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「クックック、どうやら彼等は完全に術中へ捕らわれたようですねぇ……」
人通りのない道路で、その者は悪しき笑みを浮かべていた。そう、誰であろう顔貌である。
既に気付いているかも知れないがこの街で異様に喧嘩が多く、争いが絶えないのは彼、或いは彼女による広範囲の精神誘導魔法、それもルヴィリアが気付かないほど自然に、効力の小さな魔法によるものなのだ。かつて南方の海域を荒らしたキングクラーケン及びクイーンクラーケン・アナザーに掛かっていたのもこの精神誘導魔法である。
だが何故、精神誘導魔法なのか? カインのように広範囲の石化魔法ではなく、感情誘導なのか? それは顔貌なりのフォール分析による結果に基づいたものだった。
「彼の戦法はいつも初撃必殺、先手必勝。『あやかしの街』でルヴィリア・スザクとの対峙によりそれは明確なこと……。故に彼は相手が予測し得ない状態から、予測し得ない攻撃を得意とする。それは裏を返せば予測しきれば無効化できるということ、だが! その予測を超えるのがあの忌々しき勇者フォールなのです……」
――――だが、決して攻略の方向性が間違っているわけではない。
そう、奴等には弱点がある。明確な、弱点が。
「フフフ、勇者フォール。彼はルールの強制にとことん弱い。何故ならその予測し得ない計画を予測し得る範囲まで押し下げられるからだ。できる事が限られればこちらも対応は容易くなる。……さらにッ! 彼は既に単独で計画を立案することはできても、単独で実行することはできないまで弱体化している。……彼から仲間という手足をもぐのは、何よりも効果的です」
そう、故にこの精神誘導魔法なのだ。
彼等に仲間割れさせ、尚且つ状況を限定できるこの魔法。唯一の懸念はルヴィリア・スザクの魔眼による事前の看破だったが、それも効果をごくごく抑えることで術中に嵌めることができた!
既に奴等はこの魔法に気付くことさえできず、醜く仲間割れしていることだろう! 嗚呼、何と素晴らしい計画か!! 神代の矛を出すまでもない、この街で奴等を仕留めることができる!!
「……そして極めつけにコレです」
顔貌が自身の顔に手を当てた瞬間、その顔が、体躯が、全ての細部に到るまでがシャルナと化していた。
そう。彼ーーー……、いや、彼女が今いるのはリゼラが立てこもっているという住宅地の前である。今ここでシャルナの姿を取ることにより彼女達を油断させて一人一人を各個撃破し、完璧に仲間割れ及び戦力低下を狙うという完璧な作戦なのだ!
「声も……、ンッ、ン゛ー……。こんな感じでしょうか? フフ、尤も私の変身に掛かれば印象深い記憶や真新しい記憶、身体能力すら読み取る完璧さですからねぇ。成る程? 先日は黄金蛸を……。む、怒りの感情のせいでその前の記憶が読み取れなくなっている。何と無様な! これだから感情ある存在は嫌なのです。この剣……、覇龍剣? ほほう、素晴らしい。何と言う光沢、何と言う重圧感……。あくまで肉体の一部なので形だけというのが残念ですが、誰も彼もがこのようにモノ言わぬ荘厳さを持ち合わせていれば良いのに……」
などと自身の一部である偽覇龍剣に惚れ惚れしつつも、顔貌は一度咳付いて気を取り直す。
今何よりも重要なのはリゼラをこの姿で騙し、奴等の絆を砕くこと。鑑賞は後だ。
「さて、リゼラ……、様。リゼラ様はこの建物の中ですか。どれ、失礼するとしましょう」
そう零すと、彼女は相変わらず凄まじい戦闘跡や残骸の散らばる道を進み、比較的大きな一件の民家へと足を踏み入れた。
見た目こそ何と言うことはない民家だったが、彼女が踏み込むなり歓迎したのは二本の刃。煌々と照る殺意の一閃が首元に突き付けられ、余裕綽々だったはずのシャルナ、もとい顔貌の顔を歪ませる。
「何者だ貴様ァッ! 名を名乗れ!!」
「……しゃ、シャルナです。シャルナ・セイリュウ」
「そうかァ! 怪しい動きを見せれば即処刑だからな!!」
見張りの一人はそう叫ぶなり家の奥へと掛けていき、何やらひそひそと話し合っているようだ。
未だ剣を突き付けられた顔貌はその様子に狼狽えるばかり。そりゃそうだろう、ただ民家の潜伏しているはずのリゼラのところに踏み込んだらいきなり刃を突き付けられたのだから。
――――おかしい。何だこの連中は? 見張り? どうして? この者達は魔族、ではないただの人間のはずだ。それがどうして魔王リゼラの小間使いのように動いている?
