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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
氷河の城(後)
402/421

【1】


【1】


「……む?」


 色欲の街を脱出したフォール達は光の扉、ではなく光の亀裂を通って次の世界へ訪れていた。

 半ば裏技どころかバグ技を使っての移動だ。流石のフォールも、そもそも移動できるかどうか不安であったものの、無事に移動はできたらしい。しかその表情に安堵が宿ることはなく、むしろ、何処か複雑そうに歪むばかりだった。

 そこが彼等の夢を束ねる中間点たる世界ステージだから? いやいや、そうではない。まさか光の先に現れた場所が、あの出発地点でもある『氷河の城』の大広間とは思いも寄らなかったからだ。


「脱出した先が、というのなら解るが……。中間地点までこの空間を模すとはな」


「ひゃっ!? 危ない、滑るかと……」


「ぬげぶァ肋骨がアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


「んほぉおおおおおおおおおおおおおお落下の衝撃らめぇええええええええええええええええ!!!」


「……す、すまない。落としてしまった」


 まさかの二名脱落である。


「貴様等は移動ぐらいもう少し静かに……、言うだけ無駄か。それよりシャルナ、この世界をどう見る?」


「え? ど、どうと言われても……。先程の空間だな、としか。あ、でもリゼラ様が囓った空間がない! ローが転がった痕は、あるようだが……」


「そこだ。……ふむ、どうやら俺が始めに遭遇した鏡あわせの空間ともまた違うようだな? アゼスめ、三度も同じ景色を見せるとは手抜きが過ぎる。見せるならせめて、もっと、こう、一面スライムのような景色をだな」


「それで喜ぶの貴殿だけだと思うのだが……」


「何を言う? スライムの素晴らしさはその一だけで究極の原点にして頂点と」


 と、フォールがまたスライム論を語り始めようかというその瞬間だった。


「フウーーーーーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッッハッハッハッハ!!!」


 聞き覚えがある、しかし聞いたこともない笑い声が響き渡ったのは。


「いやはや、驚いたな! まさか真正面から堂々現れようとは……。意外にも程がある!! いや、その滑稽さだけは称賛しようか? それとも侮蔑しようか!」


 大広間の階段を闊歩してくるその者を前に、フォールは真顔のまま固まり、シャルナは唖然としたまま停止し、ルヴィリアは落下の衝撃により押し寄せる快感に身悶え、魔王は死んだ。

 誰も、反応できない。まさかその者がここにいようとは思いもよらず、そしてその人物がそんな口調で、仰々しく、演技染みた声色を張りながら堂々と歩んでくるなど考えもしなかったのだから。いいや、この事実を前にしても、未だ信じることができずにいたのだから。

 まさかーーー……、フォールが大袈裟すぎて演技染みた人間らしい表情を浮かべて現れるなど、信じられるわけがないのだから。


「クックック! ハァーーーハッハッハッハ!! 何だ、その無様な表情は!! 滑稽だな! 嗚呼、全く滑稽に過ぎる!! 俺を笑い殺す気か? ハァーッハッハッハッハッハッハッハ!!」


「……何だ、アレは。顔貌(フェイカー)でもまだ似せるぞ」


「何だろう、この……。有り得ない何かを……、何だ……、この、何……? 天変地異より有り得ないというか、何……? 貴殿、私は今この旅で最大の衝撃を受けている……。何この、何……?」


 しかしそれだけでは止まらない。ただただ困惑するシャルナの背後より、彼女の臀部をするりと撫でる手があった。

 そう、誰であろうシャルナである。シャルナの尻を触る、シャルナである。


「ほぅ? この私も中々どうして鍛えてある……。やはり胸はないが、フフ。その方が感度は高いものなぁ? どうだ? 互いにどちらの筋肉が上かぶつかり合って決めるのは……。肌と肌で、先に震えてしまった方が負けで良いぞ? うん?」


「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


「コラッ! そういうのはやめろって言ってるにゃあ!! 初対面の人の体に触るなんて失礼ダロー!!」


「んもぅ、ローは相変わらず厳しいなぁ。まぁ、そういう刺激的なところが好きなんだが……♡」


 変態シャルナと真面目ロー。最早、有り得ない天変地異を通り越して悪夢としか例えようのない景色にシャルナは白目を剥いて卒倒しかける。あと一歩で卒倒するところだった。と言うかもうほぼ卒倒していると言っても良い。

 ――――まさか、こんな、有り得ない。見た目だけは一緒なのに、いやフォールだけは表情的な意味で全く異なっているが、どうしてこうも違う? 中身だとか性格だとか、そんな次元の問題ではない! 何もかもが違う!! 全然違う!! 全く、どうして、一から十まで、全てが!!


