【2】
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「…………」
「…………」
停車した魔道駆輪。その傍で悩むように腕を組む勇者フォールと魔王リゼラの二人。
彼等は視線を泳がせ、時に漆黒の闇を眺め、時に樹木の根を見回し、そして何度かの呼吸と共に足下を見下ろした。
そこに転がっていたのは無残に土煙を上げる、翡翠の髪色をした、如何にも高貴な女性だった。たぶん、聖女的なアレだと思う。さらに言うなら聖女ルーティア的なアレだと思う。
事故は起こるさ。
「……埋めるか」
「埋めよう」
最低である。
「ま、待っ……」
しかしこの女性、まだ息があったらしい。彼女は傷だらけの腕を伸ばし、助けを求めてきた。
今なら手当をすれば助かるだろう。二人は互いに視線を合わせて頷き、魔王は女性の手を優しく握ると静かにその体を寝かしつけた。勇者もまた、そんな彼女達を尻目に自身の剣で樹木の側をゴリゴリと掘り始める。
「ちょ、埋葬の準備しないでください……。生きてます、生きてますから……」
「安らかに成仏せよ」
「嫌ですよ呪いますよ化けますよ……!?」
「何だ、火葬の方か?」
「え、何ですかこの人たち怖い……!」
とまぁ、そんなワケで彼等は始末し損ね、もとい、どうにか生きていた女性を仕方なく手当てするーーー……、はずだったのだが。
どうにも奇妙な話で、その女性、傷が見る見る内に回復していく。若々しい肌にある擦り傷や打撲なんかも、一瞬の内に白煙を上げて治癒してしまうのだ。回復というよりは、超再生。魔術や魔法の次元ではない、一種の神域次元のものだった。
つまり、どういう事かと言うと、単純に。
「……本当に聖女ルーティアだったのか」
「え、あ……、はい。そうです、聖女ルーティアです」
「んぁっ!? こ、この女めがあの忌々しい聖女ルーティアだと!? この、このっ!」
ガスッガスッ。
「やめてください何で蹴るんですか小技ですか!? やめ、やめて壁ハメしないで!!」
「仲が良いな」
「本気で言ってます!? って言うかこの子なんですか!? 魔族、魔族ですか!?」
「魔王だ」
「MAOU!?」
「うむ、魔王」
まぁ、そんな感じに壁ハメ小技待ちリゼラでゲージ一本半削られた聖女ルーティアが混乱に目を回す中。
フォールは自己紹介と共に、は取り敢えず勇者と魔王が一緒にいる理由や、この森まで来た事情を一通り説明していく。
「つまり、スライムのために魔王へ魂を売りつつ自身の身の安全の為に魔王を人質にして邪龍を運んだり投げたりしながら旅をしていてだな」
「すいません意味が解らないで、痛い、痛いっ! ゲージ技痛い!!」
なお伝わるかどうかは別である。
「ともあれ、女神から指示された通りに貴様を救いに来たわけだ」
「いや、救うと申されましても、私はこの森からは……、あの、ちょっ、痛いです本当!!」
「正直なところ俺もそこはよく解らん。貴様がどうしてこの森にいるのかも、な」
「……そ、それは」
一瞬、彼女の表情が曇った気がした。
しかし勇者フォールはその表情と彼女の足下で蹴り小技ゲージ溜め状態の魔王について言及することはせず、いつも通りの平然とした表情で会話を続けていく。
「……まぁ、女神から指示があった以上は何か理由があるのだろう。貴様の現状は兎も角、何か困ったことがあればそれが理由なのかも知れない。まずはそこから解決していくべきだな」
「そうですか……。でしたら、その」
「ソニッブー! ソニッブー!!」
「取り敢えず痛っ、衝撃波を放ち続けてくる魔王を痛いっ!? どうにかして痛たたっ!? 欲しいです! あいたぁっ!?」
「ショーリューケンッ!!」
「案ずるな、フィニッシュに入った」
「ねぇこれ何なんですか? 何なんですか!?」
その後、ボーナスステージに突入した魔王が魔道駆輪を蹴り始めた辺りで埋葬されたのは言うまでもない。




