【エピローグ】
【エピローグ】
「……さて、この世界だが」
次の世界に訪れたフォール達。しかし彼等を迎えたのは先の世界等とは全く異なる景色だった。
何と言うか、全体的にエロいのだ。街はごく普通の煉瓦街と言った具合なのだが、到るところがピンク色だし道行く女性の服装はやたら性的だし幼い少女から妙齢の女性まで誰も彼もが妖艶さを振りまきながら歩いているし路地裏のあちこちから女性同士の淫らな声が聞こえてくるし。
魔王の世界、シャルナの世界ともまた違う、何とも淫靡なーーー……。
「ルヴィリアか」
「「「「「ルヴィリアじゃな」」」」」
「ルヴィリアだろうな……」
つまり、そういう事である。
「大体見ればここがどういう世界かは解る。……しかし幸いなのはルヴィリアがいるということだ。こういう幻想や幻影的な世界において奴以上の専門家はおるまい」
「そ、それはそうだが……。奴も私と同じようにこの世界の幻想に捕らわれているのではないか? 特にルヴィリアならばその、こういう世界には喜んで捕らわれそうと言うか……、道行く女性達の何と卑猥なことか……!!」
「まぁ、ルヴィリアじゃしな」「ルヴィリアだしのう」「どう足掻いてもルヴィリア」「ただの変態」「救いがない」
「やはりリゼラ様もそう思われますか……」
「その形態に言及は……、いや、今更だな」
魔王ならば複数体になろうが変身しようが誤差なので気にしないで欲しい。
しかし、魔王もそうだがここも奇妙な世界だ。街全体がエロスチックな雰囲気であることもそうだが、女性しかいないこともそうである。いや、そこまでならまだルヴィリアの趣味だからということで話は通る。しかし、それ以上に奇妙なことが一つあってーーー……。
「あらぁ、お姉さん逞しいわぁ……♡ ね、ねっ? 今から一緒に、どうかしら?」
「あ、駄目よぅ! この人は私が目ぇつけてたのっ!!」
「駄目です! 私の方が先なんです!! そうですよね、お姉さん♡」
不意に、フォールとリゼラ達がこの世界に考えている間に、シャルナが女性達に捕まっていた。
幼くも大きな胸の者や優しく微笑む人妻感溢れる者に一件キツそうな目付きの割に甘えるようにシャルナへ抱き付く者など、四、五人に囲まれた彼女は困惑するばかり。どう考えてもルヴィリアの世界なのだから彼女達の求めるモノが何なのかは自然と解ろうものだし、ならば振り払えようものだが、しかしシャルナの表情がどうにも硬い。
いったいどうしたのかと振り返った彼の目に映ったのは、何と言うか、まぁ、その、女性にあるまじき膨らみを見せた股間でして。
「た、たしゅけて……」
「「頑張れ」」
「きゃー♡ 可愛いこの女の子達~♡」
「え、何々? きゃあ、可愛い子たちだわぁ♡」
「わぁい! 私にもちょーだいっ!!」
「「「ヌワーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!」」」
「妾が浚われたァアアアアアアアアア!! 助けろフォォォオオルゥウウウウウウウウウ!!」
「頑張れ。……予想以上に面倒な空間のようだな。男の俺に被害が無いのが幸いだが」
「「「おい男だ! 殺せ殺せ!!」」」
「助けろ」
頑張れ。
「き、貴殿助けてくれぇ! 腰に、尻に、太股に感触がぁ!!」
「やぁんっ♡ お姉さん暴れちゃや~だっ♡」
「おい助けろフォールゥァアアア! 妾が、妾達が連れ去られていくゥウウウウウウウウウ!!」
「大丈夫よぉ? 使ったら返すから……」
「ナニにだこの変態共がァッ!!」
「おい待て女(?)共……、やめろ、その包丁を取り下げろ。くそ、せめて女装する時間があれば誤魔化せたものを……」
ある意味で悲惨なピンチに巻き込まれたフォール達。淫欲極まりない変態の楽園は瞬く間に彼等を窮地へ追い込んだ。
数多くの属性てんこ盛り美女達に腰を擦り付けられるシャルナにせよ、自分の一部達をナニ目的で連れ去られている魔王にせよ、まさかの男人禁制により殺されかけている勇者にせよ、まさかこんなにも簡単に追い詰められようとは思いもしなかった。
世界は先へ進めば進むほど難しくなるのが王道というものだ。謎解きチュートリアルも魔王蹂躙も、悲哀嫉妬サスペンス乙女ゲームは勇者に多大なトラウマを残しはしたが、やはり数の暴力という単純な力を前にしては手も足もでない。
唯一この状況を打開できそうなシャルナも酒池肉林の愛欲性欲に苛まれて今にも路地裏へ連れ込まれそうな勢いだし、さて、これをどうしたものかーーー……。
「みんな! お困りのようだね!!」
しかし、世界の難易度が上がるのならば危機に仲間が駆け付けるのも王道!
