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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
いざ帝国へ
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【エピローグB】


【エピローグB】


「よし、ここまで来れば一安心だな……」


 さて、フォール達が帝国を脱出した一方で、共謀者であるカネダ達もまたマクハバーナ公爵家を脱出し、市街地の喧騒の中に紛れ込んでいた。

 とは言っても追っ手から逃れるため裏路地に身を隠しているだけなのだが、まぁ一度は帝国から脱出したカネダに掛かれば二度も三度も大差無い話だろう。

 

「はぁ、やっちゃったなぁ……。これもう戻るどうこうの話じゃないなぁ……」


「おいおいガルス、そう落ち込むなよ。人生取り返しの付かないことの一つや二つあるモンだぜ。……だけどな、そういう時は決まってこう考えるべきなんだ。取り返しが付かない事をしたんじゃなく、自分は決断したんだってな! なぁーはっはっはっはっは! そんでそういう決断の時は決まって失うモンより得るモンの方が多いのさ!!」


「……随分ご機嫌ですね? そんなにカジノ・ミツルギでの取り分が嬉しかったんですか? いやまぁ、確かに凄い金額だけど」


「おいおいガルスぅ~! 俺がその程度であんな危なっかしい賭けに乗ると思うかぁ?」


 にたぁ、と嫌らしく笑んだ彼は、懐から二つの欠片を取り出して見せた。

 その欠片からはまる太陽を落としたかのような輝きが放たれ、薄暗い路地裏を一瞬で大通りにも負けない燦々とした光景にさせる。

 そう、それは何であろう、フォールが膝折りで真っ二つにした聖剣の欠片だった。


「い、いつの間にっ……!?」


「あの馬鹿が聖剣を折るなんて言い出した時は吃驚したが、どうせ取れないんだったらせめて残骸でも、と思ってな! 敢えて誘いに乗ってあの騒ぎの中で回収してきてやったのさ!! だけど見ろ、綺麗に真っ二つだからこれ修復しようと思えばできるんじゃないか? 聖剣復活だぞ、聖剣復活!!」


「ふぉ、フォっちも抜け目ないけど、カネダさんも抜け目ないですよね……。意地汚い意味で」


「なははは、そうだろうそうだろっ、いや待て意地汚いって何!? そこは普通に抜け目ないで良くない!?」


「じゃあケチ臭いにしときます?」


「悪くなってないかなそれぇ!?」


 なんて、裏路地に響き渡る盗賊の悲痛な叫びを聞きつけたのやら、それとも先程の聖剣の輝きを目聡く発見したのやら。

 二人が騒ぎ合う裏路地へと、一人の男が降り立った。いや落ち立つと言うよりは墜落してきた、という表現の方が余程正しいのだけれど。衝撃的に。


「あ゛? ンだよテメェ等かよ……」


「め、メタルさん!? よくここが解りましたね!?」


「……よくも何も、フォールの臭いがしたから辿ってきたンだよ。会場にはもういなかったしよォ、こっちかと思って来たらその剣からか。ンだよ、つまんねぇ」


 カネダとガルスは彼の言葉に顔を見合わせ、鞘の中で輝く聖剣の残骸へと視線を移す。

 そして一歩後退。――――どんどん人間やめてくな、コイツ。


「ったく、アイツいねぇならどーでも良いや。おいテメェら、さっさと行くぞ。どうせ帝国にゃいられねぇんだ、アイツ等も帝国から逃げ出してるだろーし滞在する理由もねぇだろうしよ」


「ま、待てバカ! その前に換金してから逃げるんだ換金してからぁ!! これ、カジノ・ミツルギで買った勝ち分の証明書でっ……!!」


「アホかお前。ンなもん交換しに行ったらその場で捕縛されてオシマイだっつーの。俺達ァ今反逆者扱いなんだろ? だったら行くだけ無駄だ、無駄。ンなゴミ切れ何処から持って来たんだよお前」


