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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
天高き叡智(後)
281/421

【2】


【2】


「あらあらうふふ、良い天気だこと。こんな日は優雅に午後のティーパーティーを開きたいわ。ねぇ、ルヴィリアさん?」


「そうですわね。温かい紅茶に甘いクッキー……。空を舞う小鳥たちを愛でながらエルゥェガントに過ごしたいものですわ、カネ子さん」


「あらあらうふふ」


「まぁまぁうふふ」


 大樹の樹洞に拡がる朗らかな日差しと穏やかな草木の歌。

 そんな平穏の景色を眺めつつ、某魔王により生贄とされたはずのルヴィリアとカネダ、もといカネ子は何処ぞのお嬢様のように微笑み合っていた。

 今、彼女達がいるのはこの大樹の中でも数少ない芝生の映えた庭園部分であり、宮殿造りの様はまるで夢物語に出て来るお城さえ想起させる。

 いや、あの安らかな木漏れ日の様など夢物語以外の何と言うのだろう。思わず、この場所に安らぎにきた受験終わりの学徒達まで微笑んでしまうような、そんな平和な場所なのだ。

 まぁーーー……、それはいつもの話で、今は幽霊から逃げるべく宮殿の頂上に捕まるルヴィリアと、そんな彼女を引き摺り降ろそうとするも脚撃連打で顔面に連続ダメージを受けるカネダのせいで色々と台無しなわけだが。


「あらあゴブッ! 足癖が悪いでございますわよルヴィリアさブフッ!?」


「ごめんあそばせ! 昔からじゃじゃ馬と呼ばれていますことよ!!」


「では馬は馬らしく下の幽霊が密集した草原で駆け回っては如何かしらボフッ!? ついでに這い上がってくる奴も叩き落としてごらんにィブゥッ!?」


「あら、いやですわ! モノの例えでございましてよ!! オホホホホホホホホホホホホホ!!」


「そうでございましたか、これはお上手ですこゥグッ! ちょ、あの、一回話し合おう? 一回話し合おゲァッ!?」


「うるせぇ犠牲になるのは君だ!! さっさと落ちやがれこの女装変態がァッ!!」


「だからお前も充分変態だろ! どうすんだあの幽霊ども!? 撃っても燃やしても追ってくるって何だよ! 虎の子の照明弾まで使ったのにノーダメージだぞ!? しかも何かさっきより増えてるしよぉ五倍ぐらいに!! もうやだ毒とヤンデレと幽霊でだけは死にたくないぃい!!」


「ヤンデレはむしろ御褒美でしょ」


「お前マジでベッドに縛り付けられたまま猛毒注ぎ込まれてから言えよ」


 ※猛毒=クリームシチュー=石灰シチュー。


「だぁー! もうこんなトコで言い争ってる場合じゃない!! 問題はあの幽霊どもだ!! モンスターや精霊なら物理攻撃が効かなくても必ず対処する方法ってモンがあるだろう!? ルヴィリア、アンタは知らないのか!?」


「知らないよ! 僕に聞かないでくれる!? そもそもゴースト種だのゾンビ種だのはまぁ珍しくないにしても、他人に見えないとかあんな蟻の大群みたいな数だとかは有り得ないんだ! 召喚に必要な魔力だってタダじゃないし、そもそも召喚魔法なんてもの、もう使えるのが世界に数人いるかどうかって話だよ!? どんだけ古代の魔法だと思ってんのさ!」


「俺に聞くなよ!!」


「僕に聞かないでよ!!」


「「じゃあ何ができるんだ、この変態!?」」


 Q.特技は何ですか?

 A1.女装。A2.くんかくんかぺろぺろ。


「よっしゃオーケー落ち着こう! この場は不本意だけど手を組もうじゃないか。ひっじょーに不本意だけど!!」


「こっちも変態と手は組みたくねェが、幽霊どもに押し潰されたり死神フォールとダンスを踊ることになるよりは百倍マシだな。アンタの提案通りここは共同戦線といこうじゃないか。……まずは何にせよこの包囲網を突破しなきゃならない。もう屋根周りどころか辺りの庭園一帯に到るまで囲まれちまってるがな」


「策がありそうだね?」


「あぁ、勿論だとも。だがその為には俺に着いてきて貰わなくちゃいけない。……そういうわけだ、麗しくもない変態レディ。どうぞ御手を拝借、この騎士が案内いたしましょう」


 嫌にキザな台詞を吐きながらカネダは彼女へと手を差し伸べる。

 そう、それこそ悲劇の姫を救う凛々しき騎士のように!


