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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
朧の廃城
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【エピローグ】


【エピローグ】


「「はい飲んでグビッといっちゃって! もっともーっともっともーっともっともーっともーっともーっともっと、一気!! グビッといっちゃえもーっともーっともともーっともーっともっともーっともーっともっと、一気!! グビッといって一気にハイハイ!! もーっともーっともっともーっともーっともっともーっともーっともっと!! フゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ↑↑↑」」


「グ、ゴ、グゴゴ……」


「「はいまだ飲める、はいまだ飲める! ごっくりいっちゃえまだ飲める!!」」


「ウ、ウゴゴ……!」


「お姉ちゃん達やめたげて。私の友達に新人歓迎会ばりの一気飲みを強要するのはやめたげて」


 どんちゃん騒ぎのワッショイショイ。先程まで静粛に覆われていたはずの王座の間は、いつの間にやらワインの空き瓶が数本転がり幽霊共が裸踊りさせられるような、とんでもない大騒ぎ空間となっていた。

 そりゃ無理もあるまい。何せ魔王どころか魔族悲願の勇者討伐が達成されたのだ。いや実際にはまだ達成されていないのだが、もう殆ど達成されたようなものだろう。祝勝会ぐらい開いたってバチは当たるまい。

 まぁ、祝賀会で一本数十万ルグは下らないワインを開けまくるのはどうかと思うが。と言うかそもそも隣の部屋から勝手に持って来て飲んでるのもどうかと思うが。リゼラに到っては未成年飲酒してる辺りさらにどうかと思うが。


「何だもうワインがないのぅ! おいそこの、もっかい取ってこい!! 良いからあるだけ取ってこい!! 何、これは触ったら怒られるヤツ? 知らん知らん、置いとくのが悪い!! 良いぞ、妾が赦す!!」


「ゴ、ゴゴ!?」


「おう幽霊ちゃんもっと脱げよ。おっぱい出せよ。ほらこっち来いよお酌しろよ。ゲヘヘヘヘヘヘ。嬢ちゃんえぇ尻しとるやないかい! ほら僕にお酌するんだよぉ、おや? こっちのワインはホワイトワインかなぁ!?」


「……! ……!!」


「お姉ちゃん達、控えめに言って最低だよ!?」


「うるせぇ最低で宴会ができるか! ハメ外せハメ外せ!! ウェイウェイウェイウェイウェイウェイウェイ酒飲め酒飲めもっともっとウェーーーーーイッ!!」


「むしろ僕はハメでハメハメしたいです」


「帰ってきてお兄ちゃぁん! 謝るからもう帰ってきてぇ!!」


 だが残念、勇者は漏れなくランナウェイ。


「まぁまぁ落ち着くが良い、亡霊の姫よ。最早ここは妾達の勝利で決まったようなものよ。あの幽霊、不魂の軍(ソロモン)とか言うたか? フォールは奴の対処方法を知らぬし、弱体化した状態では幽霊軍団さえ倒すことはできまい! これを勝ったと言わず何と言う!?」


「えー……、そ、そう? そうかなぁ?」


「そうだそうだぁ! ヌゲアハハハハハハハ!! 妾達の悲願はようやく達成されたのだ!! これでようやくあの悪魔から解放されたのだァ!! オラ祝い酒などこの程度では足りぬわもっと持ってこいもっともっとだ!! グハハハハハハハ!! ヒャホハァハハハハハハーーッ!!」


「勝ったッ! 第3部完!」


 歓喜にワインを浴び被せ、よいしょよいしょでどんちゃんワッショイ。

 もうこの現世には肉体を持たぬはずのゴースト種モンスター達でさえ見ていて胸焼けがするほどの大酒飲みだ。余ほど肴が美味いのか明けたワインはそろそろ数十本超えて数百本に上る。

 いやしかし、こんな呆け酒好きではあるが言っていることは間違いない。このままでは幾らフォールとは言え、不魂の軍(ソロモン)や悠玲軍団による猛攻に立ち向かうことはできないだろう。数で押し潰すーーー……、と。恐らくフォールが尤も苦手とする、そして皮肉にも人間の得意とする戦法により彼は滅亡するのである!


「ほーお、それでだれがこのフォールのかわりをつとめるんだ?」


「「あッ!」」


「まさか貴様らのわけはないよな!」


 二人は何処からか聞こえて来る声に思わずワインを落とし、床に真っ赤な液体が飛び散っていく。

 それはまるで、彼女達の行く末を、もとい逝く末を示すかのような赤さだった。


「……え、今のお兄ちゃんの声じゃ」


「ば、馬鹿な! そんなはずはない!! あ奴めが無事で済んでいるわけがない!!」


「そーだそーだ! だって不魂の軍(ソロモン)は本体である本を破壊しなきゃ駄目だし、他のゴースト種だって普通に斬った殴ったじゃ倒せるモンじゃないんだ!! 銀の弾丸や聖水なんて彼が持ってるワケないだろう!? 他にも方法はあるけど十字架とか、聖者の詠唱とかーーー……」


