【エピローグ(2)】
――――永き刻であった。それは永劫とさえ言えるであろう停滞であった。
近い、嗚呼、近いぞ! 刻は直ぐそこにある!! 試練に挑み、苦難を乗り越え、苛烈に生きる我が身代よ!! 今その時に到ろう、今その時に吼えよう! 貴様を待ち構える絶対は直ぐそこにある!!
しかし、美しきかな、貴様の望みは潰えぬのだろう。なればこそ我が身代に相応しい。決して潰えぬその双眸の焔こそが、我が身代に相応しい。近き刻よ、潰えぬ焔よ、絶えぬ希望よ! それこそが、嗚呼、それこそがーーー……。
これは、永きに渡る歴史の中で、戦火を刻み続けてきた傭兵と盗賊と冒険者。
奇焉なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼等のーーー……。
「この前さ、お祓いやったんだよね。花の街でさ、アレイスターに頼んでさ……」
「す、凄いじゃないですか! あの大魔道士にお祓いして貰えるなんて、もう運命の因果力すら曲げかねないほどの大芸当ですよ!? 不運の死神を振り祓ったどころか、幸運の女神に微笑まれたも同然ですよ!」
「ほーん。ンでどうだったんだよ?」
「……『強く生きな』って言われた」
「貴方前世で何やったんですか」
「むしろ盗賊やってンだから当然じゃね?」
「だったら傭兵やってるお前はどうなるんだよォ! ちくしょう占いなんて信じねぇ!! 絶対に信じないからなァ!! 何たって俺にはこのアレイスター教祖特性の女神像と御守りと幸福の壺があるんだからなァ!!」
「ガッツリ信じてるじゃないですか! 何やってるんですか!? そんなの入るぐらいならスライム神教入りましょうよホラどうですこの美しいスライム神像!!」
「やめろォ! それだけは嫌だそれだけは嫌だ絶対にい、いや、イヤァアアアアアアーーーーーーッッ!!!」
「……むごいわぁ」
超越の物語である!!
【エピローグ(2)】
「つまり、その、何だ? 生命創造魔法ってのは不完全なんだな?」
雪原。森林を背にしたその場所で焚き火を囲みながら食事を取っていた面々の内、珈琲片手に資料を拡げていたガルスへ、そう問いが投げかけられる。しかし彼は珈琲にちびりと唇を着けつつ、『ちょっと違いますね』と首を傾げ込んだ。
砂糖二つ入ったカネダ特性珈琲は特有の仄かな苦みは砂糖の甘みと上手く混ざり合って彼の口の中に拡がるが、しかしガルスの表情はとてもそんな美味しさに晴れるようなものではなかった。
「不完全と言うよりは、完全だから不完全なんですよ。物凄く端的に言うと魔力が足りないんです。どう計算しても。……つまり、まぁ、机上の空論ですね。動力源さえ無視して設計すればどんなに巨大な兵器も動きますから当然、空論になります」
「けど有り得るんだろ? 魔力さえ無視すれば……」
「上級魔道士数万人を動員して魔晶石を一国分ぐらい持ってくればどうにかなるかも知れませんね。子ネズミぐらいは創造できるかも……」
「つまり不可能ってことだなそれ!?」
「そうなりますね……。ただ、生命創造魔法は全ての魔道の中でも最上級の禁忌魔法です。例え空論でも可能の推測できる辺り、この布切れ一枚で小国の権利程度なら買える金額になりま」
カネダ、抜銃。
ガルス、臨戦。
「騒ぐんじゃねェアホ共!! 折角俺が手ずから料理作ってやったンだぞ!! 黙って喰えねェのか!?」
「いやだってお前の取ってきた謎肉なんか堅いんだもん……」
「あと全般的に調理が雑ですね。斬って焼くだけって……。せめて塩胡椒は振りましょうよ。と言うかそもそもコレ何の肉なんですか?」
「う、うるせェ!! テメェ等が食事当番だか何だかぐだぐだうるせーから俺がちゃんと狩りも調理もしてやったんだろォが!! 塩胡椒が欲しいなら振りゃァ良いだろう振りゃァよォ!!」
「「瓶」」
これぞメタル流、男の豪快料理である。
なおその肉が何だか虹色だったり内臓とかまだ動いてたり一部が悲鳴を上げながら辺りを逃げ惑ったりしているのだけれど、料理である。たぶん。
「まぁ、メタルが取ってきた謎肉は兎も角……。この魔方陣の価値は充分に解ったけどさぁ。俺達の中で魔法が使えるのは俺とガルスだけだし、俺だって簡単な魔法ぐらいしか使えないんだぜ? その魔方陣を持っててもなぁ……」
「いえ、そうでもないんですよ。それが例え机上の空論であろうと理論が完成している以上、決して無意味なものではないんです。魔道学は僕の専門ではありませんが、生物学は専門だ。その観点から見てもこの魔方陣は非常に興味深い。もしこの魔方陣を理解できれば、何か、新しい発見があるかも知れません」
「俺達でも使えるような魔道にできる、と……?」
「いえ……、それは解りませんし、もちろん禁忌魔法ですから使うつもりはありませんけど……。可能性としては。この禁書と照らし合わせて考えてみれば新たな魔道を見つけ出せるかも」
そこまで言いかけた辺りで、ガルスの手からひょいと禁書が奪われる。
文字を追っていた眼差しの前に現れたのは露骨に不機嫌そうなメタルの表情だった。
「だァーかァーらァー今は肉喰え肉ゥ!! 細かい文字追う暇があンなら一枚でも多く肉を喰え!! なァ!?」
「本当ですよ何の為に狩られたんですか私」
「ほら謎肉もこう言ってる!!」
「待って。謎肉は喋らない」
「だから何かおかしいって言ったんですよこのお肉!! やっぱりお二人が黄金に輝いてるのって幻覚ですよね!? 周囲で踊ってるやたら筋肉質なフォっちも幻覚ですよね!? と言うかそもそもメタルさんが七人に増えてたりした時点でおかしいと思ったんですよ!!」
「言うまでもなくおかしいだろそれ……。でもまぁユナの生物兵器よりはマシだから」
「食卓に兵器は上がりません! 普通は!!」
「兵器たァ失礼な奴だよなァ? 肉」
「「「「「ですね」」」」」
「「増えてるゥ!!」」
静寂の雪原に響き渡る、食事も平和に取れない連中の、焚き火の焔よりうるさい夕食の一時。
なおこの直後に謎肉が超進化して異形生物が誕生したりガルスが第七宇宙からの電波を受信し始めたりカネダが謎肉生物に喰われたり吐き出されたり女装したり結局最後はメタルが全部丸焼きにして喰ったりすることになるのだが、まぁ、そこはそれ、別のお話ということでーーー……。




