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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
氷河の城(前)
397/421

【1】


【1】


「……ふぅ~ん。アレがフォールッスかぁ。うほっ、けっこーイケメンじゃないッスかぁ」


 『氷河の城』。これよりフォール達が攻め入らんとする牙城、その最奥たる場所に彼女の姿はあった。

 アゼス・ゲンヴ。四天王最後の、否、最初の一人にして『最硬』の称号を持ち、ルヴィリアに才能は自身以上だと言わしめる一種の天才。彼女は、恐らく遠視の魔法であろう、空中に浮かぶ映像から、注意深く城内へ侵入してくるフォール達の姿を眺めていた。

 ――――どうやら彼等も招き入れられたのだと気付いたらしい。当然、先程のような部外者を弾くための児戯で躓いてもらっては困る。ここまでは期待通りだ。


「うひひっ。こっからどんどん難易度上げてくッスよぉ~? 今はまだイージーッスけどぉ……、直ぐにノーマル、ハード、ハーディスト、インフェルノ、果てはインポッシブル! うひひ、にひひひっ……、如何にここまでやってきた勇者だろーとこの難易度地獄にゃ耐えられないッスよねぇ~? うひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


 何処ぞの変態よろしく、女子力など微塵もない笑い声をあげるアゼス。

 いやーーー……、女子力を語るならばまずその見た目を言わねばなるまい。赤黄模様の布とそれを抑える木製の机。さらに上へ乗るのは様々なお菓子だのジュースだのの空き袋に空き缶に、栄養なんて微塵も考えないエナジードリンク的なアレ数々。それがアゼスの姿である。そう、彼女は全く、こたつから出て来ていない。映像もこたつの中で見ているし、机の上にあるジャンクフードの中身も全てこたつの中だ。

 いや、さらに言えば恐らく彼女が開発したであろう奇妙な作品の数々や人形サイズのゴーレム、きっと重要な書類であろう資料の山は埃を被り、辺りには黄色い液体の入ったペットボトルだの何日前から洗ってないやら解らない下着だの途中で飽きたらしいジャンクフードの残骸や喰いカスだのが散乱している。

 全く不潔なことこの上ない! どんな不精者だってこの惨状を見ればちょっとは掃除しようと思うだろう。

 しかしこのこたつ虫、もといアゼスは常軌を逸している。現にこれほどの惨状であるにも関わらず、たった今こたつの中からぺいっと食べかすべったりなお菓子の袋が放り出されるほどだ。


「……クフフ、頑張るッスよぉ。頑張るッスよぉ。この俺様に掛かればどんな野郎だってイチコロッスけど、直ぐにイチコロじゃあつまんないッスからねぇ。それに、あの裏切り者達にもちくっと痛い目見てもらわないとスッキリしないしぃ~」


 ずずずずずず~。

 恐らくジュース的なアレを啜ったのだろう。またこたつからゴミが放り出される。


「にぱぱっ。俺様は甘くないッスからねぇ~。アイツ等が苦しみのたうち回る姿が楽しみッスよぉ~。にぴっ、のふゅふゅふゅふゅふゅっ」


 いったいその笑い声が何処から出て来ているのか甚だ疑問だが、事実、アゼスの用意した数々の策謀は決して甘いものではなかった。

 当然である。とある人物(・・・・・)に存在しなかった運命を聞かされた時から彼女は勇者を打倒すると決めている。『最小限の努力で最大限の堕落』がモットーの彼女からして、勇者の存在をこのまま残すのは絶対に面倒ごとを増やすと確信したからである。

 陳腐に聞こえるかもしれないが、アゼスの行動理由にこれ以上のものはない。

 『働きたくないから働く(・・・・・・・・・・)』。ただ、それだけなのだ。


「さぁ~て、これより待ち受ける策謀……、是非とも超えてきてみるが良いッスよぉ」


 映像のフォール達は何の見張りもない、ゴーレム一体の影すらなくなった要塞を乗り越え、『氷河の城』の庭園へと乗り込んで来ていた。

 花壇も像も噴水も、何もかもが氷と雪で彩られた庭園だ。アゼス自慢の造形は正しくこの世の美を一堂に集うが如き芸術の数々だが、これよりノーマルレベルの罠がここで発動する。