そう、生えた女性達により追い詰められた彼等を助けるべく、建物の天辺より現れし紅蓮の翼! 彼女こそは元『最智』の四天王にして一行のブレイン、ルヴィリアである!!
「よし餌が来たぞ落とせ落とせ」
「引き摺り落とせェエーーーーッ! 妾集合ォオオオオオオオオオオーーーーッッ!!」
「すまないルヴィリア……! 墓は建ててやるから……!!」
「え、ちょ、まっ。ち、違うじゃん? 違うじゃん!? そういうノリじゃないじゃん!? やめ、やめろォ! 落とすなやめろォ!! うぉおおおちくしょう死んでたまるかぁあああああ!! こんな事になるならシャルナちゃんがエロエロ娘達によって色々ぐちゃぐちゃになるの眺めてた方が良かっげぼふっ」
変態、堕つ。
「きゃあああああああ! ルヴィリア様よぉおおおおおおおおおおお!!」
「ルヴィリア様? えっ!? ルヴィリア様!! 抱いてぇえええええええええええええ!!」
「しゅきいいいいいいいいいいいいいい! ルヴィリア様ぁああああああああああああああ!!」
しかし変態の援軍はまさかの形で役立つことになる。
と言うのも、だ。フォールやリゼラ達、シャルナに構っていた女性の全てが何もかも放り投げてルヴィリアへと飛び掛かったのである。いや、どころか街中から女性が集まってルヴィリア目掛けて突撃を開始するほどの勢いだ。
最早、置いてけぼりになったフォール達はそんな景色に呆然としながらも、取り敢えず変態の犠牲を無駄にしないよう安全圏までの逃亡を決意する。
「いや待って待って待って!? 置いてかないで!?」
「チッ、しぶと……、生きていたか」
「普通に見捨てる選択し執りやがったな君達!? 普通ここはさぁ! 流石ルヴィリアちゃん魔眼で正気保っててカッケーとか言うトコだぜ!? 崇めるトコだぜ!? なのに今なんてもう自分の姿隠すので精一杯ですよ!!」
「「「カッコわるぅー」」」
「何だとこの魔王誰のせいだとうわぁ可愛い一匹持って帰って良いですか!!」
「ちゃんと世話するならな。食費とか。……それよりルヴィリア、やはり貴様は正気だったか。いや、この世界は狂気だが貴様が無事だったのは有り難い。貴様のことだからこの世界が何なのか、ある程度目星は付いているんだろう?」
「え? そ、そりゃあ」
「ならば迅速に解決するしかあるまい。……尤も、その辺りを話し合う前に一端ここから離れた方が良さそうだが」
フォールの言う通り、ルヴィリアに、と言うよりはルヴィリアがいた場所に群がる女性達は押しくらまんじゅう何とやら状態で、互いが互いに押し合って混乱しているから、既に彼女がいないことにも気付いていないらしい。
だがこのままのんびりしていれば、いずれはルヴィリアがその肉団子から脱出していることにも気付くだろう。今は一国も早くこの場所を移動しなければなるまい。
「し、しかしこんな世界に逃げ場などあろうものか……。うぅ、まだ太股辺りに感触が残ってるぅ……」
「大丈夫、その辺りは僕に任せて! ところでその感触についてもっとエロく報告してくれたら僕今すぐ元気になれるんですけど股間が」
「貴殿、どうしようか……。もう殺すしか……」
「血塗れで覇龍剣包丁を構えながら言うな。処理が面倒になる」
「せめてそこは『冗談に聞こえない』とかでお願いします……」
何はともあれ、一行は女性軍団から逃亡するように街外れへと走り出す。
しかし、街を走り抜けてその景色を見れば見るほど奇妙な街だ。街の作りが一般的でありながら全体的にピンク色ということは先程も述べた通りだが、辺りを歩く人間にせよ魔族にせよ獣人にせよ亜人にせよ、誰も彼もが女性、女性、女性。しかも属性てんこ盛りばかりな人物ばかりだ。