「そこまでにしておけ、阿呆共」


「なははは。私達の制止聞いてくれれば何も苦労しないだよねー」


 その者が出現した瞬間、シャルナは卒倒した。フォールでさえ膝を屈し、衝撃に脳髄を揺らされた。


「話が進まん。……ふん、まさかアゼスの言う通りだとはな」


 真面目なリゼラという、表情あるフォールより有り得ない存在を前に、ただ、誰もが現実を否定せざるを得なかったのである。


「馬鹿な……! こんな、こんな事があるのか……!! 馬鹿な……!!」


「あばばばばばびー、ひゃあああああああ」


「しっかりそろシャルナ、貴様まで正気を失っては如何に俺と言えど理性を保てる自信がない……!」


「何じゃ、そちらのフォールは随分まともじゃな」


「やかましいわ外道魔王めが! 俺はいつだってまともだ!! 異常なのは貴様だろう!!」


「「ぐはァッッ!!」」


 この時点でフォールとシャルナは、ダメージを受ける対象が異なろうと互いに死を覚悟していた。

 ――――迂闊だった! アゼスの目論見にまんまと嵌まってしまった!! まさか直面するだけでここまでのダメージを与える策謀が存在していたとは思いも寄らなかった!! 迂闊、余りに迂闊!! こんな拷問染みたマネができるなど、生物としての理を遙かに超越した思想なくしては有り得ない!!


「「おのれ、アゼス……! 貴様の血は何色だぁーーーッッッ!!」」


 なおアゼスがこのダメージを一切想定してないのは言うまでもない。


「なははー。何だかこっちに負けず劣らずの愉快な連中だねぇ。何かこう、あれ、ほら。あの……、うん……」


「クソァッ! 何だあのふわっふわしたルヴィリアは!! 奴は支離滅裂でも最悪意味のある言葉しか吐かないはずだぞ!!」


「落ち着けシャルナ、慌てれば奴等の思う壺だ……! 冷静になれ……!!」


「ごめんナー。ウチのバカばっかだからナー? 迷惑掛けてホント申し訳ない……。そっちのリゼラ様とルヴィリアは怪我してるのカー? 傷の手当てならできるゾー?」


「おいこのローを持って帰るぞ」


「貴殿も落ち着け! やめろそんな馬鹿虎娘は気色が悪い!! ローも抵抗して、やめ、ちょ、あの、やめろォ! そんな悲しげな目でこっちを見るなァ!! 悪かった気色悪いとか言って悪かったから!! やめろォ!! 悲しげな目でこっちを見るなァ!!」


 ただの登場で阿鼻叫喚。これ程の惨状が今まであっただろうか。

 予測するにこの空間はどうやら、フォールが挑んだ風景が鏡会わせの世界ではなく、性格が鏡会わせな、いや正確には異なるがフォール達の知る一行とは性格がごちゃ混ぜになった世界らしい。

 フォールの性格がリゼラに、リゼラの性格がフォールに、シャルナの性格がローに、ルヴィリアの性格がシャルナに、ローの性格がルヴィリアに。何とも厄介なことである。


「ふん、まぁ良いわ……。おい、フォールよ」


「何だ貴様ァ! 気安く俺の名前を呼ぶなァ!!」


「……訂正する。そちらのフォールよ。我等はアゼスから大体の事情を聞いておる。何でも妾達は貴様達の想像にあるイメージを混ぜて創り出した幻影なのだそうだな? まぁ、こちらからすれば御主達がそれに当たるわけだが」


「やめろ、リゼラの声で真面目な話をするな……! 頭が痛くなる……!!」


「ではフォールに」


「フハハハハハハ! この俺に代弁させるとは無礼千万!!」


「ゲボゥグァッッ!!」


「すまない、こちらのシャルナが死にそうだ」


「……ではローに、だ。頼めるな?」


「任せロー!!」


 フォールとシャルナは『それはこっちでも同じなのか』という言葉を飲み込んだ。


「えっとナー、つまりロー達はお前達を通すなって言われててナー? けどリゼラ様はそれを信じてなくてナー? まぁアゼスが何かを企んでるってのは予想できるけど、こっちもアゼスのトコに行かなきゃだから、お前達をどうにかしなくちゃいけなくてナー?」


「……状況は似たり寄ったりということか。つまるところ力尽くしかないというわけだ」


 フォールはその言葉を自身で肯定するかのように白銀の刃を引き抜いた。

 それと同時にリゼラ(偽)とフォール(偽)の背後にいたルヴィリア(偽)の眼が緋色に輝きを強める。正に、一触即発だ。


「き、貴殿、余りに無茶だ!! 相手は万全、一方こちらは私と貴殿だけなのだぞ!? しかも人数にしたって、向こうにはローがいるんだ!! 余りに不利過ぎる!!」


「あ、ローは参加しないゾ? 不公平だからナ」


「何だこの常識人!?」


「で、あれば尚更有り難い。こちらも少々戦力は不備だが……、何、誤差の範疇だ」


 剣はその切っ先まで引き抜かれ、明らかな戦意を表明する。

 リゼラ(偽)もその行為を受け取ったのか、掌を掲げると共にルヴィリア(偽)を前面へと押し出した。


「互いに中間地点としては激闘に過ぎるじゃろうが……、何、手加減するつもりはないぞ? 魔王たるこの妾に慈悲など存在せぬ。貴様等はここで塵芥となり、我等の礎となるが良い。奇しき幻影があったこと、頭の片隅程度にならば置いてやらんこともないでな」


