【1】
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「……む」
フォールは滲むような痛みに目を覚まし、晴れ渡る空に輝く太陽へ眉根を顰める。
やがて段々とハッキリしてくる意識の中、彼の耳に届くのは穏やかな波の音と風の囀り。そしてじりりと蒸すような暑さや肌のベタ付きだった。
さらに言えば起き上がるために着いた手がずぶりと沈むような更砂から察するに、ここは砂浜。つまり自分はどうやら波に打ち上げられたらしい。
全身に響く、傷とはまた違う鈍痛が何よりもそれを示してくれる。
「ふむ……、海に飛び込んでアレを取ったは良いが、そのまま波に煽られ気を失ったのか。今は昼頃……、となれば一晩中流されていたわけだな。よくもまぁ生きていたものだ」
「…………全くだよ。僕まで巻き添えだ」
と、気付けば彼の隣ではびしょ濡れのまま膝を抱えて座る一人の女が。
そう、誰であろう繭蟲になってイジケていたルヴィリアである。彼女もフォールと同じくこの砂浜に打ち上げられたらしく、その頭には海草がくっついていた。
いやいや、気に掛かるのはそんな海草よりも、この晴れ渡り蒼々と輝く海空とは正反対にどんより沈んだ表情の方だが。
「君なんか助けるんじゃなかったよぅ、あのまま見捨てておけば良かったよぅ……。馬鹿なことしたよぅ~……」
「何だ、別に見捨てても構わなかったのだが」
海草、べちゃり。
「……ヌメッとする」
「うるせーバーカバーカ! 誰の所為で僕まで遭難することになったと思ってんだ!? 見なよこの島、何処からどう見ても未開拓の地じゃないか!! と言うかここ何処!? 島、これ島なの!?」
「解らん、規模はそこそこありそうだがな。……しかしそう焦るな、貴様の島ほど気候が酷いわけでもないし、何より貴様がいるではないか。飛行、できるだろう? ちょっと飛んでグレイン達の海賊船を探せば済む話で……」
「ないよ」
「……何?」
「だからないよ、魔力! 君との戦いでスッカラカンさ!! それでも残ってた魔力をギリギリ出し切って海に落ちた君を拾い上げたんだ!! バカだろう君!? 前からバカだバカだとは思ってたけどここまでバカとは思わなかった! 海中水泳したいならもっと落ち着いたところでやりなよぉ!!」
「待て、幾ら俺でもあんなところで海中水泳などするはずがなかろう」
「もし溺れてるスライムがいたら!?」
「例え地獄であろうとも助けに行こう」
「安定のバカじゃないか!!」
「いや違うぞ。今回は別の理由があって飛び込んだのだ。シャルナを助けた隙にか、それとも吊されていた時にかは解らないが、あるモノを落としてしまってな。それを拾い上げるために飛び込んだのだ」
「何さ? これでスライム関連だったら流石の僕もブチ切れるからね」
「まぁ見てみろ。これを見れば貴様も納得……」
そこにはスライム印の邪神像が!!