それに街並を彩る店も娼館やそういう道具のお店など、如何にも卑猥な場所ばかりだ。少し路地裏や薄暗い建物の二階に目をこらせばとても放映できないような、女性達の霰もない姿が見えてくるし、ボロ絹で顔を隠すフォールやルヴィリア、急ぎ走り抜けるシャルナやリゼラ達へ辺りの女性達は言いしれぬ淫靡な格好を見せつけて誘ってくる。
余りに、卑猥。余りに、淫靡。余りに、妖艶。まるでエロスに支配されたかのような街だ。
「『あやかしの街』より酷いな。あの街はまだ発情期という時期が重なってのことだったが、ここはそれ以上だ」
「だろうねぃ。何せこの街はテーマが違う」
「……テーマだと?」
「それについて詳しい説明はそこでしよう」
ルヴィリアが指示した通りにフォールが走り抜けると、途端に人通りが消えて辺りのピンク色な景色とは似ても似付かない小屋が現れた。
その場所だけ何処か温かい光を灯しており、先の世界の民家とはまた違った安堵を思わせる。尤も、こんな世界なのだからどんな形でも普通の二文字だけで安堵するには充分だろうが。
「さぁさぁみんな、さっさと入ってくれ。ここ維持してるだけでも結構キツいんだ」
「こ、この空間は、いったい……?」
「簡単に言えば僕の魔眼でこの幻想世界から切り取った空間ってとこかな。ここにいる間はこの空間の影響を受けないってワケさ。少なくともNPCはここにはこないよ」
「NPC……?」
「ま、中に入って。話はそれからだよ」
ルヴィリアが扉を開くと、中には小洒落た内装の家ーーー……、に見せかけた大量のエロ本の山があった。
彼女は静かに扉を閉じると、無言のまま扉を開き直してとても綺麗なお家のソファへ皆を案内する。ただし一同の視線が凄まじく冷め切っていたのは言うまでもない。
「悪いけどお茶を出してる余裕はないんだ。一刻も早くこの世界を脱出した方が良い」
「だろうな。この世界にそう長くいたいとは思えん。……しかし一刻も早く、というのは些か腑に落ちんな? どういう意味だ」
「それには君に……、不本意だけれど手を貸さなくちゃならないことになる。ま、こうして僕達も被害に遭っている以上、ここから脱出するためだけになら手を貸すってことだけどね。それなら良いだろう? リゼラちゃん」
「リゼラ様ならこの家は食べるものがないと柱を喰っていらっしゃるが……」
「シロアリでももうちょい大人しいと思うんですけど」
そもこの魔王に自制を求める方が間違いという話なのだが、それは兎も角。
「さて、何処から話をしたものか……。取り敢えずあの火にくべたゴミ共がどうなるかから話すか?」
「いや、もうどうなるか想像着いてるし良いかな……」
「妾がメッチャ燃えとる」
「お一人残っていればどうにかなりますので……。それよりルヴィリア、この世界に留まりたくない理由というのは何なんだ? 貴殿ならば、まぁ、こういう世界は好きそうなものだが……」
「あのねぇシャルナちゃん! 名誉毀損も良いところだよ!! 僕はねぇ、愛のあるエッチが好きなの!! 欲望だけをぶつけあうエッチは嫌いなの!! シたくないわけじゃないけど嫌いなの!! 一回やったら凄まじい勢いで搾り取られてガチで死にかけたからもうできないの!!」
「やってるじゃないか……」
「自分でもあんな声が出るなんて思わなかった……」
「下らん話をする暇はない。さっさとこの世界について貴様が知り得た情報を話せ」
「相変わらずクールもドライも通り越して無な野郎だぜ……。いやね、この世界は君達も察してるかもだが僕達の夢を媒介にして創られた世界だ。『あやかしの街』で僕が創り出したのは君達の悪夢を利用したものだったけれど、ここは夢そのものを媒介にしてるってワケ。ただしそれだけなら僕達のイメージ次第でどうにでもなるだろう? だからあの子はここにテーマを着けることでこの幻想世界を確固たるものにした」
