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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
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393/421

【4】


【4】


「…………ンフゥン」


 さて、遂に夕暮れも沈んで星が空に浮かんだ頃。普段は楼台の灯りも消えて静かに眠るこの小さな田舎街の一角は、この季節ばかりは何とも豪勢に光輝いていた。そう。『星降り』の季節にだけ訪れるサーカス団による野外ステージである。

 この季節の、さらにこの野外ステージだけは子供達も夜更かしが赦され、この『星空の街』に一年に一度だけ訪れる大賑わいな日。子供達はサーカス団の公演とその後に配られるお菓子や玩具を楽しみに、或いは大人達ですらも、その非日常的な光景に瞳を輝かせるのである。

 だからサーカス団にとってもこの日は特別だった。今こうして野外ステージの客席の外れで数十人の観客達よりも遙かに、と言うか下手をすればステージよりも遙かに目立っているやたらと濃い団長にとっても、期待に瞳を輝かせる小さな街の彼等を楽しませることはサーカス団創設の意義に関わるほどのことなのだから。


「おぉ、団長! こちらにいましたか」


「ンァらァ……。さっきのンボォオゥイとンガァァァンルゥはどうしたのかしンらァ……?」


「何だか出し物を思いついたみたいで、もうステージの方に。団長は毎年客席の後ろにいますよね」


「ンァ当たり前ンンンよォ……。ここはあちィしの生まれ故郷。娯楽も何もあったモンじゃない田舎街……。そんな『星空の街』のンボォオオオイやンルェェエエディイイイが一年に一回だけ楽しみにしてくれるパーチィーなのンよォ? あちィしより目立たないよォウな舞台やったりしィたンらァ熱ゥウウウいチッッッッッッスの罰を御見まいなンだかるゥゥウア……」


 ぞるっと全身に鳥肌が立つのを感じながら、団員は顔を引き攣らせた。


「し、しかし、そうですね。今日も星は振りませんか……。今年は駄目かも知れませんね」


「ンそォうねェ……。何だかある時を境に空の星が減っちゃったァって話だしィ……。でもそれならあちィし達が星になれば何の問題もないわねェ……。なんたって、あちィィイし達はあの星空にも負けないスーパー☆スターなんですもの」


「そ、それは確かに。ハハハハ……。ま、まぁ、大詰めに星代わりの流星花火玉もありますしね! 何とかなりますよ!!」


「当然よォ……。不安と言えばボボンボォちゃんがまだン来ィてないのとォあのンボッォオォォイとンッッガァアアアルの舞台なんだけどォ……、大丈夫かしンらァ?」


 相変わらず巻き舌な団長の不安だが、悲しきかなその予想は見事に的中している。

 と言うのも彼等が見守る観客席より先、野外ステージの木組みの柱の上に、誰も気付かないが二体の影があるからだ。半分テントに覆われ、さらに満天の星空の闇に融け込んでいるせいもあって気付きにくいが、そう、ゴブリンソルジャーのフォースとフィフスである。

 彼等はフォール達がステージ入りする瞬間を狙って、こうして恐らく注意が一番逸れるであろう場所からその瞬間を狙っている。確実に、犠牲になっていった仲間達の無念を晴らすためにも!


「お、おぉ……! おぉ!! ご覧くださいハーフ・ボス(右)!! もう絶対ダメだろうしはよ帰って無罪証明の準備しようと思って為したが、どうです! 意外にやれそうですよ!!」


「リンゴ食べ終わっちゃった」


「成る程ボスもそう思いますよねハイありがとうございまクソァッッ!!」


 こっちもいっぱいいっぱいである。


「ふ、フフフ、まぁ良いでしょう。ご覧下さいよボス、必ずアイツ等ならやってくれます! フィフスは兎も角、フォースがいればきっと、必ずーーー……!!」


 観客、ゴブリン、サーカス団員達。期待や羨望や情熱や悪意や不安、様々な感情が入り乱れる舞台に、これより開幕の光が灯る。ぶっつけ本番大舞台、泣いても笑ってもこの一瞬だけの彼等の喜劇が幕を開き、数多の視線の前にその姿を現すだろう。

 例えそこから何が起ころうとも一発限り。皆がその刹那を見逃すまいと息を呑み、舞台袖で鳴り響くドラム音や眩く交差する虹色の光に心躍らせながら、そして、喜劇の幕開けを告げる幕下へと身を乗り出すほどに食い付いてーーー……。


「ブーストシークエンス、完了。着地へ移行する」


 舞台どころか空の上から現れたその期待に、顎を落とすのであった。


「ふむ、やはりインパクトは大事だな。どうだシャルナ、生きてるか」


「なぁこれ人力発電って私一人で賄える量じゃないよな!? 違うよな!? 何だ貴殿この高速自転車発電は!! 無理、ちょ、待って無理だ! はやく、舞台はやァく!!」


「まぁ待て落ち着け。舞台は始まったばか……、何か踏んだか? 今」


 舞台の上で待ってたゴブリン二名ですね。


「ちょ、ちょっと何よアレ! 何なのよアレ!? 魔道駆輪ってあんな事になるのォ!? 知らないわよあちィしィ!!」


「お、俺だって知りませんよ! きっとスライム神様のお導きだ!! あぁなんて素晴らしい!! スライム神に感謝を(スラメン)! あぁスライム神に感謝を(スラメン)!!」