「それは光栄だが、生憎とこちらも時間がない。貴様の大層な狂言に付き合っている暇はないのでな」


 対峙する、真実と虚構。鏡会わせの勇者と魔王。

 シャルナはその光景を前に一応覇龍剣を引き抜いて構えを取るが、内心では酷く焦り果てていた。

 ――――無理だ。如何に性格が変わっていようと、アゼスのことだから中身の強さはそのままだろう。如何にフォールであろうとそんな連中を倒すことはできない。こんなもの、難易度以前の問題だろう。

 自分が手を貸すからそれで調整しているつもりか? 馬鹿な! 確かに自身がいれば勝負にはなるかも知れないが、それは相手も同じ!! 覇龍剣と覇龍剣がぶつかればいったいどうなるかなど想像もつかないし、向こうには万全のルヴィリアと冷静なリゼラ様がいる! この時点で既に一手どころか五手先をいかれているようなモノだ!!


「では……」


「始めると、しようか」


 勇者と魔王(偽)の視線が、交錯する。

 これより訪れるのは激闘。アゼスによる幻想世界の最たる試練、鏡会わせの一行との戦いだ。

 だが、こちらはローの不在に掛けてルヴィリアとリゼラの戦闘不能状態という危機的状況。それに対して向こうの一行は万全の状態という格差! 余りに逸脱したこの差別的勝負に、勝機など見いだせるはずがない。

 無理だ、と。シャルナは内心でそう確信しながら、魔王(偽)より放たれるその号令を前に、ただーーー……。


「やれ、ルヴィリアッ! 狼煙を上げよォ!!」


 瞬間、魔眼より放たれる緋色の閃光。

 フォールはその閃光をひょいと避けた。すると光はそのまま鏡のように反射する氷結の床面に反射し、フォール(偽)の顔面に直撃する。


「ぐあああああああああああああああああああああ! 目がぁああああああああああああああ!!」


「あ、ごめーん。反省してるから赦してぇ~」


 ズゴスッ。ルヴィリアの眉間に直撃する、フォールの投擲ナイフ。

 これにより二名戦闘不能。瞬く間に数の不利が同数へと引き摺り落とされた。


「……え? えっ!?」


「何だ、気付かなかったのか? 少し考えれば解ることだろう。……そもそもな、あの魔王アホに指揮を執るような立場を与えた時点でマヌケでしかない。幾ら性格や言葉使いがまともでもあの阿呆だぞ? まともな戦略など立てられるものか」


「え、いやしかし、えっ!?」


「ルヴィリアにしてもそうだ。奴の魔眼は如何に便利だろうとルヴィリアの観察眼やその場の判断力によって培われた一つの技術に過ぎん。それをローのような適当な性格で放ってみろ。あぁなる」


「目がぁああああああああああああああああああ! くそっ! だが負けてなるものかァ!! 誇り高く誉れ高く崇め高き勇者たるこの俺に掛かれば目など見えずとも貴様等なぞ我が勇者パワーで一網打尽にぇぶっ」


 勇者、転倒。全身打撲、気絶。

 階段での転倒は命に関わります。足元に気を付けましょう。


「……それと偽物の俺だが、まぁ、見ての通りただのアホだな。解析するに値せん」


 余りに、呆気なく。相手のリゼラ(偽)が目元をひくつかせながら固まるほどに、呆気なく。

 当然である。技術とは経験の上に成り立つものであり、それを無理やり性格の取っ替え引っ替えで崩そうものなら瓦解するのがオチだ。こんなもの、殆ど自滅と言って差し支えない。と言うか完全に自滅である。


「だから言っているだろう。貴様は()なんだ。……『働きたくないから働く』の精神は認めてやる。だがな、その為の労働が雑であれば結局は手間を増やすことになる」


 誰に当てたか、嫌みったらしく吐き捨てるフォール。しかしその言葉に返答する者もいない。

 だが魔王(偽)は諦めていなかった。フォールの性格故かは解らないが、彼女は今この状況においてもなお冷静に現状を分析していた。そう、決して勝機が無くなったわけではない、と希望を捨てていないのだ。

