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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
最智との激突(前)
232/421

【プロローグ】


【プロローグ】


「えっ、フォールは?」


「消えました……」


 それはこの街にやってきて、ものの数分の出来事だった。

 一緒に魔道駆輪を置きに行ったはずのシャルナが酷く気まずそうに告げた事実に、リゼラとルヴィリアは思わず顎を落とす。何故かって、『逃げた』でも『去った』でもなく、『消えた』なのだから。

 あの勇者なら、ごく当然のようにやってのけてもおかしくないのだから。


「消えたって……、消えたって何……」


「いや文字通り……。魔道駆輪から一緒に降りたのに、フォールの方を見たらもう居なかったのです。本当に、秒単位で一緒に降りたのに……」


「えっ、それは何の前触れもなくかい……? 本当に、どろんと?」


「いや、前触れはあった。どろんと言うか音すらなく消えたが、前触れはあったんだ……」


「それは……、どんな?」


「『スライム人形』……。そう、聞こえた」


「「あぁ……」」


 それはもう、心の底からの納得だったと言います。


「流石はスライム好き公言宣言とかトチ狂ったこと言うだけあって速攻で行動起こして来おったの……。え、どうする? これもうアイツ放って逃げたら良いんじゃね? 世界救われるんじゃね?」


「逆だよ、むしろ滅ぶよ。アレから目ェ離すとか殺人鬼の居る暗闇で蝋燭を離すようなもんだよ」


「それは持ってる方が逆に恐ろしくないか?」


「いや、持とうが持つまいが地獄って意味でね?」


「成る程」


 Not殺人鬼ゆうしゃYes暗殺者ゆうしゃ


「でぇい! あのアホなぞどうせスライム売っとるトコ行けばおるじゃろ!! それよかこの街じゃこの街ぃ! いったいどうなっとんのだこの街は!!」


 リゼラが文句を言うのも無理はない。何せ今の彼女はただでさえ上半身がお仕置きにより泥でべちゃべちゃなのに、下半身まで海水に浸されてべちゃべちゃになってしまったという有り様だからだ。

 先述の通り此所は何故だか海水に浸食された街で、街に入ったリゼラ達も漏れなくその被害に遭っていた。一歩歩けば水溜まり、二歩歩けば浸水、三歩歩けば水没というこの街で濡れずに過ごすというのは土台無理な話だ。

 まだ屋内であれば土嚢などで被害に遭ってない家々もあるが、泥だらけの魔王を連れて入れる場所などそうあるわけもなし、彼女達はこうして外で立ち往生を喰らっているわけである。


「この街はこういう街なのか!? ぬぁあああーーーっ!! 海水が鬱陶しい!! まだ綺麗なだけマシだが潮がべたつく!!」


「いやぁ、この街は海に面しているだけの綺麗な海洋街だったはずだよ。帝国が行ってる貿易の窓口にもなってて……、あぁ、貝殻とか海鮮とかが有名かな」


「何、海鮮!?」


「そこに反応しないでくださいリゼラ様。……しかしルヴィリア、貴殿の言う通りならこの街の惨状はどうしたものだ? 私は素足に慣れているからまだ良いが、リゼラ様の御足をいつまでも海水に晒すわけにはいくまい。幾ら此所が蒸し暑い風土とは言え、このままでは風邪を引いてしまう」


「じゃあ負んぶしてくれよ」


「いやそれはちょっと……。あっ、泥が! リゼラ様ちょ、泥が、泥が!!」


「僕は負んぶしても良いんだけどねぇ。……ま、確かにその通りかな。どうしてこの街がこんな事になってるか解らないし、まずは情報収集と序でにフォール君の捜索だ。あと水浴びができるところがあればそこに行こう。……そこらで浴びれるじゃないかって野暮なツッコミはナシだよ?」


「おい見ろシャルナ! 魚、魚泳いどる! そこ魚泳いどる!!」


「ほう、市街地まで……。ひゃっ!? な、何か踏……、あぁ、貝か……」


「ねぇ聞いて?」


 ともあれ、彼女達はこうして水没街で情報収集を開始する。あとフォール探索。

 とは言えこんな街だ。歩くのにもざぶざぶと海水を掻き分けなければならないし地理も怪しいしで収集は思うように進まない。さらに南方の気温や、海洋街というだけあっての日照りが重なり、足下の水蒸気が彼女達の肌から大量の汗を流させる。

