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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
花の街(前・C)
329/421

【1】


【1】


「じゃあカネダきゅん、私ちょっとカネダきゅんのオモチャ取ってきますね♡」


 さて、勇者達が災悪暴れる闘技場から脱出した頃より、時は少し巻き戻る。

 具体的にはアテナジア団長が王族反逆の知らせを耳にする瞬間より数分ほど前に、だ。

 彼女はその衝撃的な事実に汗を流したが、ここにはもう抗えない現実に涙を流す男の姿があった。そりゃもう何と言うか、かなり悲惨な具合に毛布へ丸まってせせり泣く男の姿があった。まともな男にはもう戻れないーーー……、男の姿があった。

 一部の人間からすれば、いや、大体の男からすればあの聖母とすら称される美しく艶やかな女性から俗に言う赤ちゃんプレイを受ければ一生忘れられない思い出になるだろう。もちろん、カネダも一生忘れられない思い出になっていた。

 手足を鎖に縛られたり、入浴剤をミルクと称して飲まされたり、おむつ替えと称して男の尊厳を奪われたり、おしゃぶり代わりに手榴弾を咥えられさせられそうになったり、抱擁が完全にチョークスリーパーだったり。

 アレな意味で、一生忘れられない思い出になっていた。


「ばぶぅ……、ばぶぶぶー……(もうやだぁ……。ボクおうちかえりゅぅ……)」


 大分効果は出て来ているようです。


「ばぶ、ぶはっ!? あぁちくしょう、何でこんな事になってるんだよぉおお……! 何でユナがいるんだよぉおお……!! やだぁ、おうちかえるのぉおおお……!!」


 残念ながら帰るお家はない。と言うかこのままではここが帰るお家になるのだ。

 しかし四肢を鎖で縛られて拷問を受け、その上所持品も全て奪われてしまった男に逃亡など叶うわけがない。せめてここに彼の頼れる仲間がいれば話は変わったかも知れないが、いやたぶん全力で他人の振りをすることだろう。


「うぅ、何で俺はこんなに不幸なんだ……? 俺が何をしたって言うんだ……? フォールに会わなくて済んだと思ったらユナだと? 俺が何をしたんだよぅ……。ふえぇ……」


 残念ながら運である。


「まったく、情けない男だねぇ」


 だが、そんな男に声が掛かる。それは解放の声だった。男とも女とも取れない、若人のようであり老人のようであり、高くも低くもない声だった。

 カネダしかいないはずのその一室に響く声の主に姿はなく、彼の視界にも何かが映ることはない。当然だろう、それは念話の部類に入るものだ。ただし精度が段違いで、カネダでさえそれが隣から囁かれているのかと錯覚したほどだ。


「男なら女を背負ってやるぐらいの器量を見せなさいな。そのプレイはどうかと思うけどねぇ」


「あ、アンタ誰だ!? 何でこんな精度の念話が使える!? どんだけ魔石をブチ込んでんだ!?」


「うふふ、初々しい反応だ。だけど悪いね、アンタは趣味じゃないんだよ。……さて、それはそうともうすぐさっきのお嬢ちゃんが戻ってくるねぇ。持っているアレは、うわー。そこまでするのかぁ。アンタ、次はきっと、いや、これを言うのはやめておこう」


