表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
帝国での日々(後・C)
195/421

【1(2/2)】


【1(2/2)】


「という事があってな」


「待て御主、妾投げたのか?」


「……という事が」


「投げたんじゃな?」


「という……」


「投げたんじゃろ?」


「投げたが」


 なお『前より重かったが太ったか』という言葉に、誰の所為だと言わんばかりの魔王による噛み付きが発動したのは言うまでもない。


「それよりも問題は後方の奴だが……、おい尻を噛むな。痛い」


「やかましいわ! 噛み切らんだけマシと思えッ!! というか御主なら奴なぞ一発ブッ飛ばせば済む話じゃろ!?」


「考えはしたが両腕が貴様等を抱えて塞がっているのでな。……いや、リゼラソードなら」


「それ確実に妾が犠牲になるやつじゃろ!? アカンアカンアカン!!」


「チッ。……まぁ、手が空いていようと奴と真正面からやり合うのは得策ではないが」


「は? 何でじゃ」


「この国に来てから力が弱まっている」


 リゼラは沈黙し、こてんと首を傾げる。

 間抜けな声を、あげながら。


「…………初耳なんじゃが!?」


「初めて言ったからな。それに確証を持てたわけでもない。うっかり寝過ぎたような脱力感が体から離れないだけだ。こう、二日酔い的な」


「症状に大して例えようが日常的過ぎねぇ!? それ結構ヤバい状態じゃろ、御主! 呪いとかそういう!!」


「呪い……、呪いか」


 呪いと聞いて思い出すのは国王の症状。

 ――――これほど単純な方程式を間違える者はいまい。と言うことは、つまり。


「あっ、まさか毎晩やってる妾の呪いがついに……!?」


「貴様は明日から夕飯抜きだ」


「ぬわーーーーーーーっ!!」


 魔王、まさかの不正解。


「兎角、今の状態で奴とやり合えば確実に周囲へ被害が及ぶ。あの男、あそこまで脅威的な存在では無かったはずだが……」


「どうするんじゃ御主!? どうするつもりじゃ御主!!」


「取り敢えず逃げ切ることだ。このままただ逃げるだけでは奴も」


「流石に晩飯抜きは嘘じゃろ!? 嘘じゃよなぁ!?」


「……本当に抜きにするぞ貴様」


 辟易とした感情に眉根を歪めたフォールは泣き叫ぶリゼラを引き剥がしつつも、ちらりと後方を確認した。

 連なり続く屋根々々の上、夕暮れが紅く照り輝く煉瓦の道。自身も超えてきたその道に、男の姿はない。

 狂気的な笑みを帯びた追跡者の姿は、ない。


「……いかんな」


 瞬間、彼の脚場が爆散した。

 煉瓦の時雨が紅色の空に照り輝き、未だ沈むことなき暁に反射し合う。

 その様は幻想的でさえあった。煉瓦は降り注ぐ牡丹が如く夕暮れへ溶け落ち、星々が如く紅空に喘ぎを挙げた。触れれば指先が切れ頬を削がれる、茨のような星々だ。

 否、幻想的で茨と来るのなら、あと一つ足りないものがある。それは如何様な物語にもあるべき根源の悪魔。何者もが忌み嫌い、何者にも忌み嫌われ、喰らい、喰らわれる、異貌の徒。


「カ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハッッッ!!!」


 穿ち貫かれた家の下、怯える家人など意にも介さぬ異貌の徒が牙を剥いている。

 絶叫が如き嗤いは正しく異貌の咆吼が如く。抜剣されし白銀は絶叫に抉れる牙が如く。


「……面倒だ」


 空を舞う煉瓦を蹴り上げた瞬間、フォールの体が大きく逸れ落ちる。

 獣の腹に落ちてたまるかと言わんばかりの抵抗だ。魔族二人を抱えているにも関わらず、幾多の煉瓦を蹴り飛ばして機動を変える姿は空を舞う閃光のようにさえ。


「小賢しいァッッッッッ!!」


 が、異貌の徒もそれを易々と逃がしはしない。

 彼は大きく一歩を、フォール達に向かってではなく側部の壁へと踏み出した。

 そして素手による破壊が叩き込まれるのだ。問答無用の衝撃は煉瓦と粘土で塗り込まれた壁を爆ぜ砕き、衝撃の滅壊が天を貫き上げる。

 素手の一撃で、余りに、容易く。


「逃げるなよォ! 俺を楽しませてくれるんだろォ!?」


 爆散の白煙から逃れるように、煙濁の尾が瓦礫から飛び出した。

 その姿に追跡者は頬を崩し、幾度となき嗤叫をあげる。最早それは人の声でさえない。


「ぅ、ぐっ……」


「目覚めたか、シャルナ」


「ふぉ、フォール? これはいったい……」


 そしてその者の頭上を走り抜け、再び屋根伝いに走り抜ける逃亡者達も、また。


「見ての通りだ。追跡……、と言うより襲撃を受けている」


「あ、あの男は……、何でこんな事に!?」


「悪いが説明しながら逃げる余裕はなくなってきた。詳しいことはリゼラ、貴様が説明しろ」


「そうですのぉ、飯はまだですかな……?」


 フォールの片脇でもそもそと口元を動かすお爺さん。

 お爺ちゃん、晩ご飯は一昨日食べたでしょ。


「……幼児化の次は高齢化か。忙しい奴だ」


「違う違う違う! 取り違えたんだ貴殿が!!」


「いやまさかそんな」


 再び、衝撃。

 フォール達は爆煙を抜ける。小脇に赤ん坊を抱えて。


「ばぶー」


「……若返ったか!?」


「わざとやってないか貴殿!?」


 ワンモアボンバー。お次は何だろな。


「おっ? おぉ! 誰かと思えば愛しのフォールじゃねぇかやっぱり俺のことが忘れられなくてこんな熱烈な抱擁をしてくれたんだなぁああーーーーーっ!!」


 ソル第六席、大あた「間違えた」即廃棄である。


「貴殿、今の……」


「気のせいだ」


 眼下で巻き起こる白煙を見る辺り、たぶん気のせいじゃない。


「しかし、いかんな」


 瓦礫を飛び越えながら背後の追跡者を一瞥し、フォールは奥牙を噛み締める。

 眼下で巻き起こる白煙に群がる騎士達を見る辺り、追跡者の他にも肌を焼くような幾つもの気配を感じる辺り、そしてこの騒動が引き起こす必然の結果を求める辺り、恐らく彼の脳裏を過ぎる予測は違いないのだろう。


「考え得るかぎり最悪の状況だ」


 違って、くれないのだろう。


「総力を……、挙げてきたな」


 帝国全土を、数千万すら超える憲兵と騎士達が疾駆する。逃亡する数名の反逆者を捕らえるべく、疾駆する。

 これは総力戦だ。十聖騎士(クロス・ナイト)総員率いる騎士憲兵、対、勇者率いる叛帝国連合。この帝国で起こりえる、帝国にして最大の、叛帝国連合にして最悪の状況。例え一人とて逃がさず、犠牲一人なく逃げられない、最大にして最悪の状況!

 各勢力、総力の逃亡と追撃の戦いーーー……!!


「……えっ、妾は?」


 だが魔王は置き去りである!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