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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
最智との邂逅(後)
254/421

【プロローグ】


 これは、永きに渡る歴史の中で、主従を誓い続けてきた東の四天王と魔王。

 必然なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼女達のーーー……。


「うふ、うふふふふふふふふふ」


「シャルナ-? シャルナさぁーん? 止まってぇ? ねぇ止まってぇ!?」


「大丈夫ですリゼラ様私はとても冷静ですえぇとても冷静です世界が真っ青になるぐらい冷静です間違い有りません私はとても冷静ですうふふふふえぇ大丈夫ですともとても冷静ですからその前にフォールを探しましょうまずフォールを探しましょう何よりフォールを探しましょうどうしたってフォールを探しましょうそれよりフォールを探すんですよようふふふふふふふうふうふふふふふふふふふぉおおおおおおおるぅううううううううどこだぁあああああああああああああああ?」


「勇者の死因が痴情のもつれかぁ……」


「え、痴女ルヴィリアのもつれ?」


「ちょ、おま」


「そうですか。ルヴィリアですか。うふふふ、ルヴィリア。うふ、うふふふ? うふふふっ! うふっ、うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!」


「……すまん、ルヴィリア。御主の死因増えた」


 感動の物語である!!



【プロローグ】


 ――――半魔族と一言で言っても、その種類は多岐にわたる。

 細部に到れば数百からし数千と言われているが、大まかに説明すれば大きく分けて三種類だ。

 一つ、獣人。ダキやクルル、ワフム、ニアン達はこれに分類される。高い身体能力と体の一部分から大半に獣の特徴を持つのがこの獣人だ。とは言え実際は魔族、人間、獣人の血が入っているので半魔族としては一番血が薄いと言える。

 一つ、魔族。特例ではあるもののルヴィリアがこれに該当すると言って良い。魔族と人間の混血は非常に多く、半魔族の中で最も個体数を誇り、そして最も血が濃い存在だ。魔力を多く持つ者や魔族としての権能を受け継ぐ者などその数や力に比例した個性を見せる。

 一つ、亜人。属にサキュバスやオークなどが震いされるこの種族だがその実は魔族と同視される事が多く、しかしエルフやホビットなどを含めることは出来ないのでここに分類されている。尤もこれが魔族の混血と区別されているのはそうしなければならない程の個体数の多さ故、数としては魔族の混血に次ぐ多様さであり、それぞれの種族の特徴や見た目を受け継ぐ者が多い。

 と、この三つが先も記した通り半魔族という大きなカテゴリを締める三大種族である。その他の種族も多々あれど、大部分がこれら三つのどれかに分類されると言っても良い。

 だがーーー……、ただ一つ。たった一つだけ、このどれにも分類されない種族がある。


「あの、フォール様。お怪我の程は大丈夫でしょうか? ごめんなさい、こんな薬草しかなくて……」


「………………いや、大丈夫だ。手間を掛けるな、アクリーン」


 そう、それこそが今フォールの目の前にいる彼女、アクリーン・ルリルである。

 アクリーンはスライムの半魔族で形や知性こそ人間のそれであるが、その体は完全にスライムと同質なのだ。

 そう、分類されないものとはそれ即ちモンスターである。魔族でも獣人でも亜人でもない、それ等にすら分類されない下等生物との混血ーーー……、それがモンスターの半魔族なのだ。

 無論、そんな希少性故に個体数は少なくその種類も多くない。特にスライムの半魔族などこの島どころかこの世界に何体いるだろうか、というほどである。

 つまり今ここでスライム狂信者たるこの勇者と半魔族の彼女が出会ったのは、途轍もない確立によるものだとも言えるだろう。


「そんな、気にしないでください。私は困ってる人がいたら放っておけなくて……。それよりごめんなさい、傷薬やポーションが使えれば良かったのですけれど……。私、こんな体ですから液体型のものは使えないんです。直ぐ体の形が変わってしまって……、粉末も気を抜くと融け込んじゃうし……」


