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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
最智との激突(前)
233/421

【1(1/2)】


【1(1/2)】


「何だ……、やっと来たのか。遅かったな」


 意気揚々とギルド支部へ踏み込んだリゼラ達を出迎えたのは、カウンターで琥珀色の酒を仰ぐフォールだった。

 そんな彼に対しまずリゼラの頭突きが炸裂、続いてルヴィリアのドロップキックが炸裂、そして最後にシャルナの優しいチョップが炸裂(※岩をも砕く)。だが勇者、全てこれを回避。

 難なくマスターへ酒のお代わりを追加注文する。


「「「フォォオオオオーーーールッッ!!」」」


「叫ぶな。案せずとも貴様等にもつまみぐらい……」


「そっちじゃないよリゼラちゃんじゃないんだからぁ! 何で君がここにいるんだい!? 今からさぁ君を探そうって時にさぁ!!」


「おい待て今妾のことサラッと馬鹿にしなかったか」


「全くだフォール! 貴殿が急にいなくなるものだから我々がどれだけ心配したと……! つまみを差し出すな!! 食べるのはリゼラ様ぐらいだ!!」


「馬鹿にしてる? 馬鹿にしてるよね?」


「何だ、では要らんのか」


「要るけども」


 なお、つまみはアマーンフィッシュの干物だったそうで。

 おいしい。


「……ともあれ、そう騒ぎ立てるな貴様等。スライム人形を買いに行く前に言伝は残しただろう」


「言伝!? まさか『スライム人形』と呟くだけ呟いたっていうアレでかい!?」


「(今からこの街に滞在する宿と調味料や食材の買い足しを行ってくるがその後はこの街の情報を集める為にそうだなギルド辺りで集合するとしよういやいや解っているともまずそれより何より優先すべきものがあると言いたいのだろう勿論そうだ優先すべきものは)スライム人形。……解らなかったのか?」


「僕の魔眼ですら理解できないものは大抵誰にも理解できないよ!?」


「全くだ! 私にも(いやいや解っているともまずそれより何より優先すべきものがあると言いたいのだろう勿論そうだ優先すべきものは)シャルナまでしか解らなかった!!」


「シャルナちゃん自然に捏造するのやめよう!? 悲しみしか生まないやつだよそれ!!」


「それより見ろ。この『水浴びするスライムくん』の素晴らしさを! 数少ない水着シリーズでも水流の造形があるのはこのタイプだけでだな」


「ちくしょおぉおおおおおおお収拾がつかないよぉおおおおおおおおおおおっ!!」


「干物うめぇ」


 閑話休題だいさんじ


「……とゆーわけで! こうして集まった訳ですけども!!」


 頭にたんこぶフォール、湯気でほくほくなリゼラ、長靴をいつ渡そうかシャルナ、取り敢えず取り仕切りルヴィリア。騒がしすぎて団体席へ移された一行は取り敢えずの状況を確認していた。

 ちなみに時間は既にお昼時。リゼラは特盛り海鮮丼、シャルナは魚介盛り合わせ、ルヴィリアは女店員にワカメ酒を要求して捕縛され掛けた後の事である。


「フォール君、僕達と別れている間にここで情報収集していたんだろう? 何か解ったことはあったかい」


「……情報収集していたわけではないのだが、まぁ、結果的に情報は手に入った。この街の状態についてだろう?」


 フォールはリゼラによって七割ほど喰い毟られた干物を引っ繰り返しつつ、琥珀で口元を隠しながら言葉を紡いでいく。


「キングクラーケン……、というモンスターの出現が原因らしい」


「キングクラーケン? あぁ、あのクソデカい……」


「いや、恐らく貴様が予想している通常体より数倍は巨大だそうだ。本来この海域には出没しないモンスターらしかったのだが、先日の大雨で水位が上がったことにより海流が変化。何の間違いかキング・クラーケンがこちらへ流されてきたらしい。普段であれば沖合にある離れ小島付近に生息しているらしいのだがな……」


「わ、解らないな。どうしてその、大きなだけのモンスターがこの付近に来ただけで街が水没するんだ?」


「この街は海水を取り込み水車などの水流を利用した細工が多いそうでな。謂わば水の街というより水流の街だったわけだが……、その水流を統括する水門所にキングクラーケンが巣を作ったそうだ」


「成る程のう。つまり水門が占拠されてしまった為に街の外へ流れるはずの水が街中へ溢れてしまった、と。……おーい妾の海鮮丼まだぁー!?」


「厳密には街の中を循環する海水が、だがな。……そろそろ来ると思うが」


「こほんっ、注文の話は兎も角……。街が水浸しになっている理由は解った。ふむ、その辺りは確かに冒険者達の領分だな。この騒がしい様子も納得できる。だがその程度ならさして問題は無……、ルヴィリア? どうした、ルヴィリア?」