 そう、それこそフォール達に架される最初の試練ーーー……。


「「「「……………………」」」」」


 だった、のだが。


「……帰るか」


「「「「うん……」」」」


 彼等は『氷河の城』庭園に到着したこの時点で既にインフェルノレベルの難関を目の前にしていた。

 そう、この庭園を飾る数々の雪像ーーー……、さらに詳しく言えばイケメン裸体の男と男が絡み合い、美少年と美少年が絡み合い、髭面の男と強面の男が絡み合い、某帝国の第六席と第七席ぐらいしか喜ばないような超濃密♡薔薇庭園がそこにはあったからだ。

 これには接着材で元に戻った魔王もその他四天王達も、当然フォールもげっそり。もう今すぐ帰りたい。とても帰りたい。


「いや貴殿、ここは頑張らねば……。な? まぁもうちょっと見て行こう」


「何でちょっと嬉しそうなのシャルナちゃん」


「……しかし、これは、うむ。…………確かに、特殊な趣味だな。……この時点で既にもう会いたくない」


「あ奴の性癖だけはマジで理解できんわぁ……。側近とルヴィリアぐらいじゃろ奴と話できてんの……」


「ち、ちがうしぃ!? そっち方面は側近ちゃんだけだしぃ!! 僕は百合エロゲの方が好きなだけだしぃ!! 主人公を女主人公に設定できるエロゲーしか借りてないしぃ!! だって仕方ないじゃんあの子のエロゲー選びだけは天下一品なんだからぁ!!」


「あ奴なんか妾がトイレに起きる度に洗面所で荒い息しながら手ェ洗ってたのそういう意味じゃったんか……」


「貴様等の性癖談義は至極どうでも良いが……。おい、ロー。そこの雪像を叩き割れ。見るだけで不快だ」


「もう叩き割ったゾ」


「ローちゃんちょっと待ってそれ叩き割る部分おかしくない!?」


「何かぶら下がってたからローの本能的にやっちまったナー」


「絵面的にヤバイってその得物はァ! ぺっしなさいぺっ!! やめて絵面的に僕が興奮しちゃうでしょ!!」


「お前のも叩き割るゾ」


「あふぅんっ♡」


「全体的にマヌケしかいないらしい。……尤も、相手はそう待ってはくれないようだが」


 不意にフォールが腰元から刀剣を引き抜くと、刃の鈴生りを打ち消すが如く轟音が鳴り響く。

 それは嫌に規則的な轟音だった。ズシン、ズシン、ズシンと重圧的な足音が四方向からそれぞれ鳴り響き、そしてその重々しさを証明するが如く、真正面の門から一体、左右の要塞から一体ずつ、そして彼等が今し方通ってきた要塞の残骸から一体、通常の歩行型や兵隊型とはかけ離れた重装備のゴーレムが現れた。

 堅牢な鎧は元よりその手に持ったハンマーからして、剛力を想像するに余りある姿だ。その一撃をまともに受ければ無傷では済まないだろう。


「やはり……、予測されていたな。誘い込まれたというわけだ」


「ほっほーう、初っ端から挑んでくるねぇ? アゼスちゃん。……じゃ、僕達は要塞の上にでも避難させてもらうぜ? 異論はないね?」


「構わんさ、初めから言っていたことだ。ただし盾は」


「リゼラちゃんも没収です」


「チッ……。自力か」


「なぁシャルナ、妾を盾呼ばわりした勇者と『盾』にノータイムで反応した変態どっちから殺るべきだと思う?」


「解答しかねますかね……」


 何はともあれ、元より言っていたように魔族側であるリゼラ達はこの戦いに手を貸さない約束だ。

 最後までローだけは不機嫌そうに唸っていたが、彼女達も魔族、或いは四天王として最低限の誇りがあるし、フォールもそれに反論するつもりはない。彼自身にしても魔族の秘宝を奪うのは自分の手で成し遂げたいというのが本音だろう。

