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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
帝国での日々(後・C)
193/421

【1(1/2)】


 これは、永きに渡る歴史の中で、倫理を外れ続けてきた勇者と盗賊。

 熾烈なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼等のーーー……。


「いやぁ、この活躍振りどうよ!? こりゃもう主人公交代の日も遠くねぇなぁ!!」


「…………」


「やっぱスラキチ主人公よかハードボイルドなガンマンだよ時代は! こう、恰好よく敵をバンバン撃って撃って撃ちまくってな!?」


「…………」


「時にはギャンブルでも不屈の精神で戦い、盗みだって持ち前の技巧テクでこなす万能主人公! かーっ、これを幕開けに俺の大活躍な大進撃が大開催されるんだろうなぁ!! かーっ!!」


「……カネダ」


「何だ!? あぁ、心配すんな。主人公交代した暁にはお前はスピンオフ主人公として登場させてやるからさぁ!!」


「貴様の活躍は前回が最後だ」


「えっ」


「最後だ」


「……えっ」


 驚嘆の物語である!!



【1(1/2)】


「山芋のチーズリゾットだ」


 机に出されたのは雪のように真っ白な一皿だった。

 けれどその雪原は湯気立っていて、温かくて、ほかほかで、ふわりとした濃厚な香りがその存在感を強く際立たせる。

 これは、ミルクだろうか? 何処か安心してしまうような、そんな優しい香りだ。


「チーズリゾット? ……聞いたことがないな」


「何じゃこれ。何かつぶつぶしたモンが……」


「米、と言うらしい。極東の島国から輸入されてきたもので、帝国では割と一般的なものだそうだ。この帝国でも栽培されているようだが、パンに比べて主食として用いられる事は少ないらしい。……ともあれ、シャルナは米を知っているんじゃないか?」


「あ、あぁ、米か……。確かに先代が好んで食べてはいたが、私はあまり……」


「そうか、ではこの機会に食べておけ。この食材は用途が広いからな」


 二人は気まずそうに視線を合わせ、恐る恐るその皿へと手を伸ばす。


「……ミルクベースのスープ、じゃよな? これ」


「あぁ。そこにスライスしたコルクの実と粉末状にしたチーズを多めに加え、米と共に焦げ付かないよう煮込み……、細かく分けて茹でた山芋を入れてからまた煮込み、香辛料などを振りかけて完成だ」


「成る程、だからこの濃厚さか……」


「米、というものは非常に興味深いな。聞けば様々な料理に組み合わせられるらしく世には丼モノという料理もあるらしい。これからは様々な創作料理に取り組むのも一つの手かも知れん……」


「……フォール、貴殿は何を目指しているんだ」


「フッ、言うまでもあるまい。世界を平和にすべき」


「「スライム神宣教師?」」


「何だ、解ってるじゃないか」


 沈黙。リゼラとシャルナは無言で目を逸らす。

 ――――これ、喰ったら変な幻覚見えたりしねぇ?

 ――――最悪そのまま帰って来れない可能性も。

 なんて。


「…………」


「…………」


「……えいっ」


「あっ」


 しかしリゼラ、美味そうな薫りに負ける。


「おっ、美味ぇ! 何かもちもちしてて甘いぞ」


「それが米だ。果実や砂糖とは違う甘みで……、チーズとも相性が良く、コクが出る」


「だ、大丈夫ですかリゼラ様? スライムの幻覚が見えたりしませんか?」


「いけるっぽい」


「憶えておけよ貴様等」


 もむもむとリゾットを食むリゼラと、次々無くなっていく皿の中身。

 シャルナもその様子に意を決したのだろう。皿へスプーンを伸ばし、体格に似合わないちびりとした量だけを口へと含み、思わず。


「あっ、美味しっ……」


「だろう。……ふむ、初めて作ったが成功だったようだな」


「チーズもとろとろじゃし山芋もほろほろ。何よりこのベースになっとるミルクのスープのお陰もあってか、何と言うかアレじゃの。安心できる味じゃの! 初めて食べたのにほっとできるというか何と言うか。妾は好きじゃぞ。量以外は」


「……四人前だからな、その大皿一つで」


「十人前はいるじゃろ」


「り、リゼラ様! ルヴィリアやフォール自身の分もあるのですから……。それに先ほどお菓子を買い食いしたところでしょう!?」


「あ、おまっ、ばっ!?」


「案ずるなシャルナ、俺とルヴィリアの分は取り置きしてある。……ところで買い食いについて詳しく聞きたいんだが」


「ち、ちがっ、違うんじゃ。な? シャルナ? な?」


「1200ルグ分のお仕置きをどうぞ」


「こ、この裏切り者ォオオオオーーーーーーーッッ!!」


 そんな、山芋のチーズリゾットを囲む、朗らかな日差しの元でお昼下がり。

 何気ない一日の、何気ないお昼の、本当に、何気ない一時のお話。

 ――――まぁこの後、まさかギャンブルで死闘を行うことも、世界一忙しい夕暮れが来ることも、お小遣いが100ルグまで減らされることも、魔王が知る由はないのだけれど。

 それでもなおこの時だけは平和な、とても、平和なーーー……。


「はっ!」


「目覚めたか」


 気付けば、リゼラは何故だがシャルナと揃って後ろ脇にフォールへ抱えられ、街中を疾走していた。

 いや、街中というよりも連なる家々の屋根を、だ。周りの景色が風のように過ぎ去り、後ろ手で抱えられた自身の尻と背中に凄まじい豪風が吹き付ける。


「と言うか個々何処!? うぇあーなう!? 飯か、飯の時間か!? って言うか今何かすっごい最近の走馬燈見てた気がするんじゃが!?」


「そうか、安心しろ」


「え、お、おう?」


 ――――先程まで自分達はカジノにいたはずなのに、どうして今こんな事になっているのか?

 確かカジノで大当たりしてシャルナと喜んで、えぇと、それからどうなったのだったか。記憶があやふやでどうにも思い出せない。

 しかしまぁフォールの言葉からして危機は去ったようだし、どうせミツルギ第八席の追っ手から逃げてるとかそんな感じだろう。ここはこのまま勇者を脚として使って、悠々自適な安心逃亡ライフを過ごせばーーー……。


「今からもっと酷い光景を見ることになる」


 彼の言葉は、自然とリゼラの瞳を真正面、つまりフォールの後方へと向けさせた。

 そして、嗚呼、そう。リゼラは現実を認識するのに0.5秒、後悔するのに1秒、現実逃避するのに1.2秒を要すことになる。

 化け物よりよっぽど化け物な、邪悪なる満面の笑みで剣を掲げながら全力疾走してくる化け物のせいで、だ。


「……なんでぇ?」


「俺が聞きたい」


 逃亡戦、なう。



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