 そうとなれば歩き始めてから、大体十数分ほど。街の半分を巡った辺りで、遂にリゼラがその腰を落とすのも当然と言えよう。


「ぬがぁああ……! 何なのだこの街はぁあああ……!!」


「街、と言うよりこの海水ですね……。街は白煉瓦造りでとても綺麗なものです。こんな浸水さえなければ、きっと海風の心地良い爽やかな街だったでしょうに」


「今じゃ水蒸気のせいでむしむしべとべとだからねぃ。……ま、むしむしべとべとなのは蒸気だけじゃないけど」


 ちらりとルヴィリアが視線を動かすと、まるで羽虫でも払うかのように通りの人々が逃げて行く。

 ――――どうにも旅人に向ける奇異の目、という感じではない。街がこんな事になって機敏なのは解るが、それにしたってあんな舐め回すような視線を送ることはないだろう。

 既に街の半分は回ったが、どうにもこの視線が気になって仕方ない。擦れ違う人擦れ違う人から向けられるが、この視線の理由はいったい何なのだろうか。


「にしてもこの街の奴等はどうしてこんなにすたすた歩けるんじゃ? こちとらこんなに苦労しとると言うのに……」


「確かに、歩みに迷いがありませんね。我々など素足で歩いているせいで先程から小石がちくちくと……。ルヴィリア、貴殿はどう思う?」


「……ん? あぁ、どうって言われてもねぇ、ほら」


 ふと思考から引き戻されたルヴィリアが指差したのは、人々の足元で海色を泳ぐ色彩だった。

 赤、青、緑、黄、白、黒ーーー……。幾つもの色が水面を波立たせながら賑やかに踊っている。それらは文字通り魚々のように水を弾き、道行く人々の足取りを軽やかにしている。

 まぁ、言ってしまえば色取り取りの長靴ということだ。


「さっきも露天商が売ってたよ。そりゃ街がこんな状態だし売れるだろうねぇ」


「え、何アレ欲しい」


「ふむ、長靴か……。確かに街がこんな状態だ、余程の深瀬でも行かなければあの装備があれば充分だろうな。確かに適切だと言える」


「あっ、じゃあさじゃあさ。どうせなら買っちゃおうよぅ! みんなで可愛くるんるん気分でさっ!!」


「ま、待て待て! あぁいうのは別に買わなくても良いだろう? 素足でも足元に気を付ければ歩けるわけだし……。こんなところで無駄遣いしていては切りがないぞ。それより早くフォールを見つけ、この街の原因の究明をだな……」


「「えーやだやだ欲しいぃー!!」」

 

「り、リゼラ様までぇ……」


「必要経費! 必要経費、ねっ!?」


「明日のおやつ減らすからぁ! ルヴィリアの分減らすからぁ!!」


「え」


「ま、まぁ、そういう事なら……」


「え」


 と言う訳でお母さん(シャルナ)から赦しが出たことで、彼女達はそれぞれ露天商から980ルグでリゼラが黄、シャルナが青、ルヴィリアが赤の長靴を購入した。ちなみにシャルナに到ってはちゃっかりフォールの黒も確保である。

 この長靴、意外と良いなめし皮が使われているらしく綺麗に水を弾いてくれるし、歩む度にぱちゃぱちゃという音が耳に心地良い。そうなれば水面の上を撥ねるかのような足取りになろうというものだ。


