【エピローグ】
【エピローグ】
「もう、メタルさん直ぐ行っちゃうんだから……」
街観光していたガルスは、ため息混じりに闘技場近くの雑踏を歩いていた。
――――カネダは狂乱して教会へ向かうし、メタルは歓喜して武闘会に行くしで散々だ。
前の街で別れたコォルツォの常識感がとても懐かしく思えてしまう。本当に全力で好きに生きるを地でいくものだから、止めように止められない。まぁ、そんな点に憧れもするのだけれど。
「どうしようかなぁ。結局、カネダさんもあの兜について調べるとか言ってたのに全然調べようとしてないし、先生の論文も突き詰めたいのに……。王城なら書物が収められてるはずだし、お願いすれば見せてもらえるかなぁ? うぅーん、でも『知識の大樹』から盗っ……、借りてきた書物をあそこで拡げるのもなぁ」
どうにも悩み多い道中のご様子で、ふらふらと歩む足取りはどうにも危なっかしい。
いや、無理もあるまい。何せ彼は今イトー第四席から託された仮説という、有り得るはずもない夢物語でありながら現実的な仮説を抱えているのだ。長らく追い求めてきた『消失の一日』という大事件の真相、フォールという親友の存在、そしてその先にあるーーー……、現実を求めなければならないのだから。
「……早く解明しなきゃってのは解ってるんだけど、な、あ?」
尻切れに浮き上がる、彼の疲弊の声。いや、疲弊だった声。
頼りなく悩みに絡め取られていたはずの脚はいつの間にか人並みをすいすいと泳ぎ出し、とある露店へ辿り着く。
その眼差しは硝子向こうにあるトランペットを見つめる少年と言うべきだろうか。古ぼけた露店の雑に敷かれた絨毯の上に並べられただけの商品を、彼はただただ感涙の瞳で見つめていた。
「……て、店主さん。この、あの、これはいったい!?」
「これ? ……あぁ、この鎧かい? いったい、と言われてもねぇ。さっき目の死んだ男から買い取ったんだよ。つっても見たことない形だし、見た目も不格好だし薄汚れてるし間接に砂も入っちゃってるしで骨董品みたいなモンでねぇ。無駄に頑丈そうだから買い取りはしたけども。いるかい? 五百ルグだよ」
ガルスは問答無用で財布を差し出し、五百ルグを店主の手へと握り締めさせた。
当然だろうーーー……、彼は知っている。この鎧が『地平の砂漠』で見たあの鎧であることを、恐らく彼が持っているあの兜と同じ存在であることを、知っている。
鎧を売ったのが誰かは解らない。きっと砂漠で偶然拾ったものをそのまま売ってしまったのだろう。この価値を知らなければ露店の店主同様、ただの骨董品にしか見えないのだから無理もない。
ガルスは何処か騙したようで気が引けたものの、これをあの砂漠で拾い、ここに売った誰かも解らない、姿さえ見たことのない人物に感謝する。それがまさか探し求めるフォール本人であるとは知らずに、感謝する。
「この鎧があれば兜の解明も格段に進歩する……! な、なんて、なんて幸運な日なんだ……!!」
まぁ、その分だけ各地で知り合い面々が悲惨な目に遭っていたりするんですけども。特に魔王とカネダ。
然れど、未だ『花の街』にて戦いは始まったばかり。顔貌の目論見、謎の覗き魔、怪盗、花泥棒の正体、ロゼリア王女とエレナ王子の婚姻式、大波乱の武闘会、逮捕された魔王達。
この騒動の行き着く先はいったい何処になるのだろう? 勝者は、敗者は、そもそも戦いすら起こりえるのか?
それを知る者はまだ何処にもーーー……、いない。
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