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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
――――(前)
297/421

【2】


【2】


「う、うぅーん……。出オチは嫌だ……、出オチは嫌だ、出オチは嫌だ……! ア〇カバン!!」


「どんな目覚め方してんだ!?」


「大丈夫、ファンシー部屋よりはマシだから」


 さて、ところ変わってフォールとローが出会うより数時間前、魔道大列車が横転してから数十分。

 『地平の砂漠』の、右を見ても左を見ても砂続きなほど砂漠のド真ん中に彼等はいた。

 そう、彼等はものの見事に列車の乗客十数人と共に遭難していたのである。線路からも列車からも放り出され、歩むことすらできない熱線に照る黄土の海に投げ出されていたのだ。

 僅かな生物も適応できねば一日どころか数時間として生きられないこの黄土の海に投げ出されるという事がどういう事か、それは語るまでもない。


「あれ? ルヴィリアとカネダ……、ってここ砂漠の上じゃないか! ぬわー死ぬぅー!! いやだぁあああ溺れて死ぬとかいやだぁああああ!!」


「落ち着けって。俺達も沈んでないだろ」


「え、それは頭がスッカラカンだから浮いてるのかと……」


「うるせーよズッシリだよ!? ミッチリギッチリだよ!?」


「おっかしいなぁ! 僕『最智』って呼ばれるぐらい頭良いはずなんだけどなぁ!?」


 頭は良くても悪い方に良いので意味はない。


「ってそうじゃないよリゼラちゃん! この現状見て何か思わない!?」


「この状況って……、うわ!? もう昼頃じゃねーか! あの大列車横転から何時間経った!? 昼飯は、昼飯はどうなった!! 妾の、妾の場飯ぃいちちいちちちちちちアチィイイーーーーッ!!」


「おいその毛布の上から動くと危ないぞ……、って遅かったな。取り敢えず現状を説明するからその砂漠鼠の皮毛布の上で大人しくしててくれ。俺もあんまりこんな鉄板より熱い砂漠の上にはいたくないんだ。見ろよ、銃に込めてた鉛玉が変形してるんだぜ……?」


「う、うわぁ……」


「割と洒落抜きで蒸し焼きになっちゃうからね。まぁ、向こうに転がってる魔道大列車に戻ればギリギリ魔力も生きてるから空調が効いてるんだけど、車両の中は女の子とか子供とか体調不良の人でいっぱいっぱいでさぁ。シャルナちゃんが搬送、ガルス君と列車の従業員達が手当してて、とても僕達が入る隙間はないんだよね」


「むぅ……、仕方あるまい。妾はこの通り健康……、おい待て。妾はさっきまで気絶しとったじゃろ!? だったら列車の中で介抱されてなきゃおかしいじゃろうに! 何で砂漠の上に置き去りなんじゃ!?」


「いやシャルナがあの人なら死なないから大丈うむぐぐぐーっ!」


「……魔王の器だからネ!」


「そうか、魔王の器なら仕方ないな」


 チョロい。


「んで? 問題はどうしてこの流砂の砂漠に妾達が立っていられるのか。そしてここが何処なのか。さらにこれからどうするのか、じゃな。漏れなく遭難中じゃろ、今」


「オッケー、流石はリゼラちゃんだ。話が早くて助かるぜ。……まずどうして砂漠の上に立っていられるのか、そしてここが何処なのかは一緒の答えになる。その為にはまず軽く魔道大列車の線路の構造を説明するが、まぁ簡単に『地平の砂漠』の地下深く、岩盤に当たるまで支え木を伸ばしてその上に線路を走らせてるんだ。因みに使ってる材木はハイエリアの樹丸ごと一本と言えば深さは解るかな? あのラドラバードが巣を作る樹木だ」