 しかし、彼の単身の戦闘に不満なのはローだけだが、ソレとは別に不安な者もいた。誰であろう、シャルナである。


「……フォールは、大丈夫だろうか」


「やっぱり心配かい?」


「当然だ! ……奴の実力は、手合わせしてきた私が一番把握している。だからこそ、不安なんだ。フォールには以前のような怪力も超速度もない。崖上で銃弾の雨を櫂潜れたのだって、奴の異常な判断速度と度胸があったからだ。それ以外はただの常人のそれなのだぞ!?」


「にゃー。これだから筋肉馬鹿は駄目なんだにゃー。ローはフォールのこと信じてるからにゃー?」


「な、何だとこの馬鹿虎娘め!?」


「フシャァアアーーーーーッッ!!」


「はーいどうどう喧嘩しなーい。……まっ、でも今回はローちゃんの意見に賛成かなぁ。君も『星空の街』であんなに熱烈な告白されたんだからさぁ。ちょっとは信じてやったらどうだい? 彼を、さ」


 無言で覇龍剣を振り回すシャルナと、あわや墜落一歩手前まで体勢を崩して回避するルヴィリア。あわや死線一歩手前である。魔王は落ちた。


「殺す気ですか……?」


「いやすまない……! 本当にすまない……!! 手が勝手に……!!」


「リゼラ様は死んだけどナ」


「「いやアレは自力で這い上がってくるから大丈夫」」


 信頼って大事。


「ま、何はともあれ信じてやりなよ。確かに力も速さも人並みだが……、君の言った通り度胸と悪知恵だけは回る男だぜ?」


 ルヴィリアの言う通り、フォールは何ら危機感を感じない表情で、シャルナの持っていた荷物から取り出したであろう装備を調えていた。その表情には不安や怯えなどというものは一切ない。逆に喜びとか悲しみとか怒りとかそういう感情も一切ないのだが、いつもの事である。

 だが、その依然変わらず冷や汗一滴流さずこの凍土の寒さに肌さえ震わせない無表情は、或いは遙か縦五メートル近く横三メートルの巨体を前に一切揺らがないその表情こそが、彼の他ならぬ自信の表れなのだ。


「……アゼスとやら。貴様のことだ、まさか俺がゴーレム相手に何の準備もしてこなかったと思っているわけではあるまい?」


 フォールは刀剣を牙で支えると、衣服の裏に巻き付けた、何やら奇妙な筒を取り出した。

 そしてそれを靴の爪先に縫い付けた着火板へ擦り付け、火を灯すとーーー……。


「嗚呼、その通りだ」


 全力で、真正面の重装型ゴーレムへと走り出す。


「ば、馬鹿な! 無茶だ!!」


 シャルナの絶叫通り、彼の体など吹き飛ばす豪快の一撃が構えられ、振り落とされる。

 重装型ゴーレムの特徴は大きく分けて二つある。防御力と、破壊力だ。その重圧な装甲に守られた体躯の防御力は言うまでもないが、重さはイコール破壊力とは誰が言ったか、その防御力の分だけ凄まじい破壊力を誇る。

 本来、アゼスがこの重装型ゴーレムを作った際のコンセプトは『対城兵器』であった。まぁ作ったは良いものの攻める城がないことに気付いて量産はされなかった辺り何ともマヌケな話だが、実際その巨体の破壊力は城壁を砕くだけの威力を持つことを前提に作られている。

 防御は如何なる剣も槍も、或いは砲弾さえも弾き飛ばし、有象無象の雑兵など一薙ぎで壊滅させる威力を持つ対城兵器としては理想的なゴーレム。それこそが重装型だ。

 尤もーーー……、それはあくまで動かず真正面から受け立ってくれる城が相手の話で、正々堂々など泥を被せ踏み躙ってかち割って発酵させて畑の肥料にするような男にとっては、言うまでもなく、最悪の相性であろう。


