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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
氷河の城(後)
406/421

【5】


【5】


「ごべんばぁああああああああふぉ゛る゛る゛る゛ぅ゛ぅ゛う゛う゛ううううううううう!!」


「そう思うなら離せ。死ぬ」


「いいやそのまま絞め殺してしまえ馬鹿虎娘! この馬鹿は一度死ななければ治らない!!」


「待てよ今ならコイツ殺れるんじゃね? よっしゃ今こそ積年の恨みあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛何で握力墜ちてないんだこ奴うぅっぉぉおおああああああああああああああああ!!!」


 『氷河の城』第一階層。氷結のゴーレムの残骸が散らばるその場所で、全身を包帯でぐるぐる巻きにされた男は治療されるやら謝罪されるやら殺されるやら殺すやら。兎に角色々と大変なことになっていた。

 まぁ実際のところ今すぐぽっくり逝いってもおかしくない負傷だ。ルヴィリアの魔眼による緊急措置とこの城から勝手に拝借してきた傷薬やポーションで無理やり治療している状態である。殆どの傷が切り傷や打撲だったので治癒は早いだろうが、銀狼型による一撃と砲撃による直撃が特に酷い。この傷は完治するまで結構な時間が掛かるだろう。尤も、それまでは先程から使いまくったポーションの揺り戻しで地獄を見るだろうが。


「はいはい全員離れて! 今回マジでヤバいんだからこの馬鹿!!」


「貴様まで馬鹿呼ばわりか……」


「馬鹿も馬鹿さ! まさかマジでアゼスちゃんを単身撃破しちまうなんて思わなかったが、なんて綱渡りだよ! 本当今死んでないのが不思議なぐらいなんだからね!? と言うかマジで何で死んでないんだコイツ!!」


「解せぬ」


 しかし実際のところ彼女の言う通り、今回の戦いは途方もない綱渡りだった。

 いや、もういっそのこと綱を片足ぴょんぴょん爪先渡りとでも言うべきか。常に死と隣り合わせどころか腕を組んでランデヴーしたようなものである。本当に一歩、一瞬、一回でも選択肢を誤っていれば間違いでは済まなかっただろう。

 今までもそういう経験がなかったわけではないが、しかし、今回は余りにも賭けが過ぎた。


「それにしてもこのゾンビ野郎めー! フォール、さっさとコイツ埋めて良いか-!?」


「埋めるならそこで死にかけてる魔王にしておけ」


「解った-!」


「待て待て待て馬鹿虎無娘、本当に埋めるな。……しかしロー、アゼスを責めるものじゃないぞ? 彼女は彼女で四天王としての責任をキッチリ果たしたんだ。むしろ貴殿の尻ぬぐいをしてくれたと言っても良い。普段は怠惰極まりないが、アゼスもやればできるという事が解ったぐらいだ。なぁ、アゼス」


「んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


「あ、駄目だよシャルナちゃん今のアゼスちゃん触ったら……、って遅かったか。今その子夢の中で大変なことになってるから目覚めるまで待ってあげてね、色々と。流石に僕でも同情するレベルで大変なことになってるから」


 あの激闘の果てがコレなのかとかは言ってはいけない。

 大体全員が表情でそう語っているけれど、言ってはいけない。


「兎に角……、これで四天王全員撃破、ということになるな。もう一度やれと言われても、決してできないとは思うが」


「あ、あぁ、ご苦労だった、フォール。私も四天王として称賛すべき身ではないが、しかし、この功績には素直に称賛を送ろう。本当に、よくやった」


「僕はこの大馬鹿振りに称賛を送ってやるね。あーあー、本当にもう何処まで行っても大馬鹿だぜ。頭の良い大馬鹿だ。だから尚更タチが悪い」


「フォールすげー! 何か知らないけどスゲー!!」


「称賛は結構だが……、それも程々で構わん。ルヴィリア、持って来たんだろうな?」


 皆の祝福を視線で制しながら彼が促したのは、何であろう魔族の秘宝だった。

 魔王城の壺、『爆炎の火山』の覇龍剣、『あやかしの街』の水晶、『砂漠の街』の盃、帝国の聖剣に続く最後の封印具ーーー……、秘宝。彼がこの旅路を歩む理由であり、その力を封じる最後の道具だ。

 ルヴィリアはその言葉に頷くと共に、懐から数珠を取り出した。今までのそれに比べればかなり小振りだが、確かに放たれる逸脱した雰囲気からして封印の秘宝に間違いはないらしい。