「……いや待って? 今これ手ェ離したら落ちるよね、下に」


「…………」


「落ちるよね?」


「………………チッ」


 騎士、顔面にドロップキック炸裂。

 彼は無残にも幽霊どもの群れへ真っ逆さま。さようならカネダ君のことは忘れない。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 とは行かず、どうにか途中で屋根に捕まり、辺りの装飾を蹴り飛ばしながら銃を乱射して幽霊を牽制。辛うじて生き残ったようである。なおルヴィリアは露骨に舌打ちした。

 意地汚く姫を囮にするような騎士など、どうぞ敵軍の中で息絶えて宜しかったものだが。いやむしろ息絶えろ、惨めに死ね。


「おいお前ぇえええええええええええええええ! ちょっとぐらい援護してくれぇえええええええーーーっ!! 騎士が、騎士が死ぬんですけどぉおおおおおおおおおおおおおお!!」


「は? お姫様を迎えに来れるのは女騎士だけって知らないの?」


「それ絶対ダメな組み合わせじゃないですかやだー……、ってあれ? 割と押せてる! 何か解らんが幽霊どもは弾丸が苦手みたいだぞ!!」


「くっ、殺せ!」


「その台詞そういう使い方じゃねーからァ!?」


 残念ながら騎士は死ななかったものの、カネダの言葉通り何故か幽霊どもは彼の放つ銃弾を嫌っているらしく、近付こうとしない。つい先程までは撃っても撃ってもお構いなしだったというに、これは何事か。

 もし逃亡中と差があるとするならば、精々が双銃の二丁目を抜いたぐらいだがーーー……。


「何でだ? 確かに銃の種類は違うが、別に変わったモンじゃないぞ……? 二丁流? 二丁流にしたからか?」


「そんな馬鹿なことあるもんか! ゴースト種、ゾンビ種……、アンデット種!? だったら銃弾が銀製だったとか、魔力込めたものだったとか……」


「いいや、これは普通の鉛玉で」


「銃か弾丸を聖水に浸けてたとか」


 その一言に思わずカネダは反応するも、直ぐさま有り得ないと首を振って否定する。

 ――――まさか小脇に抱えていたあの兜(・・・)のせいか? 確かにアレなら直ぐ銃を引き抜けるよう、二丁側の方で抱えていたが、いやまさかあんな兜が何か効果を発揮したわけでもあるまい。持っていたのは先日、馬車で揺られるほんの数時間だし、ちょっとくっつけてただけで効果が出るなんて、純正の聖水より遙かに強力すぎるではないか。

 もしあの兜がそんな代物なら、聖剣並の聖遺物ということにーーー……。


「カネダ! 兎に角それに効果があるなら逃走経路を開くんだ!! できなきゃ君が死ぬだけだぜ!!」


「いっ、言われなくても解ってるわ! この幽霊どもめ、よくも俺を追い詰めてくれたな……。さっさと成仏しやがるんだな!!」


 カネダの乱舞乱射は辺りの幽霊ばかりか、野次馬や涼んでいた人並みまで全て追い払うほど凄まじい速射力を見せる。元より狙撃とギャンブルだけなら誰にも負けないと豪語する彼だが、速撃も一級品以上のものだ。

 そう、今この空間は正しく彼の独壇場と言っても良い。装填速度から射出速度に到るまで、人智を越えた速さがそこにある。何者も近付けぬ文字通りの弾幕は幽霊どもを一歩分、二歩分、三歩分と次第に遠退き初めて行った。

 そのまま四歩、五歩と次第に距離は開き、六歩、七歩、六歩、五歩、四歩、三歩。


「待ってこれ近付いてきてない!? 効力切れてない!?」


「あー……、そりゃ弾丸への付与なら撃てば終わるし、銃身への付与でも効力は薄れるよね。何と言うか、うん。ドンマイ」


「やめろー! 十字架を切るなー!! 俺はまだ死にたくないぃー!!」


「違うよ切ってないよ折ってるんだよ」


地獄に落ちろ(ゴートゥーヘル)ですかぁアアアアアアア!?」


 恨みを晴らすなら徹底的にです。


「わ、悪かった! 俺が悪かったから手を貸してくれ!! 盗賊なら財宝に埋もれて死ぬもんだろぉ!?」


「君の死に方はどうでも良いけど、そいつ等を倒す手段が減るのはヤバいね。……だけど、おかしいな。どんな存在にだって、あのフォール君にさえ弱点はあるんだ。そう、無敵ってことは有り得ないはずなんだよ。必ず何か弱点が、つまり法則があるはずなんだ」


