【4】
――――勇者、勇ましき者よ。聖なる女神より加護を与えられ賜うし者よ。
それは貴方に訪れるべくして訪れる試練です。その者は如何なる盾をも砕き如何なる刃をも弾く強者でしょう。
今までに類を見ない死闘になります。これまで共に歩んできた仲間達の力を持っても、決して楽な戦いではありません。或いは、誰かが犠牲になるかも知れない。
それでも貴方は戦うのでしょう。やがて立ちはだかる、その者の為にーーー……。
これは、永きに渡る歴史の中で、雌雄を決し続けてきた勇者と魔王。
奇異なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼等のーーー……。
「腹が減ったな。そろそろ夕飯にするか」
「おっ、今日の夕飯は何じゃ!?」
スッ。
「フェイフェイ豚の照り焼きと野菜のスープだ」
「やったー!!」
激動の物語である!!
【4】
「……どういうつもりだ、貴殿」
爆炎轟き、黒土重なる火山口。
火花散り火の粉舞い、灼熱が肌を焦がす刹那に彼等の姿はあった。
「どういう、つもりなのだ……!!」
女は漆黒の刀身貫く重剣を構えたまま、驚嘆に歯牙を剥き出し、嘆息する。
「言葉の意味が、解らないな」
彼の言葉と共に、その背で爆炎が噴き出した。
溶岩が噴き出て土石を溶かし、白煙と黒煙の斑を空へと立ち上らせる。逆光陰る様はその姿に闇を落とし、再び女の牙を食い縛らせた。
何者だ、この男は。どうしてここまで戦える。いや、どうしてこんな姿で戦える。
この男は、どうして、こんな状態であるにも関わらず、戦えるーーー……?
「解らんのは私の方だ! 貴殿は、いったい……!!」
鋭利なる牙が、解き放たれる。
慟哭、咆吼。重圧な両手剣を片手で振り回し、蒼翠の長髪で灰燼を斬りながら、彼女は疾駆した。
そして一閃、否、閃光。爆炎の熾烈にさえ劣らぬ剣閃が交差する。火花は豪雨が如く弾け、空塵は旋風に巻き螺じれて火粉と合わさり、焔となる。
幾度となく繰り返された。彼等の閃光が火炎を生み、衝撃が旋風を撒き散らし、業火とす。幾度となく、剣閃と、衝撃が、繰り返された。
「どういうつもりなのだぁああーーーーっ!!」
ガキィイインッッ!!
女の剣と、男の盾が激突する。一際鋭い金属音が大地を劈き、またしても火口から爆炎を噴き出させる。
然れど、刹那の静寂。交差し、競り合う彼等の狭間には静寂が創り出されていた。激情をぶつけ合いながらも、いいや、ぶつけ合ったからこそ創られた、静寂が。
「……何故、どうして!!」
静寂を嘆くかのような、絶叫。
その問いに対し、男は、勇者は冷徹な瞳を向ける。
「貴殿は、勇者なのだろう……! ならば何故、勇者が、こんなっ……!!」
勇者ーーー……、フォール。
静寂を打ち破ったのは彼の盾が砕けた音だった。
女はその炸裂音と共に眼光を唸らせ、再び剣を振り抜いた。だが、その一撃もまたフォールの防御によって弾かれる。小刀という、防御によって。
「貴殿は何なのだッッッ!!!」
再び、一撃。
焔が舞い、彼等は距離を取る。勇者フォールの身に纏われた衣が大きく翻った。
その隙間に指を滑らせ、フォールはまた新たに盾を構える。その様はまるで、幾千の武器を扱う武人のようにさえ。
「言っただろう。勇者……、勇者フォールだ」
「だから訊いているッ! どうして、勇者が……!!」
女の絶叫と共に、三度火山が火を噴いた。
然れどそこに逆光はなく、あるのは彼等を照らす、紅蓮の焔ばかり。
「エプロン姿なのだぁッッッ!?!!?」
フォールは構える。盾を、小刀を。
激闘だった。それは紛うことなき、激闘だった。
東の四天王と勇者のーーー……、命を賭けた、戦いだった。




