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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
花の街(後・A)
348/421

【2(2/2)】


【2(2/2)】


「…………と、いう事があったのじゃ!!」


「奴を殺す。異論はないな?」


「「OK」」


「待って?」


 残念ながら当然である。


「何でじゃー! 今の感動大長編(※ノーカットリマスター版)を見てどうしてそんな残酷な答えが出るのじゃぁあああーーー!! 普通ここは妾の悲壮なる決意に心打たれ、苦難の中戦うところじゃろぉ!? 何で何の躊躇もねぇの!? 本当に勇者かおまえ! 悪魔だったわ!!」


「感動大長編にしては数十秒で語り終わった気がするが……」


「と言うかどんな扱われ方してるのよ、貴方……」


「別に普段から身代わりとか人柱とか剣にしたりとか投擲したりとか似たりとか焼いたりとか埋めたりとか……、おい待てどうして俺から距離を取る? 貴様等も裏切るつもりか? おい」


「「そら裏切るわ……」」


 残念ながら当然である。


「フハハハハ! どうやらロゼリアとモブAみたいな奴は妾に賛同したようだな!! 良いか、この裏切りは妾の待遇改善が達成されるまで終わらんと思え!! 取り敢えず朝昼晩の飯は腹いっぱい食わせろ!! あと朝も好きなだけ寝させろ! 昼にはおやつと、夜にはフルーツ味の歯磨き粉だ!!」


「ちょっと! ご飯ぐらいお腹いっぱい食べさせてあげたって良いじゃない!!」


「うむ、あの歳は育ち盛りだ。食事は食べ過ぎでも足りないぐらいで」


「奴を腹いっぱい喰わせた場合の食費は1日20万ルグだぞ」


「クフハハハハハ! やはり妾は正かっ……、おい待てどうして遠ざかる!? 何故じゃ! だって美味しいものいっぱい食べたいもん! お腹いっぱい食べたいもん!! 良いじゃん食べた後にお昼寝したってぇ!! そのまま夜までぐーたらしたって良いじゃあん!!」


 残念でもないし当然である。


「ぐ、ぅぅ……! やはり妾の思想は賛同を得られぬのか……!! 浅ましい愚民どもにこの誉れ高き考えは……!!」


「高いのは食費だけだろう甘えるな」


「だがしかぁし! 妾の今の妾はそんな寂しさに屈しはせぬわぁ!! フハハハ、見よこの絶対的な状況を!! 『最強』シャルナと『最速』ローを従えた妾は正に無敵! 完全!! 完璧!! 全盛期の妾ほどでないにせよ今の御主を屠るには充分であるわぁ!! クク、こやつ等を洗脳するのは簡単であったぞぉ? 何せちょっと滅亡の帆(ノア)に召喚して頼み倒したら洗脳されてくれたからなぁ!! 妾の土下座が炸裂した時の顔を御主にも見せてやりたいわ!!」


「鏡を持ってこい。自分で見る」


「さぁ、シャルナ、ロー! 今すぐその阿呆をブチのめして妾の前に引き連れてくるが良い!! 今までの行いを謝罪させてくれるわぁ!!」


 いつも通りトチ狂った魔王らしい理由ではあるものの、実際の戦力としては絶対的だ。

 何せ洗脳されているとは言え『最強』と『最速』の称号を掲げる四天王、シャルナとローである。彼女達の強さはフォールが誰よりも知っているし、二人が組んだ場合の驚異は測るまでもない。超近接戦では無類の強さを誇るシャルナと近距離から遠距離までを無意味にする速度を持つローだ。普段はツンケンして仲の悪い二人だが、組めばこんなにも驚異となる。

 それを打開するだけの戦力は今ーーー……、フォールにはない。


「……成る程、初手から面白い試練だ」


 フォールには(・・)、ないのだ。


「覚醒不魂の軍(ソロモン)共よりは……、楽しませてくれそうだな」


 この男、伝説の冒険者にしてギルド史上ただ一人プラチナSSSランクに到達した『神剣』ゼリクス。

 武闘会ではメタルの拳撃一発で決着となり、その実力をろくに発揮する間もなく場外リングアウトで敗北してしまった彼だが、いや、その称号は決して偽りではない。少なくとも覚醒不魂の軍(ソロモン)を一網打尽にできるだけの実力が彼にはある。


「ちょ、ちょっと、フォール! 無理よ!! あの男ってアレでしょう、武闘会で相手を散々煽った挙げ句に一撃で殴り飛ばされた男でしょう!? 無理に決まってるわ! だってもう存在そのものがフラグじゃない!! 噛ませ犬でももうちょっとマシな登場するわよ!?」