「……数珠。いやネックレスの類いだな。まぁ何でも良いが」


「で、どうするんだい? 使うの?」


「あぁ、どうせこの後はポーションの揺り戻しで気絶するだろうからな。今使ってしまおう。地獄を見てから気絶するぐらいなら見る前に気絶した方がーーー……、いや、その前に渡しておかなければならないものがだな」


 と、そこまで言いかけた辺りだろう。

 不意に走って来た小さな影が、ルヴィリアから数珠を奪って逃走したのだ。余りにあっと言う間の出来事で、それに反応できた者は一人もいなかった程である。


「……ぴょふ、ぴょふふふふふ」


 それを奪ったのは誰であろう、アゼスだった。

 いつの間に目覚めたやら、恐らく先程シャルナに触れられた時だろうが、彼女は超小型ゴーレムに数珠を奪わせて再び立ち上がったのだ。


「油断ッスねぇ……! 油断ッスよぉおおお……!! ぴひゃひゃひゃ!! 俺様にトドメも刺さず呑気に歓談とは油断以外の何モノでもないッスねェ!! キャーッキャッキャッキャッキャ!!」


「……何だその笑い声は」


「アゼスちゃん、内股で膝がくがく言わせながら威張っても説得力が……」


「貴殿、何か垂れてないか……」


「くさい」


「アンタら全員嫌いだバーカバーカぁ!!」


 もうちょい手心お願いします。


「ぬひ、ぬひひっ……! けどその余裕が何処まで保つか見物ッスね……!! こっちには最強のゴーレムっていう手駒がまだあるんスから……!!」


「ローを模したゴーレムならロー自身が破壊して義手を取り戻したぞ。鎧の分だけ速度が遅れて、義手の無いローにすら敵わなかったようだが」


「それとはまた別のゴーレムッスよォ! 初代魔王様の手を借りたヤツなんでぶっちゃけ使いたくなかったッスけど、ふひひっ! アレはマジヤバいッス。俺様から見てもマジでイカれてる性能ッス……!! 下手すれば俺様より強いかも知れないッスからねェ……!! あぴ、あーっぴっぴっぴ!!」


「おっと、やめときなアゼスちゃん。君はフォール君との戦いに負けたんだ。今更そんな手駒出してきたって負け惜しみ以外の何モノでもないぜ。それに……、初代魔王カルデアの名前が出た以上、僕達も黙ってるワケにはいかないな。そいつを出して来るって言うなら僕達全員が相手になるけど?」


「うっせーッス! ルヴィリア先輩め!! こちとらアンタのせいでどんな目に遭ったことか!! 先月だって一緒にエロゲー買いに行こうって約束してたのに!! 約束してたのに!! 俺様、帝国の中で五時間も待ったんスよぉ!!」


「あ、ごめん忘れてた……」


「貴殿、流石にこれは貴殿が悪い」


「兎にかァあく!! こっちはもう四天王とか何とか捨てて勇者フォーーーールゥウウ……! アンタをブチ殺す為だけに行動してるんスよぉおおおお……!! 『秋の風が吹く頃に』のデータ抹消はそれだけ罪深いんスからねぇええ……!!」


「いや、それなんだが」


「言い訳無用! 来い、最強のゴーレムゥウウウウウウウウウウウウウッッ!!」


 アゼスの咆吼が『氷河の城』全体に響き渡り、その巨躯は遙か上空より表れ、ない。

 意気揚々な叫び声に叛して流れるのはただ悲痛な静寂だけ。全員が真顔で固まるが、しかし、どれだけ待っても最強のゴーレムとやらが現れることはなかった。迫り来る音どころか気配すらしない。たぶん、一生待っても来ない。

 ちなみにーーー……、彼等は知る由もないが、その最強のゴーレムとやらはとある盗賊と傭兵と冒険者の三人組が美味しくいただいた後である。半魔半生の究極のゴーレム丸焼き風味という、豪快な食中毒待ったなしの漢料理によって。


「……で、覚悟はできてるか? アゼス」


「やだぁあああああああああああああああああああ! 赦してぇええええええええええええええええ!!」


 まぁ、そうなるな。


「違うんスよぉ! だってみんな俺様仲間はずれにして楽しそうなことやってるしぃ!! どうせBBQとかテーマパークとか行ってたスよねぇ! 俺様仲間外れにして行ってたんスよねぇ!! うわぁあああんやだもぉおおおおおおお!! 良いッスよ良いッスよ俺様の友達はあっちの次元だけですもんうわぁああああああああああん!!」


