【プロローグ】
――――勇者、 。 女 加 よ。
何処へ すか。 処へ の か。そ 定め 道で 。
運命 の る。ど て逆ら 。全 し まで生 意 ある か。その ん いけない、勇 よ。それ 方が進 は い。勇者、 者フォ 。貴方は す誰よ ーーー……。
これは、永きに渡る歴史の中で、大牙を研ぎ続けてきた東の四天王と西の四天王。
天外なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼女達のーーー……。
「汗臭い! シャルナ汗臭い!! 何か変な匂いする!! ムキムキ女! 腹筋バキバキ女!!」
「き、筋肉の何が悪いんだ!? 貴様だって体を洗わないくせに人の事を臭いとか言うんじゃない!!」
「洗ってる! ローだって湖で水浴びしてる!! ……一週間に一回は!!」
「私は湯浴みなら毎日だ! ははっ、勝ったな!!」
「勝ってない! 勝ってない!! ぐぬぬ……、じゃあ今から入る!! ローの方が浴びるの上手い! ローの方がカワイイって証明する!!」
「ばっ、やめ、サラシを剥ぐなサラシを!! やめ、服を脱ぐんじゃない!! やめろ、なっ、ひゃあっ!?」
「にゃははははは! ローの方がカワイ……、ぁ、ごめんローが悪かった」
「おい待て貴様、何処を見た? 言え、何処を見た? 言え!!」
「0は何があっても0なんだナ……」
「上等だぞ貴様勝負だ! 死闘だぞ貴様!! それを、貴様、貴様ァアアーーーーーーーッッ!!」
競戦の物語である!!
【プロローグ】
からからから。線路の内線に沿いながら、魔道駆輪は灼熱の砂漠を進んでいた。
黄土の海を貫く一本の線路は彼等が進むには少し大きく、とても頑丈で、そして何処までも果てしない。
本来は魔道大列車の規格にに合わせた線路を、どうして魔道駆輪が進んでいるのか。それを説明するには数刻前、彼等が砂漠の遺跡ーーー……、もとい砂漠の兵器から旅立った時まで視点を戻さねばなるまい。
とは言っても実際のところ、横転し砂漠に放置するしかなくなってしまった魔道大列車から幾つか素材や食料、飲料などを拝借してきただけの話だが。なお、一応は列車の従業員達にも許可を貰っているので安心して欲しい。流砂の肥やしにするよりは、とのことである。
さらに追記するならばその従業員や魔道大列車の乗員達はコォルツォが呼んだ部族達によって保護されたようだ。なお、その当人とオマケの三人組は今も流砂の中を泳いで死にかけているのだが、大体いつも通りなので割愛しておこう。
「……ふむ、ヤバいな」
さて、そんな過程は大した事ではない。問題は彼等が乗りこの線路を進む魔道駆輪だ。
魔道駆輪は車輪を一回廻す度にギィギィと嫌な音を立て、車体全体が今にも潰れてしまいそうなほど振動する。乗っている者誰も彼もが一度揺れる度に息を呑み、嫌な汗を流さざるを得ないほどの危なっかしさだ。
その原因は車体の故障やこの過酷な環境ではない。では荷台に積まれた荷物や、砂漠を渡るために増築した遮光幕かと問われればそうでもない。いや、確かに理由の一つではあるものの決定的な理由ではないのだ。
敢えてその決定的な理由を挙げるとすれば、それはーーー……。
「だからこの虎娘を降ろせと言うのだ! と言うかどうして貴様が乗っているんだ!?」
「にゃはははははは! 嫁と一緒に居るのは婿の役目!! 婿を連れてくのは婿の役目!! だからロー、フォールと一緒にいる!! これ当然!!」
そう。単純に積載量オーバーということだ。
本来3人乗りの魔道駆輪にフォール、シャルナ、ルヴィリア、そして新たにロー。オマケに魔王。この5人乗りというだけでオーバー上等だと言うのに、二人分の重量はあるシャルナと一人分の覇龍剣、リゼラ五人分はある大量の荷物とその上で連日の旅による車体疲労も含めれば、車体が壊れないだけ奇跡と言えるだろう。