「ラドラバード、誘拐、巣穴……、うっ、頭が」


「ま、まぁ、兎も角。そんだけ深い場所になってようやく岩盤があるのに、どうして俺達はこんな砂漠ド真ん中で立っていられるかって話なんだが、これを見てくれ」


 カネダは懐から適当な棒、恐らく変形した鉛玉を取り出す為に分解したであろう銃身を持つと、それで足元の砂を軽く掘り下げる。

 本当に、僅か数センチほど。しかしそれだけで彼等の足元に拡がる異様な存在を剥き出しにするのは容易なことだった。


「……何じゃこれ? 鉱石?」


「ううん、鉱石じゃないよ。僕の魔眼で確認したけど、鉱石でも生物でもないもっと何か別の存在さ」


「ガルスもこんなモンは見たことがないそうだ。これが、魔道大列車が横転した場所からずぅっと続いてる。運良くこの上に横転したから車体も沈まなくて済んだってワケだな。……いや、それだけこの変な地面が拡がってるって事でもあるんだろうが」


「成る程のう、解ってきたぞ。つまり妾達の乗っていた魔道大列車はここ砂漠のド真ん中に運良く着地して……、いや、このまま砂漠のド真ん中で蒸し焼きになることを考えれば運悪く、か?」


「そこはそうでもないんだよねー。ま、ある意味じゃ運悪くだけどさ」


「何? ここから帰る手段があるのか!? 魔道大列車がまだ動くとか!?」


「確かに修理すれば動くそうだが、一週間以上掛かるらしぞ。いやそうじゃなくてーーー……、おい! こっちに来てくれ!!」


 カネダが誰かを呼ぶと、その人物は熱砂の上を恐るべき身軽さでリゼラ達の元までやってきた。どのぐらい軽いかというと、熱遮断の役割を持つ砂漠鼠の毛皮すら使わずに、跳んで跳ねて砂漠を渡るぐらいだ。

 と、そんな人物の手には水袋が三つあり、袋は彼の到着と共にそれぞれの胸元へと投げつけられた。なおリゼラが受け取り損ねて顔面キャッチするハメになったのは言うまでもない。


「キシシシッ、目ェ覚めたみてーだな。状況の説明は終わったかァ?」


「今やってるところだよ。と言うかその為にお前を呼んだんだ」


「キシッ、シシシシッ! 人使いの荒い奴等だ……」


 彼は異様に長い手足を砂漠の上に付けると、暑がる様子もなく腰を下ろす。

 特徴的な黒塗りの衣服やこの砂漠をモノともしない姿勢からして現地の人間なのだろう。

 しかし驚くべきかな、なんとリゼラはその人物に見覚えがあった。


「……御主、えーっと、あの、何だっけ!?」


 訂正。なかった。


「忘れてんじゃねーか! 俺だよ、コォルツォ・ミゲル・フラインだ!! 帝国十聖騎士(クロス・ナイト)、第九席!!」


「あー……、あー! あ!?」


「おい、泣きそうなんだが」


「いや俺も初見の時は完全に忘れられてたしセーフセーフ」


 そう、コォルツォ・ミゲル・フライン。彼こそは帝国にてフォールの魔道駆輪☆不意打ちアタックにより数ヶ月の療養を余儀なくされた男にして、帝国の闇を一身に背負うと揶揄される暗殺者、コォルツォ第九席である。

 リゼラとは帝国城での一瞬の面識しかないため、覚えが悪いのは仕方ない。尤も、ステーキ顔でもない限り彼女に一回で覚えてもらうのは無理という話だ。


「コォルツォは『地平の砂漠』にある部族出身でな。魔道大列車ハイジャックの情報を聞きつけて帝国からすっ飛んで来てたらしい。単独で来てくれたのが何よりの幸いだぜ……」


「ケヒヒッ! ユナ第五席が会いたがってたぜェ、世界的指名手配班にして伝説の盗賊様よォ……!!」


「ヒェッ」


「僕としてはミューリーちゃんに会いたかったなぁ」


「お前か、ミューリー第三席に何かしやがったのは。あの人、帝国十聖騎士(クロス・ナイト)壊滅事件の時から妙に素直に……、っと無駄話してる場合じゃねェな。んで? この状況を説明つってもよォ、もう俺の部族に連絡入れてるから、あと数時間で助けが来るぐらいしか言うことねェぜ?」