「発想が貧困ダナ」


「そうやって馬鹿にしてぇ! やだぁ!! もうやだぁ!! どうせ裏で悪口とか言ってるんスよぉ!! やーだぁーー!! もうやーだぁーーー!!」


 大泣きしながらジタバタドタバタ恥も外聞もなく暴れ回る様の、何とまぁ無様なことか。

 フォールの眼差しがリゼラを見るそれになっている辺りその酷さは言うまでもないモノだろう。いやまぁ気持ちは解らないでもないのだが、流石に見苦しすぎるというか何と言うか。

 その様を見かねたのかフォールは懐に手を忍ばせ、何かを取り出した。

 ちなみに『まさか介錯か!?』と身を挺してアゼスを守ろうとしたルヴィリアに勇者流アイアンクローが飛んだのは言うまでもない。


「落ち着け、アゼス。確かに貴様には悪いことをしたと思っている。策にしても愛するモノを奪うというのは些か邪悪に過ぎた」


「うぇえええ……、うぇええぴぐっ……」


「普段の行動の方が邪悪だと思ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


「る、ルヴィリアがまた死んだ!!」


 勇者流アイアンクロー再炸裂である。


「……だが安心しろ。この通り、データはバックアップ済みだ。謝罪程度ではあるがパッチも加えておいた。これで貴様のゲームデータは復旧できるだろう」


 そう、ルヴィリアを殺しながら彼が差し出したのは一枚のディスクは、彼が電源室で懐にしまったあのディスクだった。

 戦いの最中に壊れないよう外に置いてきていたらしく、あれ程の激闘にも拘わらずディスクは全く新品そのもの。ご丁寧にパッチを着けたと言うぐらいだから、これをインストールすれば再びゲームデータは復旧するだろう。


「……ほ、ほんろ?」


「あぁ、本当だ」


「…………ふひっ、ふひひっ! ふひゃっ!! アンタ良い人ッスねぇ~」


 涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながらも嬉しそうに笑うアゼス。まぁ、何はともあれ良かったということで一件落着しそうだ。

 なおその隣で魔王と変態が死んでいるわけだが。細かいことは気にしてはいけない。


「さて、こちらの用件も済んだ……。後は手早く封印を済ませたい、ところだが、その前にだ。アゼス、目覚めたのなら貴様に聞いておきたいことがある。初代魔王カルデアについてだ」


「ふ、ふひっ?」


「貴様は何度か奴の名を口にしたし、地底都市では奴の計画に手も貸していた。まぁ、聞くところによれば被害者と言えなくもないようだが……、何か奴の為そうとしていることについて知っていることがあるなら教えて欲しい。こちらは、まだ奴に関しては殆ど知らない状態なのでな」


 確かに、現状として初代魔王カルデアの情報を保っているのはアゼスだけだ。

 カルデア直属と思われた魔族三人衆も女神の命令で動いていた末端に過ぎなかったし、直接相見えたのはやはり彼女だけしかいない。今は一つでも情報が欲しい時、例えどんなに下らないことでもフォールは判断材料を欲していた。

 しかし、アゼスから帰って来た答えはどうにも、明確に答えを得るものではなく。


「お、俺様だって知らないッスよぉ。だって急にやってきて手を貸せって言い出して……。今までのこととか、俺様も知らないことだっていっぱい教えられたけどぶっちゃけ興味無かったし……。ただアンタを倒せば一生働かずぐーたらできる場所を用意してくれるって……」


「やはりそんな誘いに乗っていたのか、貴殿は……」


「フシャー! このアホ!! マヌケ!!」


「うぅ、だってぇ、だってぇ……」


「構わん。そこは今論点ではない。……他に何か言ってなかったか? どんな些細なことだろうと教えて欲しい」


「そうは言ってもぉ……。あ、でも何か、何だったかな? 言ってたんスよ。確か、よく解らなかったしリズムゲーやってたから殆ど聞き流してたんスけど……。刻は近い(・・・・)、とか、何とか?」