「……ではなく」
「おい。……おい」
「まぁ待て、今のは違う。日々会えぬスライムへの恋煩いを慰める為にと持っていたもので……。いやそうではなく、俺が拾ったのはこれだ」
フォールが懐から取り出したのは純銀に輝く水晶玉だった。
いや、ただの水晶玉ではない。水晶に限らず鉱物というのは元より光に照らされ輝くものだが、この水晶玉はその光を飲み込むが如く眩い輝きを放っている。光そのものさえも塗り潰してしまうほど眩しすぎる、何処か恐ろしさよりも畏怖を憶える、光を。
それを出されては流石のルヴィリアもあぁと力なく吐息を零し、がっくり肩を落とすしかなかった。
「封印の秘宝……。あぁ、こりゃ確かに仕方ないかな……」
「そういうことだ。……とは言え、俺も船には戻るつもりだったのだがな。まさかこうして遭難するとは思わなかった。予想以上に体が弱まっているということだろう」
「……そりゃ、あんな戦いの後だからね。普通は動けてる方がおかしいんだよ? いや今更君に普通とか片腹痛いけどさ」
「そうでもなかろう。これから俺も段々と普通になっていく。弱体化とは得てしてそういうものだ」
「誰が実力の話してるのさ君の性格と思考の話だよ」
「それは元から普通でおい待てやめろ貝殻を投げるなやめろ」
地味に痛い。
「ホント君嫌いだわ。もーマジで大ッ嫌いだわ……。この変態セクハラ毒殺爆殺謀殺暗殺即殺スラキチ勇者め……」
「罵詈雑言を渾名っぽく言うんじゃない。……ともあれ、こうしてここにいつまでも座っているわけにもいかん。ここが孤島であれ無人島であれ、助けが来るか貴様の魔力が回復するかまでは脱出はできないし、俺自身の封印もできない。野営知識は余りないが、何よりまず我々が休息できる場所を作らねばな」
「あのね、簡単に言うけどそういうのってかーなーりー難しいんだよ? 確かに僕達だって一応は旅してるワケだから今まで野営なんかはよくやったさ。けどアレは魔道駆輪に積んである食料や調味料、他にも毛布や固形燃料、怪我すればポーションもあったし傷薬だってあった。けどこの島には何もない! この身一つと精々が君の剣ぐらいなものさ!!」
「調味料ならあるが」
「何で持ってんの……」
「いや、リゼラの要望に応えられるよう常に調味料は持ち歩いていてな。調理道具は流石に置いてきたが……、まぁそうは言っても調味料とて一瓶程度だ。見ろ、この調味料専用のショルダーを」
「……自作?」
「もちろん」
彼の無表情が何処か自慢げなのに腹立たしさを憶えたルヴィリアだが、そう言えば自分の着物や普段の料理だって何から何までこの男が作っていたことを思い出し、文句をぐっと飲み込んだ。
だがしかし、調味料一つあったとしても潤うのは数日の食卓だけ。雨風を凌ぐ家、は無理だろうから洞穴などの場所を見つけなければならないし、飲み水だって確保しなければいけない。いやそもそもの食料もそうだ。果たして魔力もない怪我人二人が協力したところで何日過ごせるかーーー……。
「よし、まずは家を建てよう」
「待て。待て待て待て待て待て待て。オッケーイ待て待て待て待てこのスラキチ野郎」
「……何だ、何か問題でもあるのか」
「問題はないよ? むしろ有り難いよ? けど素人知識で建てられるものじゃないからね、家って!!」
「いや、家なら一度立てたぞ。大分前だがとある森で家を破壊してしまった時にな、代わりにこう、建てた」
「建てたって君」
「何度設計し直してもスライム型にしかならず内部構造も全てスライム式にしかならないが家は家だ。ちなみにその家に在住していた奴からは帝国で『頭おかしくなりそうだったので自分で建て直した』と文句を言われた」
「そりゃそうだよ。……いやでもね!? 確かに家は有り難いさ! けどまさか運水設備なんかができるワケでもなし、だったらまだ洞穴を見つけた方が頑丈さとかの観点からも安心なんじゃ」
「水関連の設備か。…………いける!」
「いけるなよそこはもう大工になるか暗殺者になるよしなよ職業適性間違ってんだよ君」
職業適性度:フォール。
S/暗殺者、宣教師。A/大工、料理人。B/機械技師、魔王世話係。
以下割愛ーーー……、圏外/勇者。