「つまり催眠で対象の夢を媒介に世界を創り上げた上で自分のイメージを上書きしたということか?」
「逆だね。自分のイメージの上に僕達の夢を上書きしてる。だから魔力を極少なくして動かすことができるし、ある程度の融通も効かせられる。そう、アゼスちゃんのイメージ……、つまりエロゲーの上に成り立たせることでね」
「「「エロゲー」」
ルヴィリアは至極真面目な顔で頷き、推論を続けて行く。
「まず間違いないだろう。僕の世界は魔界エロゲーメーカー屈指の名作『[閲覧削除]』をテーマにしたド変態RPGだ。僕もよくお世話になった。特に街の裏路地に行った時の現場に混ざっちゃうイベントは神イベだったね」
「早急に死ね」
「し、仕方ないじゃん事実なんだからぁ!? それで、君達はどうだったんだい!?」
「……俺は『氷河の城』だから関係ない。そこの二人は頭のおかしい花畑と長閑な丘の上だった」
「成る程……、『[放送禁止]』と『[禁句無用]』だね。特にシャルナちゃんのはアゼスちゃんが一番好きな作品だ。リゼラちゃんのはクソゲーだね。メーカーが全回収して倒産した伝説の一品だ」
「成る程、打倒だ」
「何が?」
「ま、もっと詳しく言えばこのエロゲーの下地の上に夢を動かす為の媒介がもう一つあったりするんだけど、取り敢えずはそこまでの認識でOKかな」
「チッ……。そこまでは予測済みじゃな。要するにその夢の最後に悪夢を介入させて倒すのがアゼスめのやり方じゃろ? まぁ妾は勇者に殺されたワケじゃが……」
「実質フォール君が悪夢みたいなモンだしセーフセーフ。いやそれでね? 問題はそこじゃないんだ……。この世界の構造はそこまでで良い。けど、アゼスちゃんはそれだけじゃ終わらなかった。覚えてるかい? ほら、あの子はいつでも裏技を残すってね。けど今回残した裏技は良い意味での裏技じゃなく悪い意味での裏技だ」
「ど、どういう事だ……?」
「僕の魔眼で観測した以上、この幻想に残る世界はあと一つだけだ。けれど、そこはここにいない彼女のモノじゃない。所謂中ボスっていうか、まぁ、大ボスであるアゼスちゃん前に用意されたステージってワケさ。それがさっき言ってたもう一つの媒介だね」
「……ならば、ローは何処に行った」
「問題はそこさ。これは裏技っていうか、裏コマンドに近い」
ルヴィリアはソファの前にある木製の机上に手を振り払うと、一面の地図を映し出す。
そこには藁の上ですやすやと眠るローの姿があった。いつも通り、何とも和やかな寝顔だが、彼女が眠っている空間がこの幻想世界とは全く違う場所であることはフォール達にも直感することができた。
「……これは?」
「複製さ。特にローちゃんは今、かなり精密な複製を取られてる。まぁ、僕達はこの世界に入った時点で疾うに取られちゃってるんだけど。……アゼスちゃんは地底都市のゴーレム工場で生命創造魔法のノウハウを得ているから、きっとそれを利用したんだと思う。生命創造魔法には精神操作や記憶付与も含まれるから、夢の中だけなら人格を奪うことも不可能じゃない。尤も、使えるかどうかは別としてね」
「解らんな。どうしてそんな事をする必要がある? それも世界の一環か?」
「だと思う。けどローちゃんをこうして特別扱い、特に精密な複製を取っているのには別の理由があるんだ。これは僕の予想だけどその理由は大きく分けて二つ。一つはローちゃんが無欲なことだ」
「無欲……?」
「野生本能だからこの夢の媒介にできるほどの欲求がないのさ。だから僕達みたく媒介にして世界化できなかったから、こうして特別に複製を取ってるんじゃないかと僕は思う、けれど、たぶんそうじゃない。目的は他にある」
