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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
――――(後)
299/421

【1】


 これは、永きに渡る歴史の中で、平穏なる日々を望み続けてきた東の四天王と魔王と冒険者。

偶発なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼女達のーーー……。


「チッ……、今回の集団でまともなのは妾達だけか」


「「え」」


「だってそうじゃろ? 変態クソレズフ〇ナリに変態女装野郎に変態ナナフシに……」


「……本気、でしょうか?」


「すまない、本気のようだ……」


「おい待て御主ら、何だその評価は!? 妾じゃぞ、妾! 頼れる女歴代No.1と名高い妾じゃぞ!!」


「リゼラ様、それは貴方様しかエントリーしなかったランキングですし後日正式に行われた投票結果では側近様が堂々の一位でリゼラ様に到っては投票禁止扱いですしさらに言えば普段の行動からして頼れる女を名乗るのは難しく家事などその他諸々を全てフォールに投げていて稀に手伝うぐらいしかしない辺りもう頼れる女を名乗るのは難しいと思うのですリゼラ様流石にこれは無理がありますよいや非情に誇り高き御方だと私も思っていますが流石に経歴詐称というか自己過大評価ではないかなと思うのですよ私は」


「リゼラちゃん君もそろそろ立派な年なんだからやっぱり食欲は控えないとねフォっちのご飯が美味しいのは解るけど食べ過ぎは何事も良くないよ特に肥満はいけない肥満は万病の始まりだし小さい頃に太るとその後も太りやすくなっちゃうって言うからねあとフォっちから聞いてるけど隠れてつまみ食いしたり間食したりしてるんだっていけないよそういうのは決められた時間に決められたものを食べる生活を今から初めておくことが重要なんだ」


「マジレスやめろよ泣くぞ」


 支配の物語である!!



【1】


「……とんでもないな、こりゃ」


「すまん、吐きそう」


「ごめん僕も吐きそう」


「やめろ貴殿達! ここで吐くんじゃ……、おえっ」


「……遺跡の景色が? それともコイツ等が?」


「両方かな……」


 とある遺跡の入り口。数十分後の勇者がそうなるように、彼等六人もまたその幾何学的な模様に驚嘆の息を零していた。

 しかし無理もない。全く、何と言う景色だろう。一目見れば腰を抜かし、二目見れば意識を失い、三目見てしまえば頭が沸き立ってしまいそうなほどに異様な景色だ。いや、この超常的な遺跡において最早多くは言わないが、問題は漂う異臭と辺り一面の青白い光である。


「メッチャ気持ち悪いんじゃが。クソ気持ち悪いんじゃが。半端なく気持ち悪いんじゃが」


「だ、大丈夫ですか? 酔い止め飲みますか?」


「いや、すまない。それはリゼラ様に……。我々より体調が悪そうだ」


 この異臭、全くとんでもないもので、リゼラはこの遺跡に入るなり鼻が曲がって白目を剥いてぶっ倒れ、シャルナとルヴィリアまでもが窒息するほど鼻を押さえながら涙ぐむという始末。

 そりゃもう今まで嗅いできたどんな臭いより酷く、生ゴミも汚水もこんなに臭いは放たないだろうというほどだ。

 しかしさらに酷いのが各所を照らす蒼白い光である。人にせよ獣にせよ本能的に嫌うものは多々あるが、彼女達にとってこの光がそれに当たる。初めて見るものなのに鳥肌が止まらず目眩さえ起こしかねないほど、気持ち悪い。

 ただ、魔族である彼女達の悲惨さとは裏腹に、カネダ達は別段何ともないようで。


「……何か気持ち悪いか? むしろ、何ていうか、安心できる光だよな。あれ」


「ケヒャヒャ、その通り! だから俺もガキの頃はよくこの辺りまで来てたんだがなァ」


女装変態カネダ達は無事で僕達は体調不良、リゼラちゃんは瀕死とくれば……、たぶん魔族には相性の悪い光なんだろうね……。聞いたことないけど結界的な効果を持ってんのかな……、むぇえええ……」


「えっ、リゼラちゃんは兎も角、お前等まで魔族だったの?」


「獣人や亜人なら兎も角、魔族は人間と見分けにくいですからカネダさんが気付かないのも無理はなかったかも知れませんね。尤も、別に今更気にするようなことでもないでしょう?」