「いや……、うむ……。そうだな……、苦労……、するな…………、うむ」


「あ、いつまでもお話してちゃ悪いですよねっ! 早く休みたいでしょうし……、お腹が空いてるなら何か、ご飯でも作りましょうか? 柔らかいものとか……」


「……そこまで手間を掛けるわけにはいかん。ただでさえ匿ってもらっているしな」


「フフ、ここまですれば何をするも一緒ですよ。それじゃあ何か作ってきますね!」


「いや……、待ってくれアクリーン。その、手間を掛けるようで悪いが一つ聞きたいことがあるのだが」


「はい、何でしょうか?」


「この島に特有の植物……、ないし鉱物はないか? それに限らず自然由来のものなら何でも良い。この島にだけしかないような、そんな特殊なものに心当たりはないだろうか」


「……この島だけに、ですか」


 アクリーンは自身の頬にぷにゅんと指を沈ませ、ほんの少しだけ思案する。

 やがて何かに気付いたのか、潤い100%の肌に波紋を作りながら無邪気に明るい表情を浮かべてみせる。


「『満月の蜜』と呼ばれるピンク色の花がありますよ! とは言っても、私も噂でしか聞いたことがなく、確か山奥の何処かに咲き誇っているというぐらいで……」


「そうか、それだけ解れば充分だ。……助かった」


「そんな、こんな事で良ければ幾らでも……、それじゃあご飯作ってきますね!」


 アクリーンは半透明の体をぷにぷにと揺らしながら、嬉しそうに台所へ駆けていく。

 だが、彼女の後ろ姿を見送るフォールの表情にいつもの無表情さはない。むしろ何処か戸惑うような、何かを押し込めるかのような苦々しさがあった。


「…………」


 そしてそんな苦さを噛み潰すように口籠もりながら、彼は隣で眠るマリーの真っ白な耳を弄り廻す。

 彼女もまたアクリーンによって匿われて手当てされ、今はどうにか発情期の興奮を抑えて眠っている身だ。普段のフォールであれば幾ら何でもそんな彼女の耳を弄ったりはしないだろうし、彼女がもう片方の手指を掴みしゃぶっているのも振り払うだろう。だが、そうする様子もない。

 いや、それを気に掛ける余裕すらないと言うべきか。


「…………むぅ」


 耳を弄られるマリーの不快な呻きと、フォールの悩ましい声が重なった。

 それでもなお彼等の悩みは互いに取れず、何とも言えない奇妙に淀んだ時間だけが、二人だけの空間で過ぎ去っていったーーー……。


「…………」


 さて、そんな彼等のいる部屋から少し離れた台所。

 料理をすると言って席を外したアクリーンはその台所で包丁を握るわけでも鍋を沸かすわけでもなく、何故だか外の路地裏へと通じる扉へ手を掛け、そこから甘ったるい熱風を呼び込んでいた。

 そしてその風を閉じ込めるように、外と内を断絶するようにゆっくりと、然れど力強く扉を閉める。


「……ク」


 そしてそんな扉を後ろ手に支えながらアクリーンは大きく頬を崩す。

 眼前に跪く影を纏う者達に応えるが如く、とても醜く、嗤うのだ。


「クゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッッ! チョロい、チョロォい!! イヒヒャヒャヒャヒャヒャッッッ!!」


 その嗤叫は裏路地におぞましく這いずり回る。

 彼女の笑いに先程までの清楚さは欠片もなく、そこにあるのは純粋過ぎるほどの邪悪さのみ。笑い声一つにも悪意が滲み出、この闇夜の月星さえも塗り潰すかのような醜悪さが撒き散らされるのだ。


「上手くいった、あァ上手く行った!! 本当にダキは上手くやってくれた!! まっ、あの間抜けが私に利用されてるなんて気付くわけないけどねェ!! ゲヒャヒャゲーッヒャッヒャッヒャッヒャ!!」


「アクリーン様、と言う事は……」


「キヒヒ、そうさ、ダキが先走ったさ! 私の読み通りだ!! プライドの高い奴らしい失態だよ!!」


 彼女の醜悪に部下達から歓声が上がる。手足を震えさせ、中には歓喜に跪きから立ち上がる者さえいた。

 その者達の表情は等しく闇へ溶けるような黒衣に覆われているものの、荒い吐息や艶めかしく垂れる涎からも彼女達はククル達と同じ状態にあることが察せられる。

 しかし、そんな中でもアクリーンの表情は全く変わらない。依然として平然を保ったままだ。


「所詮は世渡りしか脳のない間抜けだな。私が大人しく命令に従うと思ってんのかしら? 私と奴に下された策略が別物(・・)ならそれを利用して私がのし上がろうとするとは思わなかったのかしら!? フフ、あぁ全く嗤いが止まらない! ケヒヒ、ケヒャキャキャキャキャ!!」


「……あ、アクリーン様。それより、中にいるのですよね、奴が! でしたら、つまり、その」


「クヒヒ、落ち着きなよ……。感情にまかせて躍起になるようなあの間抜け狐と私達は違う。あくまで周到に、あくまで綿密に計画を立てるのがキモさ。まずは奴が帰るべき場所である海賊団共をゴロツキ娘達に潰させたようにねェ……! もちろん、今回はお前達にだって美味しい思いはさせてやるさ……!!」


