【2(2/2)】
【2(2/2)】
「ちくしょう何でこんな事に!!」
「大変だナー」
「貴様のせいだ馬鹿虎娘め! よりもよってリゼラ様の頭にあんな代物を……!! おいルヴィリア、まだフォールの手からスイッチを引きはがせないのか!?」
「駄目だスライムのストラップごとガッチリ握ってる! と言うか移動しながら引きはがすのが難し過ぎるんだけどォ!? 止まろう、一回止まろう!!」
「後ろのアレを見てから言ってくれ!!」
振り返ったルヴィリアの目に映るのは、その華奢で幼い体躯からは有り得ない挙動で狂気の咆吼と共に迫り来る魔王様。
そもそも食欲と貪欲さは逸脱しまくっている魔王様だが、それ以上に生命力は一行でも随一である。もはや不死身と言っても過言ではないその力は偏に生存欲に比例するものだ。つまるところこの魔王の生存に掛ける欲求は食欲も貪欲さも含め、ただの少女な見た目からは想像できないほど常識外れということであろう。
まぁ一言で言えば生き汚いとしか言い様が無いのだが、何と言うか、はい。
「あ、無理ですねこれ」
「だから言っただろう!? 魔王様の異常さ……、ゲフンゲフンッ、ヤバさは貴殿も知るところだ! 止まり次第フォールの腕ごと喰い千切る可能性もある!! 幼児化しているからと言って油断するな……! むしろヤバさは幼児化してからの方が遙かにヤバい!!」
「あんまり言い直せてないよねそれ!? 解った、こうなったらちょっと手荒だけど魔眼で停止させよう!! それなら文句はないだろう!?」
「あ、あぁ、それなら……。いや待て貴殿! 嫌な予感が!!」
「くらえリゼラちゃんッ! 僕の魔眼催眠は最強不敗だぁああーーーーーーーっ!!」
ルヴィリアは瞬間的に振り返り様に流石のチート権能こと魔眼を発動する、が、シャルナの嫌な予感は的中することになる。
それもある意味最悪の形で、だ。
「甘いわこの変態めがァアアーーーーーッッ!!」
魔眼が発動した瞬間、リゼラは自身の双眸へ手鏡を掲げて見せる。
その瞬間に魔眼による催眠は跳ね返され、疾駆していたはずのルヴィリアはそのまま力なく崩れ落ち、地底都市の路地裏へ墜落した。なお、そのまま彼女は近くの窓硝子に向かって『ルヴィリアちゃんカワイイ! ルヴィリアちゃんカワイイ!!』と擦り寄りながらへこへこ腰を振っている辺り、まぁろくでもない催眠を掛けようとしたのは間違いないらしい。
「フハハハ馬鹿めがァ! 所詮、魔眼など魔力により多重反射した光の現象でしかないわ!! それを鏡で屈折さえさせてやれば跳ね返すこともこの様に造り替えることも容易いのだァ!!」
「ば、馬鹿な! リゼラ様何を!!」
「我! 不敗! 也! 我! 無敵! 也! 我…最強なり!」
刹那、リゼラの全身に宿る魔力が跳ね上がり、幼き魔王は瞬く間に膨大な魔力を放つ怪物と化す。
魔眼による催眠と魔王による全力の生存本能が合わさることで奇跡的に魔王の魔力を跳ね上げ、その身体能力までも極限的に向上させたのである。
頭に設置された核地雷を除去すべく勇者を追跡する魔王は今、名実ともに怪物と化したのだ!
