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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
帝国での日々(後・B)
187/421

【プロローグ】


 これは、永きに渡る歴史の中で、雌雄を決し続けてきた勇者と魔王。

 奇異なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼等のーーー……。


「うーむ……、こう、手が小さいと書きづらいのぅ」


「何だ、何を書いている」


「側近への手紙をな」


「ふむ、手紙か。俺も書いて見るかな……。にしても側近とはまた懐かしい名が出たな」


「うむ、魔王城を出てはや数ヶ月。あ奴、元気にしとるじゃろうか」


「……あの性格で塞ぎ込む方が考えられんが」


「いや、側近も割とナイーブなんじゃぞ? こう、合コン失敗する度に白装束で藁人形持って無言のまま魔神殿へ……」


「……それは、うむ」


「その度に魔貴族が病に伏したとかいう報告があってなぁ。はははは、呪いでもやってんじゃねぇかって」


「…………うむ」


「まぁ妾も時々やってたけど」


「うむ。……うむ?」


激動の物語である!!



【プロローグ】


 華美装飾、ならぬ過美装飾。

 帝国城とはまた違った、金銀財宝を壁に塗りたくったような豪華絢爛。シャンデリアとか高級絨毯とか純金純銀の柱だとか大理石の女神像だとか、もう見るだけで目眩がしそうなゴージャス・ブリリアント。

 その中を征く者達もキッチリ決まったスーツやドレス、また側には執事やメイドを連れていて、明らかに上級階級であることが解る。心なしか歩みにもオーラというか雰囲気というか、気品が溢れているようだ。

 ――――そう、謂わばここは天上人の社交場にして娯楽場。帝国心臓部に位置し、帝国最大規模を誇る有料施設、『カジノ・ミツルギ』。

 帝国の物資及び財政を全て掌握しているというミツルギ・シュンカ・トウ第八席が経営する、カジノである。


「おっ、やっと来たか」


「おーい! こっちですよ、こっちー!!」


 と、そんな高級世界に似つかわしくない男が二人。

 格好こそ周囲の者達に等しくスーツで固めているものの、どうにもへにゃっとした空気が抜けていないカネダとガルスだ。

 彼等はカジノの入り口でガードマンに微妙な顔をされつつも、近所で友人と待ち合わせるかのようにその者達へと大手を振っている。


「いかんなぁ、格好事態は懐かしいのにクソ歩きにくいわ」


「そうか? 採寸は間違えてないはずだが……」


「まぁ子供の体だし……、待てこれ御主の自作か」


 その大手に連れられてやってくるのはフォール、リゼラ、シャルナの三人組。

 黒無地のスーツにイトウの家から拝借してきた縁なし眼鏡、髪型もオールバックという、いつぞやの筋者風なフォール。

 勇者お手製の夜空の銀河が如く煌めく深藍色のドレスに身を纏い、少女らしく可愛らしいネックレスを下げ、双角を隠す帽子にも華一輪とお洒落なリゼラ。

 そしてしっかり決まったスーツの男装シャルナ。


「おい」


「何だ、どうした」


「どうして私が当然のように男装なんだ」


「仕方あるまい、布地が足りなくて貴様の体に合うドレスが作れなかったんだ。それに体格的にもドレスも難しいと思ってな。……その格好も良く似合っているが」


「だからって迷わず男装はないだろう、男装は! ドレスがなくても、もっと、こう……」


「諦めよシャルナ。まだ何処ぞの変態に変な目で見られぬだけマシと思え」


「……リゼラ様がそう仰るなら。うぅ」


 ちなみに何処ぞの変態は約束の時間を過ぎても返って来なかったので放置という始末。

 何処にいったのやら、帰りの返事一つないときたものだ。


「遅いぞお前等。計画の時間から五分は過ぎてる」


「まぁまぁカネダさん。五分ぐらい……」


「あのな、計画ってのは五分どころか一分一秒も狂っちゃ駄目なの! お前は自分に厳しいくせに他人に甘すぎてだなぁ」


 さて、そんな彼等を出迎えたカネダだが、どうにもご立腹な様子。

 ガルスが宥めるものの不機嫌さは直らずーーー……、なんて事よりも、リゼラとシャルナは一つの疑問を持っていた。

 ――――コイツの名前、何だっけ。


「何かこう、記憶の端にうっすらあるんじゃよな……。聞いたことある、聞いたことある……」


「フォールも話していましたしね……。えっと、確かこう、げへげへ笑ってたような……」


「ぐへぐへじゃなかったか?」


「そうです! ぐへぐへです。……えーっと、ぐへ太郎?」


「いや流石にそれはないわ。アレじゃろ、確か、えぇと……、カ、カネ、カネー?」


「カネダ・ぐへ之介!」


「それじゃわ」


「「久し振り、カネダ」」


「おー、名前憶えててくれたのか! 嬉しいなぁ」


 げへ之介・爆☆誕。


「ったく、俺のこと憶えててくれたリゼラちゃんとシャルナに免じて赦してやるが、お前が言い出した計画なんだからな、フォール! 俺たち結局あの後、帝国城から店に帰る間もなくスーツ買ってここまで来たんだぞ?」