「まぁ、家もそうだがそれよりも今重要なのは食事だろう。俺も貴様も、昨晩どころか島を出た昼終わりから何も喰っとらん。……こんな場所だがその分食材は新鮮だろうしな、美味い物を喰わせてやる」
「……まぁ、発情期の残ったあの子達に追い回されたからね。あぁあああああどうせならあのままもみくちゃにされたかったよぅ」
「本調子が戻って来たな。……しかしアレか、俺だけではなく貴様も狙われていたのはやはり男こ」
ぎろり、と。
「…………まぁ、まずは家造りだな。うむ」
流石のフォールも踏み込んではいけない領域というものを察し始めたらしい。
彼は砂浜の更砂から腰を上げ、後手に拡がる樹木地帯へと足を運んでいった。
『あやかしの街』の前に拡がる樹木のような、けれど密度が段違いの樹木地帯だ。恐らくこの蔦が這う樹木はこの地方特有の種なのだろうが、成る程、この材木の差はルヴィリアの言う通り開拓具合の差だろう。
いやしかし、随分鬱蒼と茂ったものだ。建築材料には困らないだろう。
「ふむ、やはりしっかりしている。建てるのには数時間ほどかかりそうだが良い家ができるだろう」
「……おぉい大工ぅ~。僕はその間何してれば良いのぉ?」
「誰が大工だ親方と呼べ。……そうだな、どうせなら釣りでもしておけ。貴様が釣ったのがそのまま夕食になるぞ」
「でも親方、釣り竿とかないんだけど」
「丁度良い素材がここにある。待っていろ、釣り竿なら三分あれば作ってやる」
その言葉通り、フォールは樹木からツタを剥ぎ取ると枝を折ってパパッと釣り竿を作成する。序でにエサは木にへばり付いていた得体の知れない蟲である。
そうして、元の樹木が良いのだろう、しなやかさも糸代わりのツタの強度も申し分ない釣り竿が完成した。
「……お、親方ァ」
「誰が親方だ匠と呼べ。それとツタで壺も作っておいた。これで気合いを入れて釣ってくることだな。貴様の釣果次第では夕飯抜きも……、あぁいや待て、その前に服を脱げ」
「へいへい、服……、ファッ!?」
「案ずるな、俺も脱ぐ」
「逆に案ずるわ! ちくしょうやっぱ変態じゃねーかやだぁー汚されるぅー!! 僕の体が汚されるゥー!! やだやだやだ初めては女の子とがいーいー!!」
「……何を勘違いしているか知らんが、いや貴様は解ってやっているのだろうが、服を乾かす為だぞ。海水塗れな服などそのまま自然乾燥させたら素材がどうなることか」
「そこは嘘でも風邪を引くとか言いなよ君は。……へいへい、解ってますよぅ。そこのツタ持って来て、あと木をテキトーに削って木くずも。焚き火やるから。今の僕でも指先からちょっぴり火を灯すぐらいはできるからね」
「ふむ、有り難い。…………しかし、アレだな。貴様がそれをできるとなると、完全に着火剤の存在価値が」
「ま、マスコット、マスコットキャラだから……!!」
「待て、マスコットキャラは俺のスライム君が……、おいやめろ、その火を俺に向けるんじゃない。木くずを振りかけるんじゃない。指先を近付けるな、おい、おい」
それ以上いけない。
「ともあれ、そういうワケだ。さっさと夕食を吊ってこい。夕暮れまでには戻ってこいよ、今日の夕飯は早めにするからな」
「へいへいよー……」
と言う訳で二人はそれぞれ上着を抜いで焚き火に掛けた後、家造りのフォール、夕飯調達のルヴィリアと二人は別れて行動することに。
そうは言っても勇者フォール、目の前の木を文字通りなで切りよろしく、あっと言う間に木材を創り上げていく。気付けばいつの間にやら器用の剣先で木々を造形し、金槌だの木製の釘だの創り出す始末。この男はいったい何処まで行くのだろう。
さて、そんな匠は兎も角、ルヴィリアだ。彼女は釣り竿を肩に担ぎ上げるとそのまま別方向に歩き出し、手頃な岩場を見つけてそこに腰を下ろしていた。
いや、別に釣りならフォールのいる砂浜でもできるだろう。だが彼女がそうしないのには、やはり先日の出来事が絡んでいるようで。
「…………むぅ」
何とも言えないもやもや、とでも言っておこうか。
エサの蟲を摘み、竿を振る腕に余計な力が籠もる。苛つきや八つ当たりとはまた違う、複雑な感情だ。
その不満は水面に波紋を際立たせる釣り糸ばかりでなく、露骨過ぎるほど不機嫌そうに尖った口先にも現れていて。
