【4】
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「イカ……、イカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカ! ここンとこイカしか喰ってねェじゃねぇかよ!! どうなってんだァ? あ゛ァ!?」
「うるせぇ怒鳴るな。そもそもお前がフォールに会いたいっつーからこの街に滞在してんだろーが」
「あ、あの、落ち着きましょうよ。御二人とも……。ほらまずイカでも食べて」
「やめようガルス。幾らお前の料理でも流石に俺も飽きてきた。このままじゃ中毒になりそうだ。……取り敢えずこの特性イカコーヒーを飲んで落ち着こう」
「もう中毒になってンじゃねーか」
さて、ところ変わって海洋都市。先日のキングクラーケンによる浸水被害も収まったこの街の港に、酷く騒がしい三人組の姿があった。
彼等こそ、この街の危機を救い数多のキングクラーケンの幼体を仕留めた男達なのだが、どうにも本人達はそんな祝杯を挙げられるような様子ではない。
と言うのも、誰も彼もが男達の一人の余りの粗暴さと凶暴さに近付くのを戸惑っているからである。
「いやな? 間違いねェんだよ。この街にフォールがいるはずなンだよ。アイツの匂いがすンだよ……」
「……これが変態的な意味ならどれだけ良かったことか」
「普通に獣的な意味だから困りますね……。いや、でも僕も一刻も早くフォっちに会いたいからこの人の野生レーダーは助かりますよ。色々と話したいこともあるし……」
「あぁ、あの言ってたヤツだっけ? イトウ第四席から受け取った研究資料というか、予測論文みたいな。でもアレだって完璧じゃないんだろ? あくまでイトウ第四席の予測と推測の入り交じったブツって話じゃないか。……おいメタル、煙草くれ。お前まだ持ってただろ」
「あ? ったく、仕方ねェなァ……」
メタルは懐から煙草を取り出すも、どうやら先日のキングクラーケン幼体討伐の際に水浸しになったらしく、煙草は乾いてクシャクシャになっていた。
しかしそんな細かい事を気にする彼ではない。まぁ吸えるだろうという事で特に何も言わずカネダへと手渡してやる。
「えぇ、まぁ確定事項でないという点ではそうなんですが……。けれど先生は確実性のない議論をしない人です。何かあの人の長年の勘か、それ以上の直感か……、感じるところがあったんでしょう」
「まァ、俺も別に良いけどさ……。それで、どうするんだ? やっぱりこの街で探すのか?」
「いえ、たぶんこの街で滞在を続けてもフォっちとは会えないでしょう。もうそろそろ二週間になりますからね、これ以上は時間の無駄だと思います」
「ケッ、仕方ねェ。俺が感じたのもただの残り香かも知れねェしなァ。……ったくよぉ、グレイン海賊団とやらがいりゃァもっと早く見付かっただろーによォ」
「仕方ないだろ、何でだか根城にも街にもいなかったんだから……」
なお、メタルの感じたフォールの匂いというのは彼等の魔道駆輪のことである。
さらにメタル達は本日の夕方頃この街を発つことになるものの、その数時間後にグレイン海賊団が丁度彼等の屯する港に到着することになるのだがーーー……、当然、彼等がそんな事を知る由はない。
「けどガルス、どうするんだ? ここからフォールを探すって言ったってよぉ」
「いえ、フォっち探索は一旦置いておいて、先生が託してくれた資料の正否を確かめたいんです。……皆さんは『知識の大樹』と呼ばれる街を知っていますか?」
「あ? 知らねェけど」
「ここから少し進んだところにある街でして、巨大な大樹が一つの街になっているところなんです。それだけでも充分凄いんですが、何よりその街はこの世界中の知識が集まるところとされていまして、魔道学院や超巨大図書館など、もう研究者にはたまらない聖地なんですよ! しかも、なんと帝国の王立図書館より蔵書数は多いんです!!」
「成る程、そこでイトウ第四席の資料を検証するワケだな? 確かに俺も一回行ったことがあるが、本だけで塔ができるほどだったもんなぁ……。あれ、火何処にやったっけ? 火、火……、あぁあった」
「ふーん、まァ良いんじゃねェの。そこにフォールの野郎がいねェとも限らないし、行く価値はあるだろ」
「だな。俺も帝国で拾った聖剣について調べたいこととかあるし」
「あァ……、その通りだ。つっても俺は本とか見るタチじゃねェし、気楽に過ごす……、あ゛?」
「何だ、どうしたよメタル」
「待て、フォールの匂いがする……。近いぞ……。いや、それだけじゃねェ。何だ、この鼻の奥がジリジリするような匂いは」
「そ、そんなの、匂いませんけど……」
「いいや、匂う。匂うぞ。この、何処かで嗅いだような……。そうだ、あぁそうか、確か、あのーーー……」
突然立ち上がり嗅覚を探らせるメタルの様子に驚くガルスと、そんな彼に興味もなく煙草を吸うカネダ。
しかし、その数秒後。カネダは完全放置を決め込むつもりだった男へ怒号を飛ばすことになる。
「ンァボルカッィチォンッッッッッッッッッ!!!」
「うわっ、どうしたんですかカネダさん!? ゲホッ……!? す、凄い煙! 全部吐き出したんですか!?」
「バカ野郎メタル! 何だこの生臭さは!? 魚の生エラを鼻に突っ込まれたのかと思ったぞ!!」
「ゲホッ、ゲホッ! うるせぇテメェ人の邪魔しやがって! くそっ、煙草の臭いで匂いが消えちまったじゃねェか!! 何の匂いだったか思い出せそうだったのに!!」
「お前がこんな生臭さを押し込めたみたいな煙草渡すからだろうがぁ! ここまでマズい煙草初めて吸ったわ!! 凶器、これは凶器だぞ!!」
「知るかボケェ! テメェのせいで何の匂いだったか忘れちまた上にフォールの匂いまで消えちまっただろーが!! クソが、やっぱりテメェとは一片ケリ付けなきゃ気が済まねェ!!」
「おーおー上等だやるかこの狼野郎! 墓前にゃこの煙草ダース単位で備えてやるよォ!」
と言う訳でいつも通り醜い争いを始めた二人と、そんな彼等の隣で生臭い煙に噎せ返るガルス。
これだけの事なら三日に一回の割合で起こる毎度の事なので、ガルスものんびり午後からの予定を考えるところなのだが、彼はそんな争いの中でいつもと違うものを発見した。
煙のせいで涙目になった瞳を伏せた時に、たまたま、港の桟橋に引っ掛かるモノを見つけたのだ。
――――凛々しき羽と雄々しい尾を持つ、何処か神々しい真紅色の兜というモノを。
「……何だろう、あれ。いや、けど、何処かで見たような?」
銃をぶっ放し剣で散斬りにしと、死闘より激しい闘争を繰り広げる二人を無視してガルスはその兜を拾いに桟橋へと向かって行く。
とある島の集落に奉られたものがある男に捧げられ、さらにその者の手元から離れ、奇しくも海流に流されるままこの街の、この港の、この桟橋に辿り着くことになった、その兜をーーー……。
「……これ、何だったかなぁ?」
彼は今、その手にしたのであった。
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