「……む、戻ってないのか。ルヴィリアが尋ねてきてなかったかどうか知りたかったんだが」


「ルヴィリア? ……あー、何だったかな。奇妙な恰好してたあの子か? 俺は見てないけど、ガルスは?」


「僕も……。ママか店の女の子達なら知ってるはずだけど、ママは今日のお昼まで買い物に出てるはずだし、女の子達もこの時間は寝てるかも……」


「いや、解らないなら良いのだ。……奴ならば大体どうにかなるだろう」


 フォールはネクタイの結び目を直し、今一度その場所へ向き直る。

 今回の標的ーーー……、ミツルギ第八席のいる『カジノ・ミツルギ』。

 この国の財政面、物資面を掌握していると言われているほどの公的商売人だ。彼女を潰せば各方面へ多大な被害と共に()が生まれることだろう。

 もっとも、今回ばかりはそれはそれとして別の目標があるのだけれど。


「さて、早速潜入するか。貴様等、金は持って来たか?」


「おう、十五万ルグ持って来たぜ」


「えっ、一万ルグ……」


「ご、五千ルグ」


「100ルグじゃが?」


「…………セーフはガっちゃんラインだな」


「おい100ルグ舐めんなよ」


「悪いことは言わんから貯金しておけ」


「ごせんるぐ……」


 お小遣いは日々貯めてこそ意味があるものです。


「と言うか妾達、結局のところ今日何の為にここに来たのか知らんのじゃが? ミツルギとかいうのブッ潰す言うてもギャンブルで潰しても意味ないじゃろ」


「……む、あぁ。潰すのは奴と言えば奴だが、主にこのカジノの事だ」


「よっしゃもう驚かんぞはよ言え」


「このカジノを利用して、ミツルギ第八席を経済的に不能へと追い込む」


 沈黙。

 いつも通り無表情なフォールと、気まずそうに顔を逸らすカネダ。

 残る三名はやはり沈黙。そして、彼等は手元に資金を集め、一言。


「「「正気……?」」」


「割と」


「十六万五千ルグで……?」


「おい100ルグ忘れんな」


「あ、じゅ、十六万五千百ルグ……」


「何も真正面から挑むわけじゃない。あくまで目的は別にある。本来ならばもっと速く取り掛かるべきだったが、何処にあるか解らなかったし……」


「……し? 何じゃ?」


「ある意味で……、油断ならない相手でもあるからな」


 彼はそこまで言うと、特に何を言い切るでもなく言尻を濁した。

 その視線が向く位置はリゼラ達やカネダ達でも彼女達の手にある資金でもなく、規則正しく並ぶカジノの柱。

 いやーーー……、正しくはさらにその央、柱を登る装飾の黄金龍にある純心なダイヤモンドの瞳。


「気付かれとるわなぁ」


 その瞳を通して歪んだ微笑みを浮かべるのはミツルギ第八席。

 紫緑の毒々しい扇子が口元を覆い、肩は這いずる様に揺れる。随分と悍ましい笑みもあったものだ。

 そんな彼女は不気味な感情を掻き立てるように、暗色の一室で煌々と輝く水晶に瞳を照らしていた。フォールを睨むそれと同じく純粋でありながらも、何処までも歪んだ瞳を。


「フフ……、世界を滅ぼす大罪人がよう顔出せたもんやな。そうでなくとも帝国への反逆罪や国王誘拐の罪まであるのに……。ウチがここから通報したらどうなるか解っとんのやろかぁ?」


 彼女の扇子が潤しい唇から流れ、水晶隣にある宝石の欠片へ鋒を当てた。

 魔力を込めれば帝国城へ緊急の通信が届く。そうすればカイン第一席を始めとする数多の騎士達がこのカジノに大挙するだろう、がーーー……。


「……そしたら、今日の売り上げは減るやろなぁ」


 扇子が開き、宝石の欠片を弾き落とす。その腹に見えるのは紫緑で彩られた『贅』の文字。それは彼女を司り、彼女を培い、彼女を創る一文字だ。

 一分一秒が砂金の塊粒。一ルグ万ルグ億ルグが血の一滴で肉の一筋で骨の一欠片。金があれば全てを成せるを信条に今まで生きてきた、金があれば全てが解決するを理念に今まで生きてきた、金があれば全てを超えられるを結論に今まで生きてきた。

 金! 金こそが、全て!! 金は世界の真理に直結する!!!