今、この街の連中は群れるような精神状態ではないはずだがーーー……。
「こっちだ! 早くこい!!」
「は、はい」
などと悩む暇もなく、顔貌は見張りに連れられて奥の部屋へ。
そこに進むまでの道中、明らかに何かヤバいモノを囓りながらラリッてる兵士や何か小粒のものを砕いて発狂する集団に出くわしたが、幻覚だと思いたい。一種の狂気的な宗教が出来上がっている辺りもう否定できない現実だが、幻覚だと思いたい。
しかし残念、そんな儚き願いも奥の部屋、恐らく元は書斎であろう一室に鎮座する者によって打ち崩されることになる。
「リゼラ総統閣下! 世界反逆者シャルナをつれて参りました!!」
「うむ、ご苦労。下がって良いぞ」
「はッ! ジークハイル・き〇こーーーッッ!!」
何してんだコイツ。
「ふん、今更降伏か? 愚物の隷属者め。我がき〇こ帝国に平伏すにしては少々遅すぎたのではないかなぁ……?」
何言ってんだコイツ。
「しかし運が良かったな。良くも悪くも貴様は魔族の中でも特に妾へ忠義を尽くした女だ。もしここでルヴィリアが来ようものなら即刻射殺であったが、ククッ、貴様ならば認めてやっても良かろうものよ。しかし一度は愚物の沼に沈んだ身。清めの儀式が必要だなァ……。おい!」
「はッ! こちらに!!」
「……あの、これは?」
「忌々しきたけ〇こだ。御主がもし本当に悔い改めたというのなら、これをーーー……、踏み砕け」
何がしたいんだコイツ。
「……何です? これ」
「案ずるな、模型だ」
「いや、そこではなく……」
「ククク……。解るだろう? シャルナ。あくまでこれは特例。今まで妾に忠義を尽くしてきた御主だからこそ課す試練なのだ……。これを踏み砕いた暁には御主を我がき〇こ軍の特攻隊長に任命してやっても良い。あの忌々しき俗物共へ我等の至高の使命を味合わせてやるのだ!」
「……えーっと」
――――これは、いったい何事か。
どうして自分は異端審問を受けているのか? 踏み絵ならぬ踏みレプリカをさせられているのか。
そもそもどうして人間の怨敵たる魔王が珍妙集団の総統などに収まっている? と言うかこの状況は何だ? この集団は何なのだ? キ〇コ軍って何? き〇こ、何故き〇こ!? いったい何がどうなってき〇こなのだ!?
「む? どうした……。踏まぬのか?」
「は? い、いえ、踏みます! 踏みますとも!! いやぁやはりリゼラ様でなければね!! えぇ解っております、私はリゼラ様の忠臣でございますから」
しかしこんな状況でも狼狽えないのが顔貌の冷静さだ。
彼は覚束ない記憶を頼りにリゼラを褒め称え崇め讃え、にこやかにその場を取り繕う。
「そうじゃろうそうじゃろう! ぬははっ、溢れ出る妾のカリスマは万人を魅了するからなぁ!! 良いぞ良いぞ、さぁ踏め! 御主を特攻隊長ではなく総部隊長として迎え入れてやろう!!」
「はッ! もちろんでございます。一皮剥けたこの私に掛かればこんなモノ……」
「……一皮剥けた?」
「え?」
「御主……、やはりたけ〇こを捨て切れておらぬな!? えェい、さてはルヴィリアの策か!? 姑息な!! 者共、この愚物を引っ捕らえよ!! やはりたけ〇こは害悪! 害悪です!! き〇ここそ至高!! き〇ここそ真理!! き〇ここそ世界平和の象徴! ジークハイル・き〇こ! ジークハイルき〇こォオオーーーーーッ!!」
「え、ちょ」
「「「ジークハイル・き〇こォオオオーーーーーーッッッ!!」」」
「待っ、ま、マァアアーーーーーーーーーッッ!!」
絶叫さえ間に合わせることなく、集団は顔貌へと斬り掛かる。
狂気的に血走った眼は例え彼女であろうと相手にさせることを躊躇わせる。気付けば顔貌はその場から逃げ出していた。そりゃそうだろう、あんな集団を相手にしては無事で済むわけがない。怖い、人間怖い。
「逃がすなァ! たけ〇こ派は殺せェッッ!!」
その建物から出た瞬間、背後の住宅街から現れる数百人単位の人々。
彼等は等しくその眼に狂気を走らせており、顔貌がドン引きするには充分だった。人類を敵に回したはずのその者でさえも相手取ることを全力で拒否する狂気振りである。
いったい何が彼等をそうさせるのか。幾ら精神誘導魔法があるとは言え、ここまで彼等を陶酔するものがあるというのか? それがき〇こ? 馬鹿な、有り得ない! 高が製菓程度でここまで結束が生まれるわけがない! いったい何を言っているのかコイツ等は!?
