【1】
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「フッ……、フッ……」
その女は、いや、女だろうか。少なくとも性別的には女なのだが、指先から爪先までを覆う筋肉の鎧や、親指一本で全身を支える強靱さは女性のそれとは思えなかった。事実、腕や脚の太さも一般的な華奢さではなく、親指で全身を持ち上げるごとにミチミチと肉の引き締まる音がする程である。
また、腹筋も然り。バキバキに割れた、褐色を帯びた肉。それが呼吸の度にベコンとへこみ、再び膨れてく。汗一筋伝うその様は鋼鉄流れる水滴のようだった。否、その通り鋼鉄にさえ勝る筋圧なのだろう。
「フー……」
親指の腹から、爪の先へ。
一点の支えのみで上下する鋼鉄の肉体。その頂点である脚先にはーーー……、重圧な、近付けば視界全てを埋め尽くすほどの巨岩があった。
然れど彼女の屈伸は終わらない。緩やかに、否、じっくりと筋肉に負担を掛けながら一回、また一回。肉体が苦痛という名の躍動に喚き、四肢に滝のような汗が流れようと、終わらない。
同じく流れ落ちる滝のように透き通った、蒼翠の長髪を揺らしながら、繰り返すばかり。
「報告……、『爆炎の火山』が噴火したのは間違いないようです」
毛深い魔族の言葉に、ぴたりと屈伸が止まる。
「……原因は?」
「不明です。しかし、邪龍が出現したことと何か関係があるのかも知れません」
「御先祖様と、か」
「推測ですが」
轟音が、鳴り響く。
片足で巨岩を跳ね上げ、指先で跳躍。そして体勢を立て直すと共に、彼女は岩石を受け止めた。まるで玉乗り曲芸師のような軽業だが、その手に持つものからして『軽』とは言えないだろう。
「……大闘技場の準備をしておけ」
「だ、大闘技場でございますか? 何故……」
「解らない。だが、予感がするんだ」
彼女は壁面に視線を向ける。
龍司る崩玉帯天の絵画が央ーーー……、立て鉤に封じられた、漆銀の刃を。
「我が刃を抜くべき時がきたという、予感がな……」
岩を投げ捨て、彼女はサラシで巻き上げられた厚い胸板から延びる肩に衣を掛けた。蒼と翠の鱗、紅蓮の眼、純銀の歯牙。余りに禍々しく神々しい龍紋が縫われた、その衣を。
斯くして女は歩む。全身に纏われた強靱無比なる肉体で、大地を貫くように歩む。彼女が征く先は何処か。その、褐色肌伝う汗がしたたる先は、何処かーーー……。




