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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
邪賢の廃城
262/421

【2】


【2】


「……隠し扉に隠し通路。落とし穴に釣り天井。仕掛け矢に仕掛け槍! 幻惑魔法に転移魔法に麻痺魔法に呪縛魔法に呪われた宝箱だの呪われた装備だの!! いったいどーなっとんじゃこの城ぬわぁーーーーっ!!」


 などと言っている内にもカラクリ階段に巻き込まれて転がっていく魔王様。

 しかし他の者達が反応を示すことはない。と言うか、反応を示すだけの余裕がない。

 そりゃもうリゼラの言葉通りここまで幾つもの仕掛けを受けてきたのだ。アレだコレだと数時間近く。もしルヴィリアの狙いがこちらの体力と気力を削ぐことならこれ以上の成功はないだろう。


「ルヴィリア殺す」


「殺す」


「えぇ……」


 なおその分殺意も高まった模様。


「何だ、何なのだこのカラクリ屋敷は……。嫌がらせのような罠ばかり! あっちに進もうとこっちに進もうと罠、罠、罠!! 何処に行っても罠しかない! マリー殿はいつもこんなところに住んでいるのか!?」


「いえ、流石に今回は仕掛けを発動させていますので……」


「それよりも気に掛かるのはこの罠の適当さと雑さだ。罠に嵌めることは考えているくせに致死性が微塵もない」


「致死性がないのはフォール様にだけでは……」


「ぐぉおおおおお……! ぐだぐだ文句言う前に妾助けろやぁあああああ…………!!」


「…………ハハッ」


「妾にも何か言えやこの発情兎ィ!!」


 なおこの直後、リゼラが謎の落下事故を起こしたが犯人は不明である。


「それにしても、だ。既に数時間近く……、深夜頃になるまで歩かされていると言うのに全く開廊の兆しが見えないのはどういう事だ。流石に疲れてきたぞ」


「あぁ、外から月星の明かりが……。そろそろ休息を取れれば良いのだが何処に行っても罠だらけだしな。私や貴殿はまだ良いが、リゼラ様やマリー殿が心配だ。せめて何処か、罠の無い部屋でもあれば良いのだが」


「此方は罠を解除して進んでいるのでさして問題はありませんが、確かにリゼラ様は心配ですね。あのお体にこの行軍は大変でございましょう」


「なぁその妾が今死にかけなんじゃけど。誰? 妾突き落としたの誰?」


「もし宜しければ此方の部屋など如何でしょうか。あの部屋には罠がないはずです」


「ねぇ聞いて?」


「そ、それは有り難いが……、構わないのか? マリー殿。安全地帯を与えるなど我々を支援するに等しい行為だろう。既に中立者としての貴殿の立場は失われているのだし……」


「おい聞けつってんだろ」


「いや、違うな。マリーからすればここで無駄に時間を潰してくれた方が残り一日……、いや半日と少し程度か、もう。その制限時間を消費させられるわけだ」


「……し、しかし貴殿」


「あぁ、今回ばかりは好意として受け取っておこう。このまま闇雲に探索を続けてもどうにかなるわけでもなし、何より少し考えを纏めておきたいことができた。休息が必要だ」


「聞けやオイ」


「そういう事でしたらどうぞこちらへ。少し道を戻ることになりますが、此方の私室がございます。皆様が御休眠されるだけの広さもありましょう」


「はーんもう良いわ妾の扱いそういう事するゥ! じゃあもう良いもん妾ここにいるもんフーーーンだ知ったこっちゃないもーん!!」


「茶菓子もあります」


「うむ、やはり御主等の体を案じるも魔族の長たる妾の役目。勇者はどーでも良いがここは妾が折れてやるより他あるまいな……」


「……いつもこうなんですか?」


「「むしろこうじゃない時がない」」


 とまぁ魔王様の合意も得られたところで彼等は休息のため、マリーの私室へ向かうことになる。

 既に時は深夜、日は跨ぎ猶予は残り一日未満。本日の夕頃にはフォールへ掛けられた魔眼の暗示が効力を発揮することだろう。そんな制限時間の中で来た道を戻り、あまつさええ休息を取るという行為は決して望ましいものではない。

 しかしフォールがそれに反対しなかったのは、制限時間よりも気に掛かることがあったからだ。休息と共に思案しておきたい、その予想(・・)がーーー……。


「こちらです」


 さて、そんな彼等も数分ほど歩けばマリーの私室に到着する。

 ここまで進んでいる時は隠し扉だの何だののせいで見逃していたが、いざ来てみれば何と言うことはないごく普通の襖がそこにはあった。

 マリーは『いつも掃除しているのでどうぞお構いなく』とその部屋の襖を開き、彼等を案内した、が。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 真っピンク。壁から天井から床から何処もかしこも真っピンク。

