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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
帝国での日々(後・A)
180/421

【プロローグ】


 これは、永きに渡る歴史の中で、宿命に生き続けてきた勇者と魔王と聖女。

 必確なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼等のーーー……。


「……勇者(・・)フォール。貴方はいったい、何者なのですか?」


「スライム神宣教師」


「…………いえ、あの」


「スライム神宣教師」


「そ、そういう自称じゃなくてですね? その、根本的な……」


「…………」


「…………」


 シーーーン……。


「……フッ、俺とした事が大切な事を見失っていた。そうだな、俺達は何であるだとか、誰であるだとか、種族や性別、年齢だとかは関係ない。もっと、大切なことがある」


「フォールさん……」


「俺達は『スライムを愛する者』……、だろう?」


「フォー……、いえ、師匠!!」


「なぁコレそろそろツッコんでいい?」


 錯誤の物語である!!



【プロローグ】


「ふぁああ」


 情けない大あくびに涙を浮かべながら、リゼラは朝日差し込む居間へと降りてきた。

 片手に毛布を引き摺る様は正しく幼子のそれだが、遠慮なく尻を掻きむしる辺りは幼女と言うよりオッサンに近い。と言うかオッサンでしかない。

 さてそんな幼女オッサンこと魔王様。いつも放って置いたら昼まで寝ているような彼女がどうして自発的に起きてきたのか。

 それは偏に、彼女の目覚まし時計が鳴ったからだ。

 目覚ましの時計は時計でも、腹時計という、時計が。


「あぁ、リゼラ様。おはようございます」


「おう、シャルナ。おは……、って何で小声なんじゃ御主」


「いえ、その……、お、お静かに……」


 と、居間に降り立った彼女を出迎えたのは、ソファ前へ蹲るシャルナ。

 しかし何処か様子がおかしく、ソファを盾にして気まずそうに視線を逸らしている。

 その巨体で何を子供のように隠れているのだと問い掛けたが、返って来るのはやはり気まずそうにダラダラと汗を流す彼女の視線ばかり。

 そんな様子を不思議に思ったのだろう、リゼラは不思議そうに首を傾げながらそちらへ歩んでいく。

 するとシャルナは慌てて彼女を制止しようと身振り手振りで示すが、自分の言葉通り声を出せないものだから、あたふたと慌てるだけ、で。


「……おっ?」


 やがてリゼラがそれを発見する事を、とうとう止めることはできなかった。


「……何コレ」


「いや、あの、本当に何と言うか……」


 オッサン臭い自分の数倍はオッサン臭い、勇者の姿を。


「寝……、とるのか? 寝とるよな?」


「え、えぇ、それは間違いなく……」


 フォールはソファの上で仰向けになり、微動だにせず睡眠していた。

 寝ている、と言うよりは死んでいる、と言われた方が余ほど信じられるほど動かない。呼吸の音はないし寝相もない。

 本当に、死体か、石像か、はたまた置物か。いやいや、飲み会帰りのオッサンだ。


「どうしたんじゃコレ。妾、コイツのまともな寝顔なんぞ初めて見たぞ」


「い、いえ、私にもよく……。数時間ほど前に帰ってきて、そのまま倒れるようにソファへ。今日の昼から出掛けるから時間を空けておけとだけ言伝を受けましたが」


「ふーん……。まぁこの男め、最近まともに寝るどころか休んでさえなかったしの。無理もあるまいて」


「えぇ、ですよね……」


「ところで数時間前と言うとったが御主、まさかずっとコイツの寝顔見とったのか?」


「…………」


 無言のまま顔を逸らす、シャルナ。

 どうやらこちらへ来て欲しくなかった理由は、フォールを起こしたくないからだけではなさそうだ。


「にゅっふっふっふ、相変わらず初心だねぇシャルナちゃんは。フォール君が百年に一回見せるかどうかの隙なんだからちゅっとしちゃえば良いのに。ちゅっと!」


「ばっ、馬鹿を言うな! バカぁ!!」


「と言うか居ったのか、ルヴィリア」


「フォール君の寝顔にうっとりして眺めたり毛布掛けたげたり起きた時の為に暖かい飲み物用意してあげよとうとしたりそれで失敗したりしてるシャルナちゃん見てずっと新妻のエロさを堪能してたよん」