「フフ、ほな真正面から受けまひょか」


 黄金挽歌を詠いながら、水晶の向こうにある死地へ歩む者達を嘲笑う。

 その禍々しい扇子が仰ぎ払うのは屍の灰燼か、それともーーー……。


「とか思ってるだろうな、あの性悪商人」


 狡猾なる男の、金色か。


「よ、よく解りますね。そんな事が……」


「そりゃコォルツォ第九席に並んで敵に回したくない奴だしな。生活ペースだの行動範囲だの、もちろん性格まで下調べぐらいはキッチリしてるさ。……まぁ、数年前のだけど」


「アレじゃろな。ゲスい部分が共通してるから……」


「あぁ、共鳴反応というヤツですか」


「俺に対する反応ひどくない? 結構活躍してると思うんですけど?」


「溢れ出るぐへさは誰にも消せないものだ」


「グレるぞこの野郎。……おい待てぐへさって何だぐへさって」


 視点は戻って、カジノへ入店したフォール達。

 入り口でこそ浮いていたものの、彼等も中に入ってしまえば熱気と歓喜、絶望と悲鳴が入り交じるこの空間では然ほど目立つ存在ではない。

 それよりルーレットの前で大泣きしながら頭を抱えている男だとか、執事を馬にして札束で操る中年女性だとか、鋭い眼光でカードを睨む老人の方が余ほど目立っていると言えるだろう。

 流石は欲望渦めくカジノ。人間の本性がこれでもかと絢爛の光に照らし晒されている。


「……ともあれ、奴がこちらを確認しているなら都合が良い。計画を実行に移すとしよう」


「あ、それじゃ! 目的は解ったが結局のとこ妾達、その計画がどーたらとかいうの聞いとらんぞ!! はぐらかしおって!!」


「あ、僕も聞いてない……。カネダさんも教えてくれないんだ」


「と言うことは知っているのはそこの二人だけか? 貴殿達、何も我々にまで隠すことはないだろう。計画というのは円滑に進める為にも共有が必要で」


「じゃあ聞く? 計画」


 余りにアッサリとした返答だった。

 三人は思わず面食らいながらも、カネダの言葉に恐る恐る頷いてーーー……。


「遊びます」


「「「お、おう」」」


 当然のように、微妙な返事しかできないのであった。


「……いやそんなぽかーんとされてもな、本当にこれしかないんだ。今回の目標は『元気に不健全に遊ぶ』、デス!!」


「喧嘩売っとんのか? このゲス」


「悪いが口喧嘩は得意ではないので肉弾戦になるが構わんな? ゲス」


「ゲスダさん……」


「泣いていい?」


 何気に一番酷いのはガルスである。


「……まぁ信じられんだろうがその通りだ。今回は普通に遊んでいればそれで良い。計画と言ってもそう複雑ではないのが、だからこそ露見すると一気に動きづらくなる。……特にリゼラは顔に出やすいからな」


「何じゃとぉ!?」


「あー、あー、つまり警備に注目マークされたくないって事だよ。今回の下準備はフォールが終わらせる。その時(・・・)になったら嫌でも解るから待っててね、ってワケさ」


「ふぉ、フォールが一人でか!? 私達にも何か、手伝えることは……」


「悪いが今回は隠密優先でな。貴様等に遊べと言ったのも注意を分散させる意味がある。ミツルギ第八席が利益を気にして事を公にしない以上、情報を漏らさない近衛だけでこちらを監視するはずだ。そして近衛ともなれば数が限られる」


「だから僕達がその数を引き付ける、ってこと? ……でもフォっちが一人で行くのは逆に目立つんじゃ」


「それを抜ける為の単独行動だ、ガっちゃん。あくまで事を起こすまでは一般客として振る舞って欲しい。普通のディーラーや給仕にまで目を付けられて放り出されては敵わんからな」


 だが、と言いかけたシャルナの言葉を逸らすように、フォールは後ろ手を振りながら人混みへと紛れていった。

 不安げな彼女の思いは雑踏に溶け、喧騒に消える。追いすがる手を伸ばすことすらできず煙に巻かれたようでもある。

 別に、一人でやる事が悪いと言っているのではない。確かにフォールならば単独行動を行った方が何倍も成功率は高いだろう。しかし最近の彼はあまりに突っ走りすぎているようにも思う。できれば、自分達も少しは頼ってくれて良いのに、と。

 ――――そんなこと、口にしたらリゼラ様に怒られるだろうけど。なんて。

 淡い思いを胸の内に秘め、シャルナは既に見えなくなった男の背中を見つめ続けるのであった。


「……ま、アイツならどーとでもするさ。ここ数日で行動を共にしてたから解る。アイツは一人でも大丈夫だ、ってな」


「……カネダ」


「むしろ仲間連れてったら囮にするような奴だし」


「「解る」」


「そこ解っちゃうんですか……」


 経験済みの言葉は重い。



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