「う……、うそ……だろ…………? まさか……、そんな……、アイツは……、もしかして……それを解ってたから…………、こ……、これを……取引…………に…………」


「……金のことになると途端にアホになるよな、テメェ」


 絶望で真っ白になるカネダと、そんな彼を前に呆れ果てて見下げるメタル。たった今、帝国に喧嘩を売ってきたとは思えないほどの間抜けさと落ち着き用だ。

 そんな二人を前にしたから、ガルスにも多少なり余裕ができたのだろう。自分の立場について考える、余裕が。

 ――――二人に告白しておくべきだ、と考えるだけの余裕が。


「…………」


 きっとここで黙っていれば、彼等には何も解らないだろう。勢いだけで押し込まれたこの決断を認めてくれるだろう。

 だけれど、それでは納得できない。他の誰でもない自分が、納得できない。

 だからーーー……、言うのだ。ここで言って、決着を付けるのだ。


「あの、カネダさん! メタルさん!!」


「あなたッッッ!!」


 そんな、ガルスの決意を塗り潰すように、女性の華奢な、けれど甲高い声が路地裏へと響き渡った。

 メタルとガルスは何事かと振り返るが、カネダは振り返らない。そしてその女性も二人など視線に入れず、ただ真っ直ぐカネダの背中を見つめている。


「……あ? 誰だあの女」


「ゆっ、ユナ第五席……、ユナ第五席ですよ! ほら、十聖騎士(クロス・ナイト)の!!」


「知らねー」


 ユナ第五席、そう、そこに佇んでいたのは他でもないユナ第五席だった。

 恐らく昼間、ガルスとエレナに話したように自宅で謹慎していたのだろう。彼女の姿は寝間着のままで、掃いているものも適当な革サンダル。そしてその恰好を何処か艶めかしく見せるほど色っぽく息切れし、肩と撓わな胸を揺らしているのを見るに急いで走ってきたことが解る。

 それは彼等の姿を見かけたからか、それとも女の勘からかは、解らないけれど。


「あなたっ……! あなたよね!? あなたでしょう? カネダ・ディルハム!! 私の愛する人っ!!」


「「愛する人ぉっ!?」」


 彼女の発言に思わず振り返って叫ぶメタルとガルス。

 愛する人って、愛する人か? 愛する人って愛する人だ。愛する、愛する!?


「おい待てガルス、何だアイツ等。どういう関係なんだ」


「ぼ、僕もユナ第五席から話で聞いただけなんですけど、えっと、カネダさんが傷付いたところをユナ第五席が助けて、そこから甲斐甲斐しく世話をして貰って愛を誓い合った仲……、で良いのかな? でもカネダさん、巻き込みたくないからってユナ第五席を捨てちゃったんですよ」


「何だそりゃ? アイツ、ンな昼ドラみたいなことしてんのか……」


 こそこそと話し合う二人を通り抜け、ユナ第五席は振り向かないカネダの背中へと駆け寄っていく。

 それでもまだ、彼は振り向かない。例えその華奢ながらに柔らかな色気ある体で抱き付かれようとも、微動だにしない。


「寂しかった……! あなたに会う日までずっと、ずっと……!! 悲しくて、辛くて、会いたくてっ……!!」


「お、おい、何か知らねェけど結構深い仲っぽいぞ。元カレ元カノどころじゃねぇだろアレ」


「そっ、そうですよカネダさん! ユナ第五席が今までどれだけ悲しかったと思ってるんですか!! それに怪我の手当やご飯を作って貰ったりした恩人なのに見捨てるのはどうかと思います!」


「あー、そりゃ駄目だ。おいカネダぁ、女関係はしっかりやっとけよォ? 渡り家業の傭兵なんかだと死因の一割は女関係だって言うぜェ?」


「無情です非常です! カネダさん、せめて彼女の気持ちに応えて上げるべきじゃないんですか!!」


 ユナ第五席の悲痛な声に続き、メタルとガルスからの大ブーイング。

 流石にそこまで言われてはカネダも無言で耐えることはできなかったのだろう。ユナ第五席の手に急かされるように、そのまま、ゆっくりと振り返ってーーー……。

 真っ青な顔に浮かぶ白目と泡噴く口という、死人も吃驚な表情を見せるのであった。


「か、カネダさぁん!?」


「おいアイツ死にかけてんぞ!?」


「あなた、大丈夫!? いけない、早く手当しないとっ……!」


「ふっ、ふざけるなぁああああああ来るなぁああああああ!! 嫌だ、あんな場所には戻りたくない!!  お、俺はもう戻らないぞ! 絶対に戻らないからな!? いっ、嫌だ、死にたくない! 死にたくない!! 死にたくないぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