「召喚魔法に法則なんてあるのか!? 古い魔法過ぎてそんな事知らねーぞ!?」


「僕だって知らないよ! ただ、これは普通の召喚魔法じゃないのは確かなんだ。そもそも何で僕達を狙ってるのかとか、この数を召喚する魔力を何処から来てるのかとか、何であの銃撃は嫌がったのかとか、僕達が逃げてる間に増えてる理由は何でなのか、とか! 大体こんな魔法がどうやってーーー……。あっ」


「気付いた? 何か気付いたな!? よし教えろ何だ! 何に気付いた!!」


「……Hey、ジョニー。実はお知らせが二つあるんだ。嬉しいお知らせと悲しいお知らせさ」


「Oh,何だいマイケル! 僕のワイフがふわふわし過ぎて何処かへ行ってしまったって話かい?」


「何だって? そりゃ大変だ、行方不明じゃないか! ……でも君にワイフなんていたのかい?」


「もちろん! 中身は空気ガスだけどね!!」


 HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA☆


「………………で?」


「幽霊どもの発生源を特定したけど、その幽霊どもが今の倍ぐらい迫ってきてる」


「ナイスジョーク」


 No,ナイスジョーク。

 Yes,ブラックジョーク。


「あ、これもうダメだわ。ウフフ、金銀財宝の前に幽霊相手に死ぬとかマジヤバス……」


「諦めるのは早いぞ変態! 僕の魔がっ……、ゲフンゲフン! 僕の視力で捕らえてるからまだ辛うじて距離はある!! 幽霊共を退けて逃げ切るぐらいはできるはずだ!」


「だって弾丸効かないじゃあん……。もう無理じゃあん……。やっぱりお前達一行は俺の死神だったんだ……。もぅマジ無理ホネ埋めょ……」


「だぁーかーらぁー諦めるのは早いってばぁ!! 奴等の本体は本だ! 学徒達が持ってた参考書なんだよ!! 君の乱射で逃げた学徒達の本がその辺りに落ちてるけど、そこから確かに魔力が放たれてるのが視えるんだ!! きっと、幽霊の数が増えていったのは僕達が逃げるときに擦れ違ったり僕達の近くにいた学生が本を持っていてそこから召喚されたからで、魔力はその学生達から奪ってるんだろう! つまり、その本さえ破壊できればまだ逃げ切れる可能性はーーー……」


 ルヴィリアが言い切るよりも前に、幽霊の一体が霧散して消え失せる。

 代わりに揺れ動くのは銃口より放たれる白き硝煙。その尾を引く鉛弾は辺りに散らかった教本を一切容赦なくド真ん中で撃ち抜いていた。

 数多並ぶ幽霊という障害などモノともせぬ、正確無比な射撃である。


「……本に仕組まれた召喚魔法、ね。あの魔方陣(・・・)はそういう意味か。成る程、黒幕どもの目的が見えてきたじゃないか」


 先程までの怯えなど微塵も見せず、カネダはあくどい笑みを浮かべて弾丸を装填し直していく。

 その動きは決して速くはないが、全く隙がない。幽霊達が飛び掛かり一瞬でも隙間を空けようものなら、辺り全ての本をそれより早く撃ち抜くだけの実力がこの男にはある。

 今そうして見せたように、ド真ん中を迷うことなく撃ち抜けるだけの技術が、この男にはあるのだ。


「……フ、フフフフ。お前等なんぞ対処法が解れば屁でもねぇ! 掛かってこい幽霊ども古ぼけた本体なぞ全て撃ち抜いてくれるわァアアアアアアアアッッ!!」


「この盗賊小物感スゲーな」


 これでも伝説の盗賊です。

 と言う訳で討伐方法が解れば後はもうこちらのモノ。カネダは辺りの本を魔方陣があるモノないモノ次々に撃ち抜き、瞬く間に数十近い幽霊を霧散させていく。乱射している銃弾の数や装填速度は先程と変わらない、いやむしろ速くなっているというのに一発とて外さない辺りは流石と称賛できるだろう。

 ルヴィリアも頂上の安全地帯で感心してちまちまと本を燃やしつつも、この幽霊どもに対し思案を深めていく。


「それにしても……、この幽霊は何なんだろう。召喚魔法なんて遙か古代の話だ。物理攻撃無効、属性攻撃無効なんてイベントエネミーにしても凶悪過ぎないかい? 少なくともただの人間風情が操れる次元のものじゃないし、本にそれを仕込むなんて魔族にだって無理な話だ」