「……まぁ、うん。それより邪悪な勇者ヤツを知ってるしネ」


「おーい、話に着いてけねェぞー。ケヒャヒャヒャヒャヒャ!」


 閑話休題なうろーでぃんぐ


「むぅ、ルヴィリアの魔眼催眠のお陰で大分楽になったが……。まだ違和感が残るな」


「リゼラちゃんは大丈夫? 吐き気収まった? 大丈夫? おっぱい揉む? キスする?」


「おえっ」


「待って今僕の顔見て吐かなかった?」


「駄目だ、アイツ等に付き合ってたら話が進まない。おいコォルツォ、この遺跡は何なんだ? ただのボロくさい遺跡なら話は簡単だったが……、こりゃ途轍もないモンだぞ。何だ、アダマンタイトでもオリハルコンでもない。ライトストーンか、ブルークリスタル? いやしかしあの光は人工的な……」


「ケヒャッ! 何だ、こういうトコはお前の専門かと思ったぜェ?」


「ダンジョンならな。ただここは遺跡だ。それも祭儀的な意味合いが強いんだろうな……。侵入者を排除する仕掛けらしい仕掛けが一つもない。つまりここは希少的な価値はあってもそれは金銭的な価値じゃなく歴史的な価値ってことだ。詳しいって言うなら、こういうのはガルスの方が詳しいんじゃないか?」


「えっと……、僕も専門ではないので詳しくは言えませんが、カネダさんの言う通り祭儀的な場所だと思います。『知識の大樹』最上層のように儀式的に用いられてる場所ではなく、儀式の為に造られた場所とでも言うべきでしょうか。また、かなり古代のものですが、この砂漠の砂により奇跡的な状態を保っていて、その上あの光が残っているところを見るとかなり近い時期に何らかの変化……、つまりこの遺跡の起動ですね。それが起こったと考えるのが自然でしょう。たぶん盗賊団かフォっちが何かしたんだと思いますけど……」


「クヒャヒャヒャ! なぁーにが専門外だ。流石はあのジジイの助手なだけはあるぜ」


「い、いえいえそんな……」


「まーそのお陰で聞きたくもない名前を聞くハメになったけどな。やっぱりアイツが何かしたのか……」


「あ、いえ、今回はそっちの方が良いと思いますよ、カネダさん。だって、もしフォっちが何もしてないとなると、若しくは盗賊団もそうですけど、この遺跡のあの光が作られた当時……、これだけの技術力からすれば僕達の想像も付かないような昔でしょうが、その時から光り続けていることになります。僕としてはそちらの方が余ほど恐ろしい」


 カネダは彼の言葉と、頬を流れる汗に言葉を詰まらせる。

 ――――確かにその通りだ。コォルツォの話ではこの遺跡が禁忌の場所と定められていたのは、遡れるだけでも祖父の祖父の祖父の代からだと言うではないか。そんな昔からあったとなると、いや、さらに古代かも知れないが、本当に太古のオーバーテクノロジー以外の証明方法がなくなってしまう。

 だとすればあの光の源や遺跡の材質だけでどれだけの価値がーーー……、いや、流石にリゼラ達がこれだけ苦しんでいるのだから、漁るのは後にしておくべきか。


「まァ、そういう事なら逆に楽ってもんだ。トラップがない遺跡なんて子供の遊び場だしな。道……、はかなり複雑みたいだが、こっちには先導者つきと来たモンだ。さっさと盗賊ども討伐して帰ろーぜ」


「あとフォっちも探すんですよ! もう、油断してたら毎回ろくな事にならないんですからね!?」


「なーに大丈夫大丈夫、今回は列車横転で不幸使い切ったから何も起こるワケなぎゃああああああああああああああああああああ!!!」


「ギャハハハハハハハ!! おい見ろシャルナ、ルヴィリア! あのバカ脚を踏み外しおったぎゃああああああああああああああ!!!」


「ふ、二人ともーーーーーッ!!」


「何やってんだアイツ等……」


「……ねぇ、シャルナちゃん。もしかして今までの不幸って単に彼等の運が悪かっただけなんじゃ」


「言うなルヴィリア悲しくなる」


 大体その通りな辺り、もう何とも言えない。


「よし、ちょっと躓いたが早く先へ向かおう。コォルツォ! 案内!!」


「テメェ自分の立場解ってんのか? まァ良いけどよ……。ほら、こっちが入り口だ。ケヒャヒャ! つってもカネダの言葉を否定するようだが、この一本道や幾つかの通路には、実は奇妙な仕掛けが幾つかあってなァ。もちろん致死性ってほどじゃねぇが……」