「いかんな。資金……、手当用のポーションや食費、調味料、布や生活雑貨……。むぅ、単純計算でも一万ルグを超過するな。魔道駆輪の改修費を含めれば二万……、五万は行くか。また近いうちに金策をせねば……」
「きんさく? きんさくってなんだー?」
「金策は金策じゃろ。……と言うかロー、御主群れは良いのか? 群れのヌシなんじゃろ、一応」
「皆には嫁捕まえてくるって言ってある! 子供産むの大事!! 群れ大きくできる!! だから行かせてくれた!! 群れは仲間が取り仕切る! 縄張りも静かになって巨人もいなくなったから安全!! だから大丈夫!!」
「これもう完全に結婚宣言ですよね」
「だ、ダメだからな! 絶対ダメだからな!?」
「おい暴れるなシャルナ。車体が揺れる。と言うか車輪が砕ける。暴、おい暴れ、暴れるんじゃない。あば、暴れ、おい……、リゼラが落ちたぞ」
「リゼラちゃぁあああああああああああああああーーーんっ!?」
「あばァアアアアアーーーーーーーーーーーーッ!」
見事に流砂で流されていくリゼラ。一度呑まれれば死は確実という地獄の流砂だ。幾ら彼女でも無事では済まないだろう。
慌ててルヴィリアが翼を拡げ彼女を救おうと踏み込むが、その振動で魔道駆輪はさらに嫌な軋みを叫ぶ。
魔道駆輪か、それとも魔王か。二者択一の選択で皆がリゼラに敬礼を送る中、フォールは仕方なく彼女へ助けの一手を放り投げた。黄土に消え入るほど細い、銀の糸という助けを。
「き、貴殿……、それは?」
「魔道大列車の乗客に珍獣ハンターがいてな。『地平の砂漠』に生息する金色蛸を釣るための釣り竿だそうで、特注の高級品だぞ。まぁ、今回釣るのは魔王だが……」
ヒュンッ、と風を切って薙ぐ銀の糸。
糸は見事リゼラ、を狙って泳いできた砂漠鮫の牙を絡め取り、一本釣りを達成する。
「と、このようにリゼラを釣るのもこの竿に掛かればこの通り」
「何か違うモン釣ってないかなこれェ!?」
「何? 見ろ、この鋭い牙や凶暴な顔付きは見紛うことなくリゼラだろう」
「フォール! 牙ならローの方が鋭い!! ロー!! いーーーっ!!」
「うむ、見事な歯だ。……だがまだ少し臭うな。やはり歯磨きはもっと徹底した方が」
「それどころじゃないぞ貴殿! 流されてる、流されてるからリゼラ様!! ローが乗るのを良いことにボケを加速させるんじゃあない!!」
勇者だって偶には現実から目を逸らしたいのです。
ちなみにこの後、魔王様も一本釣りされたようです。
「ゲホッ、ォェッ……! まさか砂漠で溺れかけるとは……! しかも熱砂のせいで全身ヒリヒリするわ……!!」
「気を付けてくださいよ、リゼラ様。流石にこの砂漠に流されては私も御守りすることもできませんので……」
「いやまぁ、うん。落ちたの御主のせいなんだけどね? と言うか今も鮫に下半身喰われてんだけどね?」
「何で生きてるんですか……?」
「ローちゃん、魔王見てどう思う?」
「引く」
「ローを持って『引く』と言わしめるか……、流石だな。しかしリゼラ、そんな貴様にオススメのものがある」
「何? 生命保険?」
「諦めろ。……そうではなく、黄金蛸だ。この砂漠の海に生息する蛸で、貴様を吊り上げた竿の元々の持ち主が狙っていた珍獣ならぬ珍魚でな。……正確には魚でもないが、まぁ魚介だ。大差はない」
「うぅむ、蛸かぁ……。そう言えば魚は炙りとか刺身で喰ったし烏賊も喰ったが、蛸は食っとらんなぁ」
「ねぇ待って、その烏賊ってキングクラーケンだよね!?」
「アレを食べたと判別するのはちょっと……」
