【2(2/2)】
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「……と言う訳で疫病神は俺だったんだよっていう話なんだ。ロジカルにロジックな衝撃的結末だとは思わないか!?」
「つまり俺達は今、貴様の女関係で追い回されているわけだな。……ちょっと一回刺されてこい」
「女の子4人はべらせてる奴に言われたかねーよ!? 何だお前そのミサンガ!! この前はしてなかっただろ!! プレゼントか、女の子からのプレゼントか!! オラ誰からだ言ってみなさいよフォー子!! 誰からのプレゼントよ!? 相手次第じゃ私赦さないわよ!!」
「ちょくちょく女モードに入るのをやめろ。……シャルナからだ」
「あー、シャルナちゃんかー。意外だなぁ、こういう繊細なのも作るんだー。へー」
「カネダきゅんミサンガ欲しいですか!? あげますよ! 私のミサンガ!!」
「うん、それ世間一般じゃ鉄球付きの鎖って言うんだよね」
さて、時系列は戻って殺ンデレ系聖母から逃亡中のフォール&カネダ。ウィズ死にかけ魔王様。
彼等は喫茶店から飛び出た後、こうして街中を全力で疾走中だった。最早日常光景すぎて会話する余裕すらあるものの、残念ながらこれは捕まれば即死亡が確定のデスゲームである。なおカネダ限定だが。
それはそうとフォールはカネダの説明を受け取り敢えずの事態を把握した。どうやら今はメタルを計画のルートから外してしまうという最悪に限りなく近い状況ではあるが、まだ取り返しの付かないバットエンドというほど最悪ではないらしい。
挽回のしようはいくらでもある。
「良いかカネダ、よく聞け。この状況を修正して再びメタルをルート誘導するための方法を教える」
「あ、あぁ頼む!!」
「まず貴様がユナ第五席の生贄になる」
「初っ端から破綻してるよね」
「次に気合いでどうにかして気合いでどうにかなって気合いでどうにかすればどうにかどうだ」
「フワッフワ通り越してスカッスカじゃねーか!! 何だお前どうした!? 少し前のお前ならもう少し具体的な話してただろう!? 何だ、何かあったのか? 色ボケか、色ボケなのか!?」
「黙れ疫病神。……仕方あるまい、この街に来てからロゼリアといい四肢といい貴様といい、何なのだ。どうしてそう計り知れない感情で計画を打ち壊してくれるのだ? 愛だの勇気だのと訳の解らん感情に突き動かされる? いや、解らなくはない。解らなくはないからこそ解らない。もっと端的に行動すればと理解を拒む。……解らん。全くもって解らん」
「……フォールさん、それは違います」
「ユナ第五席……」
「それを知らない者は、この世に存在しません。赤ん坊だって老人だって、猛獣や草木さえも知っています。いつ、どこで、どうやって知ったのかは誰にも解りません。けれど皆が知っているのです。知っているからこそ、誰かと繋がり、何かと共にいられる。それは魂の存在証明に他ならない……。知っているからこそ、私達は生きているんです」
「……そういうものなのか。ほ乳瓶片手でなければ納得していたな」
「だ、駄目ですよこれはあげませんっ! カネダきゅんにちゅーちゅーしてもらうんです!!」
「たすけて?」
「諦めろ」
慈悲はない。
「うふふふどうして恥ずかしがるんですかカネダきゅん思い出してください帝国で過ごしたあの懐かしき日々を昨晩のあの熱き日々を! 燃えるように私の体を求めてくれたじゃないですかうふふふふうふふふふふ!! あの時のようにまた私に甘えてくれて良いんですよ溶けて蕩かせてとろとろになりましょう? 二人で一緒に、さぁ! さぁ!! さぁ!!!」
「……ふと思うんだが、もしかしてこの世界では恋心を知るとまともじゃなくなる法則があるんじゃないか?」
「つまりお前は誰よりも恋を知ってるってことだよ。良かったな」
「……………………」
解せぬ。
「……ともあれ、奴をあのまま放置するわけにはいかない。貴様を縛り上げて投げ捨ててやれば一番話は早いが、残念ながら今回は貴様が計画の核だ。人柱は選べない」
「さっきやろうとしてましたよね?」
「何のことだか。つまり貴様を生かしつつユナ第五席を無力化するにはこの手段しかないということだ。……頑張れよ」
「……おい待て嫌な予感しかしないぞ待て何をするつもりだ待て待て待て待て待てェエエーーーーッッ!!」
カネダの静止も聞かずフォールは踵を返して、疾走の勢いに引っ張られつつも立ち止まる。
しかし彼は抜剣することも何か兵器を取り出すこともしない。いや、秘密兵器ならば既に取り出している。彼の小脇でずっと、喫茶店の騒動による衝撃で白目を剥いて気絶し続けている。
フォールは迷わずその秘密兵器を全力疾走でほ乳瓶片手に迫り来るユナ第五席へ突き出して、一言。