「いや、アレはフォール君の勝ちだぜ」


 刹那、ルヴィリアの言葉を証明したのは四体のゴーレムが中心に放り投げられた、二つの発火済みの筒だった。

 その筒の正体は何と言うことはない、発煙弾である。空中で爆発すればそのまま高温の花火となって緩やかに落下するだけの市販品だ。だが、これがゴーレムに対しては凄まじい抗力を発揮する!


「そ、そうか! 熱探知ピット機関を持つ奴等ならばあの炎が鎧に接触すれば……!!」


「発煙筒の光は暫く燃え続けるからね。相手が仲間の鎧にくっついてると思って無条件で攻撃する、ってワケさ。子供騙しだけど原理を知ってればこれほど効果を生むことはない」


「けど発煙筒は二つしかないし、それで倒せるのは二体ぐらいだろー? 他の二体はどうするんダー?」


「そりゃフォール君のことさ! 二体が潰し合ってる暇さえあればまた新しい策が……」


 そこまで言いかけた辺りでルヴィリアはふと言葉を止め、奥の城へ全力で駆け抜ける男の姿を見た。

 背後で発煙筒の罠にはまったゴーレム達が潰し合っているにも拘わらず一切我関せずと言わんばかりに奥へ進む男の姿を見た。そりゃもう『こんなところで無駄な体力など使えるか馬鹿め』と言わんばかりの男の姿を見た。


「……勇者ならさ。試練を乗り越えるとかさ、格好良く決めるとかさ」


「る、ルヴィリア……?」


「ちょっとぐらい勇者しろやクソ外道がオラァッッッッ!!!」


 人の道も勇者の道も、あと序でに物理的に道を外れていくスタイル。

 それがーーー……、勇者クオリティ。


「む? 何だ貴様等も追いついたか。……どうしてそんなに息を切らしている?」


「君がガン無視決め込んだ重装型ゴーレム四体からリゼラちゃんを救出したからだよ!!」


 さて、そんなガン無視全力疾走を決め込んだ外道勇者が次に辿り着いたのは『氷河の城』第一階層に当たる大広間だった。凍てつき透明に、彼等の姿を鏡面が如く反射させる白銀の氷。表にあったアレな彫刻と同じ材質なのだろう、冷たく凍てつくようではあるが、驚くほど表面が滑らかで、氷と言うよりは大理石のようだ。辺りに立ち並ぶ氷像も、真正面でフォールと向き合う大階段も、階段の手摺りや壁の模様といった辺りの細かな装飾も全てがその材質である。

 当然、防寒具無しでは凍えるほど寒い、のだが、何故か彼等は言うほどその寒さを感じない。いや寒いことに代わりはないのだが外よりも室内程度には温かい。

 こんな氷に覆われた場所でも室内ならば暖かくなるのかとフォールが意外さに感しヌゲェフ。


「……危ないな。薄皮一枚で直撃だったぞ」


「落ち着けルヴィリア! 手は出さないんだろう!? グーパンはマズい! グーパンは!!」


「コイツだけは……! コイツだけはっ……!!」


「気持ちは解るが! 気持ちは解るが……!!」


「阿呆め、折角温存した体力をここで使わせるつもりか」


 フォールは一息吐き出すと共に、白く散りゆく息を死線で掻き消した。

 辺りに拡がるのは先述通りのあの氷城の景色。辺りに湾曲して映る自身の姿の、何と奇妙なことか。


「……しかし、意外と言うべきか、何とも適当な奴だな。一部一部には手を込むくせに詰めが甘い。俺ならばあの四体を倒さねばここの扉が開かないようにしておくと言っておいて実は破壊せねば開かないようにしておきながら裏側に衝撃起爆の爆弾を仕掛けておくがな」