「そんな、あなた! どうしてそんな事を言うの!? あんなに愛しあったのに!!」


「そりゃ帝国城で聖剣盗むのに失敗して脱出してきたところを拾って貰ったのには恩があるけどなぁ!? その後は俺を鎖で縛り付けて毒霧を発生させるような飯食わせたのは何処の誰だよ!? 手当の度に新しい傷を増やしたのは何処の誰だよぉ!? 愛し合ったって言うか『愛してる』って言うまで枕元で永遠と『愛してないんですか?』って繰り返してきたのは何処の誰だよぉ!? 俺の首にナイフ当てながら婚姻届書かせたの何処の誰だよぉっ!? 嫌だ嫌だもうあんなところ戻りたくないよぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


「そんな、違うんです! だってあんな劇的な出逢いした私達が運命で結ばれてないわけがないんです!! だってそうでしょう? 私達はずっと一緒に愛し合うべきなんです! まるで悲愛に暮れる男女のように!! ロマンチックに!! そう!! 愛し合うべきなのです!! だって私はこんなに貴方を愛し、貴方も愛してくれているんですもの!! 貴方を、貴方だけをずっと愛し、共に生きると決めたのですもの!! 例えお婆ちゃんお爺ちゃんになってもずっと一緒です!! いいえ、骨になって御墓に入るまでずっと一緒です御墓の中でも!!」


「た、助けてくれメタル! ガルス!! 嫌だ、俺は死にたくないんだ!! 頼む、助けっ。助けてっ、お願いだから助けてぇえええええええええええええええええええええええええっっっ!!!」


 メタルとガルス、カネダににっこりと微笑んで手を振り、そのままリターン&ダッシュ。

 路地裏には男の悲しい絶叫と怨嗟の声が響き渡ったそうです。


「アイツが毒嫌いな理由がちょっと解ったわ」


「ですね」


 なおこの後、カネダがしばらく人間不信に陥ることを彼等はまだ知らない。


「まぁ何はともあれ、ユナ第五席の積年の情愛が叶ったようで何よりですよ。カネダさんは死にましたけど……」


「必要な犠牲だから仕方ねェだろ」


「ですよねー。はは……は…………」


 ――――彼女のように、真っ直ぐ想いを伝えられたらどんなに楽なことだろう。

 エレナのように、真っ直ぐ想いに向き合えたらどんなに素晴らしいことだろう。

 シャルナのように、真っ直ぐ想いが持てるのならどんなに誇り高いことだろう。

 彼等のように想えるのなら、それは、どんなにーーー……。


「ガルス」


「ぇ、あ、は、はい!?」


「テメェの飯は美味い。俺はそれが喰いてェ。ンでカネダの野郎はムカつくが珈琲だけは美味ェ。……それだけで良いンだよ」


 ガルスの背中に、疾駆していた彼の脚が浮き上がるほどの衝撃が奔る。

 それはメタルが自身の背中を叩いたのだと言う事に気付くのは、いいや、それは不器用な彼なりの激励であった事に気付くのは、一瞬の間を置いて靴底が再び地面に触れた後だった。


「…………ふ、フフ、ははっ。あはははっ!」


 そして自分の思い描いていた悩みや、ちっぽけな決意なんてものよりも大きくて大切な事があるのに気付くのも、また。


「本当、フフッ、メタルさんて不器用ですね! フォっちと良い勝負です!」


「あ゛ァ!? あの野郎とだと!! おいどっちが不器用なんだ!! どっちの方がレベル高ェんだ!?」


 何処で張り合うのやら、何で張り合ってるのやら。そんな馬鹿らしいメタルの言葉に、またガルスは腹の底から大笑いした。瞳に涙を浮かべるぐらい大笑いした。悩んでいたのが馬鹿らしくなるぐらい、いっぱい、大笑いした。

 そうして心に決めるのだ。嗚呼、彼等に着いて行くことを。その旅路を共にすることを。帝国城に残るより、この国で平穏に生きるよりーーー……、彼等と共に幾多の困難へ立ち向かうことを。