「え、何だそれ。始めに言えよ」


「いや、言う必要もねェだろ。何つってもまずこの一本道の仕掛けは『聖なる血を捧げよ。さすれば道は開かれん』らしいぜ?」


「聖なる血を捧げよ、ですか。聖地や遺跡なんかによくある文言ですね。ここはどうすれば」


「「「「ガルス」」」」


「待ってください何で迷いなく僕なんですか」


「いやこの中で一番まともなのガルスじゃし」


「と言うかお前以外にまともなのがいない。俺は惜しい」


女装変態テメーは筆頭だろ。……シャルナちゃんもフォール君専用ショタ狂いがなければねぇ」


「い、いやうむ、鍛錬が足りないなと私も反省してだな……。ともあれここは一番まともで良識あるガルス殿が適任だろう。腕一本ぐらいで大丈夫だろうか? 手伝うぞ」


「待ってください死んでしまいます! 聖なると言っても聖者ですよ、聖者! 歴史的に見る聖者は傷付いた者に手を差し伸べ、勇気と友愛の名の下に如何なる者をも慈しむ愛情を持つ人物のことですよ!! フォっちのような!!」


「「「「それはないけどお前ならいける」」」」


「皆さんは僕をどうしたいんですか!?」


「知ってるか、アイドルって元々は偶像者って意味合いらしいぞ。つまりお前はアイドルになれる」


「カネダさんの勧めるアイドルって明らかに別の意味合いですよね!?」


「と言うか取り敢えず今んところ狂人、もといフォール君が言うこと聞きそうなのが君だけなんだよね。狂人を制すは聖人。つまり君は聖人。OK?」


「「それな」」


「ちくしょう! まともなのは僕だけか!?」


「……ギェハハハ。おーい、騒いでるとこ悪いが別に血は必要ねェからな? この仕掛けはウチの爺さんの爺さんから話を聞いてただけであって、ンなもんとっくに停止してるに決まってンだろ。でなけりゃ俺が入れるわけねーじゃねーか」


「「「「え、うん。知ってた知ってた」」」」


「コォルツォ第九席、これキレて良いやつですか」


「漏れなくキレて良いヤツだと思うぜ」


 そこで確認を取る辺りが人の良さである。

 ともあれ、何の仕掛けやトラップもないと解れば恐れることはない。リゼラ達は意気揚々とその先へ進み始め、一本道を駆け出した。

 ガルスはそんな、先頭でどっちが先に遺跡入りするか競いだしてる魔王と盗賊の二人をどうお仕置きしてやろうかと唸っていたが、その唸りは突如として驚嘆の絶句に変化する。

 当然だろう。数秒後には子供のようにはしゃぐ二人の頭があるであろう部分に、一目見ただけでも触れてはいけないと解る蒼銀の光線が放たれ、迫ってきているのだから。


「か、カネダさん! リゼラちゃん!!」


 叫ぶが早いか走り出すが早いか。然れど彼の速度よりも光線の速さが明らかに上回っている。

 このままでは二人が見事ところてん桜斬り一丁上がりーーー……、かと思われたが、シャルナの覇龍剣が地を這うが如く投擲されて二人の脚を一気に薙ぎ払った。リゼラとカネダはその衝撃により光線を寸前で避ける、はずだったのに。