「た、助けが来るのか! 何だ、良い知らせではないか!!」


「だけならねぇー……」


「なんだよなぁ……。さっきも言ったようにコォルツォはハイジャックの知らせを受けてきたんだ。リゼラちゃん達は知らないかも知れないが、この辺りには列車を襲う盗賊がよく出るって話もあってな。俺とガルスはその盗賊からとある貴族を守る依頼をギルドから受けて列車に乗り込んでたんだが……、はいここでおかしい点は何処でしょう?」


「……え、何が?」


「つーまーりー! あの大列車を襲ったハイジャック犯達とフォール君の忍び込んでた荷物を盗んだ盗賊達は別ものだったってワケ! 僕達がハイジャック犯と戦ってる間に、まんまと荷台の荷物とフォール君を盗まれたって事さ」


「キシシッ、そういう事か。あァその盗賊どもの話なら俺も部族連中から聞いてるぜ。何でも数週間前から出て来てる奴等だってなァ。この辺りにある遺跡を根城にしてるらしい」


「あっ、待ってオチ読めた。嫌じゃからな!? 妾ぜってー嫌じゃからな!?」


「仕方ねェだるォ!? 盗賊やっちまわないと依頼料罰金になるんだよぉ!! しかも逃げたら即捕縛ってこの暗殺者に脅されてるんだよぉ!!」


「キシシッ、捕まえるぜ~捕まえるぜ~? お前等がやってくれた事は俺たち十聖騎士(クロス・ナイト)も理解してるが、一応指名手配してる理由はマジだからなァ!! 見逃すにはせめて盗賊ぐらい退治して貰わねェとよォ!!」


「諦めようリゼラちゃん! どのみちフォール君助けに行かなきゃだし逃げ道ないから!! 死ぬ時は一緒だから!!」


「嫌だぁあああああああ! どうせ悲惨な目にしか遭わないんだぁああああああ!! ちくしょう妾たち盗賊カンケーないじゃん!! 妾たち無関係じゃん!! うぉおおおおこうなったらこのナナフシ男をブッコロして逃げ」


「ちなみに魔道大列車の横転原因なんだがよォ」


「おのれ盗賊! 赦すまじ!!」


「この子のこういう掌返し凄いよな」


「これもリゼラちゃんの持ち味だから……」


 と、言うワケで。


「これより俺、ガルス、リゼラちゃん、シャルナ、ルヴィリア、そして案内役のコォルツォを含めた6人は遺跡に潜む盗賊共の討伐及び、ついでにやりたくないけどもう勘弁してほしいし絶対会いたくないけどフォールの捜索に向かう! ……いやもう放っといてもどうにかなるだろアイツなら!!」


「「わかる」」


「いや御二人が解っちゃ駄目なんじゃ……」


「赦してやってくれガルス殿、私も若干そう思ってる」


「まァあの勇者ならなァ……、俺なんて跳ねられたし。シシッ」


「捜索対象はこの先にある謎の遺跡を根城としているそうだ! 内部はコォルツォの部族でも立ち入り禁止とされている禁忌の場所だそうだが……、コイツ自身は何度か立ち入ってるそうだから問題はないらしい! でも危険だからやっぱ帰らない!?」


「「わかる」」


「「解るな解るな」」


「逮捕すんぞ、逮捕」


「でも逮捕されたくないから仕方なく行きます! 仕方なく、えぇ、とっても仕方なく!! 危なくなったら自分の安全第一です!! 仕方なくだからね、まずは自分の身の安全からだよね!! と言う訳でもう危険感じてるんでまず先頭はコォルツォさんが行くべきじゃないでしょうか!! 俺たち自衛の為に武器構えてから行くんで! 一発だけなら誤射なんで!!」


「「わかる」」


「もう逮捕して良いですよコォルツォさん」


「全く貴殿等という者は……!!」


「完全に俺ブッ殺すつもりじゃねーか」


「と言う訳で出発です遺跡探掘! ご唱和ください!! えいえい、あでもちょっと待ってやっぱこういうのって息を合わせて」


「「「はよ行け」」」


「「「はい」」」


 そして各自、六人の奇妙な組み合わせは謎の遺跡へ足を踏み入れる。

 盗賊団討伐のため、そしてフォールを見つけ出すため、彼等は何も知らずにその超常的な遺跡へ足を踏み入れるのだ。

 そう、何も知らずに。この遺跡が何を意味するのか、何を守っているのか、何を讃えているのかなど、知らずに足を踏み入れる。この先で起こる騒動すら彼女達はまだ知る由もない。