「それは、何だ」
「君との相性さ。フォール君」
僅かに、フォールの眉端が吊り上がる。
「結果論ではあるけど、君はローちゃんを戦わずして仲間にした。つまり君はローちゃんの手の内を知らないんだ。……さらに言えば『地平の砂漠』を訪れた直後の君なら兎も角、弱体化した今の君じゃあの子の『最速』に追いつくことは困難だろう。シャルナちゃんでも同様だったかも知れないけど、君の戦法を考えるとそもそも触れられないローちゃんを使う方が確実だ」
「つまり……、アゼスは俺とローを戦わせるつもりか」
「正しくはローちゃんとアゼスちゃんの二人で君を倒す、ってとこかな。確実な戦法を執るならこれ以上の手段はないぜ。各世界で体力と精神力を削り、その上で圧倒的な戦力をぶつける……。つまりあの子は本気で君を倒しに来てるってことだ」
「あ、あの堕落魔め……! 堕ちるところまで堕ちたかっ……!!」
「阿呆、四天王ならそれが当然だ。……しかし厄介だな。複製とは言えローが相手の手中に収まった以上、勝ち筋が見えん。ローだけならば、アゼスだけならばまだやりようもあるが、ふむ」
吊り上がった眉端を下げることもなく、思案に思案を重ねていく。だが、その表情の硬さからして今までにないほど困窮しているようだった。
無理もあるまい。ただでさえ今の状態では『最硬』アゼスを倒せるかどうかすら怪しいと言うのに、そこへ複製品であるとは言えローまで加わるとなれば勝ち筋は一切なくなってしまう。リゼラ達の援護も決してないとなれば、それこそ絶望的だ。さらに、この『氷河の城』では彼の先手必勝の戦法も通じず、周辺の地理や兵力、数、何もかもがアゼスの思うがままだ。彼の勝ち筋など無いと断言できよう。
如何にフォールと言えど、今回ばかりはーーー……、敗北の二文字が脳裏を過ぎる。
「……良かろう」
だが、それがどうしたと言うのだ。
「相手が徹底的な理詰め力詰めで来るのならば、こちらはそれを裏から引き裂くだけだ。『最硬』だか引き籠もりだが出不精だか知らんが自ら動かず指と口だけで盤面を制することができるほど容易なモノばかりではないと教えてやる」
その程度で屈するはずがないなど、誰もが解っている。
この男にとって諦めや絶望などという言葉が全く無縁である事を、誰もが知っている。いや別の意味ではむしろこの男の代名詞とも言える言葉だがそれは兎も角として、だ。
例え理詰め力詰めで絶対的な状況だろうと、彼はいつもそれを引っ繰り返してきた。不可能不可逆不可信な状況だろうと、力業も策略も何でもアリの外道技で引っ繰り返してきたのだ。
そんな男が今、こんな状況を前にして止まるだろうか? いいや、止まるわけがない。例え目の前に煉獄が拡がっていようとも、ただ手を伸ばせば、脚を伸ばせば直ぐそこに蒼き宝石がある今ーーー……、止まるわけがない!!
「手始めにこの世界を攻略する。……取り敢えずシャルナ、ルヴィリアを簀巻きにしろ。撒き餌はいつの時代もどこの現場も有効だ」
「え」
「ブワハハハハハハハ! ザマーミロ変態め!! こんな世界を創った罰じゃァ!!」
「貴様もだぞ」
「え」
「では……、これより逆襲を開始するとしよう」
「すまない二人とも……。決して無様とか思ってないから大人しくしたがって欲しい……」
「「ヤ、ヤメ、ヤメ、ヤ、アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーッッ!!!」」
なおその為には犠牲は厭わない模様。
歩むためには道が、道のためには礎が必要なものなのである。悲しいね。
読んでいただきありがとうございました