「♪」


「シャルナちゃんめっちゃはしゃいどる」


「いつも割とはっちゃけるのってあ奴じゃよな」


 まぁ、さしもの二人もまさか長靴購入一番、るんるん気分で水面へ駆け出すのがシャルナとは思いも寄らなかったようだが。


「しかしこれ楽しいのう。ちょっぴりぶかぶかじゃが」


「偶にはこういうのも良いよね。街中が水浸しなら尚更さ」


 ぱしゃんぱしゃんぱしゃん。楽しげに撥ねれば撥ねるほど、水面に波が立つ。

 その波は何処までも、真っ直ぐ続く通路に揺れて、何処までも。


「まっ、これで随分と動きやすくなったし早いトコ情報を集めるのとアホ勇者を探さねばの。動きやすくなったとは言え疲れとるのには変わらんし、全身泥まみれのままだし」


「でもシャルナちゃんはあぁ言ってるよ?」


「リゼラ様ぁー! 楽しいですよー!! 一緒に走りましょーっ!!」


「あの脳筋乙女と一緒にすんな」


「脳筋乙女」


 未だかつてこんなパワーワードがあっただろうか。物理的に。


「まぁまぁでもね? 今日は漏れなくルヴィリアちゃん大活躍デーなのダ! フフフ、僕の情報収集力を侮っちゃいけないよ。何せもう水浴びできて情報収集もできる完璧な場所を探し当ててるんだからネ!」


「何!? ンな便利なとこがあるのか!」


「もっちのろんろん! この僕が無為に街中を歩き回るわけがないだろう? それが何処にあるか探してたのさ!」


「風俗か」


「ノンノン! ほら、僕がよく行く……」


「風俗じゃねぇか!!」


「違うよォ!? 待って僕の信用なさ過ぎない!? 違うから、ちゃんとしたところだからぁ!!」


 大体いつもの事であるのはさておき、リゼラとシャルナは彼女に案内されて今少し足取り重い海路を歩んでいく。一歩歩む度に波立つ道を進むのはやはり大変なものだが、彩り美しい長靴や、進むべき目的地があるというだけで心なしか波立つ湖面も楽しく見えてくるというものだ。

 しかし、いったい何処へ向かうというのだろう。水浴びだけなら兎も角、情報収集を兼ねるということは、どうにもただの宿という訳ではないらしいが。


「にゅふふ、忘れたのか~い? ほら、僕達が帝国で利用したアレだよん、アレ。世界の情報と困った人が集まるぅ~……?」


「……ギルドか!」


「そのとーりっ!!」


 ルヴィリアの言葉通り、彼女達が辿り着いたのはギルド支部だった。

 これでもかと積み上げられ海水の侵入を防ぐ土嚢は人手の多さを、民家の倍はあろうかと言う建築物であるのに未だ一つも損傷がない外見は大衆の権威を思わせる。いやいや、こんな街中だと言うのに人の出入りが止まないところを見れば今この支部がどれだけ満員御礼か説明するまでもないだろう。

 そう、ここは帝国ギルドの次点支部であり、各国で二番目の規模を誇るギルド支部。この海洋街の困り事もめ事騒ぎ事なんでもござれな冒険者達が集う、ギルド支部なのだ。


「ほら、僕達が帝国でギルドの依頼を受けたことがあっただろう? あの時作った偽名の登録がまだ生きてるはずさ。ここなら登録してる冒険者なら水浴びや食事もさせてくれるだろうし、泥だらけな事なんて荒くれ者達の間じゃ珍しくないしね」


「成る程、それに依頼へ目を通せば街の現状も理解できるということか……。考えたな、ルヴィリア!」


「にゅふふふんにゅふふんっ! もっと褒めるがよーい! ちやほやするがよーい! 今日は大活躍! ルビーちゃん大活躍!! さぁさぁ褒めるのダ!!この大活躍な僕を!! 最智の名に恥じぬ大活躍な僕をッッ!!」


「何かそう言われると褒める気無くすわ」


「ですね。行きますか」


「待ってぇえええええええ! 智将を褒めてぇええええええ!! なでなでしてぇえええええええ!!」


 最智の名に恥じぬというか、普段から恥じている事をツッコまないのは魔王と四天王なりの優しさだろうか。

 ともあれ、こうして彼女達は褒めて褒めてと泣き喚く最智を引き摺りつつ、ギルド支部へ足を踏み入れる。この街が海色に染まった理由を探るべく、そしてそろそろ忘れそうになっているが勇者フォールを探すべく。

 冒険者達が集うギルド支部へ、今ーーー……!



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