「全くだ! 奴がそんなこと」


「焚き上げとか!!」


 その一言を耳にした瞬間、リゼラとルヴィリアが停止する。

 亡霊の姫は何事かと首を捻るが、彼女達の心地良いほろ酔いなど吹っ飛んで青ざめた顔を見て、思わず押し黙る。

 世界の滅亡を前にしたかのような、悪魔の裁きを前にしたかのような、勇者の殺意を受けてしまったような、そんな絶望的な表情を前にしてーーー……。


「……遺書買いたっけ」


「魔道駆輪に何枚か書き置きが……」


「そう……」


「え、ちょっと待って!? どういう事? どういう事!?」


 大体察したリゼラ達と未だ何か解らない亡霊の主。

 だが悲しきかな、事態はその間にも着々と進行しているのである。何と言うか、その、城外の魔道駆輪で優雅に煙草を吸う男の前で、確実に進行しているのである。

 コケもツタも暗雲までもが真っ赤に染まる、漏れなく大炎上よろしく燃やされ尽くす廃城という形で、進行しているのである。


「……ふぅー」


 彼、勇者フォールは飛び散る火の粉と霧散する霊魂を見送りながら白煙を吹きかけた。

 ――――何と美しい光景だろう。やはり放火は良い、心が洗われるようだ。特に今回は成仏していく霊魂達も相まって言いしれぬ美しさを思わせる。

 それにしてもツタやコケが這っていたとは言え、よく燃える廃城だ。本や雑紙でもあったのだろうか? まぁそんな事はどうでも良い。放火の景色で今日も煙草が美味い。偶にはこう、静かな景色で酔う煙草も良いものだ。


「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッッッ!!!」」


 まぁそんな静寂も、王座の間から硝子を突き破って飛び出してきた者達により破壊されることになるのだが。


「アチィイイイイイイッッ! アチッ、アチィイイイイイイイイイイイイッ!!」


「燃える燃える燃えるゥ! 幾ら不死鳥な僕でも流石にこの火はアツゥイ!!」


「何だ、無事だったのか」


「「この外道! 悪魔!! 勇者!!!」」


「誰が外道だ」


「悪魔は否定しねぇぞコイツ」


「外道も否定できないよ君」


「貴様等……。それはそうと、シャルナはどうした? 一緒じゃないのか」


 彼の言葉で一同の視線が廃城へと戻ると、そこには火炎塗れになりながらも平然と歩み出て来る女の姿があった。

 しかし、その足取りは覚束なく視線も何処か虚ろである。彼女はふらふらと蹌踉めくと、そのまま力なく倒れ伏す。

 すると途端に彼女の体からすぅ、と半透明な少女の霊魂が現れる、が。その表情は成仏とはかけ離れた癇癪顔だった。


「何で……、ねぇなんで!? 何で誰も私のお友達になってくれないの!? 私はただお友達が欲しいだけなのに!! みんなでお茶会したりお人形さんごっこしたりパジャマパーティーしたり絵本読んだりしたいだけなのに!!」


「何だ、そうならそうと早く言え。お茶会のお茶と菓子なら幾らでも用意してやるのに」


「パジャマパーティーなら僕がね、お姉ちゃんがね、一緒にね、ウヒヒッ。絵本もさぁ、ちょっとイケない大人の絵本をさぁ!!」


「だそうじゃぞ。何、友達というのなら一応は妾もなってやらん事は」


「まともな友達が欲しかっただけなのに!!」


「「「甘ったれるな」」」


 微塵も容赦ねぇ。


「う゛わ゛ぁ゛ああああああああああああああん! もうやだこんな世界ぃいいいいいいいいいいいいい!! 私みんなのとこにかえりゅぅうううううううううううううううう!!」


 大号泣の涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、年相応の喚きと共に天へ上っていく亡霊の姫。

 これが成仏か成敗かと言われれば間違いなく後者なのだが、まぁ、このまま現世で歪んだお遊戯を続けるよりは余程マシというものだ。

 彼女のお城もお友達も何もかも全て燃えちゃったけれど、たぶん、きっと、マシというものだ。いやそうでもねぇな。


「フッ……、見ろ。幽霊達が天へ還っていく……」


「地獄に突き落とされてるの間違いじゃねぇの?」


「悪魔が言う天国ってもれなく地獄だからねぇ……。でもあの子可愛かったからきっと天国だよ」


「……まぁ、あの娘ならば何処であろうと友達を作れるさ。それより貴様等、さっさとそこで倒れているシャルナを魔道駆輪に乗せろ。こんなところに駐めていては車体に煤がつく」


「へいへーい……。あぁちくしょう、結局どうにもならなかったなぁ」


「ケッ! 今回はたまたま運が良かっただけに過ぎぬわ!! 次こそは確実に仕留めてくれようぞ、このファッキン勇者め!!」


「ちなみに貴様等は一週間飯抜きだからな。頑張って自給自足しろ」


「「いやだぁあああああああああああああああああ勇者様ぁああああああああああああああああ!!」」


「無様な連中だ……」


 少女の倍は号泣する連中を引き摺りつつ、彼は魔道駆輪へと戻っていく。

 ――――色々あったが、何はともあれ一件落着。この廃城での騒動も腰を落ち着けた。

 しかし未だ旅は終わらない。これから目指すべき道は未だ永遠と続いているのだ。地平の彼方より遙か遠く、あの夕暮れへ伸びるように、続いているのだ。

 だから自分達はきっと歩き出すだろう。この先の道へ向かって、例えそこにどんな試練が待ち構えていようとも、願いを叶えるために。


「ところで妾達、ここに何しに来たんじゃっけ」


「……あれ? フォール君への逆襲じゃなかった?」


「阿呆共め……、熟々救えん奴等だな。目的まで忘れたのか? 全く、俺がこれを持って来なければ全くの無駄足になるところだったぞ」


 フォールが彼女達へ投げつけたのは一冊の本だった。

 それこそ彼が探し求め、この廃城に来た理由のーーー……。


「「スライム大冒険……?」」


「素晴らしい絵本だろう?」


 これにて廃城の激闘、閉幕である!!


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