 そしてそれは事実である。確かにルヴィリア(偽)の魔眼とフォール(偽)を失ったのは痛手だが、元よりパッパラパーなルヴィリア(偽)と戦力にもならないようなフォール(偽)だ。失ったところで大した痛手ではない。

 本命はまだ、無傷でそこにいる。


「シャルナ、出番じゃ! 今こそ御主の『最強』を誇ってみせよ!!」


 その名を耳にした瞬間、二人は頬に冷や汗を伝わせ、しかしそれを振り払うように刃を構え踵を返した。

 『最強』の名は伊達ではない。そんな事は二人が誰よりも知っているし、彼女の性格がルヴィリアのそれと入れ替わっていることの厄介さもまた、熟知している。あの変態的な積極性が剣技に昇華されるなど考えたくもない。

 常に様子見を行う良くも悪くも武人たるあの刃が一切容赦の無い変態的暴雨になったら? そんなもの、如何にシャルナであろうと太刀打ちできるかどうかという話、だが。


「……あ、はい」


 そこに立っていたのは、やたらと肌がツヤツヤしたルヴィリアだったワケで。


「…………………………貴殿?」


「やっ、えへ、えへへ……。うふ、うふふっ」


 鼻先を真っ赤にさせて微笑み、シャルナの顔を直視できない様子のルヴィリア。

 とてもスッキリした風なその表情と、遠くに転がった覇龍剣と龍紋衣、そして物陰に半裸で淫らなまま倒れ伏すその姿を見るに、シャルナは瞬時に察してみせた。そして一挙に覇龍剣を振り抜いてみせた。

 今この瞬間より始まる『最強』と『最智』の大激闘。暴撃と魔眼の激突の果てや、如何に!?


「……さて、貴様の手持ちのコマは全滅したわけだが?」


 それはそうとして関係無いので割愛するが、フォールは背後の激音を無視してリゼラ(偽)の方へと振り返った。

 堂々とした登場の割には余りに呆気ない決着。いや、無理もあるまい。元より相性が悪く相手の自滅で決着したようなものだ。勝負と呼べる勝負でもない。

 そしてリゼラ(偽)もそれを認めているのだろう。この潔さだけはフォールの性格を受け継いだことによる唯一の利点と言えるかもしれない。


「大人しく降伏しろ。理性的な貴様は果てしなく気持ち悪いが、慣れれば多少耐えられないことはない。場合によってはこちらのリゼラと交換も考えよう」


「いやフォール君それはどうかと思ゥアぶねェアッッ!!」


「殺す……! 貴殿だけは、貴殿だけは殺すァッッッッッッ!!」


「……とまぁ、こちらの面子が自滅的に減る前に考えることだな。貴様なら俺だけでも仕留められないことはない」


 フォールの勧告、否、宣告を前にリゼラは奥歯を食い縛りながら酷く表情を歪めてみせた。

 最早、彼の言う通り選択肢はあるまい。理知的なリゼラという有り得ない存在だろうとそれぐらいは理解できるはず。ならばこの場は穏便に済むはずだろう。

 そう、穏便に済むはずだった。何もかもが、穏便に、終わるはずだった。


「それで良いのか? 妾よ……」


 その魔王バカさえいなければ。


「理知的? 理性的? 理解的? クソくらよそんなモノ……。魔王に必要なのは何か? それは野望だ。万物を制覇するという絶対的な目標じゃ」


「い、いやしかしじゃな」


 魔王知能100%。


「しかしではなァい!! 思い出せ妾、思い返せ妾! 御主が魔王になった理由は何だ!? 御主が魔王たらんとした理由は何だ!? 他ならぬこの魂の叫びこそが魔王の宿命!! 解るか、魔王とは魂の在り方!! 魔王とは生き様!! 魔王とは、即ち妾!!」


「な、成る程……?」


 魔王知能95%。


「乗り越えてきた試練の数々が全てを物語る! 魔王が望むモノは何だ? 魔王が求めるモノは何だ! そう、食料よ!! 美味いモノこそこの世の真理!! ぐーたら昼に起きておやつ貪りながら夜までのんびりして深夜に夜食を食うことこそ理想!! 理知も理性も理解も下らぬ! 理を描き出すことこそ魔王たる者の証明だァ!!」


「成る程ォ!!」


「魔王は?」


「「妾ァッッ!!」」


 魔王知能0%。理の完全敗北である。


「その為には奴が邪魔だ! あの毎日毎日オカンより口うるさい勇者めが!! さぁ今こそあの忌まわしき勇者を打倒する時ぞ!!」


「良かろう妾よ、手を貸すぞ! しかし奴は強敵だ!! どうするつもりじゃ!?」


「フッ、確かに妾と妾(偽)では勝負になるまい……。しかしここに助っ人を用意しておる!!」


「ほう、その助っ人とは!?」


「決まっておろう?」


 にやりと笑んだ魔王の指先が天を指す。

 刹那、次元に亀裂が走ると共に訪れるその異端の再来。そう、それこそ魔王達の最終兵器であり彼女達に賛同する理解者ーーー……。


「……カモォオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!! 魔王オルタァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッ!!!」