「待って何!? 何が起こるの!? 何持ってきてんのアイツぅ!?」


「口にするのも……。そこで、どうだい? もしアンタが野暮用を手伝ってくれるのなら助けてやっても良い。ちなみにお嬢ちゃんはもう扉の前まで来とるよ」


「ち、ちくしょう選択肢がねぇ!! やる、やりますゥー! アイツにこれ以上辱められるぐらいなら地獄に落ちた方がましだぁあああああああああああああああ!!」


「フフッ、良いだろう」


 声は嫌らしく笑うと、パチンッ。カネダの四肢を縛る鎖が爆ぜ飛んだ。

 そればかりか目の前に拳銃や盗み道具などがばらばらと落ちてくる。ただし服は落ちてこない。

 念話ばかりか転移魔法まで使うとはこの声の主は相当な魔力の持ち主らしい。ただし服は落ちてこない。

 そんな人物に利用される事になるのは少なからずカネダに警戒心を持たせたが裏切ることができる状態でない事も明らかだった。だって服は落ちてこない。


「……服は?」


「ないね」


 ないですね。


「良いじゃないか。おむつは履いてるんだから」


「おむつで何が守れるんだよ!? 赤ちゃんとご老人の快適な日々の前に俺の尊厳を守ってくれよ!! と言うかコレ衣服、せめてパンツだけでもお願いします!! パンツだけでも良いからぁ!!」


「あの懐に隠してあった女モノのパンツかい?」


「別にアレでも良いけど……」


「えぇ……」


 やべぇぞコイツ。


「まぁ良いでしょう。服を返して欲しいのなら私の頼みを聞くことだね。尤も『影なく奪う者(ロスト・ハンド)』なんて大層な名前を持つ盗賊様ならこんな保険かけずとも約束を守ってくれるだろうけどねぇ?」


「……アンタ、何でその名前を」


「その事実を知りたいのなら私の頼みを聞くことだね。実は今、この王城に悪しき魔王の手が伸びている……。奴はこの王城に撒かれた火種と薪に風を吹き込んでしまった。燃え盛る焚き火は人の世の摂理など燃やし尽くしてしまうだろうね。その為にはアンタの、運命の反逆者(・・・・・・)の力が必要だ」


「女装の何が悪いって言うんだッッッッッッッッッ!!!」


「いやそういう意味の反逆者じゃなくてね?」


 性癖は人それぞれです。


「それで、どうだい? 受けるんだろう?」


「……どーせ拒否権はないんだろ」


 カネダは毛布を外灯代わりには織ると、先程までの悲惨さが嘘のように立ち上がった。

 その屹立振りたるや先程まで強制赤ちゃんプレイを受けていた男のものとは思えない。正しく『影なく奪う者(ロスト・ハンド)』の異名に相応しい伝説の盗賊の姿が、そこにはあった。

 しかし今まで肛門破壊、女装、赤ちゃんプレイを乗り越えた男はいったい何処へ向かっていくのだろうか。尊厳も下限突破した男は何処へ向かって行くのだろうか。何処かへ行けるのだろうか。


「で、その悪さしてる奴っていうのを倒せば良いんだな? いったい何してるんだ、そいつ」


「見れば解ることさ……。その首謀者は城の者達を騙し、煽動し、反逆の舞台を創り上げている。見れば一目で分かる邪悪さを持ち合わせているよ」


「成る程、煽動者で見れば一目で解るような邪悪さを……」


 カネダは気付く。『それフォールじゃね?』と。

 ちなみに実際は魔王の双角のことを言っているのだが、彼が気付くはずもなく。


「今ここで起きている騒動を止めるのがアンタの役目さ……。このままでは恐るべき邪悪(・・・・・・)に付け込まれ、この街が消えてしまうからね。世界に迫り来る滅亡が早まるかも知れない。だが、それを止めればアンタは英雄ーーー……、どうしたんだい?」


「フッフッフ……、いや? クックック」


 だが、カネダは笑っていた。今まで恐れ避けていたフォールが直ぐ近くにいるというのに(※いません)笑っていた。

 ――――フォール? フォールだと? 今更奴が何だと言うんだ。何を恐れることがあると言うんだ。

 連日の不幸が自分の運のなさだと判明した以上、あんな奴はちょっと頭が回って理不尽過ぎる外道でしかない。少なくとも捕まって拷問されることになっても赤ちゃんプレイ死刑とかくらわせられるワケじゃない。

 ならば何を恐れることがある! 今現在進行形でおむつを身につけ男の尊厳を失った自身に、何を恐れることがある!?