「フ……、噛ませ犬とは随分な物言いですな、ロゼリア王女。しかし私はかつての私とは」


「まぁ確かに存在が噛ませ犬っぽいと言うのは否定しないが……」


「おい貴様」


 身も蓋もねぇや。


「……だが」


 と、フォールは不意に言葉を区切る。

 その視線は不安ではなく、確信に満ちていた。


「『LESSON4』……、『見極めろ』。そして『LESSON5』は『信じろ』だ。己の目で見極めることこそ重要であり、そして見極めたものは信じることだ。自分を信じてやれるのは自分だけだし、信じるに値するためにとまた研鑽の道を歩む。己を鍛えるのは他ならぬ己のみなのだ」


 ゼリクスは外灯を翻しながら、雷神剣をその手に歩み進んでいく。

 眼前より迫るは二人の強敵。然れど、伝説の冒険者にしてギルド史上ただ一人プラチナSSSランクに到達した『神剣』にとってこの状況は待ち望み続けた強敵との邂逅に他ならなかった。


「……雷鳴、轟け。我が『神剣』の名の元に!!」


 閃光、疾駆。

 音速を超えた雷鳴はシャルナの覇龍剣と激突し、余波は草木を焼き切った。音すら斬り刻む一撃の残火は暴風となりて彼の痕跡を残すが、いや、誰かがそれを目視した瞬間にはもうゼリクスの刹那は終わっている。

 秒間、千二百。それはゼリクスが放てる最速の剣戟であり彼が『神剣』と呼ばれる所以でもある。

 音速を超え光速に到る剣戟はその一撃だけで光を纏い、雷鳴と化す。そしてその雷電がまた雷神剣に呼応し、さらなる速度を生む。それは最早、音速ばかりか光速すら超える究極の一撃と化すのだ。正しく『神剣』と呼ばれるに相応しい、究極の一撃に!


「…………ッ!!」


 爆ぜるが如く跳ね上がる覇龍剣。その隙を狙い雷鳴が爆ぜるが、否、その速度にすら到る白虎がそれを赦さない。漆黒と黄金の閃光が交錯し、刹那にしてゼリクスとシャルナの間には射程距離の倍はあろう距離が開いていた。

 その煌めきは余りに一瞬。しかしシャルナの覇龍剣に刻まれた剣千は数百を超えており、刹那の内にどれ程の攻防があったのかを物語っていた。


「良いぞ」


 そこからさらに、二幕。

 ゼリクスの姿は閃光と共に消失し、代わりに城壁へ八度の雷鳴と刺突が刻まれた。

 それが彼の疾駆であり、斬撃に等しく音すら置き去りにする刹那である事は述べるまでもない。そしてその速度に追いつける者がただ一人であることも、また。


「素晴らしい」


 空中で炸裂する雷鳴と漆黒の衝突。ゼリクスの剣閃は叩き落とされ、ローの拳撃は弾き飛ばされ、幾千幾百の接近が繰り返される。空中で連続的に炸裂する火花の様は最早、流星と呼ぶに相応しい。

 が、星は斯くも等しく地に落ちるもの。然れど彼等は星の煌めきを持とうとその儚さは持ち合わせていない。大地に降り立った閃光はそのまま、弧を描いて草原を賭け、残火の閃光をまたしても刻み付ける。

 否、然れど止まらぬ星はこの世にないのだ。ゼリクスとローの交錯が数千へ到ろうとしたその瞬間、彼の眼前に途轍もなく巨大な鉄塊が現れた。そう、覇龍剣である。


「これでこそだ」


 しかし、回避。ゼリクスは自身の勢いに身を任せたまま回転することで覇龍剣を乗り越え、ローの剣戟までも迎え撃った。同時に回避と攻撃を為すその様は曲芸を通り越して芸術的ですらある。

 雷鳴を響かせながら降り立ったその身に傷一つないことが、何より彼の繊細な技々の数々を指し示す。


「ふむ……、感嘆に値する。闘争は私に未だ見ぬ世界を与えてくれるのだな」


 ゼリクスが間幕を示すように雷神剣を振り払うと、周囲へ紫光が舞い散った。

 余波の残火一つで大地を斬り裂くほどの衝撃だ。名は、決して偽りではない。


「……め、メチャクチャ強いじゃないのあの男ぉ!?」


「だから言っただろう。アレと対峙した男が異常すぎただけだ。……さて、奴に戦わせるのは良いが俺達が何もしないわけにはいかんな」


「え? で、でも一人で二人を相手にできてるじゃない。彼なら勝てるんでしょう? じゃあ任せておけば……」


「実力は互角に見えるが、シャルナ達の動きは洗脳の影響故か単調だ。だからまだゼリクスも対応できているに過ぎん。しかし奴等とて腐っても四天王。仔細は省くがゼリクスの実力は上回っていると考えた方が良い。次第に順応されれば奴も押され始めるはずだ。……ならばそうなる前に諸悪の根源を叩くしかあるまい」