「に、新妻なんて……、うふ、ふふふ」


「ツッコミどころそこじゃないと思うんじゃが」


 と、言うワケで。


「しっかしフォールが寝とるとなれば、今日一日は静かじゃなぁ。家でぐーたらしようかのー」


「そうですね。まぁこういう日が一日ぐらいあっても……。あ、でもお昼からは用事があるので家にいないと!」


「それなんだけどさ、僕に考えがあるんだよねぇい」


 考え、と口を揃えるリゼラとシャルナに、ルヴィリアはにたりと笑みを浮かべてみせた。

 そんな彼女が着物に揺れるおっぱいの間からべろんと取り出したのは、一枚の広告だった。

 いや、広告と言えるほど立派なものではない。殴り書きのような、荒くれ者が嫌うお堅さ(・・・)を取り払った洋紙だ。

 つまり、それは。


「……ギルドの依頼書か!?」


「そうそう、街中で配られてたからねぇい。面白そうだから一枚貰ってきちった☆」


「貰って、って……」


 洋紙には『帝国遠征討伐隊、募集!!』の文字。

 その下には細かく対象不明だの超巨大モンスターだのと人を煽るように様々な文字が書かれているものの、フォールの話していたアストラ・タートルのことだろう。

 討伐遠征出発の日は明日になっている。確かに、申し込みなら今日でもギリギリ間に合うかも知れないーーー……、が。


「ルヴィリア! 確かあのアストラ・タートルは何か意味があるとフォールが……」


「だろうねぇい、僕もそう思うよ。……けどこれが意外と面白いトコでさ」


 真っ白な指がちょいちょいと示す、洋紙の下辺り。

 そこにはついでかオマケと言わんばかりにもう一つのクエストに関しての一文がある。


「薬草採取クエスト……、のう」


「そーそー。御国をあげての一大クエストだからね、初心者だとか採取専門だとか、その辺りの冒険者にも役目があるってワケだにゃん」


「成る程。紛れ込む、と……。だがギルドには登録が必要らしいが、そちらはどうするつもりだ?」


「もっちのロンロン終わらせロン♪ 偽名使って3つほど造り上げておいたよん。住所とか身分証明も、まぁその辺りは僕の専門分野だからサ」


「流石、抜け目ないな……」


「まぁネ。ほら、フォール君ってさ、見ての通りけっこー疲れてるでしょ? 僕達を巻き込まないためなのか、それとも一人でやっちゃうのか。どっちなのかは解らないけど抱え込んじゃう性分みたいだからね。少しぐらい助けになればと思ってのことだよん」


「ルヴィリア……」


「で、本音は?」


「僕だって皆とイチャイチャしたいもぉおおおおおおおおおおおおん!! やだやだフォールくんばっかシャルナちゃんといちゃいちゃしてやだやだやだぁあああああああああああああ!! そしてあわよくばギルドで孤高の女剣士とか豪快な女戦士と仲良くなってイチャイチャちゅっちゅしたいでごじゃる」


「リゼラ様、裏に良い感じの畑が」


「埋める?」


「埋めますか」


「わぁ坦々と仲間殺しの会話してるぅ」


「「三人衆……」」


「諦めよう? ねぇ諦めよう!?」


 先日、リゼラが三人衆の称号案をメモったノートを見つけて割とマジに戦慄したとルヴィリア談。


「……ルヴィリアの目的はともあれ、フォールを手助けしたいというのには賛成だ。如何でしょうか、リゼラ様。今日一日ごゆっくりなさるのも結構ですが、現代の冒険者どもの実力を見極めるという意味でもギルドへ向かってみる、というのは」


「まぁ良いじゃろ。……妾もカレー喰いたいし」


「カレー? 何の話だにゃん?」


「わぁああああああああああ! リゼラ様お静かに! お静かに!!」


「あーあーバケツカレー喰いたいのぉぅー!!」


「ひゃあああああああああああああああああああああ!!」


 在りし日の無念と恥辱に騒ぎながらも、彼女達は今日という日の朝を駆けていく。

 まぁ、眉根を顰めて寝返りを打った勇者に吃驚したり、そんな彼へ仕返してやると魔王がペンを持ち出したり、智将がやいのやいのと騒ぎ立てたり、彼を全力で庇ったシャルナが犠牲になったり、その後フォールの用意した朝食を彼の分まで食べてしまって死を覚悟したり、と。

 色々あったりするのだが、そこはいつも通りの騒がしさということでーーー……、割愛しておこう。



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