 然れど彼等は征くのだ。この『地平の砂漠』を流れる熱砂に聳え立つ、余りに巨大な遺跡へ向かってーーー……。


「ちょい待ち」


「ぐへっ!? 何なのさリゼラちゃん、急に腰元引っ張らないでよ!」


「そうですよ! 転んだらどうするんですか!?」


「いやシャルナ引っ張ったら妾の腕が変な方に向いたんじゃけど。……ってそうではなく、御主ら忘れとらんか? ここが何処かを」


「何処って……、砂漠でしょ?」


「あの、一応生息している生物はいるそうですが食べる以前に捕まえるのが難しいそうで……」


「ちげーわ何でもかんでも妾が食欲に走ると思うなよ。……え、食えんの!?」


「走ってるんだよなぁ」


「あの、リゼラ様、食事でしたらフォールを見つけた後にしてください。流石に我々でも案内役のコォルツォ殿と離れてはどうにもなりませんよ」


「阿呆、だからそうじゃない! その案内役含め、カネダとガルスにも聞かれては困るから御主等を引き留めたのだ!! 思い出せ、中央の妾、東のシャルナ、南のルヴィリア!! そんで西と言えばアイツ!! おるじゃろう、あのアホ娘が!!」


「「…………『最速』の四天王!?」」


 その通り。中央の魔王城に魔王リゼラ、東の『爆炎の火山』闘技場に『最強』の四天王シャルナ、南の廃城、もとい極島に『最智』の四天王ルヴィリアがいたように、この『地平の砂漠』にも四天王がいる。その者こそ『最速』の称号を持つ四天王であり、リゼラ達も一目置く存在ーーー……、なのだが。

 何故か彼女達の表情は鬱蒼と曇っていた。シャルナは元よりルヴィリア、発言したリゼラまでもが気まずそうに眉根を顰めている。それはもう本当に、どうして言ってしまったのか、という困惑で。


「……反対ですよ、リゼラ様。彼女を頼るのは。私は断固として反対です」


「シャルナちゃんあの子と仲悪いもんねぇ……。いや僕は会いたいよ? 会いたいけどさぁ」


「解らんじゃろ……。何かの役に立つかも知れんじゃろ、アイツでも……、道案内ぐらい……」


「リゼラ様、もう一度私の目を見て言ってください」


「…………すまん、嘘付いた」


「でしょう!? 私も人の事は言えませんが、奴は四天王随一の凶暴さと戦闘好きな性格を持ち合わせています!! そのくせ戦いの流儀や武術の極みなど微塵も解ってない! それに何より奴は単細胞すぎる……、見つけた獲物は何であろうと誰であろうと襲い掛かり、ただ噛み殺し削り殺し裂き殺し、蹂躙する!! アレではただの獣ですよ! 行動と言動が頭と直結しすぎなんです!!」


「御主がここまで文句言うのあ奴相手ぐらいじゃもんな……」


「やー……、あの子の考えナシさは僕としてもどうにかしなきゃなぁと思ってたからねぇ。いつか悪い大人に騙されるよアレ、絶対……」


「悪い大人……。フォールかな?」


「「まっさかー」」


 ケラケラと笑い合うも、彼女達の笑みは直ぐさま疲弊の吐息に変わる。

 思い出すだけでも頭が痛くなってくる。あの娘のせいで何度、魔王城での四天王議会が中断されたことか。

 シャルナより好戦的である意味でルヴィリアより問題児で、そして何よりリゼラでさえ扱いに手を焼く四天王。彼女達は皆、その名を思い出し、今一度大きなため息を吐き零す。


「「「あの馬鹿かぁ……」」」


 まぁ、おまいうですよね。



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