「いいぜ、やってやる……。ククク、俺にかかればアイツなんて一発さ。帝国では手を結んだが、今この場では敵として戦ってやる! 正義オレ悪辣アイツの戦いに決着を付ける時だ!!」


「やる気充分だねぇ、頼もしい限りだ……。そら、じゃあ行きな! 戦いは直ぐそこだよ!!」


「あぁ、任せろ! 俺に掛かればあんな奴目じゃないぜ!!」


 カネダは勢いよく扉を開け放ち、廊下へと躍り出た。

 その勇ましき姿は盗賊のそれではなく、一人の男の生き様と言っても良い。今はリゼラの起こした騒動のせいで兵士もメイドも廊下だが、きっと彼の姿を見た者がいればこう言うだろう。


「カネダきゅん? 勝手に立っちゃダメでしょう?」


 何と雄々しきーーー……、なんて?


「…………さっき、そこまで来てるって言ったじゃないか」


「言ってましたね……」


 確かに、廊下にはメイドも兵士もいない。代わりに殺ンデレがいた。

 彼女は手に持っていた口に出すもおぞましい道具の数々を落とすと、その中からほ乳瓶を一つ握り締めて温かな微笑みを浮かべる。カネダはそれが死神の笑みであることを瞬時に理解した。

 そりゃ自分の不運なんだから自分に降りかかるよね。当然だよね。


「でもママは嬉しいです! だって赤ちゃんが立つなんてこれ以上の感動はないでしょう? さあ次はママと呼んで下さい。ママ、まーまーって! 私のことを母と認め私を母にし私が母になるんです! ウフフ、ほらそろそろお眠の時間でしょう? よーしよししてあげるからおねんねしましょうね~? 私と一緒にいつまでも、いつまでも、いつまでも……。うふ、うふふふふ?」


「……お、男なら女を背負ってやるぐらいの器量」


「背負えってか? アレを背負えってか!? 無理に決まってんだろあんなモン背負うどころか潰されて肥料にされて寄生生物の華が咲くわ!! 邪悪ってまさかアイツのことじゃねぇだろうな!? だとしたら俺は逃げるぞ! 地の果てまで逃げるぞ!!」


「じゃあ私も一緒に行きますね!」


「オメーが来たら地獄の果てになるじゃねーか!!」


「地獄なんて……、よよよ、私はショックです! あんなに大切に育てて上げたのに。ベッドの中で抱き締めたり毎晩絵本を読んであげたりがらがらであやしてあげた日々を忘れたというのですか!? 母は悲しいですよ!!」


「やべーよアイツマジやべーよ記憶捏造し始めてるよもうダメだよ」


「流石に同情するねぇ……」


「助けて?」


「頑張れ?」


 そして逃亡開始である。


「オメー絶対恨むからな!? ちくしょうやっぱり不幸じゃないか!! 見ろよ後ろからほ乳瓶片手に俺の速度に追いついてくるあの怪物を!! 地獄の使者でもあそこまでしねーよ!! もう殺人兵器じゃねーか!!」


「お、男なら、まぁ、良かったじゃないかい……。帝国の十聖騎士(クロス・ナイト)が嫁なんて将来安定だよ……?」


「マイホームは御墓ですってかァ!? しかも一人暮らしが目に見えてんじゃねーか! 将来以前に死亡安定じゃねーか!! 朝食って言いながら鉄板出してくる女だぞアイツは!! しかもそれで無自覚だぞ!? 拷問人でもそこまでしねーよ!! 治療の薬とか言って塩水傷に塗りたくってくんだぞ知ってるかぁ!?」


「ははっ」


「何笑ってんだテメェこの野郎!!?!?」


 聞くも失笑、語るも失笑の悲しき物語だが、いや、そんな物語は現在進行形で更新されていく。

 ユナ第五席に追われていることか? 否、それだけではない。彼の不幸パワーはそんなものではない。

 と言うのも、だ。彼が突き進み爆走する道の先に叛帝国を掲げる王族の一団が現れたのだ。兵士もメイドも執事も武官も文官も巻き込んだ大行進の、本来彼が倒すべき相手であるその集団が姿を現したのだ。