 ――――ここまで来れば、思いつくものなど限られる。

 『あやかしの街』での出来事と言い、その後の無人島の出来事と言い、随分くどく付きまとってくれるではないか。いや無人島で遭った酷い目に限っては某勇者が原因の九割なんだけども、そこは八つ当たりということで済ませておこう。

 だがどのみち、近いうちにあの者とは戦わねばなるまい。この様な企み、いつまでも続けさせるわけにはいかないのだから。


「……さて、愚痴は程々に殲滅戦といこうじゃないか。おい女装変態盗賊、ここが活躍どころだよ! キビキビ働きな!!」


「うるせぇクソレズ変態女め! フォールとお前だけは絶対合わない!! あぁ間違いないね、もう絶対組みたくないからなぁーーーっ!!」


 ぎゃあぎゃあ叫び、乱射爆炎大騒動。変態組ゴーストバスターズがまさかの大活躍である。

 しかしこんな事はまだ序の口でしかない。事件は未だ進行中、この大樹の中に蠢く脅威は今もなお悪しき計画を進めているのである。そう、発動すれば最後ーーー……、この大樹全てを壊しかねないほど凶悪な計画が。

 ――――だが、それを阻止する者達もまた、走っているのだ。例えば、ルヴィリアとカネダが大乱闘を巻き起こす庭園から遠く離れたとある学統を訪れる比較的マシなこの二人組も、必死に息を切らしてその場所へ駆け込んで行くのである。


「ホントに協力してくれるんじゃろーな!? さっきの偉そうなオッサンみたく鼻で笑ったら顔面爆破する自信があるぞ!?」


「ご、ごめんなさい! でもここはどうしても研究者の立場が高いから、学生の身分じゃまともに話を聞いてくれないことも多くて……。確かに本の中に魔方陣が仕組まれてるなんて信じられないかも知れないけれど、このままじゃ……」


「え、えぇい、弱音を吐くな! 今向かっとる旧友の言葉なら研究者どもも聞くやも知れぬのだろう!?」


「そ、それはそうだけど……」


 疾駆しているのは誰であろう、リゼラとガルスだ。今行動している四組(※1名行方不明)の中では比較的まともな面子である。

 しかしそんなまともさとは裏腹に彼等の捜査は難航中だった。先ほど話していたように『知識の大樹』で権力を持つ研究者達は彼等の説得に耳を傾けることはなく、さらにいつもなら見かけるはずの樹木マークの学徒達まで見当たらない始末。故に、こうして一番遠い彼等の研究室までわざわざ足を運んでいるのである。


「何、この大樹の中でも学徒の身でありながらある程度の権力を持っとる連中なのじゃろう? そいつ等を利用すれば妾達とて頭の硬い人間の老い耄れ共を動かせようぞ!!」


「……はい、その通りです! 僕達がこんなところで諦めるわけにはいきませんよね!! 皆の力を借りる僕達がこんな弱気でどうするぅううううううううううううううううううううう!!?!?」


 思わずガルスは叫びながら膝を崩して大地に平伏した。

 当然である。今から助けを求めようと訪れた研究室が、まるで嵐でも過ぎ去ったのかと思うほどの凄惨さに見舞われていたのだから。

 樹木マークの学徒達は一人残らず気絶させられ、研究室内も文字通り引っ繰り返り、扉に到っては砲撃でも行われたのかと思うほどの破損具合。一目で襲撃があったことが歴然たる様子だ。


「そんな、みんな……! ひどいっ……!!」


「くっ、妾達がここに来ることを見越しての襲撃か……! 相手は途轍もなく頭の回る奴じゃな。何と非道な、おのれ何者なのだ!?」


 ※勇者フォール傭兵メタルです。


「皆は無関係じゃないかっ! 非道い、人間のやることじゃないよ!!」


「うむ、恐らく人間の仕業ではないな。ここまで荒らすことなど人間には不可能だ……。きっと獣か亜人に違いない」


 ※勇者フォール傭兵メタルです。

 

「ふん、変態どもに巻き込まれかけるわ、研究者に鼻で笑われるわ、やっとこさ辿り着いた研究室もこの有り様だわ……。何者か知らぬが妾を謀ろうとは良い度胸だ。覚悟しておけよ?」


