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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
――――(前)
293/421

【プロローグA】

 ――――勇 、 よ。聖 る女 り加 えられ し者 。

違いま 。 そこは違い す。変 て る。そ は貴  道で  い。

 どう  を見 。 神の  が薄   る。 方の   ないの す。 者、嗚呼、勇 。ど か、私の声を いて  い。

 そ  違 ーーー……。


 これは、永きに渡る歴史の中で、雌雄を決し続けてきた勇者と魔王。

 奇異なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼等のーーー……。


「もしかして妾って成長期なのかな……」


「そうか。鍋一つ丸々空にしておいてその台詞か」


「いやだって最近ブラもキツくなってきたし……、パンツとかサイズが……」


「肥満か?」


「新陳代謝も凄いし……、肌にハリが出て来てるし……」


「肥満だろう」


「あ、でもご飯は美味しい! いっぱい食べれる!! これは成長期じゃな間違いねぇ!!」


「肥満だな。では本日もダイエットコースです」


「嫌だぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


激動の物語である!!



【プロローグA】


「反論があります」


 荒野地帯。燻ったような草木が敷かれ、更砂が風に流れる旅の路に、四人の人影と一台の魔道駆輪がある。

 彼等は既に夕暮れも終わり星々輝く夜空の下で野宿、延いては夕食を終えた後だった。とても長閑な、夜風が心地良い旅の一幕と言えるだろう。

 尤もそんな一幕の中、とある女はどうにも異論という名の一席を投じるようで。


「皆して僕のこと変態変態って言うけどさ、違うよね。僕はあくまで純愛者ピュアガールなだけなんだよね。だから愛情表現がちょっと雑なだけなんだよね! そこんトコしっかり理解して欲しいかな!!」


「そうじゃな。それ言うならせめて顔に被った妾のパンツ脱いでからにして欲しいかな」


「僕とリゼラちゃんパンツとのデートを邪魔するつもりかい!?」


「お母さん赦しませんよそんな変態となんて」


 先っちょだけ、先っちょだけだから!


「全く、またリゼラ様とルヴィリアは馬鹿なことを……。それより貴殿、道程はどうだ? やはり駄目そうか?」


「うむ……」


 ぎゃあぎゃあと騒ぎ合う馬鹿どもを他所に、シャルナの不安げな声を受けてフォールは地図から目を離す。

 するとその視線が向かう地平には、永遠と拡がる砂の世界があった。

 ――――『地平の砂漠』。西部全体に拡がる果てなき砂漠地帯の総称。地獄とも黄土の海とも呼ばれる場所で、彼等が滞在している荒野からその先の砂漠に入れば専門的な装備なしで野営は不可能なほど過酷な大地である。

 と言うのも、だ。砂漠という環境故に生物が生息していないとか、植物が自生できないとか、そういう事ではない。この砂漠にもきちんと生物は存在している。

 だからこそ過酷なのだ。この地獄とも黄土の海とも恐れられる海域(・・)に適応できる生物がいることが、そしてそんな環境そのものが存在していることが、異様なのだ。


「やはり……、どうしようもなさそうだ」


 フォールの視線は地平の砂漠、ではなく、その前に墓標が如く立ち並ぶ看板を睨め付けていた。

 幾つもの看板には『死を覚悟せよ、生を諦めろ』『命は一つだけ! 思い直せ!!』『神に祈り賜え、さすれば如何なる罪も許される』『万能の神はいつでも貴方を歓迎している。ようこそスライム神教へ!!』『砂漠の旅は我が社にお任せ! 安心と信頼の安値渡航!!』など、いかにもな文言が綴られている。

 なお一本明らかに真新しい看板があるのだがツッコんではいけない。


「むぅ、やはりか……。しかしそれでは魔道駆輪が……」


「そこが問題だ。……この砂漠を、魔道駆輪で渡れれば良かったのだがな。あの流砂(・・)ではどうしようもあるまい」


 そう、この看板を見れば解るように『地平の砂漠』は砂漠であって普通の砂漠ではない。蜃気楼や気温の昼夜逆転など普通の砂漠同様に過酷な環境も存在するが、何よりこの砂漠を創る砂が危険なのだ。

 砂というのは、この荒野に到るまで誰もが踏んだ砂利のように大きな粒や小さな粒がある。一粒一粒は摘めるかどうかという小ささだが、それは確かに石ころや砂粒と呼べるものだ。一粒一粒に感触もある。

 しかしこの『地平の砂漠』は黄土の海、つまり黄土色の水と例えられるほど粒が細かい。いいや、細かすぎる。摘むことも感触を得ることもできない。

 いや、比喩でも何でもなく砂漠を泳げる(・・・・・・)と言えば、その異様さが理解できるだろう。フォールの言う流砂と言うのも、全く可笑しな言葉ではない。飛び込めば水飛沫ならぬ砂飛沫が上がり、砂を撒き散らせば一粒残らず風に消えていくほどに、この砂漠の砂は細かいのである。

 まぁ尤も、足を踏み入れただけで全身が引き摺り込まれ、尚且つその温度は灼熱を超える熱砂の中に飛び込めるなら、という話だが。


「と言う事はやはり、置いていくことになるのか? 魔道駆輪は……」


「いや、運ぶ手段がないわけじゃない。ただこれが割高でな……。財政的には一般の船を借りたいのだが、うむ、魔道駆輪を運べる船を持つ業者などおらん。となればやはり、だが、うぅむ……」