「……貴方達に出会えて良かったと、心から想います」


「…………ケッ、そうかい」


 こうして、彼等もまた新たな旅路を行く。

 その行く先が何処になるのかは、まだ誰も識らないけれど、きっと気ままに歩んでいくのだろう。

 例えその最中に如何なる障害物があろうとも、そんなモノ全てブッ壊して、彼等は。


「ところでカネダさんは助けるんですか?」


「アイツはもう駄目だろ」


「ですよねー」


 だがカネダは見捨てるものとする。


「……っと?」


 と、そんな、カネダを見捨てる気満々で走っていた彼等だが、不意にガルスが落とし物をしたことで足取りを止めることになる。

 恐らく先ほどメタルが背中を叩いた衝撃で懐から滑り落ちたものが転がったのだろう。ガルスは何を落としたのかと立ち止まって拾い上げてみれば、それはイトウから託された今晩の仕事内容が納められた封筒だった。


「おい何してンだ。カネダがあのヤバい女連れてくる前に逃げンぞ」


「は、はい! ちょっと待ってくださいね……」


 今にして想えばイトウにも別れを告げず出て来てしまったと気を重くしつつも、ガルスはその封筒を開いた。このまま持っているよりも内容次第では処分してしまった方が良いと思ったからだ。

 けれどーーー……、そこには彼の予想と全く叛するものが記し綴られていた。


「…………ぁっ」


 ――――馬鹿弟子。どうせ貴様のことだろうから、帝国には残らず旅を続けるだろう。

 帝国を出て行く不孝者にくれてやる指令書はない。インク代も馬鹿にならんのでな。


「先生……」


 ――――だが、そのインク代を惜しみながら貴様に新たなる依頼を出す。

 お前には帝国での業務のことは口にしていなかったから知らんだろうが、モンスターに関する学術は私にとってついで(・・・)のようなものだ。ことこの分野に関しては最早、実地調査を繰り返してきたお前の方が詳しいだろう。


「あ、あの人が僕を褒めるなんて……!?」


 ――――知識量だけだ。自惚れるな。


「……読まれてますね、はい」


 ――――そこで、貴様を信頼するわけではないが信用してやって一つの課題を託そうと思う。

 私にとっても未だ仮説の域を出ない話題であり、そもそも出す必要性もなかった話題だ。然れど未だ私の勘が、この話題に違和感を憶えている。あの夜、お前や盗賊カネダがフォールと共に帝国城へ忍び込んだ、あの夜。私は奴と問答をした。

 それは下らぬ話であったのだろうが、私にとっては重要な会話だった。そこで、私は奴に『消失の一日』について問い掛けた。奴は逡巡の果てに『知らない』と言った。嗚呼、事実として奴は知らないのだろう。

 だがーーー……、本当にそうか(・・・・・・)


「……フォっちと『消失の一日』が、どうして」


 ――――嗚呼、もうインクが少ない。全く、とんだ無駄遣いだ。

 さっさと要点だけを記す。お前はあの男、勇者フォールと『消失の一日』に関する私の仮説を証明してこい。

 私自身も夢物語のように思う仮説だが、有り得ない話ではない。数億分の一という確立で、有り得る話だ。この夢物語のような仮設は、有り得てしまう話だ。

 私はそれだけの可能性を否定して敗北したくはない。我々研究者は可能性を否定した瞬間に、その可能性に敗北するのだから。


「…………仮説」


「おいガルス、まだか? カネダの悲鳴が近くなってきてんぞ!」


「は、はい! もうすぐ!!」


 ――――ここに、その仮説を記す。

 決して読み間違えるな。決して履き違えるな。決して解し違えるな。


「…………ッ」


 ――――私の過程はこうだ。

 勇者フォール。奴はーーーーーー…………。


「これ……」


「おいもう行くぞ! 早くしろ!!」


「あ、は、はい! って言うか助けてあげても良いんじゃ!?」


「アイツ俺に嘘教えたからヤダ」


「……さいですかぁ」


 ガルスは封筒を折りたたんで懐に押し込み、再びメタルと共に走り出す。

 その先が何処へ行くのか。そして封筒の中にある手紙へ記されていたものが何なのか。それはまだ解ることではない。

 ただ彼等がこの先知ることになるその事実は、決して単純なものではないのだろう。或いは聖女エレナが下した預言通りーーー……、世界を滅ぼす厄災となるのかも知れない、その事実を。

 ――――知る日はまだ、遠い。



読んでいただきありがとうございました

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