 黒衣の者達は一同にその感触を思い出すが如く気恥ずかしげな、それでいて妖しい声色を上げる。


「ケヒヒッ、けれどそれはほんの序の口だ。あの勇者さえ手込めにして手柄を立てちまえば私がこの街の王になれる! あの間抜けな狐を引き摺り降ろして、この闇から月明かりの元へ出ることができる!! この街の全てを、私が手に入れるんだよォ!!」


 黒衣の者達は過去の快感から現在の歓喜へと引き戻され、アクリーンを崇めるように頭を垂れた。

 最弱モンスターの半魔族であるアクリーンに、この忠誠振り。単純な力強さや魔族としての血の濃さから言えば周りの黒衣の者達の方がずっと上だ。ならばアクリーンにはそれさえも上回るカリスマ性があるのかと問われれば、そうではない。

 アクリーンはこの街でダキしか持たないはずのある特性(・・)を持っている。それ故に彼女は『裏の顔役』としてやってこれたし、この街の秩序を闇から束ねる存在でもあった。

 ――――しかしそれも、今宵と明宵までに全てが終わる。これより彼女が『最智』による勇者打倒計画を利用してダキなる表の顔も隙のない側近もあの胡座をかく四天王も、全てを突き落とし、この街を手に入れる王となるのだから!


「さァ、始めようじゃない。私達の計画を! 全てを利用し勝利を掴む為の戦いを!! この街の支配者になるのは……、私達だ!!」


「「「「「御意!!」」」」」


 この街で交差するのは一つの思惑ではない。幾多の思想が重なり、交わり、決戦と化す。

 『あやかしの街』。その名に違わぬ妖気の入り交じるこの街で、いったい誰が勝利を掴むのか。いったい誰がこの戦いを生き抜くのか。いったい、誰がーーー……。


「さぁ、そういうワケだ。アレは用意してきたな?」


「勿論です。こちらに」


「クヒャヒャヒャ、アイスティーか! ……もちろん、催眠薬はたっぷりだよねェ?」


「はい。どんなに屈強な人間だろーと魔族だろーと一週間はぼうっとして本音を喋ったり命令を聞いたりするしかない代物です。薬屋のアルラウネに配合させたポーションですので効果は抜群かと。粉にしているので砂糖などと混じって見た目も全く変わりません。彼女も草葉の陰に隠れて応援していることでしょう」


 黒衣の一人がグッジョブポーズを決める辺り、たぶん隠れてない。


「よし、じゃあ私はこれをあの忌まわしき勇者に呑ませてくるわ。アンタ達は合図があったら直ぐさま奴を運び出す準備をなさい」


「はっ、仰せのままに!」


 アクリーンは命令を下し終えると大きく深呼吸を行い、下卑た顔から先程までの慈愛溢れる優しい微笑みの仮面を張り付ける。その豹変振りには黒衣の部下達でさえ恐れを憶えるほどだ。

 が、これこそアクリーンの持つ武器なのだ。ダキが人望と豪快さでこの街の表の顔となったのなら、彼女は策謀と偽りで裏の顔になった。裏よりこの街の秩序を束ねる悪魔の最弱となった。

 ――――そう、誰かを操るのに強大な魔力や腕力は要らない。ただ一言二言の言葉さえあれば良い。

 誰かを騙し、偽り、誘導することで自分はこの地位に立った! 必要なのは何事にも怖じけない冷静さと全ての状況を把握する明晰さ! その二つだけあれば良い!!


「……さぁ、勇者フォール。今こそお前が我が主柱に堕ちる時! このアクリーン・ルリルの礎になるが良い!!」


 にこやかに、微笑みを崩さず、足取りはゆっくりと。

 その手に悪意の塊を持ちながら、彼女はこの策謀入り交じる決戦を生き残るための鍵へと手を伸ばす。

 そう、この戦いで生き残るのはダキでもマリーでも四天王ルヴィリアでも、魔王リゼラや四天王シャルナ、ましてフォールでもない! この自分なのだ、と!!


「フォール様、アイスティーを持って来ましたよ! まずはこれでも呑んで落ち着い……て…………」


 彼女の脚に何かが辺り、アイスティーの雫が床にしたたり落ちる。

 そこに拡がる真っ赤な光景に波紋が落ち、男の指先から伸びる文字を映し出す。

 ――――犯人はヤス。


「フォールが……、フォールが悪いんだ……! もふもふするなって、もふもふするなって言ったのに……!!」


「ま、待てシャルナ、落ち着……、ぐふっ」


「アホ勇者ぁああああああ! 死ぬには早いぞぉおおおおおおお!! しっかり、気をしっかり持てぇえええええええええええええええ!! 悲しみの向こう側に行くなぁああああああああああああああああああ!!」


 テレテレ↑テレテレ↓テーテー↑↑

 勇者フォール、死亡(ナイスボート)



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