 そこまで言いかけた辺りで、アゼスは不意にフォールを見た。

 あの燃え盛るように不屈の意志を点していた双眸が、何よりも凍てついた、この城よりも氷河よりも氷結よりも冷たく深く、闇のように鋭く深い色になったのを、見た。

 彼女は思わず悲鳴を上げてルヴィリアの影に隠れようとしたが、しかし、彼女達もその眼差しに戦慄を覚えているらしく、張り詰めた空気が流れるばかりだ。


「……そうか。奴が、そう言ったのか」


「そ、そうッス! 言ったのは初代魔王ッスからね!? 俺様じゃないッスからね!? 俺様は悪くないッスからね!!」


「…………刻は近い(・・・・)、ね。どう思う? フォール君」


「何だ貴様生きていたのか」


「花畑と川の向こうでリゼラちゃんが手振ってたけど生きてるよ」


「おい待て向こう側はマズい向こう側は」


「リゼラちゃんならノリで戻って来るからヘーキヘーキ。……それより初代魔王カルデアのことだけれど、うん。フォール君、きっと奴はこの先の、『広き平原』、いや、『深き森』と『盗賊の祠』を超えた先で決着を着けるつもりだ。きっと、君の求めるモノがある場所で全てを終わらせるだろう」


「だろうな。奴の享楽的な性格を考えればそう推測するのが打倒だ」


「……だから、フォール君。僕は反対だぜ。行くのが、じゃない。君が封印を行うのが、だ。正直言って今の君ならもうスライムに会うことができるんじゃないか? 確かに君の目的のブルースライムはスライムで一番弱い種だ。きっと今の状態じゃ、もしかしたら逃げられるかも知れない。けれど会うぐらいなら、今のままでも」


「ならん」


 スッパリ、と。


「俺の目的はブルースライムをぷにぷにすることだ。それ以上でもそれ以下でもなく、存分にぷにぷにすることだ。俺の旅はその為だけにあるし、それ以外に意味も目的もない。……初代魔王だろうが何だろうが、俺の目的を阻害する理由にはならんと知れ」


「……だ、そうだ。ルヴィリア。諦めろ、フォールは絶対に引き下がらないぞ」


「なんたってフォールだからナー! そりゃ下がらないよナー!!」


「うん、まぁ、だろうね……」


 納得する面々を他所に、本気で自分はスライムに負けたのかと戦慄するアゼス。

 気持ちは解るがここにいる全四天王とついでに魔王もそうなので諦めて欲しい。


「ではさっさと封印を行うか。恐らく封印した後は気絶するだろうから、シャルナ、任せるぞ」


「え? あ、あぁ、うむ! 任された!!」


「ヤダー! ローが運ぶー!!」


「では二人で運べ。気絶しているのだから誰が運ぼうと大差はあるまい」


 坦々と、彼はルヴィリアに数珠を保たせると壁にもたれ掛かって『封印しろ』と言い放つ。彼女の苦々しい、けれど何処か納得した表情に構うこともなく。

 ――――今の状態でフォールに封印を行って無事である保障はないが、しかし、どうせこの後気絶するのだ。それに今アレだコレだと口にしたところで彼は納得しないだろう。

 何とも強情なことだ。けれど、その強情さが彼の強さでもある。ならば自分にできることはただ、この数珠を使って彼を封印することだけだ。


「……じゃあ行くぜ? フォール君」


「あぁ、やれ」


 彼女が僅かな魔力を込めた瞬間に、数珠から漆黒の閃光が放たれ、辺り一面を覆い尽くした。

 包帯に追われた体躯はその閃光に四肢を揺らし苦悶の声を漏らしたが、しかし、その身より出でる白き光を抑えようとはしない。辺りを舞い荒ぶ瓦礫と共にその身から抜け落ちる純白と真紅の何かを、決して抑えようとはしない。

 ただそれは一瞬であり、しかし衝撃的であり、けれど永劫に等しいかのような、そんな刹那だった。辺りの閃光が消え去りフォールの腕が緩やかに垂れ下がるまで、数えるほども無かっただろう。


「……き、貴殿?」


 封印は、終わった。

 彼が求め欲してきた為の手段は、全て終えられた。何もかもーーー……、今この刹那を持って、終わりを迎えたのだ。


「し、死んでる……」


「いや生きてる生きてる」


 だがしかし、旅はまだ続くのだ。これはあくまで手段でしかないのだから。

 これより数日後、彼等は最後の大地を踏み締めるだろう。その脚で、その腕で、その意志で、最後の大地に到るだろう。

 そしてその大地こそが彼等にとって最後のーーー……、決戦の場所となる。

 初代魔王カルデア。全ての根源にして邪悪たる存在との、決戦の場所に。


「……本当に、君は」


 この旅の、終わりの場所に。


「無茶な野郎だぜ……」



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