「これぞスーパー魔王の真の姿だァアアーーーーーーーーッッッ!! フゥーハハッハッハッハッハッハァアーーー!!」
「あぁ……、もう頭が痛くなってきた……」
「遂に脳味噌も筋肉になったかー? 脳味噌が筋肉痛なのかー?」
「黙れスッカラカン……。元はと言えば貴殿のせいで……、あぁ、頭痛薬、誰か頭痛薬をくれ……。胃薬でも良い……。誰か、あぁ……」
「薬ならフォールが持ってたぞー? 起こそうかー?」
「やめろ、これだけの衝撃にも拘わらず起きないのに貴殿が呼びかけて起きるはずが……、おい待て何をやっている馬鹿虎娘ェ!?」
「お姫様は王子様のキスで起きるんだろー? ロー知ってるぞー!!」
「だったらこの場合は逆だろうがこの馬鹿!! ダメだダメだそういうのはダメだ!! 絶対ダメだからな!!」
「ん~~~♡」
「だから駄目だと……! 馬鹿っ! この馬鹿っ!! はーなーれーろぉー!!」
「やーだー! ローのキスで目覚めさせるー!! はーなーせー!!」
スーパー魔王から逃亡中にも拘わらずぎゃあぎゃあと喚き合う四天王約二名。
だがこの全力失踪中にそんな話はすべきではなかった。よりにもよって、いやキスさせるだのさせないだの、果てはどっちがキスするだのどーだのという話になったが、残念ながら内容的な意味ではなくもっと別の、まぁ、前方不注意的な意味で。
「「あっ」」
ガッ。爪先が地面に引っ掛かり、二人の体はそのまま前のめりに倒れていく。
この時シャルナがフォールを庇おうとしたのが悪かった。浮き上がった体がシャルナの巨躯により上半身だけ固定されたまま投げ出され、さらにローが下半身を受け止めようとした結果、フォールの体はエビ反りに固定される。
さらにそこから襲い来る転倒の衝撃。その連鎖はエビ反り固定からのツープラトン・ダブル・バックドロップという究極の連携を生んだのである! これぞ『最強』と『最速』による破砕の一撃だ!!
「「………………」」
「……酷く頭痛がするのだが、どうやって俺を起こした?」
「「き、キス……」」
※地面との。
「ヒャッハァアアーーーッッ!! スイッチを寄越せェエエーーーーーッッ!!」
しかしそんな悲劇に構わず襲い来る、逆魔眼による強化されたスーパー魔王様。
幾らフォールが目覚め、いや目覚めさせられたとは言えE・T・W・B(エビ反り固定ツープラトン・ダブル・バックドロップ)を決められ、或いは決めてしまった一行がその猛攻から逃れられるわけがない。
数秒、ないし一瞬。強化された魔王に掛かればその隙を逃すはずもなく、そしてそれだけの時間があれば勝敗を決するには充分過ぎる。彼の腕ごとスイッチを喰らい、自身の頭に設置された核地雷を排除するにはーーー……!
「邪魔」
なおその魔王の顔面に全力グーパンを放つ勇者は計算外とする。
「……突き指した。どうしてくれる」
「顔面グーパンされたリゼラ様の方が重傷だと思うんだが」
「メチャクチャ吹っ飛んだぞー! スゲー!!」
「自分の速度で吹っ飛んだだけだ。……それで、今は何がどうなってこんな事になっている? 俺が気絶している間に何があった? 手短に話せ」
「そ、それが、リゼラ様の大事な頭が!」
「リゼラの大事件な頭が? 何だ、爆発でもしたか」
「いや違……、何でそう貴殿らは聞き間違えるんだ!? わざとか? わざとなんだろう!? と言うか爆発はまだしてない!! これからするんだ!!」
これからしても困ります。
「……成る程、遭難者共と核地雷か。また面倒なことに巻き込まれたな」
と、気を取り直して説明後。流石は勇者、この状況でも現状理解はお手の物である。