「あ、あぶ、危、アブーーーーーーッッ!!」


 当然、先頭を進み煽動するのは我等が魔王様。旗を掲げ叫びながら道行く者の誰も彼もを巻き込む姿は正しく魔王のそれだが、いや、しかしそれが悪かった。誰よりも前に進み出る彼女だからこそ運が悪かった。

 カネダの不幸パワーとその魔王の不幸パワーが、見事に合致したのである。


「「えっ」」


 気付けば、カネダは得意の軽業でその列に激突せず走り抜けられていた。それだけならば良かったのだが、彼の纏う毛布には一人の魔王が掛かっていた。正しく不幸パワーと不幸パワーが引かれ会った瞬間である。

 さぁここから運が悪い。大行列から見事に逸れて廊下を爆走して征く二人を捕らえる眼が四つ。


「何ですかその女の子? 浮気……、ですか?」


「魔王様が連れ去られたー!!」


 リゼラに殺意を向けるユナ、カネダを追うロー。

 まさかの追跡者ワンモアカミングである。


「何しとんじゃ御ぬ、うわぁあああああああああああああああああ変態だぁああああああああああああああ!!!」


「ち、違う! 待てリゼラちゃん!! このおむつ姿にはワケがあるんだ!! 決して変な意味じゃない!!」


「もうどう足掻いても手遅れだろテメーは!! 離せぇえええええええいややっぱり離すなぁああああああああああああ!! 後ろから何か来とる、後ろから何か来とるゥ!! ほ乳瓶片手に殺戮マシーン的な何かが来とるゥ!! ロー助けてェエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」


「解ってる! その男ブッ倒して魔王様救う!!」


「待って俺が何をした!? あ、リゼラちゃん? リゼラちゃんのこと!? と言うかあの子誰!? 何かまた増えてる!!」


「うるせぇ説明は死んでから地獄でゆっくり聞かせてやる! オラ止まれ! 止まれオラ!! 妾を降ろして一人で地獄に行けオラ!!」


「やめてェらないでェ! 良いのかいリゼラちゃん、ここで俺が止まったら君もあの怪物ユナの餌食だからね!? と言うかむしろ投げるからね!? 俺一人で地獄に行ってなるものか!! 君も道連れだゲーッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!!」


「て、テメェこのゲス野郎! ロー、妾の救出は中止だ! まずそのほ乳瓶片手のター〇ネーターをどうにかしろ!! 妾がいなくなったら誰がこの集団と魔族の指揮を取るのだぁ!!」


「つまりローが魔王に……?」


「だから何でこの局面で野心出してくんの御主!? やめて? 今マジで死にそうだからやめて!?」


「ぷぷー! 人望ないでやんのー!! ププーっ☆」


「御主はあんの?」


「後ろから迫ってきてるアレがそうかな……」


 人望っていうか絶望っていうか。


「解った、こうしよう! リゼラちゃんここは停戦協定を結ぼうじゃないか!! 手を組もうとは言わない、せめて俺が目的を達成するまで、ね!? どうだ? ね!? 今なら送料おんぶも含めて5%オフ!! お得ですよ!!」


「え~、でもお高いんでしょう?」


「そこを何と!」


「カネダ、アンタが仕留めるのはそいつだよ」


「代金はお命で」


「マジで高いじゃねーか」


「いやちょ、待っ、おいどういう事だ!? アンタの言う騒ぎの原因はフォールじゃないのか!? 煽動者で一目見れば邪悪と解る男なんてあの勇者しかいないぞ!? この子も相当酷いけどまだマシな部類だからな!?」


「おい誰がマシな部類だ最高の部類と言い直せ。と言うか御主誰と話しとるんだ!? あまりの不幸振りに幻覚が見え始めたのか!?」


「否定し切れないのが辛いところだけど違いますぅー! 今これは念話で話してるんだ。相手は誰かは解らないが……、何? この子をどうにかしろ!? どうにかなりそうなのは俺だっつーの!! そう言うならアンタが追ってくる連中どうにかしてくれ!! このままじゃマジでヤバい!!」


