【エピローグ】
【エピローグ】
「起きろ阿呆共」
「んん~……、あとごふん……」
「そうか。では目覚ましにデコピ」
「起きるわおはよう」
「おはよう」
勇者の目覚ましは死の香り。喰らえば顔面埋没は避けられない。
と、そんな目覚ましで迎えるのはニワトリ騒動から一日経った朝だった。つまりあの後、フォールが帰って来て落とし穴に埋められていたリゼラ達も無事に掘り出された、そんな日の翌朝のことである。
フォールは先日の一件が嘘だったかのように表情を晴れ晴れとさせており(※無表情で)、心なしか焚き火の上でフライパンを転がす様子もご機嫌に見える。きっと一晩明けて機嫌も直ったのだろう。
――――いやまぁ、隣で顔面を埋没させているルヴィリアを見る辺り、まだまだ油断はできないが。
「目覚めたなら顔を洗ってこい。昨日、洗濯に使った川があるだろう」
「んぁあ……、あったのぅ……」
「既にシャルナが顔を洗いに行っている。柔布は奴から借りろ。毛布は片付けておいてやるから、さっさと目を覚ましてこい」
「んむぅーい……」
よたよたと、リゼラは拙い足取りで歩き出す。
その方向が川とは真逆でフォールに修正されたりはしたけれど、まぁそこは彼女の数少ない年相応らしさということにしておこう。
「……ふむ、この辺りか」
して、そんな彼女を送り出したフォールは一人朝食の準備を進めていく。
本日のメニューはディモディ茸とリフの葉を使った、簡単な炒め飯である。朝から炒め飯は重いだろうと侮るなかれ、味付けは野菜の旨みを塩のみで引き出したとてもシンプルな作りなのだ。今日一日は昨日の遅れを取り戻すべく魔道駆輪を長く走らせるだろうし、アッサリとしながらも腹に溜まる一品をというフォールの気遣い溢れたーーー……。
「んじゃこりゃあああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」
いや、それは思いやりではない。
それが思いやりなら、涙目の馬鹿共が全力疾走してくるはずがない。
「何だ。朝から騒がしい」
「騒がしいもクソもあるかぁっ!! なんぞこれ!? 妾の寝間着がスライムスライムスライムではないかぁっ!!」
「きでぇんっ!! どうして歯ブラシやコップに到るまで何もかもがスライムなのだ!? どうしてスライムなのだぁ!?」
「……何故、と言われてもな。飯ができた。持って行け」
「「皿もスライムになってるゥ!!」」
ついでにフライパンもスライム型である。
「昨日、カインと話して思い立った。……やはり自分の好きなものには正直でありたい、とな」
「今までも充分正直だっただろーがって言うか正直すぎて狂気だっただろーが!!」
「そこで俺は思った。もう隠すのはやめよう、とな」
「「えっ」」
「好きなものは好きなもので良いと思う。今までは一応勇者という体裁故に抑えていたが、嗚呼、やはり好きなものの為に生きずして何だと言うのだ。……というわけで貴様等も薄々気付いていただろうが、俺はスライムが好きだ。愛している。崇拝している。…………よってこれからスライム好きを公言していくのでよろしく頼むぞ」
手早くそう言い残すと、フォールは朝食の準備に戻っていく。
――――そう、勇者フォールは強敵との戦い、友情の契り、自身との向き合いを経て成長したのだ。
例え歩むのが迷宮であろうとも、彼はその歩みにさえ意味を持つ。成長とはつまりそういう事だ。生きるとは即ちそういう事だ。彼はその生きるということを再び見つめ直し、新たなる一歩を踏み出したのである。
今まで隠して来たスライム好きという姿を露わにすることで、そして今までの難敵や困難を乗り越えたことで、勇者はここに真なる成長を見せたのだ。
「…………」
「…………」
リゼラとシャルナはにこやかに微笑み、空を見上げた。
――――嗚呼、何て綺麗な朝日だろう。今日の一日が始まるような、そんなとても綺麗な朝日だ。
いや本当に、なんて綺麗なーーー……、何ていうか、もう、本当。
「「もうやだこの勇者……」」
「どうした? 早く運べ」
今日も一日、新しい日が始まる。
そんな日々とこれからの彼等の旅路を祝うかのように、何処かで一羽のニワトリが高らかに遠吠えしてみせたのだがーーー……、それはまた、別のお話。
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