とは言いつつも頷いてる方向は明後日の方向だし目は虚ろだし、体調不良が回復したわけではないらしい。幾ら薬草を摂取したからと言って、今の今で治るわけでもないから当然だが。
「つまり解決策はリゼラをモニュメントまで運べば良いわけだな」
「爆発させる気満々だよな貴殿!? 幾らリゼラ様でも頭に爆弾があっては無事では済まないぞ!!」
「迷わず首を切り落とそうとしていた奴が言うのもどうかと思うが……」
「フォールのなー、手にあるスイッチで離れるってブラックは言ってたぞー? つまりそれ使えば良いだけの話なんじゃないかー?」
「……それもそうだな。どれ、スイッチとやらは」
開かない手、拒む解錠、擦れ違う思い。
「…………フッ。金縛り、というヤツか」
「フッ、じゃない!! 何で自分の手が開かないんだ貴殿!? どう考えてもおかしいだろう!!」
「どうやら俺の手がスライムを手放すことを無意識的に拒んでいるようだ。風邪のせいもあるのだろう、脳からの情報伝達がどうにも……」
「意識あったら離すのかー?」
「悪い冗談だ」
「なぁ貴殿やっぱりわざとだよな? わざとなんだよな!?」
たぶん故意な辺りがタチ悪い勇者だが、そんな事を言っている間にも魔王が復活し、ゆらりゆらりと核地雷の設置された頭を揺らしながら凶暴な叫びを上げる。
フォール達はその姿を視認するよりも前に再び地底都市を走りだし、まるで夢物語のような街並みを抜けて行った。
薄暗く、蒸気の靄が満ち漂うような近未来都市。泥で作られたにしては色艶の良い建物は風を通さず音も逃がさず、彼等の疾駆を反響させていく。魔王の咆吼など尚更で、彼等の頭蓋をぐわんぐわんと激しく揺らすほどだ。風邪で体調不良なフォールにとっては酷く耳障りなことだろう。それでもグーパンはどうかと思うが。
いや、それ以上にこの街の複雑に入り組んだ建物と建物の間に作られた道の、何と厄介なことか。上に進んだと思えば下に戻り、下に戻ったと思えば上に進む。これではもう地底都市というよりも、御伽噺の迷宮のようである。
「ちっ、厄介な構造だな。『最硬』とやらは随分と良い趣味をしているらしい。少なくともこれは……、魔道駆輪や魔道列車、銃や魔道砲などの構造と酷似しているな。魔力機関、いや、カラクリの部類か? ケホッ……」
「ま、まぁ、奴の趣味はどうにも独特というか……。ルヴィリアとリゼラ様、側近殿は多少理解があるようだが、私やローはあまり……。いや、絡繰り仕掛けはリゼラ様達でも着いていけないと言うが……」
「アイツ全般的にワケわかんねー! そのくせネチネチぼそぼそ言うからうっとーしー!!」
相変わらず散々な評価だが、フォールはそれに耳を傾けつつ小さく頷きを見せる。
何事かと首を捻る二人に、彼は依然として虚ろな眼のまま坦々と説明していった。
「これほどの地底都市を造る奴だ。機関知識は相当なはずだし、その性格からしても、恐らくかなり『こだわる』部類だろう。ならばいっそのことリゼラの頭の爆弾も解除させてやれば良い。見たところあの爆弾も機関の部類だし、奴も自身の地底都市が爆破されるのは遠慮したいはずだ」
「か、可能なのか? その部類の話は私では全く……」
「ローやだ! 行きたくない!!」
「我慢しろ。代わりに撫でてやる」
「ごろ、ごろうにゃっ……。にゃふ、なはー……♡」
「貴殿、私も我慢するのだが? 我慢しているのだが? 物凄く我慢しているのだが!?」
「んにゃっ!? ローの方が我慢してる! メッチャ我慢してる-!!」
「言っておくが前科アリだからな貴様等……。まぁ、問題はどうやって言うことを聞かせるかだがな。流石にこちらの言うことを無条件で聞くほど容易い話では……、おい何だその表情は?」
「い、いや……」