 自身の口元を抑え、額から大量の汗を流しながら蹲るルヴィリア。

 その尋常ではない様子に掛かった声すらも彼女にはとどいていないらしく、返って来るのはくぐもった声の全く見当違いな問いばかりだった。


「……フォール君。そのキングクラーケンが本来生息してた場所って何処か、解る?」


「あぁ……、確か『妖怪島』だったか。近付く者は皆その島に取り込まれ帰ってくることは叶わない呪われた島らしい。それがどうかしたのか?」


「いや……、うぅん……。ね、ねぇ? 提案なんだけどさ! やっぱり困ってる人を見捨てるのはいけないと思うんだよねぇ僕! と言う訳でそのキングクラーケン討伐に僕達も参加するっていうのはどうかな! お金も儲かるし街に平和が訪れるし良いこと尽くめじゃないか!!」


「いや、次の目的地のためこの街に滞在する必要はあるが、この街の問題を解決するほどではない。そも冒険者達もキングクラーケンを討伐するための準備を進めているというし、何よりこの辺りにスライムはいない。よって手を貸す理由はないな。……どうして貴様がそんな事を言い出す?」


「で、ですよにゃー……。にゃははは……、は…………はは……」


 歯切れの悪い、快活な彼女にしては珍しい詰まり様だ。

 リゼラとシャルナは互いに顔を見合わせ何事かと首を捻るが、どうにも答えが出て来ない。フォールが口にした『キングクラーケン』と『妖怪島』の二つが彼女に関わっている様だが、思い当たる節があるわけでもなし。

 確かに南部は彼女が四天王として陣取る地域ではあるが、その箇所はここから遠く離れた廃城のはずだし、いったい何の為にここまで構うというのだろうーーー……?


「どう思います、リゼラ様。明らかに何か隠してますよ、ルヴィリア」


「うーむ、思い当たらんなぁ。……いや有り得るとしたら触手プレイ用にキングクラーケンを飼育していた、とかかのう」


「流石にそれはルヴィリアでもちょっと……」


「うん、妾も自分で有り得ないと思っ」


「すいません、そのキングクラーケン……、ペットです……」


「「えぇ……」」


 まさかの大正解である。


「正気か御主!? 変態とは思っていたがまさかここまでとは! どんだけ磯臭くなれば気が済むつもりだ!?」


「い、磯臭い!? 僕そんなに磯臭い!? うそっ、匂いには気を付けてるのに!!」


「見損なったぞ貴殿! いや既に損なうほどもないが!! 先日あれだけフォールのペットの件に反対しておきながらまさか自分が飼育していたとは!! しかもそんな変態目的の為に!!」


「ま、待って待って! 何か勘違いしてない!? アレは確かにペットだけど僕のペットじゃないよぅ!? と言うか変態目的って何! 今日僕への当たり強くない!?」


「騒ぐな阿呆共。……ルヴィリア、ペットとはどういう事だ」


「え゛っ、そ、それはそのう……。僕の仲間が飼育してたっていうかぁ~……、僕の部下達が住んでる根城の守護者っていうかぁ~……」


「部下ぁ? 根城の守護者ぁ!? ンなモン聞いとらんぞ妾ぁ!!」


「だ、だってぇ~……、勝手に根城変えたら怒られると思ってぇ~……」


「怒られるに決まっているだろう! そういうものは古来より伝統として先祖代々受け継がれてきたものでなぁ!!」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい赦して赦して赦してぇえええええええっ!!」


 こつり、と。


「「「!!!」」」


 フォールの仰いでいた琥珀の杯が空となり、机へと底を置く。

 その音は彼女達の喧騒に掻き消され、或いはこの店の騒がしさにさえ塗り潰されるはずの小さな音だったが、リゼラ達は思わずそれに喉を詰まらせ背筋を凍らせた。

 殺意とも怒りとも違う、何かが勇者から放たれている。物言わぬ沈黙を刃として喉笛に突き付けるが如き、鋭い何かがーーー……。


「……ペットは、大事にしなければな」


 それは、悲しみ(ペットロス)でした。


「え、何。急になんかまともなこと言い始めたぞコイツ」


「まだ割と先日の一件を引き摺っている様ですね……」


「も、もしかしてコレ、百年に一度どころか千年に一度あるかないかっていうフォール君が味方してくれるパターン!? えっ、そんなスーパージャックポット的な事があって良いの!? 赦されるの!? せ、先生! エロ本が欲しいです!!」