「クソッ! 貴様らそれでも人間か!? 人の心は、誇りはどうした!!」
「ウェヘヘヘヘヘヘェッ! 心や誇りでき〇こが食えるかよォッ!! 今は暴力が支配する時代なのさァッ!!」
「オラァ! き〇こ置いてけェッ!! き〇こ喰わせろよき〇こォッ! ヒヒ、ィヒヒヒヒヒヒ!! き〇こがぁ、き〇こが見えるよォ!! き〇こくれよき〇こォホホホホホェヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!!」
「忌々しきたけ〇こなぞ生きるに値しない! 死ね、疾く死ねッ!! 非国民め、非人民め、非心民めェ!! どんな教育を受けてくればそんな悪魔になれるのか!? 再教育ゥ! 再教育してあげましょうねェ!!」
「人類はいつからこんな悪に染まったというのだ! 何故こんな、あぁクソッ、私の、私の完璧な計画がァッ!!」
絶叫轟く街中に、逃げる者と追いかける者の疾駆がこだまする。
そんな逃亡者、顔貌の石垣や瓦礫を飛び越え逃げる速度は常人を遙かに超えており、流石はシャルナの身体能力と言ったところだろう。いや、変身して間もないというのに完全に操る顔貌の能力を褒めるべきだろうか。
しかしどちらにしても関係ない。リゼラが放った先兵は常人を遙かに超越した速度で逃げるはずのシャルナを易々と視界に捕らえ、発狂間近の叫びと共に追い立てるのだ。と言うか既に発狂してるわコレ。
「「「うへへへへき〇こき〇こき〇こァアアアアーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!」」」
「くっ、どうして追いつかれるのだ! 奴ら本当に人間か!? ……えぇい、このままでは計画そのものが破綻しかねない!! こうなっては仕方ない、一旦撤退だ!!」
顔貌は突如方向を転換し、廃墟に近い民家の一室へ飛び込んだ。
当然、先兵達も彼を追って廃墟へ飛び込むが、その足取りははたと止まってしまう。何故なら隠れる場所もないような一軒家に彼女の姿はなく、ただ一人男が突っ立っていただけなのだから。
「……何か?」
「「「ジークハイル・き〇こ」」」
「じ、じーくはいる・き〇こ……」
「良し、き〇こ派だな! 君、ここに女が来なかったか!? 忌々しいたけ〇こ派の女だ!」
「い、いや、見てないな。それより貴様等、これはいったい何の騒ぎ……」
「ならば良し! おい、早く探し出すぞ!! たけ〇こ派の中心人物だ。奴を捕らえれば戦争は一気に有利になることだろう!!」
「「ジークハイル・き〇こォオオオーーーーーーッッ!!」」
先兵達は瞬く間に走り去り、残されるのはただ一人呆然と突っ立つ男。いいや、顔貌、その姿に限ればフォールと呼ぶべきだろうか。
彼は燃え尽きた窓枠の残骸に腰掛けると、深いため息と共に顔を覆い尽くす。そりゃもう疲弊困憊いっぱいいっぱいの表情で、だ。
「くっ、まさか自己紹介の前に確認してくるとは……。自己紹介している内に記憶を定着させてやろうと思っていたのに、余りに唐突なのでできなかったではないですか! と言うか何なのですかジークハイル・き〇こって!! き〇こ派って、たけ〇こ派って!!」
言いたいことは尤もである。
「……ともあれ、この様では戻るのは難しそうですね。聞けば何やら派閥に別れて争っている様ですし、仕方ない。厳戒態勢のところに戻るわけにもいかないし、別の連中のところへ向かうとしましょうか。しかしどうするか、この姿で万が一勇者フォールに出くわすようなことがあれば奴等を争わせる私の計画が破綻してしまう。……いえ、既に破綻気味ではありますがね」
――――話から聞くに、双方は二つの派閥に別れている。派閥の内容自体は何ともバカらしいが、見ようによっては良い具合に仲間割れしてくれているようにも見える。いや、街一つ巻き込んでいる時点でやっぱり何ともバカらしいのだけれど。