「まさか貴様等、四天王の立ち位置を忘れたわけではあるまいな。俺が言うのも何だが、現状そいつは敵で貴様等は裏切り者の一味という認識が打倒だぞ。ルヴィリアやローが特異だったから多少認識が甘いのは無理もないがーーー……」
シャルナは疾駆しつつも気まずそうに顔を逸らし、唸るように沈黙する。
そして嫌な汗を額に浮かべながら、本当に、途轍もなく、果てしないほどに申し訳なさそうな引き攣った笑みを浮かべ、一言。
「……たぶん、ないかな」
「何? それは、どういう」
「フォール危なぁあーーーーーーーーいっ!!」
彼がその疑問に追随しようとした、瞬間だった。
突如としてフォールの後頭部にローの脚撃が叩き込まれ、彼は前方へ軽く五回ほどバウンドして十数メートル吹っ飛ぶことになる。そりゃもう見事に、よく跳ねるボールを思いっ切り投げ放ったかのように。
その行為に唖然としたシャルナだが、奇しくも理由はその直後、彼女の髪先を擦る麻酔弾によって判明することになった。弾丸は当然ながらリゼラの放ったものではなく、そしてローが彼を蹴り飛ばさなければ背中へ確実に直撃するであろう弾道だった。
ちなみに直撃した方が軽傷だったとかは言ってはいけない。
「……外したか」
建築物の影から、ぼそりと呟く。
その者こそは先程の遭難者の一人でありこの状況において真っ先に行動を起こした男ーーー……、ラングマン・アンダースだった。
「き、貴殿……! ラングマン!! どういうつもりだ!?」
「どう、か。下らない質問だ。貴様の仲間が奪ったスイッチは我々の虎の子、核地雷の起動と解除の為には必要不可欠だ。いや、起動は3時間で自動的に行えるが……、その為に年端もいかない少女を犠牲にするわけにはいかないからな。力ずくでも取り替えさせてもらうだけの話だ」
「くっ……! ぐうの音もでない正論を平然と、貴殿はッ!!」
「そーだそーだー! 正論言ってんじゃないぞテメーっ!!」
「何だこれは俺がおかしいのか」
残念ながらこの連中に常識を求めた時点で負けである。
「……ふん、まぁ良いさ。お前達がどんな事を企んでいるのかは知らないが、仲間割れしているなら好都合だ。三時間も猶予があればスイッチ一つ取り返すことなどワケないからな」
「ま、待てラングマン! もしかしたら我々の話し合いで、貴殿達を脱出させることができるかも知れないんだ!! それまでどうか攻撃を待って欲しい!!」
「信用できんな。核地雷はこちらの最終兵器だ……。俺達は何としても脱出する」
ラングマンはそう言い残すと銃に麻酔弾を装填し、靄霧舞う薄暗い建物の影へ姿を隠してさらに数発発砲。シャルナはどうにかそれを覇龍剣の腹で受け止めて防いだが、表情には達成感どころか苦々しさしかない。
――――予想以上に厄介な状況になった。よりにもよって魔王様だけではなく遭難者である彼等まで敵に回るとは。
実際、自身とローに掛かれば彼等を打倒することはワケない。幾ら厄介とは言え所詮は中級程度の冒険者だ、目を瞑っていても打倒は可能だろう。何ならローに命じて今すぐ全員倒すという選択肢もないわけではない、が。
「ぐっ…………!!」
今回どう考えても向こう側に義があるせいで果てなく手が出しにくい! どれぐらい向こうに義があるって0対10ぐらいの割合だ!! 彼等からすれば遭難していたら急に最終兵器で事故を起こされた上に強奪され、気付けば双方逃亡を始めていたという意味の解らなさ!! こんなものどうしろと言うのか!!
いっそのこと今すぐ土下座して勇者と魔王を差し出せば話は早いのだが、無駄にその勇者が解決案を提示してきたものだから、そしてその解決案でしか解決できないと確信できる辺り、嗚呼全く本当に罪悪感が無限に積み立てられていくようだ!!