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!」


 まさかのリゼラ3人目である。


「フハハハハハハハハ! 一人では駄目、二人でも駄目! ならば三人はどうか!! 妾と妾(偽)と妾オルタが集えばこの世にやって成せぬことはない!!」


「妾こそ最強! 妾こそ最高!! 妾こそ最大!!! 魔王は妾よォヌゥァハハハハハハハハハッ!!!」


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!」


 この時点でフォールは頭を抱えていた。既に色々と面倒臭かった。もういっそのこと全て爆破したかった。

 ――――三人揃えばそのまま消えてくれないだろうか? ビンゴ的なアレでポコンッと消去されないだろうか? ただでさえ似た顔が幾つもある時点で面倒臭かったのに、これならまだ同じことしか考えないミニマムの方が幾分かマシだった。いや0か0.1かの違いな時点で大差はないが。

 アレか? 世界に共通して魔王は馬鹿でなければならないというルールでもあるのだろうか? どうしてどう足掻いても魔王バカなんだ? 因果率で決定付けられているのか? それが世界の選択なのか?

 もしかしてこれも初代魔王の仕組んだ罠なんじゃないか? 魔王の存在そのものが俺の胃を痛めつける。となれば、もう、選択肢は一つ。


「俺は世界の運命に抗い続ける……」


「ブァーーハッハッハッハッハ! 見ろ!! 勇者めが絶望のあまり厨二臭いこと言い出したぞ!!」


「愚かよなァ! 全く持って愚かよなァ!! さっさと己の弱さを認めれば楽になるものを!!」


「ウーウッウッウッウッ!」


「魔王を、殺す……」


「「「妾は悪くないですコイツが言い出しました」」」


 魔王団、崩壊。


「おい待て何じゃ御主!? 妾を売るつもりか!!」


「やかましいわ妾め! 売ったのは御主じゃろーが!!」


「そうじゃそうじゃ! 大人しく犠牲になれ!!」


「「いやお前もおかしいだろさっきまでの狂戦士バーサーカーキャラどこ行ったんだよ」」


「死に際でキャラなぞ作っとれるかオラ御主らさっさと死んで妾を生かせ! 死ね! さっさとあの悪魔の生贄になれ!!」


「おいまずコイツから生贄に捧げようぜ」


「賛成じゃわ」


「来るか? おっ? 来るか? 来いや上等だ妾の魔王力は53万じゃぞォオオオオオオオオオオーーーーッッ!!」


 斯くして始まる大乱闘。見事に自滅していく魔王を前に、フォールはただ遠い目でそれを眺めていた。時折後方から飛んでくる覇龍剣とか魔眼を避けつつ、階段下に転がって踏み付けられる自分に似たナニカを記憶から排除しつつ、ただ遠い目で眺めていた。

 どうして世界から争いはなくならないのだろう、どうして世界は悲しみに包まれているのだろう、どうしてアレが魔王なのだろう、と真理の扉を見つめるかのようにーーー……。


「いやだが待て、これ生き残ってもどのみち殺されると思うんじゃよね妾」


「「いやそんな悪魔じゃあるまいし」」


「馬鹿めまだ悪魔の方が慈悲深いわ!! 良いか、死にたくなければ妾に従え!! (偽)、オルタ、妾達ならばできる! 否、妾達にしかできぬのだ!! 妾だからこそ力を合わせ今こそ奴を打倒することができる!! 違うか!?」


「「妾……」」


「妾達は魔王だ! 例え中身が違えど、或いは姿が違えども魔王である!! 魔王としての誇りがあり、意志があり、受け継いできた意味がある!! 立ち上がれ者共よ!! 妾こそ第二十五代魔王カルデア・ラテナーダ・リゼラであるぞ!!」


「…………あぁ、そうか。そうであるな。忘れておったわ。妾達は魔王。妾達こそ魔王!」


「何が勇者、何が絶望! 絶望は妾達が与えるものであって与えられるものではない……! そうだ、妾達こそが魔王なのだ!!」


 リゼラの言葉でリゼラ(偽)とリゼラ・オルタは立ち上がる。そうだ、何を恐れる事があろうか、と。

 確かに勇者は恐怖だ。一切躊躇のない殺意は好みを振るわせる。だがリゼラ(偽)はリゼラ・オルタと共にリゼラの言う通り強く立ち上がりリゼラの言葉を反芻しながらリゼラ(偽)なりの答えをリゼラ・オルタと共にリゼラへ伝えていた。リゼラ(偽)がリゼラとリゼラ・オルタへ伝える言葉は『妾達ならばできる』の一言だがそれがリゼラ・オルタの心に響き渡りリゼラとリゼラ(偽)が共にリゼラとして、或いはリゼラ(偽)としてリゼラの名を冠す自分達にとってリゼラの意味を問うべくリゼラ(偽)とリゼラはリゼラ・オルタの言葉にリゼラリゼラしていた。

 つまりリゼラはリゼラ(偽)でありリゼラ・オルタでありリゼラ(偽)はリゼラでありリゼラ・オルタでありリゼラ・オルタはリゼラでありリゼラ(偽)であるというリゼラ団結がリゼラなのである!