「それただのクソゲーじゃねーか!! ……あの子は一々裏技の通り道を残しておくのが癖って言うか、そういうトコあるんだよ。つまりアゼスちゃんにとってこれはまだゲーム、お遊びってことさ」


「ふん、気に触る奴だ。……ところであそこの馬鹿共は何をやっているんだ?」


「メッチャすべる! にゃははははははメッチャすべるーーー!!」


「おいこの階段のところかき氷にして喰おうぜ! シロップ持ってこいシロップ!! シャルナ覇龍剣よこせ削るから!!」


「……四天王にはやはりまともなのがいないらしい」


「き、貴殿! 私は!? 私はまだまともな方だと思うが!?」


「まともさと闇の深さが比例してるけどね……。それにしても問題はアゼスちゃんだ。あの子のことだ。ここから先はゲームはゲームでも出来うる限り最高の難易度を徐々に用意してくるだろうぜ。そして、たぶん、君の動向を確認している以上、溺め手絡め手が常だろう」


「道理だな。それこそアゼスとやらの『働かないために働く』を意味するものだろう。俺の体力をじわりじわりと削って、最後は苦せずに打倒、といったところか。姑息ではあるが効果的だな。うむ、気に入らん」


 軽く迷走するように意識を集中させるフォール。恐らくこれから先の試練をどうやって乗り越えるか考えているのだろう。

 ――――先程のようにゴーレムとの戦いほど解りやすいものであればまだ良い。しかしこれから先は先程のような子供騙しが通じるほどマヌケな罠が待ち構えているとも思えないし、今もまだアゼスの予想の範疇でいることが酷く腹立たしい、と言うより、胸騒ぎを覚えるようだ。

 嫌な予感と言うべきか、相手の思惑に乗せられて誘導されているかのような、そんな間隔がーーー……。


「まぁ良い、どのみち進めば解ることだ。そのアゼスとやらの性格の悪さは大体予想が付いてきたが、性根の悪さを探るにはまだ情報が足りん」


「もう貴殿の中でのアゼスは悲惨な評価なのだな……。いや、否定しろと言われれば首を捻るところだが……」


「早い話がこの『氷河の城』でも、さて、何を仕掛けてくるかだ。まさかメイド姿のゴーレムがテーブルに氷の料理を並べ立てるわけでもあるまい? いや、それはそれで造形には興味があるが、どうせリゼラが喰い尽くすだろうしな」


「君が言うと冗談に聞こえないんだけど……」


「……実際喰い尽くすだろうしな。さて、そろそろ進みたいところだが、この城を普通に進んで良いものか」


 一歩。フォールは何気なく足を踏み出したが、それが合図となった。

 突如として辺りの、歪に彼を映し出していた氷面が光を放ち、辺りにその姿を反射させる。丸く、細く、曲り、捻れ、広がり、狭まり、言いしれぬ形に歪なフォールの姿が氷城の大広間全体へ拡がっていく。それは一種の幻影だったのだろうが、しかし、決してただの光の反射で生み出される幻などではない。

 体が浮遊感に襲われ、自身の実在すら危うくなり、自分で立っているのか倒れているのか、その光景が現実なのか夢なのか。それすらも解らなくなり、脳を溶かすような光の奔流は瞬く間に彼を覆い尽くしていく。

 否、彼だけではなく、他の者達も皆同様に。


「うわっぷ!? な、何、これーーー……!」


「ヌギャー! 眩しーーー……」


「そう言えば今日のおやつまだじゃね? 妾腹減ったんだけど」


「フォール! 手をーーー……!!」


 襲い来る反射と幻影の無限回廊に囚われながら、遠退く実在証明にシャルナは手を伸ばす。

 同じく光に飲まれるフォールに向かい、その腕を掴むように、ただーーー……。


「ッ…………!!」


 しかし、その手がとどくことはなく。

 フォールが最後に見たのは光に飲まれ逝く自身の姿と、そして、四方に万華鏡の幻影が如く散っていく、彼女達の姿だった。



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