「……奴がラングマンとやらか。俺と同タイプだな」
「生きていたのか貴で……、一応言っとくが奴は暗殺者の部類だからな!?」
「解っている。あの装備からしてかなり多彩な、しかし中距離を得意とする部類だろう。他の連中も……、あぁくそ、目眩がしてきた。心なしか視界の色も変わってしまったようだ」
「赤色にな!? フォール出血が! 頭から血が、あぁ血が!!」
「フォールぅー! 血がぁー!! 血がぁーーー!! ごめんなー!! うにゃぁーーーーっ!!」
「騒ぐな。この程度、月末の帳簿確認による頭痛に比べれば軽傷だ。……それより、このまま俺を運びながら脚を緩めず聞け。どうやら多少手間が増えるらしいがやること自体は何ら変わらん。俺のこの手が愛を離さぬジレンマならば寂しきビルの風にグッドナイト」
「大丈夫かー? 頭叩けば治るかー?」
「やめてやれ、本当に割れそうだ……。つ、つまりどういう事だ?」
「ふむ、血が抜けて頭が軽くなった。別のモノが抜け出た気がしないでもないが……、少し状況を整理すれば解ることだ。今のところ驚異は後ろのポンコツと貴様等の言う六人の冒険者、そして何よりゴーレムと『最硬』の四天王の4つだ。さらに言えばポンコツ爆発という時間制限つきだが、これはまぁ、無視して良い」
「良くないんだが」
「そこで、だ。正直、今の俺ではまだ眼にしていないがゴーレムと『最硬』の四天王を相手取るのはほぼ不可能と言わざるを得ないだろう。だがポンコツと冒険者ならば、まだどうにかなるはずだ。と言うよりするしかないワケだが……、ゴーレムは侵入者に対し無差別に攻撃を行うのだろう? ならば話は簡単だ」
「き、貴殿、まさかーーー……」
「ポンコツと冒険者共は俺が請け負う。貴様等はゴーレムの注意を引き付けつつ、さっさと『最硬』を探し出してコンタクトを取れ。そいつの四天王意識が低いならば好都合だ、有耶無耶にしてまずはポンコツの爆弾除去を優先させろ。その後で魔王を殺す」
「無情に無意味だナー……」
しかし、確かに現状を考えた場合、それが効率的なのは確かだ。戦力で考えてもシャルナとローが面倒なゴーレム関連と『最硬』を請け負うのが一番話が早い。
だがこれはフォールの悪い癖でもある。彼の体調は回復しつつあるとは言っても未だ万全には程遠いし、HPゲージは未だ状態異常の重ね掛け状態、さらにマイナスのレッドゾーンだ。先程の強制回避も相まってまともに走れる状態ではない。
それは本人が誰よりも解っているはずだがーーー……。
「き、貴殿、駄目だ。許可できない! それは、余りに貴殿が危険過ぎる!! 貴殿の体調を考えてもみろ!! 今すぐ倒れたっておかしくないんだぞ!? それを一人で向かわせるなんて、幾ら何でも無茶だ!! せめて私かローが一緒に………!!」
故にこそ、彼はシャルナの胸座を掴み、拒絶する。
「解らないのか。『凍土の山』から『氷河の城』まで魔道駆輪で一日半、その後『広き平原』に一日、『深き森』に半日、『盗賊の祠』に数時間だ。その間の移動時間を考えても『始まりの街』まで一週間かからない。魔道駆輪の故障を考えても二週間程度だろう。……直ぐ側にいるんだ、ブルースライムが。この旅の目的が、幾度の追憶と追想の果てに求めたものが直ぐ側にある」
――――ならば。
「止まる理由など何処にある。体調不良など俺を遮る壁にもならん」
フォールは断言する。一切の躊躇なく、青ざめ虚ろな表情にも拘わらずシャルナを圧倒するほどの決意を持って宣言する。これも、フォールの悪い癖だ。しかし彼の何よりの強さでもある。
かつて彼はエレナに道を選び方を説いた。そしてロゼリアに歩む術を説いた。その意志と信条は二人の、延いては帝国と悲壮なる運命を変革したが、所詮変わったのは二人の変わろうとした意志に他ならないとフォールは言う。そして、それが何よりも重要なのだとも、同じく口にする。
だからフォールは強い。戦力だけで言えば彼は中級冒険者と同等、ないしそれ以下だ。体調不良の現状を言えば、やはり全く無謀と言わざるを得ない。
――――だが、この男ならば確信を持って言えるのだ。『それがどうした』、と。
「行け。こんな面倒事、魔族三人衆ども以下だ」
その後押しにローは満面の笑みで、シャルナは何処か悲しそうな諦めの苦笑と共に物言わず頷いた。
彼の姿に憧れ、彼の姿を愛し、彼の姿を信じた彼女達だからこそーーー……、その言葉に微笑みしか湧かないのだ。『解っているさ』と、そう言わんばかりに。
「さっさと終わらせて……、この地下帝国から脱出するぞ」