「空に向かって叫んどる御主の方がマジでヤバいぞ」


「そ、それは仕方ないだろぉ!? って言うかリゼラちゃん何したんだよ? 念話相手メッチャ怒ってんだけど!?」


「え? いやちょっと解放の戦いと言う名前の民衆扇動を……」


「フォールに似てきたな君もぉ!? ダメだろう、そういう事やっちゃ!!」


「仕方あるまい! 何かこの国の姫がエレナと無理やり結婚させられるだどーたら言うて不満たらたらだったから協力してやっただけのことだ! 嫌なことには嫌と言うて何が悪い!! 押し込めて傷付けられるのはいつだって自分じゃぞ!! 妾なんか今おむつ半裸の男に抱えられとるからな!?」


「凄い正論なんだけど現在進行形で傷付いてるよ俺!? 仕方ないじゃん毛布は織ってるだけ良心だと思ってよぉ!! この一枚の皮が俺なんだよぉ!!」


「なるほどカネダは皮かむり……」


「やめて!!!」


「大丈夫ですよカネダきゅんは……。きゃっ、はずかしい♡」


「お前マジで覚えてろよ! お前だけはマジで覚えてろよ!! ホンッッットお前だけはぁあああああああああ!!!」


 などと叫んでいる間にも、彼等が走る廊下の壁面に火花が散ってく。

 カネダの眼はその小刻みな炸裂が疾駆の残香であることを捕らえており、また自身の眼前へ回り込む一匹の『最速』の虎をも捕らえていた。

 構える牙と振り抜かれる爪。交錯する連撃は彼等を止めれないにせよ、転ばせる程度には充分過ぎる。

 そして転んだ後に待ち構えるのは狂気、もといほ乳瓶(きょうき)を持つ女の猛攻。最早、逃げ道はない。


「くっ……! リゼラちゃん、こうなったら合体技だ!! 俺が飛んだ瞬間に君が初級魔法を放ち、その加速で飛行してあの獣人を超える!!」


「ば、馬鹿な! 息が合わねばできぬ芸当ぞ!!」


「俺達がこの場を脱出するにはそれしかないんだ! なぁーに、不幸コンビとして長い付き合いだろう? やれるさ、やれるに決まってる!!」


「……フッ、そうだったな。妾にしては弱気であったわ! やるぞカネダ、今この時こそ超えねばならぬ試練なのだぁ!!」


「あぁ、見せてやろうぜ! これが俺達のーーー……」


「妾達のーーー……」


「「合体技だぁあああああああああああああああああああああ!!」」


 瞬間、カネダの跳躍とリゼラの初級魔法が合わさった超飛行が空を舞った。

 具体的にはカネダが跳ねた瞬間にリゼラの初級魔法が彼の顔面に炸裂して窓から叩き出されたワケなのだが、まぁ、ある意味では息ぴったりと言えるかもしれない。見事な自滅という意味では。


「「「………………」」」


 その惨劇を前に、誰も彼もが呆然と立ち尽くした。

 こうして王城で巻き起こった帝国への反逆は、勇士カネダによる懸命の自爆特攻による首謀者抹殺という形で幕を閉じる。

 勇士カネダ。彼の懸命な姿は人々の曇った眼を覚まさせ、暴力では悲しみしか生まないという教えを胸に宿してくれた。しかしその代償は彼の死という、余りに大きなものだった。

 『花の街』はそんな彼の死を慈しみ、銅像を建てることだろう。勇士の衣たる毛布と聖骸布たるおむつをまとった勇ましき男の姿をいつまでも語り継ぐべく街の象徴として王城に飾ることだろう。

 これが後の世に語り継がれる『勇士カネダ』の御伽噺の真実であり、彼の雄々しき生き様の終幕でもあったーーー……。



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