「調子に乗るな」


「すいません」


「そのキングクラーケンとやら……、島に追い返す程度なら協力してやっても良い。聞けば水門所に戻ることもあれば沖合にいることもあるという。船が必要になるな」


「わぁーいありがとうフォール君やったぁーっ!!」


 フォールに飛び掛からん勢いで腕を伸ばすルヴィリアと、そんな彼女を鬱陶しそうに払い除ける彼。全くいつも通りの騒がしさがそこにはあった。

 しかし、何故だろう。その様子に頬を膨らませるシャルナとは違い、何処か呆れ混じりに見ていたリゼラは違和感に気付く。ルヴィリアの頬にある笑みがいつもと違うような、そんな違和感に。


「じゃあさじゃあさ、取り敢えず船を何処かで借りなきゃね! ギルドとかで貸し出ししてるかなぁ?」


「しているだろうが……、借りるのは難しいと思うぞ」


「へっ、何で?」


「そも街を沈める巣を作りギルドの冒険者達が手こずるほどの相手だ。船が無事で済むとは考えにくい。態々船が壊れると解っていて貸し出すような奴はそういないだろうし、何より……」


 くい、とフォールが首で指し示した方へ全身の視線が向けられる。

 そこにはギルドへの依頼であくせく奔り回っていた冒険者達とはまた別の集まりができていた。見てくれは如何にもな風貌で、所謂『賞金稼ぎ』のような連中だ。少なくともチマチマ依頼をこなす様な、ご丁寧な連中ではないだろう。


「先日の一件、ようやく我々にも手配書が執行されたようでな。晴れて世界的指名手配犯だ。そんな連中に貸す奴がいるとは思えんな」


「晴れてとか言うヤツじゃないと思うんじゃが!?」


「ま、まぁ、帝国であれだけの事をやったのだから当然とも言えるだろうな……」


「へー、賞金とかどんな感じだろ? あぁいや、これのせいで船が借りれないのか! 駄目じゃん!!」


「案ずるな、手は打ってある。船は俺が借りてやろう」


「……まさか御主が単独行動して此所にいたのってそれが理由か?」


「そうだ」


 彼の頷きにリゼラ達から感嘆の歓声が上がる。

 ――――流石はフォール、抜け目ない。恐らくあの賞金稼ぎ達が眺めている手配書には既に細工がしてあるのだろう。手配されれば当然ながら動きづらくなると見て、真っ先に何らかの情報操作を行ったという事か。

 何かもうやってる事が勇者じゃないというのは言い飽きたところだが、今回ばかりはナイスプレー、いいやファインプレーだ! 珍しくこの男の勇者らしくない部分が役に立ったではないか!!


「や、やるではないか御主! それで、どんな細工を施したのじゃ!?」


「うむ、似顔絵をすり替えておいた。名前を変える暇までは無かったが……、そこは偽名を使えば充分だろう」


「成る程! 確かに似顔絵さえ違えば妾達とは解らぬものな! うむうむ、流石ではないか!! それで、どんな似顔絵とすり替えたのだ?」


「あぁ、手頃なものが近くになかったのでな……。代用品で補った。これだ」


「ほうほうどれど……、妾じゃねーか」


「貴様だが?」


 なおすり替えた似顔絵は『カジノ・ミツルギ出入り禁止人物集』からです。


「お、おい! このフォールってガキ、あそこに座ってる奴じゃねぇか!?」


「ゲヘヘへ! 見ろぉ、一千万ルグの賞金首が呑気に茶ァ呑んでるぜェ!!」


「捕まえろォ! 一生豪遊できるぞォ!!」


 傾れ突撃してくる荒くれ共。無表情で手を振る勇者、まだ来ぬ海鮮丼。


「憶えとれよこのクソ勇者ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!」


 こうしてリゼラ達は窓硝子を突き破り、海色の街へ逃走開始。

 その後を数十人の荒くれ者達が濁流の如く追いかけ、やがて残るのは踏み荒らされた机とそこで優雅に酒を嗜む勇者の姿。

 ――――嗚呼、海色の街に照り輝く太陽の色が美しい。先程の喧騒など忘れさせてくれるかのような潮風が琥珀の酒をより味わい深くしてくれる。

 波立つ街の姿で酒が美味い。


「……日差しが、強いな」


 そよ風に靡く髪を掻き分けながら、勇者は僅かな琥珀の雫へと唇を付けた。

 『有り得ねェあのクソヤロウ』。数分後にそう叫ばれることになる男はただ、砕け散った窓硝子の斜光に照らされながら、のんびりとーーー……。



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