【エピローグA】
【エピローグA】
「ほれこっちさ。早く乗り込みな」
「すまない、助かる」
帝国南部、城壁近くの僻地にて下水道の脱出路から抜け出たフォール達は、バーのママの誘導により事前に用意していた逃亡用の魔道駆輪に急ぎ乗り込んでいた。
今日はもう信者説得のために下水道へ入ったり脱出のために下水道へ入ったり下見のために下水道に入ったりと、激戦の後日譚にしては何だか嫌な臭いのする一日ではあったが、不思議と彼等の表情は明るく晴れ渡っており何処か達成感さえ見受けられる。
いや、魔族達からしても今回は忌々しい人間の大国に中指を突き立ててやったようなものだ。爽快と言うのならこれ以上の事はあるまい。
そしてそれは勇者も、また。
「……その顔を見るに上手くいったようだね。こっちも見張ってた甲斐があるってモンよ」
「あぁ、報酬はカネダから受け取ってくれ。奴にはカジノ・ミツルギでの勝ち分を全て渡す契約をしてあるから、代理名義なら受け取れるはずだ」
「ふん、構わないよ。どうせあの子達が働いてた給料から天引きだ。……まぁ、ウチの子達が悲しむだろうからその分のお仕置きって事にしとくさね」
「わぁあああんんママぁあああ~~~~! まだこの国でぐーたらしてたいよぉ!! 働かずに女の子とイチャラブしてたいよぉ~~!!」
「ふん、自分達から罪人になった癖によく言うよ。……まったく」
ルヴィリアがママに抱き付き慰められたりと、そうこうしている内にも魔道駆輪の出発準備ができたらしく、けたたましいエンジン音が闇夜の麦畑へ鳴り響いた。
星々の明かりばかりが降り注ぎ、そよ風に薙ぐ金色の畑へと白色の煙が噴き上がる。
「城壁の検問所はウチの子達が気を逸らさせてるから行くなら今の内だよ」
「うむ、何から何まで済まぬな! いつかこの例は必ずするぞ!!」
「……同胞を助けただけだよ。ほら、行きな!」
ママによって急かされるように魔道駆輪は走り出し、手を振る彼女を後に検問所までの道を突っ走っていく。
検問所は確かに彼女の言う通り騎士の姿はなく、普段は閉まっているはずの橋も開いていた。どうやら検問所に忍び込んだ店の女の子達が力を尽くしてくれたらしい。
或いは、祭の浮かれ気分による高鳴りが、そうさせたのかも知れないけれど。
「駆け抜けるぞ」
そんな検問所と松明の炎が照る城壁門を抜け、魔道駆輪はそのまま平原へと駆け出していく。
強大な帝国を背に白煙を噴き上げながら、夜の緑海へと車輪を廻して。その背に巨大な天高く伸びる城門を見送りながら、何処までも真っ直ぐに伸びる道を。
ただ迷うことなく、走り抜けていくーーー……。
「……振り返ってみれば、たった数日か」
やがて帝国城の城門が次第に小さくなりはじめた頃。
不意に、シャルナがそう呟いた。
「十聖騎士……、聖剣祭……、魔族三人衆……、聖女……。途轍もない激動の日々だった」
「まぁ原因の七割このクソ勇者じゃがな」
「そっ、それはそうですが……、そこはそのほら、アレですアレ……」
「終わりよければ全て良し?」
「そうだ! それだ!! 珍しく良いことを言ったな、ルヴィリア!!」
「珍しくじゃないよぅ!? いつもだよぅ!?」
「「それはない」」
「あるェ!? 久々にルビーちゃんショックぅ!!」
ぎゃあぎゃあと言い争う魔族共を他所に、渦中の当事者だった勇者ことフォールはいつも通りの無表情で操縦桿を握り、アクセルを踏み込んでいた。
その頬に涼しげな夜風を当て、遙か彼方で聖剣祭と大事件に賑わいざわめく帝国の騒音に耳を澄ます。
ただいつものように、ただ変わらぬ日々のように。
「んで? フォール、御主も何かないのか!? と言うか大体御主のせいなんじゃから何かあるじゃろ!! オラ感想言えや!! 面白いこと言ってみろや!!」
「……む? あぁ、そうだな。感想か」
かちり、と魔道駆輪のギアを変え、フォールは何処までも続く夜空の地平線に眼差しを向け、そして。
「楽しかった、な」
ただ一言ーーー……、呟いた。
「………………えっ、いや怖いこと言えとは言うとらんのじゃが」
「シャルナちゃんどうしよう!? フォール君が楽しいって言った!! スライム関係なしに楽しいって言ったぁ!! 明日は世界が滅ぶ日かなぁ!? 僕達が死ぬ日かなぁ!?」
「ま、待て待て! ほら、確か信者達から聖剣祭のスライム人形はちゃっかり確保していただろう!? たぶんそれの事だ! そ、そうだろうフォール? 私は詳しいんだ!!」
「振り落とすぞ貴様等」
――――そんなこんなで、彼等は帝国を後にする。潜入に半日、十聖騎士殲滅と魔族三人衆『心臓』カイン・ロード討伐に三日、そして帝国反逆に一日。
合計でたった四日半の出来事であったが、とても長く、とても騒がしい帝国での騒動は幕を閉じる。
けれど未だ、彼等の旅路は続くのだ。この夜空に拡がる地平線のように、星々のように、幾つもの道を幾つもの出会いと別れ、試練や騒動を乗り越えて、まだまだ続いて行くのだ
次に向かうのは何処であろう。次に立ちはだかるのは何であろう。勇者と魔王、そして四天王二人の騒がしい道程はこれからも、まだーーー……。
「……そう言えばフォール御主、帝国の地下下水道にスライムがいるとかどうとか言ってなかったか? アレは良いのかの?」
「………………………………………………ァッ」
「おい待て何で地図を取り出すおい馬鹿やめろそっちは戻る道だやめろアカンこれアカンやつやシャルナァーーーー! ルヴィリァアーーーー!! この馬鹿を止めろォオオーーーッッ!! 早くっ、早く止めろ妾達が死ぬぞォオオオオオオオオーーーッ!!」
続いて行く! たぶん!!