「行くぞ妾達! 今こそこの幻想世界すら打ち破る団結を見せる時!! 集え集え、妾達の絆を証明するのだ!!」


「やるのか妾、今やるのか妾!」


「うむ今やるしかあるまい! さぁ行くぞ妾達! 声を揃えよ!!」


 互いに肩車し合い、リゼラ・オルタ、リゼラ(偽)、リゼラの順に積み上がっていく魔王達。

 そして彼女達は結束する。途方もなき悪魔に立ち向かうべく、友情を超えた魂の絆を、今!!


「「「我ら三人、生まれし日、時は違えども魔王の契りを結びしからは! 心を同じくして助け合い!! 困窮する者たちを足蹴にし!! 上は妾に報い、下は部下を搾取することを誓う!! 同年、同月、同日に生まれることを得ずとも、同年、同月、同日に死せん事を願わん!! 初代魔王よ、実にこの心を鑑みよ!! 義に従い恩を忘るれば、勇者を戮すべし!!」」」


 絆ーーー……、それは遙か古代より魂と魂を繋いできた誇りの意志。

 幾度の困難を乗り越える力、幾十の試練を打ち砕く覚悟、幾百の不可能を蹴り飛ばす繋がり! それこそが絆!! 何者にも砕けぬ絶対の意志!! 魔王達の胸に宿り、彼女達を繋ぐのは他ならぬ絆である! その魂を輝かせ、彼女達を進ませるのは、何物にも代えがたき意志の証である!!

 吼えよ魂、震えろ拳! その掌と掌に紡がれるのは、魔王達の誇りと意志と、魂の意志なのだ!!


「これぞ!!」「魂の!!」「超合体!!」


 それは、かつての不完全な合体とは隔絶した究極の変貌! 完全たる変化!!

 即ちこれこそが、魔王最強のーーー……。


「「「ハイパー・カオス・オブ・アルタ・アクセル・ネオ・ヘル・アガムメント・パニシング・ブラスト・マックス・エクスト・キング・ゴッド・イクス・リゼラであぁあああああああああああああああーーーーる!!!」」」


「長い」


 (略)魔王、顔面貫通。

 フォールによるナイフ投擲により魔王は見事にあの世へ昇天した。いつだって悪が栄えたことがないように、リゼラの目論見が達成されることもない。

 さらば魔王、さらば魂の絆! (略)魔王のことは誰も忘れない!!


「ぐああああああああああああああああああああ! 死んだぁあああああああああああああああ!!!」


「やかましいわ、阿呆め。ナイフで刺しても死ぬタマか」


 と思いきや、意外にもリゼラは無事だった。彼女の頭を貫通したかに思えたナイフは刃先が凹むただの玩具だったのだ。そう、いつぞやのサーカス団からフォールがいただいた手品用の一品である。

 まぁ、実際に貫通しても無事だったであろう辺り何とも魔王クオリティだが、それは兎も角。

 

「なーんじゃ玩具か! 焦ったではないか!! はっはっはっはっはっはっはっはっは」


「俺が貴様を楽に死なせるわけがないだろう? はっはっはっはっはっはっはっはっは」


「うんまぁですよねぇ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


 勇者式アイアンクローは死の香り。

 彼が無表情で笑った辺りで察していた魔王は無事に死んだ。安らかに眠って欲しい。


「全く、手前を掛けさせおって。……で、どうだ? 貴様の試練はクリアしたが?」


 モザイク処理を施さないといけないレベルの顔面になった魔王を投げ捨てつつ、振り返ったフォール。

 その視線の先にはこの戦いに手を出さない中立宣言をしたロー(偽)の姿があった。しかしその表情は、例え偽物であろうと浮かべるはずもない程つまらなさそうな、所謂冷めた(・・・)モノである。

 まぁ、自分の不手際を散々挙げ連ねられた上での敗北だ。見物人としても中立者としても、そしてこの世界ステージの創造者としても面白いワケがない。


「いつから気付いてた、って聞くのは野暮ッスかねェ……」


「別にそうでもないさ。ただ、貴様ならばこの後出すことが確定しているローをこんなところでお披露目はしないだろうと踏んだだけだ。中立宣言をした辺りで確信はしたが……」