「何さ何さ……。ふーんだ、幾ら無頓着でも程があるってモンじゃないのかい……」
ざざん、と波が揺れる。
何とも穏やかな水模様だ。風も落ち着いているし、空だって晴れ渡っている。何とも長閑な景色である。
遭難中でさえなければ、一緒に居るのがあの男でさえなければ、きっともっと素晴らしいバカンスだっただろうに。
「僕だってね、過ぎたことをぐちぐち言うわけじゃないけどね。そういうのはもっとでりかしーを持ってだねぇ……」
普段の彼女の行動から考えてとても言えたことではないのだが、と言うかそもそも本人がデリカシーなどという言葉とは天地ほどの差があるのだが、どうにも不満なご様子。
全裸もエロ本もOKで股間のアレを見られる野はNGという線引きはリゼラ達の言う通りイマイチ解らないが、そこには彼女なりの領域があるのだろう。
「大体男ぐらいだよ!? チンコ見て喜ぶのなんてさ!! こっちが大きいあっちが大きいなんて大きさ比べなんざしたくねーっつーの! 何で人の見て嬉々と考察し出すかなぁ!? 知るかよ自分の見てろよ僕のを見るなよぉ!!」
ばしゃんっ。怒りにまかせて振り上げた釣り竿が水面を弾き飛ばし、折角集まっていた魚が一目散に逃げ出してしまう。
それでもなお、彼女の怒りは収まらない。
「大体今更だけど彼も異常すぎるんだよ! 何でもかんでもスライムスライムスライム! その次にゃ考察に予想って君は本当に人間かって話だよ!! 思考とか行動含めてさぁ!!」
いや本当に今更な話である。
――――そもそも、いったいあの男は何なのか。『消失の一日』を起こした張本人で? 歴代の勇者が辿ってきた道とか聖女が女神に与えられた預言も全無視どころか大逆走で? しかも歴代最強の魔力を持つとまで言われた魔王リゼラや『最強』の四天王シャルナまでけちょんけちょんにする実力を持っていて? そのくせ自分でスライムの為に弱体化を望む大馬鹿者で!?
「何が僕のチート権能だよぅ、君のがよっぽどチートじゃないか! これでもねぇ、僕ぁねぇ、節度ある頑張りをして来たって言うのにねぇ!!」
だばだばと駄々っ子のように暴れ回りながら、釣り竿を振り回すルヴィリア。
最早こうなっては釣りどころではない。釣れるものと言えば精々彼女の不平不満ぐらいなものである。
「そりゃ僕の意図を察知してくれた事とか、自分の口でって叱ってくれた事は嬉しいよ? 旅の同行を赦してくれた事も嬉しいよ! けど人の股間見て『原理はどうなっている』ってこっちが聞きたいよぅ!! 君の頭ン中はどうなってんだよぅ!! スライムか、あぁスライムだ! どーせスライムだ!! 脳味噌スライムだ!!」
いや全く、彼女の不平不満もその通りであろう。
普段から被害に遭い慣れ不平不満を吐き出しまくるリゼラや恋は盲目よろしく仕方ないと許容するシャルナとは違い、良くも悪くも彼女はフォールと似たタイプだ。いや、性格がという意味ではなく頭の回転が、という意味で。
そんな彼女だから不平不満は飲み込むし、だからこそ先日の決戦で吐き捨てたように四天王辞職の言葉さえあんな回りくどいことをした。そう、彼女はとても回りくどく、面倒臭い。
だから今もこうして何処までも拡がる海へ不満を吐き捨てているわけで。
「だーもうこれだから嫌なんだ男ってのは! 見たいもの食べたいもの欲しいもの何でもかんでもやりたい事見つけたらお構いなしさ! 真っ直ぐ過ぎるんだよ男って!! まだ周りを見渡して立ち止まっちゃう女の子の方がよっぽど可愛げがあるね! 何より柔らかいし、良い匂いするし、甘いし優しいし!! ちょっと厳しくても僕は好きだけど!!」
「しかしそうは言っても女とて厄介だぞ。性格は人それぞれということで割愛するにしても、意外と手が出るのが早いし、何よりその様を保つのに化粧だとか髪の手入れだとか色々手間が掛かるだろう。特に髪が大変だ」
「当たり前じゃないか、女の子に可愛さは欠かせないんだもの! 僕だってねぇ、君も知ってるだろうけど美容には人一倍気を遣ってるんだよ!? リゼラちゃんは今でこそ喰う寝る遊ぶしかしないし、シャルナちゃんは元からあんな調子だけど、女の子って本当はすっごく手間が掛かる生き物なんだ! 謂わば宝石みたいなもので、ちょっとしたことで傷付いたらそれだけで価値がぐんと下がるんだ!!」