「と言う訳で今回はその黄金蛸を釣ろうと思う。どうせ次の街まではかなり距離があることだし、魔道駆輪の上でじっとしているのも暇だろう。幸い、竿は替えも含め数本あったようでな。一本はハイジャック解決の御礼に、二本は買い取りということで譲ってもらったのだ」
「……見たところ、五本あるみたいなんだけど?」
「残り二本は俺の手造りだ。見よう見まねだが、形にはなっているだろう?」
確かに彼が自慢げに掲げる二本の釣り竿は見た目歪だが、一応竿の形にはなっているようだ。
糸は他の釣り竿の替えから持って来たのだろう。銀色の糸だけは燦々と陽光に照っている。
「当然のように貴殿……」
「無論、他の二本に比べれば劣るが使えるには使えるはずだ。どうせ線路は沿っていけば次の目的地にはつくから、アクセルだけ軽く踏み込んでおけば良い。魔道駆輪と魔道大列車が同機構だけあってその辺りは楽なものだ」
「つまり御主も釣りに参加する、と。まぁ妾は食えれば良いからどっちでも構わんがな!」
「むしろ食われてるんですがそれは」
「ロー釣りやったことない! 釣りどうやってやる!?」
「うむ。本来は餌を付けたり浮きを付けたりするのだが……、黄金蛸に限っては双方が必要ないらしい。この銀の糸……、『地平の砂漠』に生息する黄金蛸のエサである銀の月という魚の堆肥から造られたものだそうだ。また黄金蛸は非常に力強く、食い付けば直ぐに解るとも聞いた。つまりこの竿と糸だけで充分に釣る事が可能というわけだな」
「……つまり!?」
「引っぱられたら引っぱり返せば良いってことだよ、ローちゃん」
「わかりやすい!!」
「……それでフォールよ。一番大事な話じゃが、美味いんだろうな? その蛸。珍魚とか言うとったが」
「何、珍魚と言われているのはその珍しさからでな。ただの砂漠蛸より遙かに希少で、美味さを言えば砂漠の宝と言われるほどのものらしい。何でも黄金の輝く様は正しくオパールやルビーにも劣らない宝石なんだとか……」
「フッフッフ。そうと解れば釣るより他あるまい! さぁ竿を貸せ!! 妾がその黄金蛸とやらを釣ってやろうぞ!!」
意気揚々と勇ましく胸を張るリゼラ。彼女の勢いに当てられるかのようにフォール、シャルナ、ルヴィリア、ローは煌々と輝く銀の釣り竿と、轟々と蠢く黄土の海を切り開く鍵のように釣り竿を手に取った。
求めるは『地平の砂漠』が珍味、黄金蛸! この過酷な環境に生きる美味に舌鼓を打つべく彼等は今、その刃を手に取ったのである!!
「……ところでリゼラ、貴様いつまでその状態なのだ?」
「凄まじい一体感を感じる……」
「捕食者同士、通じるものがある……、という事か。深いな」
「なぁなぁ、筋肉バカ。コイツら何言ってんだ?」
「……我々と行動を共にするならこれぐらいは序の口だぞ。アホ虎娘」
「ン?」
「は?」
「ちょっと待ってツッコミが追いつかない!! って言うか僕をツッコミに回すのやめて!? 僕ボケだから! 僕そういう役回りじゃないから!! 僕そっち側じゃないからぁ!! と言うかシャルナちゃんとローちゃんのせいでぼっち感アップですよ!! でもシャル×ローはありがと思います!! ロー×シャルでも僕はイケ」
「ルヴィリア、リゼラ様と同衾してみないか? 好きだろう、そういうの」
「待ってやめて鮫の口耐えられるのリゼラちゃんだけだから! 普通の魔族は耐えられないから!! 即死待ったナシだから!!」
「じゃあ落ちるかー? エサはお前かー?」
「いやだから砂漠もリゼラちゃんぐらい……、あれコレもしかしていつもの!? いつものヤツ!? いつものヤツですかァーーーッ!?」
そうですいつものです。さらばルヴィリア暁に死す! 砂漠遊泳は死の香り!!
なおデザートシャークは貧相な肉より豊満な肉を追って、彼女と共に遠い砂漠の果てへと旅立っていったそうな。