「カネダが貴様との将来を考えて子育て体験したいそうだぞ」
ユナ第五席は立ち止まり、その告白に顔を耳先まで真っ赤にしてから瞳を宝石のように煌めかせた。
カネダは立ち止まり、その告白に顔を耳先まで真っ白にしてから瞳を汚泥のように淀ませた。
一言で一人を生かし一人を殺す。それが勇者クオリティ。
「本当ですかっ! 本当ですかカネダさんっ!! 私と、私との将来を、その……、本当に!?」
「あぁ、カネダは気恥ずかしく俺に代弁を頼んだが間違いない」
「やだ……、そんな……。ご、ごめんなさい! あの、今顔真っ赤で……、嬉しいんですけど、ふふっ……。こんなに胸がときめいたのはカネダさんに出会って以来で……、は、はずかしいです……」
「……どうだカネダ、貴様を生かしつつユナ第五席を止める最善の策だぞ」
「俺死んだんだけど。将来的な意味で」
「何、貴様だけでは逝かせんさ。見ての通りリゼラも一緒だ。安心だな」
「堂々と仲間を差し出すお前が怖いよ」
「あのーーー……」
と、将来が死んだ男と将来を殺した男達の会話につい今の今まで顔を真っ赤にしてるんるんトキめいていたユナ第五席が口を挟んできた。その表情は先程までのそれではなく、申し訳なさそうながらも気まずそうな、そんな表情だった。
二人は彼女の参加に一瞬身構えるも冷静を取り戻しているであろう様子に息を落ち着けながら『何だ』と問い返す。
「いえ、その……。リゼラちゃん……?」
「……む? あぁ、そうか。説明してなかったな。ロゼリアと瓜二つだがこれはリゼラだ。どうしてあんなやかましいのが二匹に増えたのかはカネダが未だ存命並の謎だが事実なのでな。ややこしいのは勘弁して欲しい」
「サラッと罵倒するよね? あと匹てお前」
「いえ、そうではなく……、その御方はロゼリア王女殿下では?」
フォールとカネダは顔を見合わせ、突き出した少女の顔を覗き見る。
確かに白目を剥いて泡を吹くその表情は見慣れたものだが、頭に双角がない様子は全く見慣れないものである。まぁ、つまり、何と言うべきか、そういうことだ。
「お前……、まさかあの時取り違えたんじゃ」
「……………………避難訓練」
「今更教育に結びつけられると思うなよ!? やりやがったなお前!! よりにもよって一国の王女をこんな扱いしやがって!! アレイスター大魔道士やアテナジア騎士団長に何て言われることか! またこの国で追われる身になるのは嫌だからな!? いや既に追われる身だけど俺!! 追われてたけど俺!!」
「逃げ切れたから良かったじゃないか」
「捕まったんだよお前のせいでェ!!」
「えっと、取り敢えずロゼリア王女を離して上げた方が……」
閑話休題。
「……むぅ、まさかリゼラとロゼリアを取り違えるとは失態だったな。いっそのことリゼラの頭とロゼリアの頭を入れ替えてしまおうか。大差ないだろうし問題はあるまい」
「やめろ勇者め。……ったく、教育以前にこんな事やらかしてあのババアになんて嫌味を言われることか。ん? その割には特に何も言われないな」
「アレイスターは対メタルの魔方陣完成の為に魔力を収束させるよう頼んである。ルヴィリアの魔が、ゴホン、ルヴィリアの魔力全てと奴の全魔力で一日かけてようやく形になる大魔方陣だ。こちらを見る暇などないのだろう」
「そういう事か。……にしてもあの魔方陣、そんなに大層なモンだったんだな」
「基本的に魔法の威力を極大増幅させる単純なモノとは言え、規模が規模だからな」
「ちょっと! 何を呑気に談笑してるのよ!? この私に対する謝罪はないわけ!? 謝罪はぁ!!」
フォールとカネダを怒鳴りつけたのは誰であろう、数分前の悲惨な状況からどうにか甦ったロゼリア王女だった。
彼女は怒り狂った仔猫のように全身を逆立てながら、傍目に見ても荒々しいことが解るほどの激怒ぶりである。まぁ、あんな扱いを受ければそんな反応を示すのは無理もない話だ。むしろ当然とさえ言える。
何? 普段から爆発するか投げ捨てられるか身代わりにされている魔王がいる? いやアレは魔王ですのでノー問題です。
「ロゼリア王女殿下、そんなに言葉を荒げてはいけませんよ。ねっ、パパ?」
「え? ……え?」
「あ、ごめんなさい! 私ったら……。あ・な・た♡」
「頑張れカネダ。デッドレース再開か否かの瀬戸際だ」
「…………………………ウン、ソウダネ」
フォールは思う。人間はこんなにも絶望の表情を浮かべられるのだな、と。
「ぬ、ぐっ……! で、でもコイツ等が私に無礼を働いたのは事実でしょう!?」
「その通りです。けれど彼等は貴方様を救うために戦ったのですよ。その過程での多少の無礼は目を瞑るべきです」
「…………ッ!!」
「……ところでその原因がコイツだと言うのは黙っておいた方が良いのか?」
