「しっかりしてくださいカネダさん! せめて祠の金品の在処だけ吐いて死んで下さい!!」
「お前もすっかり染まったよなァ。今更だけど……」
あとオマケに、そんな叫び声響き渡る『氷河の城』の近くにて若干一名の不幸者が死にかけていた。
結局丸焼きにされたあの謎肉全てを口に叩き込まれた男は、いやもう何で生きてるか解らないけれども、生死の境を彷徨っていたのである。
「あぁ、どうしよう! このままじゃカネダさんが……!! 生命創造魔法を調べるどころじゃありませんよ!!」
「そうは言ってもなァ、近くの街まではまだ距離もあるし……。ン? おい、何か聞こえねェか」
「いやカネダさんの絶叫しか……、あ、待ってください! お城!! お城がありますよ!! あそこで休ませて貰いましょう!!」
「ン? あァ、別に良いけどよォ、何か崩れてねェか? あの城……」
「廃城だろうが何だろうが落ち着ければ何処でも良いです! こっちは一刻も早く生命創造魔法を解析したいんですから!!」
「お、おう、そうか……」
「は、はよ、し、死ぬ、し、しぬぅうう……」
斯くして彼等もまた、その城へと足を踏み入れる。
奇異なる邂逅が、果たしてその出逢いと運命への反逆に如何なる結果を生むのか、アゼスの同人ネタにどれ程の閃きを与えるのかは定かではないがーーー……、それはまだ、別のお話ということで。
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