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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
成長と挫折の試練
228/421

【4】


【4】


「…………なぁ」


「何ですか、リゼラ様」


「妾達、生きて帰れるかなぁ」


「怪しいところじゃないですかね……」


 平原には三つの生首が並んでいた。それはもう見事な三つの生首が並んでいた。

 既に魔族達は希望も虚しく怒り狂った勇者によって極刑に処され、こうして亡霊となりながら未だに生へしがみついているのだ、と、いうわけではない。ただ単に下半身が落とし穴の中へ埋め込まれ身動きが取れない状態となっているだけである。

 まぁ、眼前で勇者が銀剣をしゃりしゃりと研いでいる当たり、たぶん数分後には実際にそうなるのだろうけれど。


「って言うかそもそもリゼラちゃんが食欲に負けちゃうからだよぅ! シャルナちゃんのエロポーズも僕の触手大戦も全部無駄じゃないか! これじゃあ聞くこと聞いても意味ないじゃん!! と言うかそもそも食べるなら僕を食べれば良いじゃないか! 性的に!!」


「物理的でもお断りだわ」


「後で憶えておけよルヴィリア。……しかし、まぁ、元よりカインに手を出した次点で我々の」


「太郎だ」


「……た、太郎に手を出した次点で我々の生存はなくなったようなものだと思うがな」


「怒ってる割には訂正するトコは訂正するんじゃな……」


「うん、僕達も訂正され掛けてるけどね? 存在が」


 人、それを粛正という。


「だがフォール、こちらの言い分も一理あるだろう? そのカインは貴殿と敵対し、一度は貴殿に聖剣を突き立てた男だ。狡猾で残忍、姑息で傲慢……。然れどその事実として能力もある。非常に危険な男だというのは、貴殿も解っているはずだ」


「ウチの子は凄いだろう?」


「どうしましょうかリゼラ様、話が通じる気がしません」


「えぇい通話を諦めるな! いつかきっと届くはずだ!!」


「まぁ待ちなよ……、ここは僕が試みよう」


「「智将!」」


「考えてみなよフォール君……。ロリ&ショタニーソで踏まれることを生き甲斐とするドマゾ変態が身近に居て僕達が安心出来ると思うかいっ!?」


「貴様も変態だろう」


「うん。……ぁっ」


「「おい痴将」」


 論破まで僅か二秒である。


「くっ、こうなったら最終手段しかあるまい……!」


 遂に追い詰められた魔王は覚悟を決めた。いいや、決めざるを得なかった。

 その言葉は諸刃の剣だ。失敗すれば自分達を灼き尽くし、或いは成功しようとも深淵の狂気に触れることになる。如何に今の勇者へ効果絶大なものであろうとも、その言葉は余りに危険過ぎる。

 だが、この状況を打破するにはその言葉しかないのも事実なのだ。


「ま、まさかリゼラちゃん!? それは危険過ぎる!!」


「止めるなルヴィリア! 言わねば、言わねばならんのだ!! 妾達が助かるためにも、妾達が生きるためにも!! 言わねばならんのだぁっ!!」


「ちょっと待ってください、何を言うつもりですか!?」


「シャルナちゃんも止めて! これは流石にマズーーー……っ!!」


 如何に叫ぼうと首から下は土の中。最早、魔王を止められる者はいない。

 そうしてリゼラは叫ぶのだ。ただ一言、確殺的な言葉をーーー……!


「スライムから浮気するのか御主ィイッッッッッッ!!」


 瞬間、フォールは研いでいた剣を落として大地に膝を突いた。

 そしてそのまま地面に倒れ伏し、ぴくりとも動かなくなる。効果は抜群どころではない、急所に当たったどころでもない。まさかの即死である。


「な、何と恐ろしいことを……! リゼラ様……!!」


「お、終わった。僕達終わった……」


「えぇい喚くな阿呆共! 仕方あるまい、これしか手段なかったんだから!! 今の内に脱出するぞ、奴が目覚める前に逃げねば死ぬ! 漏れなく死ぬ!! シャルナ、はよ抜け出ろ!! 御主の怪力ならいけるじゃろ!!」


「逃亡前提で爆弾放り込まないでくださいリゼラ様! と言うか二人も抱えて逃げ切る自信は流石にありませんよ!?」


「何言っとんのだ妾一人で良いんだよ人柱ルヴィリアは置いてけ」


「ちくしょうこの外道めぇええええええでもそういうところも好きぃいいいいいいいいいいいいいっっっ!!」


 などと彼女達が騒いでいる間に、音もなく勇者が立ち上がる。

 皆は騒いでいた口をピタリと止め、自身の絶命を思い描いて息を押し殺した。

 未だかつてここまで恐怖したことがあろうか。いいや、ない。


「…………」


 しかし意外と言うべきか何と言うべきか。フォールはゆらりと覚束ない足取りでそのまま何処かへと歩き去って行く。

 その背中はとても小さく、悲しいものだった。


「……た、助かった、のか?」


「みたい、ですね……」


「よ、良かったぁあああ~~~! あのまま首と体がグッバイしちゃうのかと……」


 去りゆく勇者の背中に、彼女達は安堵と僅かな罪悪感を憶えていた。

 ――――言い過ぎただろうか? そんな罪の意識に、喜びの感情もいまいち湧き上がらない。

 しかしそうせざるを得なかったのだ。これはきっと、いつか彼も直面する問題だろう。ならばまだ傷が浅い内にそうしておいた方が良い。それは無意識だったのか意識的だったのかは解らないが、魔王なりの思いやりでもあったのだろうーーー……。


「…………で、僕達はどうやってここから抜け出れば良いの?」


「「あ」」


 まぁ、その思いやりという諸刃の刃が残す傷痕がどのようなものかは別として。

 結局、彼女達がそこから抜け出るのは半日後になったとか、何とか。



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