【エピローグ】
【エピローグ】
「どォッッッセイッッ!!」
高速回転式スライダーフォークカーブナックルジャイロ型ボール。
凄まじい速度でキリモミドリルなラドが、怪物の腕を一挙に弾き飛ばした。
いや、正しくはそんな彼女を投げ飛ばした男が。幼女体系の獣人を一切の躊躇なく全力投球した男が、である。
「ハァッハァー! ストラァアアーーーーイッック!! 鈍ってねェなぁ俺の腕もよォ!!」
まるで獣の咆吼だ。獲物を眼定めた獣が己の縄張りを示すが如き咆吼。
この煌びやかなカジノに似合うはずも無い野蛮なそれに人々はようやく驚愕の檻から脱出し、目の前の光景を理解した。
――――そして起こるのは大混乱。悲鳴に絶叫、誰も彼もが地位も金も風貌も忘れて走り出す。目の前の化け物から我先にと逃亡する。誰かの足を踏もうと誰かの背中を押し倒そうと誰かの机を薙ぎ倒そうと止まらない。それは、恐怖と混乱の濁流だった。
「……何?」
そして、そんな混乱の濁流に取り残されるが如く立ち尽くす、フォール達。
彼等でさえも目の前で巻き起こる惨状を理解するのに、数秒を要した。
ミツルギ第八席に勝って、化け物が出て来て、それにラド第十席が激突して、メタルが叫んで。
――――これは、何だ?
「……フッ、まぁそう焦るんじゃねぇよ」
だが、この状況でもなお今日絶好調のカネダは落ち着き払っていた。
例え周囲が如何に混乱へ追い込まれていようともそれに流されるような彼ではない。この状況もこの絶好調に任せて解決してやろうと言わんばかりの堂々振りだ。
「メタル! 数日ぶりの再会を喜びたいところだが、そうもいかない。この化け物はいった何」
「メタル第零席! そこの男達を捕らえぇ!! そいつ等が侵入者やッ!!」
「ちょ」
第八席から暴露なう。
「あ゛ァー? ……あ゛?」
「メっ、メタルくぅん? 第零席ってナニカナー? あの、聞いてる? メタルくぅん?」
「早ぉせぇや! そいつ等が帝国への反逆者、アンタの捕らえるべき相手なんやよ!!」
「……あ゛-、ァあー。あぁ、解った。オーケーオーケー」
面倒臭そうに頭を掻きむしり、メタルは鬱陶しい羽虫でも払うかのように抜剣する。
しかしその背後から彼の行動、いや、彼の全てを否定せんばかりに、コートの残骸を纏った異形が現れた。
巨大だ。先夜、フォールとカネダが遭遇した化け物の数倍はあろうかという体躯。その頭にある単角は天井を削らんばかりに、赤黒き牙が如き爪を持つ腕は逃げ惑う人々の頭上を大きく跨いで振り被らんばかりに。
そして、それ等全ての巨大は、渾身の剛力を込めた腕をーーー……。
「つまり、アレだろ?」
天井へと、めり込ませた。
「単純な話……」
巨体が、まるで鳥の羽毛でも舞い挙げるかのように跳ね飛んだ。
天井の装飾に引っ掛かった羽毛はもう二度と落ちてくることはない。風でも吹かない限り、落ちるはずもない。
そう、圧倒の二文字は刹那にして無様の二文字へ変わり果てたのだ。その男の斬撃によって、変わり果てたのだ。
「全員ブチのめしゃァ、良い話だろ?」
そしてこの状況さえも、変わり果ててしまったのだ。
「……あ、あの、メタル?」
「な、何を、言っ……、何を言うとんのやアンタはぁ!!」
さらに、トレンチコートの怪物が二人、群衆を掻き分けて異形の体躯を晒す。
然れど未だ、渦中をさらに掻き回す男の笑みは揺らがない。どころか、さらに狂喜の色を増して見せた。
戦慄、焦燥、困惑、恐怖、歓喜。様々な感情入り交じるこの中で、誰かこの状況を切り抜けよう。誰がこの状況を乗り越えよう。誰がこの状況を砕き壊そう。
――――何と言う事はない。昨夜から明朝にかけて帝国一騒がしい夜は終わりを迎えた。
では次は、帝国一騒がしい昼下がりがやってくるだけのこと。
「……おい、貴様の仲間だろう。何とかしろ」
「ごめん、無理」
帝国叛逆二日目ーーー……、逃亡戦、開始。
読んでいただきありがとうございました




