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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
花の街(中・B)
342/421

【エピローグ】


【エピローグ】


「敗北だな」


 さて、時と場所は戻って街の一角。人々と同じく天空に浮かぶ要塞島を見上げながら、フォールは坦々と、そう断言した。いつも通りの無表情で、いつも通りの口調で、言い切った。

 余りに当たり前と言わんばかりの口調だったせいでロゼリアとユナは一瞬その通りだと頷きかけたが、直ぐさま反論に身を乗り出し声を荒げ立てる。


「ちょ、ちょっと何よそれ!? 貴方それでも勇者なの!? 信じられない、こんなに簡単に諦めるなんて!!」


「そうですよ! かつて帝国十聖騎士(クロス・ナイト)の過半数を社会的、精神的、物理的に抹殺して壊滅まで追い込み、帝国さえも崩壊させたあの頃の貴方は何処に行ったのですか!? 御伽噺に伝わる貴方であればあのまま空を丸呑みにし、世界を破滅へ導こうとするに違いありませんよ!?」


「え、何それ初耳なんだけど」


「おい待てそれは俺も初耳だぞ」


 『きょうふのだいまおう』、帝国絵本の会(※監修ミツルギ商会)にて絶賛発売中!


「……さて、その絵本については後で『制作協力・スライム神教』を入れさせるとして、だ」


「それで良いの貴方!?」


「問題はあの天空に浮かぶ要塞島だ。……天空に浮かびあの兵装率。成る程、要塞としては全く無敵と言わざるを得ないだろう。何せ空中から一方的に攻撃されてはこちらはどうしようもないし、さらにあの要塞の規模を考えれば生半可な攻撃は通じまい。であれば兵糧攻めを考えるところだが、何せ島だからな。食料の自給ぐらいは容易だろう」


「で、ですが、だからって敗北だなんて……! そんなあっさり……」


「何、敗北は敗北でも今この瞬間敗北しただけに過ぎん。勝利とは過程ではなく結果を表す言葉だ。……そうだな? カネダ」


 フォールが声を掛けたカネダは、その女装に似合わぬ鋭敏な眼差しを浮かべていた。

 きっと彼の脳裏では幾千幾通りの対策が練られ続けているのだろう。あの要塞島をどうやって攻め落とすべきかという、対策が。


「……やれない事はない。乗り込めれば、の話だけどな。ぶっちゃけお前の敗北って言葉に賛同したいよ。…………だけど」


 だけど、と聞き返すロゼリアに、カネダは苦笑を浮かべて見せる。

 得意げな、真っ直ぐで、けれど強がりな笑みを。


「メタルよりは、まだ希望がある」


「違いない」


 ロゼリアは絶句する。この光景を前にしても未だ前しか向いていない男達に。

 ――――だってそうだろう。あんな街一帯を覆うほどのモノが突如現れて幾つもの砲台が露わになって。絶望するには充分過ぎるはずだ。冗談にしたって悪すぎるはずだ。どんなに屈強な戦士だってこんな現実を前にすれば逃げ出したいはずだ。

 彼等は名前こそ立派でも、英雄ヒーローには見えない。あの要塞島を千切って投げるほどの怪力や、全てを吹き飛ばすほどの魔力があるわけでもないはずだ。

 だと言うのに、彼等は諦めない。諦める素振りを全然見せない。まるで、負けるまで負けなければそれは負けじゃないと喚く子供のようですらある。

 その姿は、あまりにもーーー……。


「……ふむ。カネダ、悪いが優先順位変更だ。メタルよりもまずあの要塞島を撃墜する」


「おいおい、メタルを舐めすぎだぜ。アイツならンなもん構わずお前に突っ込んでいくぞ。それに今のアイツは例えるなら鎖を外された猟犬だ。実際は猟犬が子犬通り越してノミに見えるぐらいヤバいわけだが……、驚異だけじゃなく嗅覚と言う名の直感も猟犬を遙かに凌駕してる。しかも今この瞬間さえ加速度的に強化されてるっつー最悪のオマケ付きときた」


「解っている。だからこそ大層な魔方陣まで用意し貴様を雇ったのだ。奴を倒すには貴様の」


「だったら俺に任せろよ」


 カネダは軽くフォールの胸に拳を当てると、苦笑するかのように微笑みを浮かべて見せた。

 その表情はまるで、死地へ赴く戦士が如く。


「メタルは俺が足止めする。まぁ、希望的観測を含めても限刻タイムリミットである日没が限界だろうが……、そこまで時間があればお前ならあの要塞ぐらい墜とせるだろう?」


「…………随分と、無茶を吐いてくれる。あの要塞を半日でか」


「できるんだろう?」


「できるがな」


 かつて帝国で肩を並べた二人が今またこうして、いいや、あの時よりも遙かに強大な障害を前に再び手を組んだ。メタルという史上最悪の災悪と天空を支配する要塞島ノアに立ち向かうべく、帝国の時よりも遙かに力の劣る勇者と覚悟を決めた盗賊が、手を取り合ったのだ。

 無謀などということは双方胸に刻んでいる。だが、いつだって戦いは無謀だった。無茶を無理で塗り固めて進んできた。その結果が今こうして立ち向かうべき道であるのならば、嗚呼、何も問題はない。今までと同じように、これからも同じように突き進むだけだ。

 敗北を踏み躙り勝利する。それだけの行為に代わりは、何もないのだから。


「……これで女装じゃなければ完璧なのにね」


「え? 可愛いですよ?」


「……………………そ、そう」


 いやでもやっぱり、女装はねぇよ。



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