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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
朧の廃城
287/421

【プロローグ】

 ――――勇者、勇ましき者よ。聖なる女神より加護を与えられ賜うし者よ。

 なりません、それは罠です。卑劣なる最智の仕掛けた、おぞましい罠なのです。

 その呪われた場所には奴の残した魔力と共に、言葉にするのも恐ろしい者達が待ち構えていることでしょう。嗚呼、亡者とてそこまでの怨嗟を持つ事はないはずです。勇者、どうかその道へ進んではいけません。勇者よ。

 それは貴方を苦しめる。姿形に惑わされてはいけない。嗚呼、その憎悪を受けてはいけない! 嗚呼、勇者よ、どうかこの声をーーー……。



 これは、永きに渡る歴史の中で、研鑽を賭し続けてきた魔王と東の四天王と南の四天王。

 妙異なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼女等のーーー……。


「第おぅんふ回……、勇者対策会議ぃ~。本日の議題は『どうすればフォールをブッ殺せるか』です。ちなみに今回の茶菓子は緑茶と薬草饅頭な」


「凄いよね。司会の絶妙なやる気の無さもだけど第一回目から議題が変わってないこととか」


「もうただのお茶会になりつつあるしな……」


「だってもうどうやってもアイツ倒せねぇもん。茶菓子うめぇ」


「まぁ、でも絶対有り得ないってワケでも……。どうする? もしそんなチャンスがあったら」


「わ、私はあくまで正面から堂々とだな……! あの『爆炎の火山』での雪辱を果たすべく!!」


「え、全力でブッ殺だけど」


「手段は選ばないよね」


「き、貴殿等…………!!」


「まぁ一番の問題はそんな機会が来ない事なんじゃが」


「「ですよねー」」


「あーあー降って来ねぇかなそんな機会ぃーっ! あー茶菓子うめぇ!!」


「……取り敢えず奴特性のクッションと茶と茶菓子を教授している辺り、不可能かと」


「僕達は脱せられるだろうか……、この極楽の生活から……」


 覇道の物語である!!



【プロローグ】


 平原の砂利道を行く魔道駆輪。しかしその速度はいつもよりも遅く、車輪は回る度にぎしぎしと嫌な音を立てていた。いや、それどころか車体までもが道なりに合わせて大きく上下に揺れ動いているではないか。

 魔道駆輪自体に問題があるわけではない。週に二度はフォールが手入れしているし、点検を欠かしたこともない。連日の旅路で痛んではいるものの、こんな何気ない砂利道を行くのに問題などあるはずもないのだ。

 そう、積載量を五割増しで超過さえしていなければ、だが。


「うぅむ、いかん。流石に積み過ぎたか……」


「阿呆! ただでさえシャルナで満員、ルヴィリアが乗って限界いっぱいだったのにこんだけ荷物を積めばそら車体も軋むわ!!」


「……仕方ない、降ろすか」


「そうしろそうしろ。潰れる前に降ろした方が良かろうて」


「えー、これ降ろすのぉ? 勿体ないなぁ。この新しいお鍋とか高かっただろうに」


「「降ろすのは貴様ルヴィリアだが……?」」


「フッフゥー! 心折れそう!!」


 ちなみに積載量の一割はルヴィリアのエロ本やエロ道具、下着コレクションである。


「貴殿等、馬鹿なことを言ってる場合か! もう廃城は目の前だと言うのに!!」


 と、そんな間抜けな話をしている間にもシャルナから喝が入る。

 無理もあるまい。先日ーーー……、『知識の大樹』で起こった顔貌(フェイカー)との戦い。大樹丸々一本と書物数千冊が犠牲になったあの戦いで、辛うじてフォール達は勝利したものの、生憎とその者には逃げられてしまった。

 しかし今、その顔貌(フェイカー)が根城としている廃城が目の前にある。元は『最智』の四天王ルヴィリアが根城としていた場所であり、今現在は謎の魔族集団、魔族三人衆が根城としている、その場所が。


「あの廃城は、未だ目的も解らない魔族三人衆に対してようやく先手を取れる機会なのだぞ!? 顔貌(フェイカー)……、フォールの話によれば四肢(エニグマ)なる者もだが、このまま奴等をのさばらせておくわけにはいかないと言ってたじゃないか!! そんな奴等の根城を前にして、何だこの腑抜け具合は!!」


「ふぇい……かー……?」


「シャルナ、コイツこの前のスライム討論会が楽しすぎて目的忘れとるぞ」


「スライム不足を補うために行かせたのにですか!?」


「結局、どう足掻いてもスライムだよね……」


 それが勇者クオリティ。


「だからな? まず我々がスライムAとして奴等がスライムBとするだろう?」


「喧嘩……、ダメ……、仲良く……」


「じゃ、じゃあ我々がスライムで奴等がスライムを傷付ける悪い奴で」


「よし殺」


「すまない例えが悪かった……!!」


「あの説明終わるのかな……」


「それは解らないけど……、今回のチャンスは逃すべきじゃない事だけは確かだね。何せ魔族三人衆は目的も存在も、その奥にいるであろうあの御方(・・・・)とやらの事もまだ全く解ってないんだ。できればあの廃城探索で一つぐらいは解明したいところだよ。それにあの廃城は元々僕の根城だ。ちょっとしかいなかったけど、構造はしっかり覚えてるよ」


「つまり初めて妾達の有利的な状況にある、ということか。……いや今まで不利になったのってフォールのせいじゃ」


「それは言わないお約束だから……」


「だぁーかぁーらぁー! スライムは一旦置いておくんだ!! 大切なのは今この話だから!!」


「スライムより大事なものなどあるものか!!」


「ルヴィリア-! 説明代わってくれぇえーーー!! ルヴィリアーーーっ!!」


 悲痛な叫びに見舞われながらも魔道駆輪は砂利道を進み、遠く果てに聳え立つ廃城を目指していく。

 しかしその魔道駆輪を駆る彼等はまだ知らない。自分達がようやく先手を打ったと笑うその場所に、おぞましき罠が待ち構えていることを。誰も彼もが震え上がり、例え魔王であろうと『最強』であろうと『最智』であろうと、抗えぬ罠が用意されていることを。

 ――――え、勇者? 勇者は、なんていうか、その。


「……スライムではないじゃないか!!」


「初めからそうだが!?」

 

 現実に戻ってくるところから始めるべきですね。はい。



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