「諸悪の根源……?」


 フォールが指差した先には、覚醒不魂の軍(ソロモン)の御輿の上で窃盗した携帯食料を貪る魔王様が。

 どうにもあんまり美味しくなさそうだが、当たり前である。それは煮て食べるのだ。


「そ、それは良いけど、どうするの? ゼリクスとシャルナさん達が戦ってるところを抜けて行くなんて無理よ!? それとも遠回りするつもり!? そんな時間あるの!?」


「何、問題はない。高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変な頭脳戦を用いれば奴を誘き出すことは造作もないことだ」


「それはつまり行き当たりばったりということじゃないの」


「まぁ見ていろ。頭脳戦というものを見せてやる」


 フォールは焚き火の跡からゼリクスの手に持つである袋を持ち上げると、それを懐に収めてくしゃくしゃと態とらしく音を立ててみせる。

 その瞬間、彼等の眼前に覚醒不魂の軍(ソロモン)とそれに担がれたリゼラが降り立った。ぎらつく双眸と明らかな戦意と共に、だ。


「……フッ、どうだ?」


「野良猫か何か?」


「ヌハハハハハ! 妾がそんな安い挑発に乗ると思うたか!? この誇り高き魔王リゼラにとって挑発など地を這う虫の羽ばたきに過ぎぬ!! 貴様が幾ら愚策を弄しようともこの魔王の双眸には無様な姿としてしか映らぬわ!! ヌハハハハハハハハハハハハ!! ところでお菓子は何処だ!?」


「乗ってる乗ってる、挑発乗ってる」


「……さて、その菓子が欲しければ俺を倒して屈服させてみせることだな。まぁ、貴様にできるなら、だが」


「……超高級シフォンケーキ食べ放題?」


「構わんぞ」


 そうして始まる逃走戦。狂喜的に叫ぶリゼラと、ロゼリアを抱えて走り出すフォール。

 彼等は瞬く間に城門から廃城の内地へ走りだし、爆音轟く疾走劇を繰り広げ出したのだ。


「ちょっと何で!? ねぇ何で!? 挑発し過ぎてピンチに追い込まれてるじゃないのよぉ!!」


「ピンチではない、チャンスだ。逃走戦は慣れているのでな。少なくともあの阿呆は兎も角、覚醒不魂の軍(ソロモン)と真正面から戦うよりは可能性がある。それにあの覚醒不魂の軍(ソロモン)は大魔王の細胞の一部である覚醒の実(エデン)を取り込んでいるからだろう、同じ魔王であるリゼラの命令を聞いているようだ。機械的なそれではなく、あの馬鹿の考えならばこちらも対応できる」


「あ、貴方! 何でそんな事まで知って……!?」


 ロゼリアの疑問を打ち払ったのは覚醒不魂の軍(ソロモン)による突撃だった。

 その一撃はフォール達が方向転換したことで軽々と躱されるも、勢い余って廃城の苔生す城壁を破壊する。その威力は爆煙を噴き上げるどころか城全体を揺らすほどのものであり、さらには速度すら緩めることなく突撃を繰り返す。

 無論一回とて直撃はないのだが、それにしても毎回紙一重の回避である。


「……対応、できるはずなのだが。奴の食欲を見誤っていたかも知れん」


「やっぱり駄目じゃないのやだぁあーーー!!」


「何、案ずるな。逃走戦が得意と言ったのは事実だ。その相手が正気を失っ……、元から正気かどうか怪しい魔王なら尚更な」


「「おまいう」」


「…………そこだけ冷静にツッコむな」


 ですよね。


「フハハハハ! 謝るなら今の内にしておくんじゃなぁ!! これ以上は妾も赦しが効かんぞォ!?」


 兎角、操っているのは食欲まみれの魔王だが、その強欲が今回ばかりは厄介なことこの上ない。

 このままでは城内を駆け上がるフォール達もいつかは追いつかれるだろう。刻々と弱体化し、ロゼリアというお荷物を背負っている彼であれば尚更だ。

 現に、かつては構造すら無視して壁面を駆け上がっていた彼も今ではご丁寧に階段を一段ずつ上るしかない始末である。


「で、でも、具体的にどうするの!? リゼラちゃんだけなら兎も角、あんな化け物どうやって止めるのよ!!」


「覚醒不魂の軍(ソロモン)自体を止めるのは不可能だ。……だが、リゼラ本人を叩くことはできる」


 駆け上がり、駆け上がり、駆け上がり。距離を詰められるごとにフォールは爪先を翻して別の道を走り抜ける。

 その足取りはまるで構造を知っているかのように迷いない。いいや、彼は構造を識っている(・・・・・)のだ。当然だろう、彼はかつてここにいた。走り抜ける最中、目端に映る野営の後を彼は識っている。数百、数千年前のその残骸を、彼は識っている。

 不魂の軍(ソロモン)覚醒の実(エデン)滅亡の帆(ノア)も、彼は識っているのだ。

 識って、いたのだ。


「ど、どうやって……?」


「無茶を無理で通す。……いつも通りにな」


 故に、彼は走り抜ける。その場所を目指してーーー……、真っ直ぐに。



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