【3】
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「……クク、どうやら各地で戦い始めたようですねぇ」
「あぁ……、そのようだな……」
滅亡の帆中枢。躍動する要塞島の心臓部では二人の黒幕が邪悪に頬を歪ませていた。
それが吊り上げるのか引き下げるのかは別としてーーー……、彼等の目的が同じであり、黒幕たる立場にいることは間違いない。
少なくとも世界を支配するに足る臓腑を操る彼等にとって、眼下に蠢く有象無象がどうでも良い存在であることに代わりはない。無論、黒幕の一人にとって例外が存在することは言うまでもないのだが。
「四肢、貴方も出なさい。魔王リゼラだけで充分でしょうが万全には万全を、です。何なら一室に捕らえたあの女騎士も連れて行くと良い。役立つかどうかは怪しいところですが、えぇ、勇者フォールの連れてきたあの小娘相手には絶大なはずですよ」
「し、心配するなよ。彼女を使うまでもねぇ。かつてのフォールなら兎も角、今の奴なんぞ俺の腕力で一発だぜ。それならまだあの男、戦士メタルの方が厄介じゃねぇか? あの男は異常だ。既にフォールよりも驚異だぜ」
「……フフ。頼もしいことですが、確かに貴方の言うとおり戦力的に考えれば厄介なのはあの男です。しかし奴は所詮、運命の破壊者には成り得ない。力だけの者などこの滅亡の帆さえあれば全て片がつく。盗賊カネダ、聖女ルーティア、元聖女エレナ……、そして戦士メタルと魔王リゼラを初めとする四天王達。奴等は滅亡の帆さえあれば何ら驚異ではないのですよ」
こつり、こつり、こつり。彼の歩んだ先に拡がるのは朽ち果てた一つの石盤。
しかしそれ等は一刻一刻と躍動し、この滅亡の帆の鼓動とリンクしていた。人の呼吸と心臓の振動が交わり合うように、それは正しく生物の証明とも言えるだろう。幾千幾百の間眠り続けていた滅亡の帆という存在が目覚め、動き出すーーー……、刹那の証明と。
「故に、我々が何より警戒すべきなのは勇者フォールです。奴は常に最悪を叩き付けてくる。心臓の帝国作戦が失敗したのは確かに奴の詰めの甘さも原因ですが、いえ、何より勇者フォールの行動が決め手だった。殆ど地盤まで完成し、覚醒の実まで用いたあの計画が失敗に追い込まれ、どころか心臓が討伐までされたのは、ね」
「た、確かにテメェの言う通りだが……」
「フフ……、しかしそれは心臓の油断も原因として数えられる。だが、我々に油断はありません。『花の街』の王族反逆や滅亡の帆の起動……。私は幾重もの計画を練って進行している。全てはあの御方の掲げた未来のために、ただ計画を進行するのですよ」
彼の語る理想へ呼応するように、段々と滅亡の帆は振動を速めていく。
やがてそれは人の呼吸よりも、鼓動よりも速く、一筋の閃光と化していった。そしてその光は上層の廃城や中層の庭園、下層の砲台を貫き、天空と地上さえも刺し抜く。
そう、それは指標である。交錯し、連結し、融合するための証。これより進行する滅亡の帆が進み行くための渡橋である。
「準備なさい、四肢。我等が過ごした悠久の時……、闇を境として滅亡の帆を完全起動させます」
「……やるんだな?」
「えぇ、勝利はより完全にに……。既に確定していようとさらに詰める! あの勇者フォール相手にはそこまでしてようやく事足りる。最悪に最悪を積み重ねるあの男には……、ここまでしてようやく」
顔貌の宣告と共に、時は進み行く。
「今まで幾度の辛酸を舐めさせられた。運命への反逆者どもが、我々の道を何度塞ぎ潰したことでしょう。ですが、えぇ、しかし……、それもこれで終わりです。ようやく、運命は正しき道を歩んでいく!」
滅亡の帆の起動、魔王リゼラと四天王二人の裏切り、災悪との闘争ーーー……。幾重にも重なった激闘の行く末は、さて、何処にあるのか。彼等の語る運命の末路は、如何になるのか。
『花の街』の決戦は未だ渦中。その荒波に沈む者も泳ぎ切る者も知らぬ結末に、辿り着くのは、果たして。
「さぁ……、蹂躙を始めましょうか」
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