兎角、口調や記憶は定着させられなかったが、この姿ならば多少相手を油断させることもできよう。確か、もう一つの派閥にいるのは『最智』の四天王ルヴィリアと『最強』の四天王シャルナだったか。
「……シャルナはまだしも、ルヴィリアは厄介ですね。今の状況なら魔眼を使うほど頭は回らないはずですが、えぇ、万が一ということもある。声ばかりではなく性格も似せた方が良さそうだ。しかし奴の性格となると、うぅむ、どうすべきか」
言い淀みつつ、彼は考えても仕方ないと言わんばかりに立ち上がる。そろそろ先程の全力疾走で乱れた呼吸も戻って来た頃合いだ。
大丈夫、知恵が高いということは少なくとも先程のように直情的な対応をされることはないという証明でもあるのだから、と自分に言い聞かせる。いつ、どんな時だって希望は捨てちゃいけないものなのだ。
「そう! 希望を捨ててはいけない!! 私が立てた完璧な計画に不備などあるワケがない!!」
顔貌は身形を整え直し、自分が知る限りのフォールに近い表情を保って歩き出す。
この無表情というものは思ったより顔の筋肉を使うものの、できなくはない様だ。流石は顔貌、ただ自分の能力だけに頼って変身を繰り返してきたワケではないだけのことはある。
しかし相手は今までその本人と旅をしてきた者達。例え外見だけ完璧に偽れても、何処かでボロを出すかも知れない。
しかしそこはそれ、やらねばならぬのだ。奴等を殲滅するためには!
「さて、恐らくリゼラ達の拠点から考えるとこちら側にあるはずですが……」
そうして覚悟を決めた彼が一歩歩み出た瞬間、その視界には魔女狩りよろしく聖三角形に吊された先程の先兵達の姿があった。
等しく意識を失った彼等はそのまま街の中心に磔とされ、その元に大量のたけ〇この里をお供えされている。何と惨いことだろう、今までの歴史上ここまでおぞましい拷問は無かったというのに。
いや、そればかりではない。よくよく見れば彼等を磔にする正三角形はたけ〇この形ではないか! 何と惨い、人は慈悲の心を失ってしまった!!
「ぅぐっ……、ふ……、ぅぅっ……」
気付けば顔貌は蹲り、泣いていた。
――――自分がいったい何をしたのだろう。呪われるような事をしたのか、ここまでされるような事をしたのか。何が悲しくてこんな宗教戦争じみた事になっているのか。自分はただ彼等を仲間割れさせれば良かったのだ。ただそれだけの計画だったのだ。
だと言うのに何だろう、この有り様は。計画もクソもない、放っておいたら自滅するんじゃないだろうか?
「くっ、しかし万全を期さず倒せる相手でもなし……! やるしか、やるしかないのか。あの集団に声を掛けるしかないのか……!? や、奴等に、関わるしかないのか……! 関わりたくない、本当に……! あんな狂気の集団など……!!」
「あれぇ? フォール君じゃないか!」
「ぬッフ!?」
一瞬驚きに肩を揺らしながらも、顔貌は即座に冷静さを取り戻して無表情になり、声のする方へ振り返った。
そこには誰であろう、彼が最も警戒していた『最智』ことルヴィリアの姿があり、彼女は何と言うことはない幾つかの荷物を抱えていた。見た目も、旅人というよりは町娘の方が近い。とてもこの狂気的な街で過ごしている人物のようには思えない。
「……あ、あぁ、ルヴィリアか。どうした? こんなところで」
「どうした、って……。君が品物を買い揃えろって言ったんじゃないか! 見ての通りホラ、ポーションや日用雑貨はいつものを。食材は君が買ってくるんじゃなかったのかい? 見たところ、まだ何も買っていないようだけど……。ローちゃんも一緒じゃなかったっけ?」
「しょ、食材か? そうだな。う、うむ……」
――――どういう事だ? 彼女は精神誘導の影響を受けていないのか? あの狂気の集団に属していないのか?
