【11】
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「いや、大ありじゃろ……」
「そうだろうか」
勇者フォールの行動は、それはもう酷いものだった。
自分達を血眼になって探す人々の中に平然と歩み入って行き、そこら辺に落ちている衣服を洗濯籠にでも放り投げる感じで邪龍をポイッ。
結果があの山間の大惨状である。何故だろう、大切な何かを壊してしまった気がする。具体的には見せ場とかシリアス的な何かを。
「と言うか邪龍を投げるって何? 何なの御主? 山一つ潰れたんだけど」
「サイドスローだぞ……?」
「投げ方の問題じゃねぇんだよ!」
「……フォーク?」
「球種でもねぇわ!!」
右、33、4。フォーム。
「牽制でもねぇよぶっとばすぞ!!」
ナイスサイン。
ともあれ、卵が潰れたりしたらどうするんだ、いや硬いそうだから大丈夫だろう、なんて。
そんな会話を経てもう嫌だこいつと蹲る魔王リゼラと、指先が気になるのか適当に弄っている勇者フォール。そんな二人を前に人々も何をどうしたら良いか解らず慌てふためくばかりだった。
いや、無理もないだろう。たった今、目の前で起こった異常な出来事を見た上でどう動くか解るはずもあるまい。
が、そんな動揺の波も一瞬で吹っ飛ぶことになる。山間の轟音と、霧掛かる天雲を振り払う影によって。
「じゃ、邪龍が……!」
大翼を拡げ、軽く動かしただけでも山間の土煙が全て吹き飛んだ。どころか、離れた街にまで旋風が及ぶほどだった。
人々が豪風に伏しながらも、天へと舞い上がっていく邪龍に眼を奪われる。差し込んだ日差しの中へ飛び去っていくその姿には一種の神々しささえあったからだ。もっとも、そんな景色も尻尾辺りから転がり落ちる豆粒のような肥満男のせいで台無しだったわけだが。
「見ろ……、ボーゾッフだ」
「あぁ、間違いない。ってことは……」
邪龍はその場で数度ほど翼を羽ばたかせると、一気に方向転換して人々の頭上寸前を駆け抜けていった。
その飛空が巻き起こした途轍もない風は、伏した男の体勢を崩し、女性を浮き上がらせ、子供に到っては吹っ飛ばしてしまった。まぁ、そんな子供達は勇者フォールが軽々と全員受け止めたわけだが。なお魔王リゼラは当然が如く無視である。
「ふむ、卵を取り返したか。……良かったな、邪龍ニーボルト」
「御主マジ憶えとけよ……」
風が止むと共に、勇者が抱えていた子供達は次々に逃げ出していく。子供ながらに彼の恐ろしさを感じ取った、ということだろうか。割と本気で勇者は落ち込んでいるように見えた。
そんな様子に、ぷーくすくすザマァとか笑った魔王の眉間にドゴォッとチョップが撃ち落とされたわけだが。相変わらずチョップの音ではない。
「何はともあれ……」
「山で土砂崩れがぁああああああああああああああああああああ!!!」
「って言うか城壁どうするんだぁああああああああああああああ!!!」
「眉間がぁああああああああああああああああああああああああ!!!」
「一件落着……、だな」
大惨事である。




