【5】
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「……で、何か弁明はあるかね」
さて、そんな決戦前の雰囲気からところ変わって『知識の大樹』最下層にある留置所。
薄暗く、陽の光どころか蝋燭の灯火さえ覚束ないそこの一室には、一人の男の姿があった。セーラー服に身を包み、片方だけ綺麗に紙を纏めた伝説の盗賊と呼ばれる男の姿があった。
「いや違うんですよ。ホント違うんですよ」
「何が違うんだ。君に服を脱がされ女装させられた彼はね、今でも別室で泣いているんだぞ!!」
「いやだってあの、この国の危機でね? 兵器どもは見付からないし、こうなったらもう黒幕を探る為に学校へ潜入しないといけなくてね?」
「何が黒幕だ! 巫山戯たことを言うんじゃない!!」
「ふ、巫山戯てねぇよ! ホントにヤバいんだって!! 受験生達の日程や予定を事前に知ることができ、尚且つ操作できる人間は限られる! この国の地位階級的に考えれば研究者であることは大前提としても、本を持たせられる……、教師か、そして試験会場でも話を通せる試験官が怪しいんだ!!」
「君が何を言ってるかは解らないがね、学校に潜入するなどこの国では重罪だぞ!? 第一普通に潜入するなら別に男子生徒の制服でも良かったんじゃないのか!!」
「いやそこは……、ほら、ね? 違うんですよ。変装なら女装の方が自信あるっていうか」
「では君は女装が趣味ではなく純粋に変装技術として行ったと胸を張って言えるのかね!?」
「ぬ、ぬぐッ…………!!」
伝説の盗賊は奥歯を食い縛り、拳を強く机へと叩き付けた。
――――解っている。解っているのだ。それが無謀であったことは、解っているのだ。
だが仕方ないではないか。人は誰しも魂の叫びには抗えない。目覚めてしまった意志に抗うことなどできない。例えそれが邪悪なものであろうとも正しきものであろうとも、抗いは赦されない。
人は無限の可能性を秘めていると誰かが言った。だが可能性とは得てして良きものばかりではないのだ。光があれば闇があり、太陽があれば月陰がある。人は、誰もが闇に堕ちる可能性を持っている。
けれどーーー……、それに立ち向かう勇気を持つ者もまた、人なのだ。我々には影があるけれど、それを照らす光があるのもまた事実。
「……俺は、だから、俺は! 自分の影に立ち向かっていける人間になりたい!!」
「そうか、じゃあまず牢屋で罪を償うところから始めような」
「うわぁあああああああああああああ嫌だぁああああああああああああああああ投獄はもう嫌だぁあああああああああああ!!」
「前科が!? ……ん? いや待て君、前科と言えば何処かで見たことあるな。確か、そう。帝国から送られてきた指名手配書に金髪盗賊のカネダとかいう男が」
カネダ、逃亡。憲兵、絶叫。警鐘、乱鳴。
舞台に揃った役者が速攻で逃亡を決め、僅か数分で二名ほど脱落することになる。
いや、別に戻って来れないことはないと思うが、留置所の窓を突き破って半女装男二名が駆け出し、その後ろから数十人単位の憲兵が追いかける様を見るに、きっとタダで戻ってくることはないだろう。
――――まぁ、そもそもサドスティック親子連れとかショタコン四天王とか女装盗賊&冒険者とか変態レズ四天王&おうちかえりたい系魔王とかが突貫する辺り、タダで済むはずもないのだが、その辺りは黒幕ことエスマールの手腕に期待ということで置いておこう。
「いやお前は似合うと思ったんだけどナー」
「割と本気で縁切るの考えて良いですか」
とか。
「なぁガキ、頼むから夕飯は別のトコにしねェ? いや料理の値段見てから言ったンじゃねェよ? 違ェよ? ホント違ェよ?」
「メニューの高いものから順にコースで」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
とか。
「フォールきゅぅ~ん♡ フフ、ウフフフフ、お姉ちゃんが今行くぞぉ~~~…………♡」
とか。
「一瞬!一瞬だけだから! 一瞬この黄色い帽子とランドセル背負うだけだから!! あとちょっとフリフリな服着てルヴィリアって甘い声で呼んでくれるだけで良いから! 何なら上目遣いだけでも良いから!! いやホントそれで良いからリゼラちゃん! 脱ごう、まずは脱ごう! いつもの服脱いで違う君をさらけ出そう!! 一瞬! 先っちょ、先っちょだけだから!!」
「うぉおおおおおおお離せクソこの変態がぁあああああああああああああああああああ!! 妾のイラストをくらえええええええええええええええええええ!!」
「ぎゃああああああああああああ眼がァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
とか。
こんな大惨事メンバーが一箇所に集まることになるけれど、きっとエスマールなら大丈夫。
頑張れエスマール、応援してるぞエスマール! 彼の明日はどっちだ!!
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