「ふむ、しかし時としてその傷が美しく映えることもあるだろうに」
「確かにそうかも知れないけど傷付きたいなんて思ってる女の子はいないよ。誰だって美しく、可愛くありたいものさ。そりゃ君の言う通り傷にだって美しいものもある。けど少なくとも僕の股間にあるコレを、僕は美しいとは思わないね!」
「そうか? 綺麗だと思うがな」
「肌と髪の艶がでしょ?」
「そうだが?」
「「はっはっはっはっはっはっはっはっはっは」」
ご存じだろうか? 釣り竿のしなやかさは凶器ということを。
「死ねェエエエエエエエエエエエエエエエエーーーーーーーッッッ!!!」
「おいやめろ貴様。鞭より凶悪だぞ釣り竿は」
「うるさいよ! 何で君がいるんだよ!? バカなの? バカじゃないの!? バカだったよ!!」
「人をバカだバカだと貴様……。その美貌とやらを保つため、折角俺が建築の合間にツタで編んだ帽子を持って来てやったというのに」
「わぁありがとう! でも死ねッ!!」
「だから竿で殴るなと。おい、痛いだろう。おい」
「うるせぇ気配もなく忍び寄ってきやがって暗殺者めぇ! 乙女の独り言を盗み聞きなんざ重罪どころか死罪だぞ死罪!! 乙女はなぁ、抱えてる悩みってもんをなぁ!! 定期的に吐き出さないと死んじゃう生き物なんだよぅ!!」
「毛玉を吐き出す猫か何かか」
「可愛くて気分屋だけど鋭い爪があるって点ではそうかもね!!」
一通り毛玉、もとい不満を吐き出したルヴィリアはぜぇぜぇと肩を揺らしつつ、その場にへたり込んでしまう。
そんな彼女の頭にぽすりと麦わら帽子ならぬツタ帽子を被せながら、フォールは彼女から釣り竿を掴みあげ、そのまま針先を水面へと振り投げた。
「まぁそう怒鳴ることもあるまい。確かに独り言を聞いたのは悪かったが、独り言などそう珍しいことでもないだろう。俺も気が付けば洗濯物をしている時にスライムの歌を歌っていることがある」
「呪詛じゃねーか……」
「呪詛とは何だ呪詛とは。しかしそれを言えばリゼラやシャルナも独り言は多い方だぞ。……いや、リゼラは寝言だが」
「え、何それ興味ある」
「まずリゼラは大体想像つくだろうが飯の感想を寝言で呟く。食事中の奴は大体美味ぇしか言わないが、睡眠中の奴は香辛料をグラム単位で指摘してくる。これが割と参考になるのだ」
「まさか君の料理の腕にリゼラちゃんが関わっていたとは……」
「味にうるさいからな。次にシャルナだが、奴は、うむ。時々色仕掛けの練習を……、おっと魚が」
「おい待て魚よりそっち話せやおい」
「待て、大物だぞ。おいやめろ揺らすんじゃない。夕食が、夕食がどうなっても良いのか貴様」
「うるせぇこちとらシャルナちゃんのエロ話だけで三日喰わずとも生きていけるんだよ話せやオラ! 話せやオラ!! これで逸らせると思ってんじゃねぇぞ!! 色仕掛けが何だって!? 女豹のポーズが何だって!? エロエロうっふん♡が何だってぇ!?」
「阿呆、そこまで言って、おい網、網を持ってこい。網だ。この釣り竿では限界がある。網、網を持ってこい。網、ないのか。ならばそこの籠で構わんから、おい、聞いてるのか、おい。折れる。竿が折れる。おい、折れ、折れる」
「君もそこで攻め寄れよ! どーせ無視してそのまま作業続けたんだろオルァ!? ちくしょうこのトーヘンボクめテメェみたいなのが後々シャルナちゃんのエロ褐色腹筋を好き勝手できると思うと僕はねぇ、僕はねぇ!!」
「網、だから網を、下らんことを言う前に、網、網ーーー……」
斯くして彼等の喧騒に従うが如く荒立つ水面に、大きな水柱が立つのは数分後の話。フォールが釣り人よろしく巨大な魚を抱えて満足気にするのも数分後の話。ついでにルヴィリアが海水に濡れた下着を乾かすハメになったのも、数分後の話。
未だ無人島(?)漂流一日目。いつも通り騒がしい彼等の漂流記は果たしていつまで日数を刻むのか。いやはや、そもそもただただ過ごすだけで終わるのか。
南国漂流記は未だーーー……、続いて行く。