「ふんっ、面白い人かと思ってたけど意外とそうじゃなかったッスねぇ。パッケージ詐欺にあった気分スよ。まるで義務みたいに坦々と謎を解くとか、出題者からすれば最悪の回答者ッスね」


「そうか? 意外と楽しんだつもりだったがな。ただまぁ、難易度としては多少物足りないところはあるが……」


「はぁ~、これだからガチプレイヤーは嫌なんスよ。俺様こう見えても普段はエンジョイ勢なんで? ガチプレイヤー様の御意見聞きたくないって言うか? そこまで難しいのが良いならクリア不可能なヤツ用意してやっても良いッスけど、そしたらクソゲーとか言うでしょ、アンタ」


「それが遊戯の範疇ならば言うかも知れんな。だがこれは遊戯ではない。戦いだ。貴様のスタンスをとやかく言うつもりはないが……、巫山戯た目論見では必ず痛い目を見ることになると宣言しておいてやる」


「ハッ! 吼えるッスねぇ。情けない犬ほどよく吼えるもんッスよ? そこで死にかけた魔王様みた」


 ドグシャァッ!!


「……そこで喧嘩に巻き込まれて死んだ魔王様みたいに」


「この魔王はもう鳴かないな」


 魔王は二度死ぬ。常識である。


「だが……、その口振りからしてどうやら初代魔王カルデアと接触しているのは確実と考えて良さそうだな。地底都市の一件で大体予想はついていたが……」


 その地底都市の言葉を聞くなり、アゼス、もといローの表情が辟易したものへと変わる。


「あぁ、地底都市はねぇ、俺様も被害者なんスよ? カルデア様が何か貸せっていうから貸して上げたのにな~。まさかブッ壊されるなんて思ってもみなかったッス。あぁ、俺様の世界を震え上がらせる果てしない計画が……」


「ほう、面白い。生命創造魔法という禁忌を犯してまで成し得ようとした計画はどんなものだったのだ?」


「俺様好みの美男子作って俺様の世話させつつ辺りでホモホモさせたか」


「よしもう喋るな」


 フォールの脳裏に甦るトラウマ景色。そら遮りたくもなるというものである。

 ――――しかし、強ち馬鹿にできない。目的は狂気そのものだが手段は確かにほぼ成功していたし、恐らくカルデアの妨害がなければアゼスはその、まぁ、人造人間を創造させていただろう。この女にはそれだけの能力がある。

 何より恐ろしいのはそんな思い付きでも平然と形にしてしまう思い切りの良さと能力の高さだ。魔眼という特異的な権能を持つルヴィリアは最低限の理性を持っているが、この女は欲望のままにそれを取り払っている。これほどおぞましく、恐ろしいことはない。


「……まーね、俺様は元々忠義とかどーでも良いんスよ。だって俺様はただぐーたらしつつエロゲーホモゲー完クリできれば幸せなんスから。ま、他にも色々好きなものはあるッスけど、それ以外興味無いっていうか? 四天王の座だってここならどんな我が儘もできるからなっただけであってぇ~」


「耳を防ぎたくなるような堕落振りだな。その堕落故の詰めの甘さでここまで突破されたというのにまだ懲りないのか」


「むふゅふゅ! 勘違いしないで欲しいッス!! アンタはあくまでここまで通されたに過ぎないッスよぉ。ハーディストまでクリアしたのは純粋に褒めてやるッスけどぉ、この先は正しくインフェルノッス。何せこの俺様とゴーレム軍団、そしてロー先輩が待ち構えてるッスからねぇ! しかもしかも? この俺様が全ての技術と全ての浪漫、そして一年分の努力を持って創り上げた最強のゴーレムも用意済みッス!! なぴっ、なぴぴぴぴぴ!! 引き返すなら今ッスけどねぇ~!?」


「ほざけ。高が路端の石ころが喚くな」


 バッサリ。アゼスの挑発にも応じない遮断振りにアゼスの通すロー(偽)の表情が酷く引き攣りを見せる。

 ゲーマーとして煽られたからにはそれに応えた上で煽り返すのは義務のようなモノだが、生憎とこの勇者はゲーマーではない。スラキチである。彼女の道理が通じるわけもなく。


「貴様にはカルデアの目的をじっくり吐かせた後、その堕落し切り贅肉塗れとなった精神を叩き直してやる……」


「ハッ! そんな脅しにこの俺様がびびるとでも」


「具体的には毎朝六時半時に起床、その後三十分のランニングと汗を流すシャワーの後に朝食、さらに三十分の仮眠で眠気を払拭し八時半頃から職務に取り掛かり十二時の昼休憩ではカロリーを考慮したバランスの良い食事を取り十七時に職務を終えた後は一日の疲れを癒すエクササイズをしてシャワーを浴び明日の準備を済ませてカロリー控えめな夕食を終え二十時頃から自由時間とし二十三時には就寝するという生活でなければ満足出来ない体にしてやる」


