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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
成長と挫折の試練
229/421

【5】


【5】


「…………」


 夕刻、地平の彼方に薙いだ雲が橙色の炎となって燃え盛る時刻。

 草木も風も眠り、獣達も巣に帰るそんな時刻に、河原の土手原で膝を抱える一人の男の姿があった。

 表情こそいつもの無表情のようだが、やはり丸まった背中は小さく寂しげなものだ。彼にしては珍しく落ち込んでいるのだろう。


「ここにいましたか……」


 そんな男の隣へ、一羽のニワトリがやってくる。

 ニワトリは彼と同じく夕暮れと水面の静けさを見つめながら、その場へと腰掛けた。


「聞いていましたよ、先程の会話……。随分な反対を受けていらっしゃいましたね」


「……あぁ」


 彼はそんなニワトリの来訪を止めはしない。

 ただ二人して彼方の焔を眺め、頬を撫でる程しかない緩やかな風に吹かれる。

 そこには奇妙な友情があった。かつては敵対した仲でありながらも今は主人とペットという、とても奇妙な関係があったのだ。


「俺は……、貴様に謝らねばなるまいな。この旅で感じていた寂しさをお前で埋めようとした。『死の荒野』でも『爆炎の火山』でも『沈黙の森』でも……、いいや、何処でだってスライムの姿をこの瞳に移すことができなかった。あの半液体のぷにぷにぼでーに触れることができなかった……。故に、俺はスライムのぷにぷにを貴様のモフモフで埋めようとしたのだ。これほど情けない話はない……」


「……いえ、私も一度はロリっ娘やショタっ子のニーソ踏み踏みを断念し、群れの長で満足していた身。貴方を責めることはできないし、貴方に謝っていただく権利もない。謂わば同じ穴の何とやら、というヤツですよ」


「…………カイン」


「今は……、太郎とお呼びください。貴方はまだ私のご主人様(マスター)なのですから」


 二人が視線を合わせることはない。

 ただ同じものを眺め、同じ場所に座っている。それだけで充分だった。


「ご主人。我々にはそれぞれ求めるべき道がある。例えそれがスライムであろうとロリ&ショタのニーソであろうと……。この熱情は誰に求められません。あの柔らかさを一度でも夢見た者という点で、我々は永劫の迷宮に捕らわれた咎人とも言えるでしょう……」


「…………あぁ」


「しかし、それでも良いではありませんか。それは確かに迷宮だが牢獄ではない。何処に進むも何をするも、我々の自由。いつかある真理というゴールの為に歩むことができる、人生の迷宮です。夢という迷宮に果てはない……。ロリ&ショタニーソが爪先で踏むのか踵で踏むのかで数千の分かれ道を作るように……、違いますか?」


「……俺は、悩んでいたのかも知れないな。スライムに出会えないこの日々に寂しさを感じていた。だが、そうか。これもまた道の一つなのか」


「その通り」


 ニワトリはにやりと笑むと、大きく翼を拡げて羽ばたいた。

 無論、その体が浮き上がることはない。だが彼のその抗いと羽ばたきの音は、何よりフォールを勇気づけるものなのだ。


「ご主人、『昨日の敵は今日の友』という言葉がある……。私は敗者としてこの言葉の通り貴方を認めるわけにはいかないが、同志にはなれるはずだ。例え形は違えども同じぷにぷにを求める者として……、例え敵同士であろうとも、志の同志にはなれるはずです」


「道を目指す同志……。ライバル、か」


「えぇ、我々はライバルであり、同志ライバルだ」


 やはり、二人が視線を交わらせることはないのだろう。

 それでも彼等の拳と羽が交わった時、言葉よりも大切な何かがそこにはあった。

 ――――『ぷにぷに』。道は違えど求めるものは違えど、彼等の目指すゴールにいったいどれ程の差があろう。スライムの触れればぷるんと跳ね返る保湿度MAXなぷるぷるぼでーとロリ&ショタのニーソで引き締められたようでその実もちもち肌を際立たせるニーソによる踏み踏み。この二つに、これを求める者達にいったいどれほどの差があると言うのだ。

 そこにあるのはただ、奇妙な友情。進む道は違えど志を同じくした者達のーーー……。


「……ご主人。私は群れへ帰ります」


 ふと、カインはそう言い放つ。

 夕暮れへ囁くように、ゆっくりと。


「やはり貴方と出会って解った。あの国で敗北した私はこの姿のまま、敗者として生きて行きましょう。それもまた敗者としての誇りだ……」


「……そこに、貴様の求むぷにぷにはあるのか?」


「解りません。ですが、生きている限り我々は迷宮を彷徨うでしょう。この迷宮は一度でも足を踏み入れれば決して逃れることはない……、故に永劫。ならば、それを永遠の地獄と思うよりも、共に寄り添える隣人と思いたいものだ」


「そうだな……。嗚呼、その通りだ」


 草木が、風に揺られる音がした。


「それでは、さようなら。……勇者フォール」


「あぁ、さようならだ。……カイン・ロード」


「「愛し尊べ(ジーク・ハイル)、ぷにぷに」」


 それ以上の言葉は、要らない。

 それ以上の別れも、要らない。

 二人はただそれだけで良かった。最早出会うこともないであろう彼等は、ただ、それだけでーーー……。


「……旅はまだ途中、か」


 これは、成長の物語。

 勇者の歩む旅は折り返しに到るだろう。然れど未だ彼の求めるものは、現れてはくれない。

 ならばいつかそれを手にすることを目指し、これからも歩いて征こうではないか。例えそれがゴールのない迷宮だとしても、ぷにぷにの為ならば彼は何処までも歩んでいける。それこそが勇者フォールという存在なのだから。


「…………フッ」


 少しだけ息付いて、フォールは立ち上がる。その隣には誰もいない。

 彼はただ踵を返し、歩き出した。リゼラ達埋め立て地へと戻るために、歩き出した。

 ぷにぷにの誓いを心に刻みながら、確かな足取りでーーー……。



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