 ※勇者フォール傭兵メタルです。


「給食室襲撃できなかった怨みも晴らしてやるからなッッッッッッッッッッッ!!」


 ※それはお前が悪い。


「しかし此奴らが使えぬとなると、いよいよヤバいな。マジで大樹中の学校を襲撃して学徒共から本を強奪、焼却とかいう事をやらねばならん。いや流石にそんな蛮族みたいな事は時間的にも労力的にもできぬがな?」


「そ、そりゃそうですよ。そんな事やってる人いたら速攻で憲兵のお世話ですよ?」


 なお。


「あ? 違ェよ誘拐じゃねェよ勧誘でもねェよテメェの持ってる本見せろつってんだろ? 変な意味とかでもねぇよただテメェの持ってる本に魔方陣がだからオイやめろ憲兵呼ぶんじゃねぇややこしくなンだろーがおいテメェコラ聞いてんのかブッ殺すぞおいちょ待てテメこの上等だやるってンのかこのクソ憲兵どもテメェ等百人単位で一億ダース持ってこいやこのクソッタレがあァん!?」


「木の根アイスおいしい」


 ※そう、勇者フォール傭兵メタルです。


「しかし手掛かりがない事にはどうしようもあるまい。研究室もこの荒らされ様ではな……」


「えぇ、せめて何かーーー……」


 難航。手掛かりであり唯一頼れるはずだった研究室が(※勇者と傭兵に)破壊されたことで、彼等の捜索は困難を極めることになる、と思われた。

 ふとガルスが気付けば、樹木マークを持つ学徒の一人が傷付いた体を起こし、何かを伝えようと必死に藻掻いている。彼はその者へ走り寄って手を握ると、か細く途切れる言葉に耳を傾けた。


「同志……、同志ガルス……。貴君ならきっと……、エスマール殿と共に……、うっ!」


「大丈夫ですか!? しっかりしてください!!」


「し、死んでる……」


「いや気絶しただけですよ!? ……そ、それにしても、エスマール、と言っていましたね。そんな人の名前は聞いたことがない。最近新しく教授になった人かな? 少なくとも僕が帝国分校に在学していた頃はそんな教授の名前、見たことなかったのに」


「しかし……、ふむ、エスマール。こ奴らの親玉のような存在か? その者に話を通せば協力を得られるやも知れぬな。こっちがチマチマ行動するのに先回りされて手駒を潰されるならば、こちらもマンパワーで立ち向かうより他あるまい」


「まんぱわー……? 数で責めるということですか?」


「そうじゃの。恐らく御主の言う通りであればその魔道書に仕組まれた魔方陣とやら、発動させれば終わりじゃろう。それだけの魔力を何処から引っ張ってくるかは知らぬが、引っ張ってくるだけの方法があるから計画を立てたのだろうしな。妾達は数でその魔方陣とやらの計画を根本から覆す!」


「な、成る程……! つまりカネダさんやルヴィリアさんに黒幕の方は任せておいて、僕達は魔方陣が仕組まれた本をできる限り回収するということですね!! 離れていても信頼して協力するなんて、凄いですよ!!」


「フッフッフ……。信頼しとったらやるわけねェだろ……」


「あれぇっ!?」


 安心と信頼の暴走率です。


「考えてもみろよ? お? 御主あの面子と残りの面子どもでまともな作戦になると思うか? この大樹が無事で、と言うかこの妾が無事で済むと思うか? 今までそんな儚い希望が何度打ち砕かれたきたと思う? 妾はただ平和に世界中の喰いモンに囲まれて一生楽して生きて行きたいだけだっつーの!!」


「すごいだらくせいしんだ……」


「その為にならエスマールだかエスポワールだかカマンベールだか知らん奴の手も借りてやるわ! 行くぞガルス、妾のフードライフのために!!」


「……目的変わってるような気もするけど、大丈夫かなぁ?」


 だが大丈夫ではないのだ。

 こうして、目的や方向性は違えど彼等は確実にエスマールへと近付いていく。

 しかし未だ計画の全貌を知る者はたった二人。否、その者達でさえも計画を阻止する最短の道を走っているか定かではない。例え幾ら力があれど、例え幾ら能があれど、例え幾ら結束があれど、幾億と積み上げられ組み込まれてきた計画を阻止することは容易ではないのだ。

 然れど彼等は諦めない。そう、諦めるわけにはいかないのだ。

 この大樹を救うという遂行な目的ーーー……、ではなく大体自身の欲望のためだけども、諦めるわけにはいかないのである!


「その為にもまず給食室リベンジをじゃな!!」


「リゼラさん? リゼラさん!?」


 でもやっぱ無理かも知れないネ!!



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