 部屋の中央で回転する妖しげなライトも真っピンク。部屋の中央にある卑猥なキングサイズベッドも真っピンク。ついでに『YES』と縫い記された枕もその近くに置かれた妖しげな機具の数々も真ッピンク。何処か淫靡な香水蒸気を吹き上げる機具もその煙も真っピンク。何故か部屋の隣に通じている脱衣所とシャワールームも真っピンク。あっちもこっちもどれもかしこも真っピンク。どう足掻いても真っピンク。


「……これ完全にラブホテ」


「そこから先は言わない方がよろしいかと……!!」


「……特殊な、趣味なんだな。マリー」


「違います部屋を間違えましたえぇ間違いなく部屋を間違えました間違って間違いました間違いですこれは間違いです間違えたのです間違いありません間違えたことが間違いないことは間違いないはずだと間違いなく言えます間違いないですはい間違えたのです部屋を間違えました」


「いや、だがマリー殿の部屋って襖に看板が」


「こんな部屋ではありませんッ……!!」


「近い近い近い近い近い近い近い近い!?」


「……何だこれは、こけしとかいう奴か? どうして振動するのだ? と言うかこの布団も枕が二つしかないのは何故だ。どうして両面YESなのだ。シャワールームも無駄に浴槽が広いのは何故なのだ。何と陳腐な設計だ」


「だから設計から入るなよ勇者テメェ。って言うか御主が持ってるのって明らかにバイ」


「リゼラ様シャルァップゥ!!」


「違うんです本当に違うんですこんなの此方の部屋ではないんです普段はもっと静かなっ、ぇぅ、書物の楽しめる、へやで、ひぐっ……! わび、さびと雅さを重視した……! 部屋でしてぇっ……!!」


「泣くな泣くなマリー殿、どうせ誰のせいかは察しているから……。しかしフォール、どうする? こんな部屋ではとても休息なんて……」


「俺は枕を使わせて貰うから貴様等は布団で寝ろ。シャワーを浴びたいものは浴びても構わんぞ」


「おっ、茶菓子あった。何かピンク色で毒々しいが、うん、食えるわコレ。うめぇ」


「既に休む気満々ときたかッ……!!」


「別に部屋の装飾などどうという事はあるまい。これならまだ未掃除のイトウ宅の方が酷かったぞ。何せ下手にモノを動かすと死ぬより恐ろしいバイオハザードか装置同士の過剰魔力反応で大爆発だったからな」


「いや魔道駆輪のファンシー部屋よりマシじゃろ」


「た、確かに、まぁ……」


「おい待てファンシー部屋はまともだろう」


「そもそも御主の感性がまともじゃねぇよ」


「し、しかしだぞ? フォール。この部屋は見ての通りルヴィリアの手が加えられているんだ。となれば当然、罠だって仕掛けられている。そんなところで眠るのは幾ら何でも危険過ぎるのでは……」


「逆だ。元々罠がないこの部屋にそんなものを仕掛ける暇はあるまい。爆弾や毒薬などの手軽なものならば話は別だが今までの傾向からするにその可能性も薄いし、何よりマリーの部屋だぞ。装飾程度なら兎も角、損害を与えるようなことを奴はしないだろう」


「爆薬や毒って手軽か?」


「いえ、全然……。と言うかこの惨状が既に此方にとって損害なのですが……」


「と、兎も角! そういう事なら、まぁ、解った。休むとしよう。この様なベッドで休むのは気が引けるが……」


「よっしゃそうと決まればシャルナ、茶」


「え、私は寝たいのですが……」


「五時間後辺りに起こせ」


「あ、ズルいぞフォール! 待て、私も寝たいんだ!! リゼラ様の世話を押しつけるな!!」


「皆さま結構ガッツリ休まれるようですけど現状解ってます?」


「「「ルヴィリア殺す」」」


「大体解ってらっしゃるようで何よりです」


 と言う訳で皆の心が一つになったところで、彼等は休眠に着く。

 フォールは枕を奪って床で、リゼラは枕を抱き抱えながらベッドで茶菓子を貪り、そんな彼女を押しのけないよう巨体を縮こまらせながらシャルナもベッドの脇で、眠りにつく。

 緊張感があるのやらないのやら解らない面々にため息と、そして何処か安堵の息をつきながら、マリーもまた腰を落ち着けた。

 こうして彼等は敵地の真っ直中、序でに真っピンクな部屋で僅かな休息を取る。現在深夜、フォールの魔眼猶予まで半日と少し。

 さて彼等がルヴィリアの元に辿り着きその恨みを晴らすのは、いったいいつになることやら。

 そんな事を考えながらも皆は次第に、堕睡の微睡みへと溶けてゆくのであったーーー……。



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