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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
帝国での日々(後・A)
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【エピローグ】


【エピローグ】


「…………」


 夢現。木漏れ日の揺り籠で、彼は微睡みから目を覚ます。

 少し熟睡しすぎただろうか。僅かな頭痛に瞼を伏せ、割れ物でも扱うかのように身を起こした。

 外から薙ぐ風が心地良い。まだもう少しこの風に当たっていたのなら、きっと頭痛も治まることだろう。

 ――――けれど、そんな時間はない。嗚呼、今は何時だろうか? 予定時間から、まさか寝坊はしていないだろうか?

 いや、杞憂だった。日の高さからして丁度良い時間に違いない。

 今からなら昼食を作って、部屋を軽く掃除してーーー……、あの場所(・・・・)なら、身嗜みも調えなければならないだろう。いや、その時間も充分にある。


「む…………」


 幾つもの予定や推測に、ただでさえ痛む脳を絞り上げながら、彼はソファから脚を降ろした。

 何故か掛かっている毛布を横に除け、開いた窓を閉め、台所へと歩んでいく。辺りに放り出された空箱を見てリゼラを仕置きすることを決め、発動済みのトラップと無くなった激辛ソース入りトラップを見て満足げに頷き、さらにその奥へ隠してあった食材各種を取り出して昼食のメニューを決める。

 目に付くのはお隣からいただいた卵、芋やキノコといった野菜、この前買い足してきたチーズ。

 と、なれば。


「……ふむ、あの食材を使ってみるか」


 収まってきた頭痛に安堵の息を漏らしながら、彼は幾つかの食材の下準備に取り掛かる。

 芋の皮を剥き、水にさらし、キノコの石突を取ったり、と。

 彼からすれば慣れた作業だ。寝起きの頭でも容易くできる。

 ――――だからこそ、思考は別の方向へと向く。昨夜の出来事を思い出す為に、別の方向へ。


「……昨夜の、怪物」


 イトウにも忠言したが、あの怪物は何だったのだろうか。

 ただでさえ預言や十聖騎士(クロス・ナイト)と忙しないのに、また面倒な要素が出て来た。

 奴ら一体一体は大した驚異ではなかったが、アレが数として集まれば厄介なことこの上ない。

 しかもあの人間から異形への変異ーーー……、もし街中に紛れられようものなら見分けることは至難を極める。

 常に気を張っていなければならない。例え、いつ奴等が襲撃を掛けて来ようとも、即座に対応するだけの注意が要る。

 ――――いいや、注意というのなら、怪物よりも向けるべきものがあるはずだ。

 帝国城に入ってから僅かに感じていた、あの違和感。体の底がざわつくような、気配。

 聖剣(・・)ーーー……。アレは、いったい。


「フォール、帰ったぞ」


「ったく、大変じゃったのう。まさかあの後、さらに大量のハイエナ共に襲われるとは。妾が奴等のトコに落ちていた蘇生薬で奇跡の復活を遂げなければどうなってルマエッ!!」


 リゼラの顔面にダイレクトシュートon包丁。と言うかin包丁。

 刃物を持って考え事をしている人に急に話しかけてはいけない。これ大事。


「……何だ、帰ったのか」


「り、リゼラ様ぁああああああああああああああああああああーーーーーー!!」


「む、いかん。やってしまったな」


「馬鹿ぁ! フォールの馬鹿ぁ!! リゼラ様が、リゼラ様がぁあああああーーーー!!」


「芋の皮を剥きすぎた……」


「馬鹿ぁああああああああああああああああああああああ!!!」


 なお芋は軽く擦るだけでも皮を剥けるものがあるらしい。

 ともあれ、魔王様は双角がなければ即死だった状態により軽く失禁した程度で済んだらしく、損失は彼女の威厳だけということだった。

 まぁ、既に無いものを損失と数えて良いかどうかは別として、だが。

 

「……で? 何処に行っていたんだ、貴様等」


「御主それより前にまず言うことねぇ?」


「昼食は大盛りでどうだ」


「舐めるなよ誇り高き魔王がその程度の供物で満足すると思うてか貴様は一度魔王という存在を認識し直す必要があるようだな本来の妾に掛かればこの帝国でさえ指の一振りで壊滅させられる程の力を持つ稀代の魔王であるぞそれを貴様は飯の大盛りなどという陳腐なもので釣ろうなどと浅はかにも程があると言わざるを得ぬもっと言うべきことがあるのではないか貴様いい加減にしないとボイコットも辞さないと考え」


「特盛りにしてやる」


「わぁい」


「リゼラ様……」


 大体いつも通りの光景である。やっぱり威厳なんてなかったよ。


「……む、そう言えばルヴィリアの姿が見えんな。奴はどうした?」


 と、気付いたフォール。

 見当たるのは全身ぼろぼろで今にも死にそうな顔色にも関わらず特盛りを夢見て顔を輝かせる魔王と、そんな彼女と同じくぼろぼろで疲弊と呆れに肩を落とす四天王。

 あと一人、ぼろぼろでも一番やかましくはしゃぎそうな奴が、足りない。


「あ、あぁ、ルヴィリアなら例の店へ顔を出しに行った。女の子達に会いたい、と……。昼頃に用事があるとは伝えてはいるが、少し遅れるかも知れないそうだ」


「そうか、ならば昼飯は作って置いて問題ないな。……しかし困った、今回ばかりは奴の手を借りたかったのだが」


「今回? どういう事だ?」


「あぁ、今から十聖騎士(クロス・ナイト)を潰しに行く」


「「は?」」


「今回は人数が要るから貴様等にも手伝って貰おうと思う」


「「は?」」


「何せ、兆の金が動くのでな」


「「は!?」」


 そう、序章は過ぎた。開幕たる喝采は止み、劇歌も終えられた。

 しかし、だからこそ次幕が上がるのだ。日の出日の入り、舞台の模様が変われども、未だ演奏は中盤も中盤。

 終曲に向けての激動が為に、より一層激しく、騒がしくーーー……、『帝国十聖騎士(クロス・ナイト)壊滅事件』の万喝は鳴り響く。


「さて、ギャンブルと……、行こうじゃないか」



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