【8】
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「なぁ、本当にやるのぉ? やめとけって」
「うるせぇ! 俺ァ奴と戦わねぇと気が済まねぇんだよ!!」
さて、場面変わってとある男達。
邪龍による災害からようやく抜け出た金髪の盗賊ことカネダと、何故だか彼と一緒にいるボサボサ頭の男ことメタル。彼等は街で手に入れた馬車に乗り込み、こうして沈黙の森を爆走していた。
薄暗い森の中をとんでもない速度で走り抜けているのだ。馬が転びでもしたら大惨事だろう。だと言うのにメタルはもっと速く速くと急かしてくる。事故ったらどうするんだ。
と、カネダはそんな事を思っては肩を震わせ、豪風で飛びそうになる帽子を抑え付けながら、せめて事故らないようにしっかりと前方を確認していた。何処ぞの勇者とは大違いである。
「……にしても、本当にフォールとリゼラちゃんはこっちの道を抜けたのかねぇ。火山ルートじゃないのか?」
「あ!? 知るか! どのみち次の街まで最短のルートはこっちだろうが!」
「そうは言うけどよ、メタル。ここはあの『沈黙の森』だぞ? 俺なら火山ルート行くけどな……」
「あ!? ……あー、何だっけか、奥地に入れば決して出ることのできない悪魔の封じられた森だっけか?」
「ん、俺は古代のお宝が眠ってて、それを守るように封印魔法が掛けられてるって聞いたぞ。盗人は入れば最後、一生出ることができないとか……」
「……盗賊なんだから、試してみろよ」
「嫌だよ、確証のないお宝なんか狙うもんか! ……とは言ってもまぁ、森から出られないってのは同じなんだな。違ってるのは戯噂の範疇だからだろうなぁ。所詮は御伽噺ってことだ」
「オトギバナシねぇ。ま、悪魔が本当にいるなら戦ってみてぇモンだがーーー……」
メタルの言葉を遮るように、馬車引く馬たちがけたたましい叫びをあげて跳ね上がった。
速度に連られた馬車に押し上げられて馬たちは転がり、同時に手綱を引いていたカネダも、荷台から顔を覗かせていたメタルも速度のままに外へと投げ出されてしまう。そしてその身は当然ながら、森の奥へと転がっていった。それはもう永遠と続く坂道を、加速度的に転がる小石のように。
だが、そんな小石が何処までも転がるはずがなく。カネダとメタルは数十メートルほど吹っ飛んでから、森の奥地辺りにある大木に背中から思いっ切りブチ当たって停止した。
「ほ、ご、ふぅううう……! お、ごっ……!!」
言葉にならないほどの激痛にのたうち回り、草木を掻き分けては木々にしがみつく。
それはもう、背骨でも折れてしまったのではないかというほどの衝撃で、何か支えがなければ立っていられないほどだった。
「何やってんだ、てめ、ぇえええ……! せ、背中がァアアアア……!!」
「う、馬が急に驚いたんだよ、何かに……! あででで、腰打った……」
「獣か何かだろ? しっかり前見とけよ……!」
「いや、そんなはずは……。何に驚いたんだ……?」
カネダは未だ痛み止まない腰を押さえつつ、馬たちを引き起こす。
どうやら上手く転んだようで、目立った怪我はない。馬だけに。
しかし馬たちは酷く錯乱していて、まるでこの世の地獄でも見たかのような慌て振りだった。カネダがどうどうと落ち着けても鼻息荒く、首を振り回すばかりである。
「駄目だな、錯乱しちまってる……。メタル、道を確認してくれ! 何がある!? 獣とかモンスターの死体はないか!」
「あー、いつつ……。ねぇな、見当たらん。ったく、何に驚いたって……」
ふと気付けば、何やらうす汚い布地がそこには落ちていた。
メタルは何だこれと拾い上げて見回しーーー……、悲鳴を上げてぶっ倒れる。
「メタルゥ!? どうしたぁ!!」
「あばばばばばばばばばばばばばばばば」
「メタル、しっかりしろ! メタル? メタル……!? メタルゥウウウウウウウウウーーーーーッッ!!!」
静寂の闇に響く男の叫び声と、泡吹く男の断末魔。
誰が彼等を救えよう。誰がその悲劇に気付けよう。この世の地獄はそこにあった。
彼の手の中にーーー……、地獄はあったのだ。
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