「「ふんッ!!」」


 馬鹿共、まさかの回避である。


「ヌハハハハハ! 来ると思っておったわ!! 一番は譲るものか!!」


「フハハハハハ! 盗賊的に一番は譲れないなぁ! 盗賊的に!!」」


「「「「あの馬鹿共ッッッ!!!」」」」


 そりゃ叫ぶというものだろう。しかも回避により飛び上がったせいで光線は見事目の前へ接近中である。

 もう遅い。光線は完全に二人の顔面を捉え、彼等が気付いた瞬間に地獄の鎌を一挙に振り抜いてしまった。

 こうして中身の無い頭はスッパリ割れて空を舞い、あわや探検開始数分で調査隊から犠牲が出てーーー……、なんて事にはならない。

 そう。二人の足を引っ張る、異様に長い腕があったが故に。


「この……、馬鹿共が!! どういう頭してンだテメェら!?」


「「割とマジで死を覚悟しました」」


「やっぱりあの二人自分で死にに行ってない?」


「言うなルヴィリア。……言うな、ルヴィリア」


「そ、それはともあれ、良かったぁ~……。ありがとうございます、コォルツォ第九席! お陰で無事に済んで……。あれ? でも仕掛けは作動しないはずじゃ?」


「あァ、そのはずだ。こんな仕掛け見たことねェし、発動したこともねェ。ゲヒャヒャヒャ、発動してたら俺ァここにいねェよ」


 そんな彼の言葉に同意を吐くように、一本道の足元に青白い光が連々と灯っていく。正しく通ることを赦されたかのように、だ。

 先程の光線でリゼラかカネダかの髪先が僅かに切れて散らばった為だろう。毛髪も体の一部のため、『聖者の血』として認識されたらしい。いや、或いは先程の光線を避けたことで試練クリアと認定されたのだろうか? 魔王と盗賊の人柄を考えると間違いなく後者である。

 それだけならば話に決着もつく。しかし、問題は仕掛けが、しかもよりにもよってこんな致死性の殺意高き仕掛けが発動してしまった事だろう。


「こりゃ完全に認識を変えた方が良いねぇい。ここはただの祭儀的な場ではなく危険なダンジョンだ。フォール君や盗賊団のせいで起動したか、それとも元からこういう仕掛けだったかはさして問題じゃない。むしろ彼等の安否を考えるべきだね」


「逆に言えば盗賊共がこの仕掛けに掛かっててくれりゃ話は早いんだがな……! へいへい解ってたよ!! どうせ今回もこういう感じになると思ってたよ!! はーんっ、ダンジョンなら俺の専門だもんねー! でもこんなオーバーテクノロジー云々なんて解らないもんねー!! うわぁああああああああああん!!」


「元気出せよ。妾達は手を組んだ仲……、死ぬ時は御主からだ」


「やめてリゼラさん。カネダさんの悲しみに付け込んで人柱にさせないで」


「な、何、兎にも角にも我々の行動は一致しているんだ。協力すれば超えられないことはないさ」


「ゲェヒャヒャヒャシシシシシシシ! 俺としてもテメェ等は一緒に行動してくれた方が良いしなァ!!」


 シャルナは監視されている身分は落ち着かないな、と苦笑しつつ、先ほど投擲した覇龍剣を取りに行く。

 確かにーーー……、彼女の言う通り未だハッキリと身分表明はしていないが、魔族最高峰の四天王が二人と伝説の盗賊、さらには帝国屈指の暗殺者と知識を誇る冒険者、ついでに魔王という戦闘面からも技術面からも知識面からも隙の無い集団だ。彼等に掛かれば攻略できないダンジョンなどあるまい。

 そして、それはこの超常的な遺跡、いやダンジョンも例外ではない。彼等の結束がオーバーテクノロジーすら超える最高の道標となるのである!!

 ――――ちなみに。


「え」


 シャルナが覇龍剣に手を伸ばそうと一定範囲へ踏み込んだ瞬間、凄まじい速度で光線が射出された。

 危うく紙一重で避けたものの、その光線は先程のモノと同じく途轍もない熱量を誇っており、直撃すれば即死であろうことは言うまでもない。


「……あの、これもしかして、魔族の人達を狙ってるんじゃ」


「「「……いやいや」」」


「なァ、確かそこの変態がここは魔族に相性の悪い光とガーとか結界ガーって言ってたよなァ。つまりこれテメェ等に反応してるって考えたら普通に辻褄が」


「「「いやいや」」」


「……置いてく?」


「「「いやいやいや!!」」」


 絆、崩壊。

 結束など所詮こんなものである。



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