有り得る。いや、精神誘導に掛かったのは間違いないはずだ。この街に足を踏み入れた以上、例え誰であろうと効果を受けるように広範囲、低威力にしているのだからそれは間違いない。
しかし腐っても『最智』の称号を持つ女だ。あんな馬鹿げた騒ぎに関わらないよう距離を置いていてもおかしくない! いや、むしろそうあるべきだ!! きっと冷静な判断力を失っても常識は失わない女なのだろう、彼女は!!
「…………!」
だが待て、思い出せ。そうだ、リゼラが口にしていたではないか。『ルヴィリアの策か?』と。
つまり彼女はたけ〇こ派の頂点なり参謀なり、かなり高い地位にいることが解る。
この反応や外見だけ見ると争いには荷担していないようだが、いやしかしーーー……。
「……何だい? どうしたんだい? 具合でも悪いのかい?」
「いや、何処か安堵している自分がいまし……、んン゛ッ! いてな。先程、少し酷い目に遭ったものだから警戒していたのだ」
――――どちらだ?
「あ! もー、リゼラちゃんでしょ? シャルナちゃんもそうだけど調子に乗ると直ぐアレだ。悪い癖だよ、みんなしてさぁ。子供じゃないんだから自制を持つべきだと思うよ、僕は。確かに僕だってハメを外すこともあるけど、やり過ぎは良くないよね、やり過ぎは! 何でも落ち着きと合意が大事!!」
――――どちらだ!?
「あぁ、その通りだ。……他の連中の錯乱振りと言ったらなかったからな」
「だよねぇ~。もうっ、お仕置きだよお仕置き! 流石の僕もプンプンですよこれはぁ!! リゼラちゃんなんて総統政権作ってるし、あんなカリスマ発揮できるなら普段もっと真面目に働けって話しだよぅ! ぷんぷんっ!!」
――――どっちなのだ!?
迂闊な行動は取れない! この女がまともなのか以上なのか、それを判断するまでは!! 然れど同時に、一刻も早くこの女の立場を探らねばならない!!
迂闊な行動はできず、然れど探らねばならず! ここからは心を削る戦いだ!!
「同意だな。うむ。……ところでルヴィリア、シャルナの方は今、何処に」
そこまで顔貌が言いかけた辺りだろう。ふと、ルヴィリアの持つ紙袋からき〇この山が落下した。
ここまで来て彼は確信する。先程までの焦燥なんてバカらしくなるほど呆気なく、『嗚呼、彼女はどちらでもないのだな』と確信する。き〇こたけ〇こ戦争なんて下らないものに荷担していない、純真なままに『最智』たる冷静さを持っているのだ、と。
そうだ、杞憂だったのだ。たけ〇こ派な彼女がこれを持っているワケがないし、き〇こ派ならばこんなところにいるワケがない! 杞憂、全て杞憂だったのだ!!
「む、落とし……」
「へぇー……。それ、拾うんだ……?」
顔貌は感じていた。全身から血の気が引いていくのを。
「いや、良いんだよ? 別に悪いことじゃあない……。ただ、たけ〇こ帝の者ならね、ダメなんだよ。理解できないんだ。拾うという行為が、じゃない。それが何なのか理解できないんだよ……。普通、人が高位精霊や幽霊を視認できないように、次元が違うものだからね。そして同時に……、この世にはたけ〇こ派かき〇こ派の生命しか存在していない……。これがどういう事か解るかな……?」
「……! …………!!」
「消去法さ……。僕は特別コレが見えるから儀式用に買っているけれど……、君はどうして見えるのかな……? たけ〇こ派の人間なら見えないはずなのにねェエエエエエエ……?」
「ち、違う。話を……、話をッ……!!」
「き〇こ狩り部隊。前へ」
彼女が合図した瞬間、気付けば顔貌は数十人の怪しげな部隊に囲まれていた。皆が皆、異端審問官が如く黒塗りの怪しげな衣装に身を包み、顔面を覆い隠す布に神々しき聖三角形を縫い合わせた連中だ。
例えこの状況に放り込まれれば誰であろうと、先程の日和り予測が間違いであったことが理解できる。できて、しまう。
「引っ捕らえろ」
「や、やめろ! 冤罪だ!! 無罪だ、私は、うわ、ウワーーーーーーーーーッッ!!」
どうしてこの世に争いは生まれるのだろう? どうしてこの世に悲しみは生まれるのだろう? どうしてこの世に憎しみは生まれるのだろう?
その答えを知る者はいない。きっと、誰も識ることはない。
顔貌、悲しき者よ。安らかに眠れーーー……。