 観客席はその超人兵器の登場に大盛り上がり。いや、観客ばかりか団員達まで圧倒的な光景に愕然としながらも、歓喜と驚愕に惜しみない拍手を送り続けた。ただその姿だけで、嗚呼、何と美しいことだろうか。純蒼のボディと眩いフレーム、そして澱みないそのスライム命の文字。興奮の余り今にも誰かが倒れだしてしまいそうなほど、その魔道駆輪MkⅡ『ザ・滅亡の帆(ノア)』の機動は彼等にとって衝撃的だった。

 まぁ舞台袖では既にゴブリン・ファーストが倒れているんですけども。安らかに微笑みながら天に召されているんですけども。


「……悪くない。良いウケ具合だ」


「し、しかし貴殿! 良かったのか!? この形態の機動はあと一回、この一回しかできなかったのだろう!? こんなところで使って良かったのか!?」


「ん……、あぁ。そうだな」


 フォールの操縦席から見える景色は、瞳を輝かせる子供達や万雷の拍手を送る老若男女達。

 ただ、それだけだ。この歓声が自分の運命を変えてくれるわけではない。この魔道駆輪の故障を直してくれるわけでもない。世界を救ってくれるわけでも、積み重なる試練を退けてくれるわけでも、果ては、何かを産みだしてくれるわけでもない。

 だがーーー……、そう。


「……これで良かったのさ」


 始まりは、『死の荒野』にある街で邪龍とその幼卵を助け、街を救ったことから譲り受けた魔道駆輪だった。

 そこから様々な国を回り、時に飛び、時に跳ね、時に撥ねる激動の毎日だった。山道を登り、川を下り、空を舞い、人々の街を走り抜けたことも、獣の群れを走り抜けたこともあった。とんでもないレースに参加したことも、あった。

 様々な思い出がある。この魔道駆輪一台で世界を走り抜けてきたのだから、数え切れないほどの、語り尽くせないほどの思い出がある。彼等の旅にフォールやリゼラ、シャルナ、ルヴィリア、ロー、そして出会ってきた様々な人々が欠かせないように、この魔道駆輪もまた、欠かせない存在であった。

 とある人物の親切から譲り受け、そして世界を巡ってきたこの一台の車の存在はーーー……、決して欠かせるではなかった。だから、これで良いのだ。

 誰かの親切から始まったのなら、終わるのもまた、その意志を紡ぐ親切で良い。


「よく、頑張ってくれたな」


 段々と、加速度的に墜ちていく出力。それでも抗わんばかりに軽やかに舞う機体。

 数多の思い出を示すが如く、それは魔道駆輪だけの舞台だった。舞い踊り、空を飛び、数多のミサイルの雨を降らせ、そして果てなき光を一心に受けるーーー……。誰かの希望に紡がれて、誰かに希望ミライを与えて、誰かの希望ユメになれる、そんな舞台だった。


「調味料ゥゥウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」


 なんてしみったれた舞台で終わるワケがない!

 突如、舞台の底を突き破って現れたのはハーフ・ボス(左)! その突如の出現に誰もが一瞬停止したが、しかし!! 舞台袖から走り抜ける影があった!! そう、ハーフ・ボス(右)である!!


「刺激ィ! 爆裂ゥ!! 夜食ゥウウウウウウウーーーーッッ!!」


「フュウウウウーーーーーーーーーーーーーーージョンッッッ!!」


「「ハァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!」」


 それは、奇跡だった。

 地下を突き破ったことで起こる気流の噴出はその街の地下に溜まっていた高圧ガスをハーフ・ボス(左)を天高く、星空に到るほどの高さまで跳ね上げ、さらに合流したハーフ・ボス(右)までも空高く跳ね上げていく。『ザ・滅亡の帆(ノア)』よりも遙かに高く、世界の頂点まで!!

 そしてその瞬間に奇跡が起きた! ハーフ・ボス達の姿は眩い光に包まれ、そしてーーー……、完全体となるポンコツ魔王、リゼラが降臨したのである!!


「フハハハハハハハハハハハハ!! 妾の右と左が合わさって完全体となった今!! 最早この妾を止められる者などこの世におらぬわァ!! さァ、今こそこの花火玉を実食ーーー……、えっ」


 なお、そんな彼女に直撃する魔道駆輪の機体。

 日頃の恨みを晴らさんばかりに、跳ね上がった彼女を追撃するミサイル群の数々。必然、引火。結果、誘爆。

 つまりそこから何が起こるかと言うと、はい。


「妾はただ花火を食べてみたかっただけなのにィィヤァアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーッッ!!!」


 空に輝く散閃の星と、その輝きに負けない数多の流星群。

 果てなき輝きは純蒼に劣らぬ美しさと共に幻想を生み、世界へと降り注いだ。赤も青も黄も緑も紫も桃も金も銀も虹色もーーー……、淡く煌めきて満天の星空に彩りは、大自然の芸術に祝福されて、この街に一年に一度だけの輝きをもたらしたのだ。


「……今日は随分と、聞きおぼえのある声がする日だな」


「…………ソウダネ」


 まぁ、その花火の中身は兎も角としてなのだけれど。

 何と言うか、まぁ、はい。――――汚ねぇ花火だ。



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