 家計簿片手に頭を捻るフォールの表情は何とも苦々しい。

 そりゃ当然と言うものだろう。何せ、魔道駆輪を運ぶには彼等の旅費数ヶ月分、フォールのスライムグッズ五ヶ月分、シャルナの衣服修繕代四ヶ月分、ルヴィリアのエロ本題二ヶ月分、リゼラの食費一週間分が吹っ飛ぶことになるのだから。


「駄目だな、やはりこれしかない。……魔道大列車を使うとしよう」


「「「魔道大列車?」」」


 聞き慣れない言葉にシャルナだけではなく、取っ組み合いの喧嘩をしていたリゼラとルヴィリアまで反応を示す。

 ――――魔道列車と言えば、この魔道駆輪と同じく魔力を動力源に動く機械だ。帝国で広大な領地を移動するための手段として用いられているもので、フォール達も馴染みがある名だろう。

 しかし()列車とまで付くのだから、帝国で親しまれるあの列車とは異なるものなのだろうか。あの列車もこの魔道駆輪の数倍はあろうかという巨大さだったが、アレを超えるとなると、さて、いったいどれ程の大きさなのか。


「何じゃ、その……、魔道大列車って」


「うむ。帝国の……、エレナのことは覚えているな? あの子と聖女ルーティアによる宗教戦争の終結を祝い、聖堂教会とスライム神教の和平の証として『地平の砂漠』を横断する魔道大列車が造られたのが数ヶ月前のことだ」


「妾達が南の島行ったり大樹ブッ倒したり廃城行ってりしてた間にそんな事になっとったのか。……つってもまぁ、元々仕組まれた(プロレス)戦争だったし、話し合いで解決とか言われとったしのう」


「ちょっと待って? 終結と和平ってそれつまり、スライム神教が世界宗教になったって事だよね!? あの邪教が!?」


「これが滅亡の始まりか……」


「埋めるぞ貴様等。今ではその素晴らしい教えが人から人へ口伝いに拡がり、帝国だけではなく世界中に数多くの信徒がいる立派な一派閥の宗教だ。噂では聖堂教会の信徒と肩を並べるとか何とか……。フフ、地道な布教活動が実を結んでくれたのだな」


布教活動せんのうですね解ります。……んで? その宗教戦争云々や魔道大列車建設は良いんだけど、問題は何なの? 乗れば良いじゃないか。動いてるんでしょ?」


「うむ、そうなのだが……。実は建設されたのが数ヶ月前でも、開通式典が開かれたのがごく最近の話でな。例によって貴族や金持ちが優先席を買い占めたものだから運賃が高騰気味なのだ。それでもエレナやルーティアの希望で庶民にも開放されたものの、座席の購入倍率というのが途轍もなく、既に一般座席は数年待ちの状況らしい。……流石にそんな期間を無為に過ごせば俺が死ぬ。スライム不足で」


「是非死んでいただきたいんじゃが、確かに数ヶ月もこのクソ乾燥した砂漠で過ごすのはのう」


「となれば我々も優先座席を買うしか……。あぁ、だから運賃がという話か。確かに魔道駆輪を詰むとなれば荷物料もかかるし……」


「あとアレだからね。忘れがちだけど僕たち指名手配中だからね。『知識の大樹』や他の町みたく離れたトコならまだ指名手配書も廻りきってないかもだけど、流石に帝国建設の交通機関ともなれば確実に出回ってるだろうしねぇ……」


「……そう言えば指名手配書アレ、妾がフォールって事になったままなのか。おかしくない?」


「おかしいのはフォール君の存在ってそれ一番言われてるから」


「本当に埋めてやろうか貴様等。……兎角、うむ。そういう事だ。今回は魔道大列車での旅となる」


「おー、列車の旅か! あっ、知っとるぞ!! 駅弁とか言うのあるんじゃろ!? アレ喰いたい!!」


「いーねいーね魔道大列車の旅! 帝国じゃゆっくり乗る暇もなかったし、この砂漠ばかりの景色にも箔が付くってもんだよ!!」


「いやだから我々は指名手配中で……。その上、チケットだって何処で買うか解らないし、そもそもまだ座席が空いてるかどうかも怪しいところだぞ?」


「何、案ずるな……。それら全てを解決する素晴らしい方法がある」


「それは?」


「密航」


「「「ですよねー」」」


 知ってた。えぇ知ってましたとも。でもちょっとぐらい夢見たって良いじゃない。希望を持っても良いじゃない!

 まぁ、『夢や希望を持つだけ絶望が大きくなるんだろうなぁ』という顔をしている魔族達を見る限り、それがどんなに無駄な行為かは騙るまでもないのだが。

 斯くして、勇者フォール一行は密航という形で魔道大列車に乗り込み、新たな地を探すことになる。

 もう既にこの時点で平穏ではない彼等の旅路に待ち受けるのは、騒動か絶望か。夢や希望? そんなもんハナからあるわきゃない。さぁ行け地獄のデスロード。砂に飲まれるか欲望に飲まれるかはお前次第! GO!! HELL!! YOU!!!



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