「ヒェッ……」


 そら外道と呼ばれるわ。


「は、ははぁン! それも俺様に勝てたらの話ッスよ! ま、そもそもこの空間から出られるかどうかッスけどねぇ!! ホントは勝てたから出してやるつもりだったッスけど、煽り野郎はここで反省するまで閉じ込めておくのがお似合いッス!! バーカバーカ! 鳴いて謝るまで赦してやんないからなーっ!!」


 二流上等な捨て台詞を残し、煙のように消えるロー(偽)。

 フォールはそんな彼女の残香を見送ることもなくため息混じりに装備を調え直すと、使うこともなかった剣を軽く後方へと振り抜いた。

 その切っ先が狙うは逃げ回る変態の顔面。危うく真っ二つである。


「あっぶねェ!? 君まで僕を殺す気か!!」


「何だ、魔族は頭ぐらい飛んでも分裂する程度だろうに」


「それリゼラちゃんだけだからね!? あんなトンデモ魔族リゼラちゃん以外にいてたまるか!!」


「だろうな、……さて、それはそうと仕事だルヴィリア。先の世界と同じくもう一度空間に穴を開ける。今度は次の世界ではなく外の世界、つまり催眠の解除だ。できるな?」


「い、いや、無理、無理ですけど? どー考えても無理ですけどォ!? ただでさえ魔力ないっつーのにこれ以上搾り取って何がしたいんだ君はァ!! マジで命に関わるから! いやホントに!! もう動くだけで精一杯なんだぜ僕!? 今まともに魔眼使ったりしたらマジで一週間は動けなくなるっつーの!! 僕がやらなくても誰か、この部屋の偽物達が幻想世界の鍵ってのは解りきってんだからどうにかさせれば良いじゃないか!!」


「阿呆、何も貴様に使えとは言ってないだろう。いや、使ってはもらうが……。別に貴様が世界を脱出するほどの魔眼を使わずとも良かろうが」


「僕以外にそんな事できる奴がいるワケーーー……! あ……、僕か」


「そういう事だ」


 確かにルヴィリアにはもう魔力の残りはほぼ無い。だが、フォールにより、と言うより彼の投げたナイフ、もとい玩具で気絶させられたルヴィリア(偽)なら話は別だ。

 幾ら紛い物とは言え彼女には魔眼という権能、そして充分な魔力が残っているし、ルヴィリアが魔眼で催眠をかけて代わりに使わせればあっという間に解決である。本来であれば幾らルヴィリアであろうと今の魔力量では催眠すら難しいが、気絶したような相手ならば話は別だ。


「成る程、その手があったァっぼふゥオ!! ちょっと待ってその前にシャルナちゃん止めて!! マジ止めて!! だって仕方ないじゃん向こうから誘惑してくるもん!! シャルナちゃんの見た目で誘惑してくるもん!! 僕だって媚薬のせいで興奮してたんだもん!! 仕方ないじゃあん!! 仕方ないじゃあん!! 『最強』も倒したし結果オーライだったじゃあん!!」


「仕方ない。シャルナ、狙うなら頭から下をだな」


「だから僕は分裂しませェん!! やめてよォ世界が僕に厳しいよォ!! 助けてリゼラちゃぁあん!!」


「分裂できないとは貧弱な」「分裂ぐらいしろって言うのになぁ」「全くじゃ。最近の魔族はどうなっとんだ」


「分裂してるゥッッ!!」


 何はともあれ、こうしてようやく中ボスを撃破し、幻影世界を脱出するフォール達。

 間もなくフォールはアゼスと邂逅するだろう。その恐ろしき才覚と怠惰により編み出された強大な試練を、そして『最速』と『最硬』を誇る二人の四天王を相手にすることになるだろう。

 果たして彼は二人に勝利することができるのか? 圧倒的に不利なこの状況で、相手の陣地の中で、勝機一つない戦力差で、『最硬』を打ち破り最後の秘宝を手にすることができるのか? アゼスという邪悪なる試練を乗り越え、目的を達成することができるのか?

 その結末を知る者はまだ、誰もーーー……。


「待ってシャルナちゃんストップストップスタァアアアーーーーーーッップ!!!」


「殺す殺す殺す殺す殺すゥアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーッッ!!!」


「良いか? 分裂はまずこう、気合いでじゃな」「いや違う根性じゃ」「違うじゃろ念じればどうにか」


「しかしアゼスの体格を考慮に入れねばメニューが考慮できんな。リゼラ用を応用すれば、どうにか、いやしかし、うぅむ……」


 そもそも知ろうとする者がいねぇや。



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