「主にお前なんだよなぁ……。にしても流石はユナだな、帝国の孤児院を統括しているだけあって教育や言い聞かせに関しては一流だ。ったく、まさかコイツのせいで目的から一気に遠ざかったと思ったら一気に近付くことになるとは、何とも皮肉な話だぜ」
「……俺のスライム教育法も中々だぞ」
「うん、それ洗脳な?」
兎にも角にもユナは正気を取り戻し、ロゼリアの教育に最適任な面子を獲得することができた。
となれば問題は今現在何処を爆走しているのか解らないあの災悪野郎だが、フォールとカネダに掛かれば彼をルートに戻すこともできるだろう。一旦方向性を修正するために上下左右と果てなく奔走するハメになるだろうが、嗚呼、決して不可能な話ではない。
そう、計画に多少のトラブルは付きものだ。むしろこの程度で済んで、いや、ユナ第五席という頼れるバーサーカーを獲得できただけでも儲けものと考えるべきだ。
計画は上手くいっている。想定の範囲内でーーー……、想定外が巻き起こっているとも知らずに。
「あ?」
「む?」
「え?」
それは風と呼ぶには余りに温い、血脈流れる臓腑のような温度だった。
いや、事実としてその風は生物の吐息に近いものだったのだろう。生誕という意味では吐息そのものと言っても良いかも知れない。それはあまりに、おぞましすぎたのだ。
フォールもカネダもユナもロゼリアも思わず身震いするほどにその風は恐ろしく、そして旋風のように空へ消え逝く様子は正しく亡失。まるで生命の中にある何かが連れ去られてしまったかのような、そんな感覚だ。
「…………何だ、ありゃあ」
今まで幾度となく非現実的な光景を、いや非現実を通り越した存在と行動すら共にして来たカネダでさえも、眼前に拡がる現実に言葉を失った。失わざるを得なかった。
だってそうだろう。つい先刻まで優雅に空を流れていた雲が竜巻のように収束し、生物の心臓が如く躍動を始めたのだから。今まで見て来た何よりも巨大で何よりも寒気立つ何かが空にいたのだから。自分達が気付かなかっただけで、それはずっとそこにいたのだ。
卵のように躍動する、何か。それが一つの島であることに街中の者達が気付くまでーーー……、そう時間は掛からなかった。
「…………フォール。希望的観測として聞くが、あぁ、無駄と解った上で聞くが、これもお前の計画の内か?」
「……本気でそう思っているのなら否定してやるが」
「だよな……」
躍動する島は、天空の一角で『花の街』に鼓動を降り注がせる。
その全貌は未だ一部雲に覆われているもののやがて晴れれば巨大な天空島が現れることだろう。ただの島であればその全貌に夢を見る者さえいたかも知れない。先程の恐ろしい風など忘れて、あの空に浮かぶ幻に楽しみを語ることさえ、あっただろう。
しかしそうはならない。何故なら、空に浮かぶのは島などではなかったからだ。
段々と晴れてくる雲から覗くのは夢の花畑や幻の遺跡などではなく、余りに残酷な砲台だった。針山のように連々と連なる漆黒の砲台。或いは、生物の細胞のようですらあった。
つまり、これはーーー……。
「「「「…………ラピュ」」」」
それ以上いけない。
「クク、フハハハ。クハハハハハハハッッ!!」
さて、それは兎も角として、そんな天空島の頂上には一人の男の姿があった。
彼は溢れ出る狂気を笑いに変え、躍動する島と共に天空を支配する。
この街で暗躍し続け幾多の策謀を張り巡らせたその男はーーー……、尻を押さえつつ。
「……顔貌」
「顔貌……? 顔貌だと!? あの『知識の大樹』の奴か!? 何で奴がここにいる!? 奴は『知識の大樹』で倒したはずじゃ……。待って何でアイツ尻抑えてんの? 共感できるんだけど」
「知らん。……兎角、奴は残念ながらしぶとく生き延びていてな。この街で何か事を起こすつもりだったのは把握していたが……、メタルの対策に時間を割きすぎた。まさかここまで早く予兆もなしに行動を起こすとは思ってもみなかったのでな。いや、違う。予兆はあったのだ。街の反逆者共や四肢の襲撃。事は疾うに進んでいた。……奴め、『花の街』での騒動を全て囮にしたな? あの島を起動させるためだけに」
「あの島……、ラピュ〇か」
「あぁ、〇ピュタだ」
「そんな、ラ〇ュタが……!?」
「アレがラピ〇タ……」
それ以上いけないつってんだろ。
「さて……、これは」
事は進んでいる。いや、或いは既に終わってしまった。
それが、滅亡の帆が発動した時点で全て終わってしまったのだ。顔貌の目論見通り何もかも、煽動と策謀の幕を被せ続けて護り続けた卵の躍動を待ち侘びた男の目的は最早、達せられていたのだ。
フォールの予測すら超えて、その者の邪悪なる目的は果たされてーーー……、いたのだ。
「マズいことになったな……」




