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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
帝国での日々(中・B)
178/421

【4】


【4】


「いやぁ、スッキリしたわぁ」


 で、化け物達がお空に旅立って数分後。

 満面の笑みで歩む盗賊と無表情ながらも瞳をキラキラと輝かせる勇者の二人が率いる一行は、帝国城中央塔の地下を訪れていた。

 どうやらこの辺りは魔道研究に用いられている区画らしく、薄暗い道に妖しげな魔方陣が続く廊下は通る者の気分を鬱蒼とさせる。

 まぁ、二人の背後を歩く国王と第十席の表情が何処となく沈んでいるのは、通路のせいばかりではないのだろうけれど。


「ねぇラドちゃんひどくない? アイツ最後は『死ね! ネファエロ死ねッ!!』とか言いながら化け物イジめてたよ……。不敬罪だよ……」


「い、いやそれより国王様、あ、あの、アイツら絶対ヤバいぜ、です……。満面の笑みで化け物リンチする奴とか始めて見た、です……」


「まぁ無表情のがもっとヤバかったよね。あははっ、吐き気」


 なおスプラッタシーンは精神衛生のためカットです。


「そ、それによォ、それもそうだけど……。お前らの言ってることはマジなのか? 十聖騎士(クロス・ナイト)に、その、裏切り者がいるって……」


 青ざめた顔を一層青くしながら、ラドは道中で説明された事を再び問い掛けた。

 あの化け物を見た以上まさか嘘とは思うまい。だが、そう解っていても一縷の望みを賭けて問い掛けたのだ。もしかしたら、もしかしたら、と。

 しかし返ってくる答えは当然、その希望を踏みにじるもので。


「間違いない。……ネファエロ国王のこともそうだったが、向こうから事実をさらけ出してくれたのだ。信じない方が失礼というものだろう」


「ったく、俺だって半信半疑でいたかったのが嫌でも信用する形になったんだぞ? あんな化け物、御伽噺ぐらいにしか出てこねーよ……」


「こっちは夢に出そうだよ馬鹿ぁ……」


「はっはっは、ラドちゃんラドちゃん怖いならおじさんの胸に飛び込んでおいで! さぁ!!」


「……何故だろう、コイツを見ていると仲間を思い出す」


「こんなスケベオヤジと一緒にしてやんなよ……。その仲間が不憫だろ……」


「いや、コイツの方がまだマシだ」


「何者だよその変態」


 まさか自分が働く店の常連だとは思うまい。


「……兎も角、ラド。協力して貰えるな? 貴様もこの帝国を蝕む輩をのさばらせておきたいとは考えないだろう」


「あっ、当たり前だろ! ネファエロ国王には第十席に置いていただいた恩だってあるんだ、そんなヤツ私が見つけ出してブッ飛ばしてやるぜ!!」


「あの化け物もか? そりゃ頼りになるなぁ!」


「み、見つけ出す手伝いで勘弁しといてやる!!」


「はっはっは、流石はラドちゃん、ぽんこツンロリだねぇ」


「どーゆー意味ですか国王!?」


 そのままの意味だろ、という心のツッコミはさておき。

 しばらく歩むと通路は終わりを迎え、壁の奇妙な魔方陣や模様が集結する扉が見えてくる。

 どうやらフォール曰く、魔力の鎖はここに繋がっているらしく、この先が結界の基点となっていた場所、つまり聖女エレナがいる場所なのだという。

 彼はそのまま、扉に手を掛けてエレナを迎えようとした、が。


「……っと、待て。動くな。全員その場で待機」


 それをカネダが制止した。


「何だ? どうして止める」


「扉の向こうに気配がある……。一人だ。呼吸や会話は聞こえない」


「……聖女様がいるんだから当たり前だろ? 馬鹿かテメェ!」


「うるせぇクソガキ。……どうにも、気配が子供のそれじゃないし、エレナの性格からしてこんだけ静かってのも妙だな。フォール、開けるのはちょっと待っ」


「開けるぞ」


「おま」


 忠告を無視し、フォールは迷わず扉を開く。

 彼を止めようと慌てて手を伸ばしたカネダの視界に映った人影は、自身の忠告通りエレナではなかった。

 エレナはその者の足下にルナ第七席や術士達と動揺に伏しており、動く様子は見られない。外傷がないことから気絶しているのだろうが、カネダにはそんな事を気にしている暇もない。

 何故なら彼は人影を確認した瞬間、伸ばした手をそのまま銃へと滑らせて謎の人物へ照準をーーー……。


「やはり……、貴様達だったか」


 合わせることは、できなかった。


「……イトウ、第四席!?」


 エレナの側に立っていたのは他の誰でもない、件の協力者であるイトウ第四席だった。

 相変わらず不健康そうな眼鏡の奥の瞳が、恨めしそうにフォール達を睨み付けている。今にもその手に持った何本かの注射器を投げつけてきそうな勢いだ。

 しかしそんな、確実に何人か殺ってる感じの眼光に怯むことなく、フォールは辺りを見渡して彼へと問い掛ける。


「ルナ第七席と術士達に、何を注射した?」


「……エレナの顔を見られているだろうから、少々記憶が混濁する薬をな。何、死ぬような毒じゃない。数日ほど目覚めないだけだ」


「そうか、手間を掛けたな」


「いや……、手間というのなら」


「はっはっは、やぁやぁ我が盟友よ! こんなところで奇遇じゃないか!! どうしたんだね? ん~? 君もサボりかねぇ? 解る、解るよぉサボることこそ仕事の本質って言うじゃないかぁうん!!」


「コイツを処分する手間を省いて欲しかったな……」


「今からやろうか?」


「頼んだ」


「はっはっは、……えっ?」


 まさかの盟友から死刑宣告である。


「まっ、待て待て待て! それより前に何でアンタがここにいるかだろ!?」


「いや止めて? 前にじゃなくて止めて?」


「…………それより前に!!」


「こいつら全員ふけぇざぁーい……」


「元気出してくださいよ前国王……。貴方の事は忘れねェんで……」


「死んだ事にするのやめて?」


 漏れなく全員謀反中。


「……兎角、私がここにいる詳しい理由は後だ。カネダ、だったか。貴様のことは憶えているぞ。数年前に聖剣を盗もうとして捕まった大馬鹿者だ。……エレナに兵器を貸し与えたのは貴様だな?」


「ぅ、ぐっ……! 皆して俺の傷口をぉおおお……!!」


「黙れ。……だが今となっては都合が良い。貴様はラド十席と共にこの部屋の証拠隠滅を行え。兵器の破片から臭いに到るまで、全てだ」


「なっ……、何で俺が!?」


「誰のせいで私が赴くことになったと思っている。ネファエロもこの際、勝手な起床に関しては不問としてやる。貴様も二人を手伝え」


「帝国の王様に雑務押しつける部下怖ぁ~……」


「……特性栄養ドリンクαでも構わんがな? 私は」


「やりまーっす☆」


 特性栄養ドリンクαに関しては『イトウ第四席、国王暗殺未遂事件』を参照也。


「で、フォールだが……」


「……あぁ。俺は表で見張りをしておこう。大抵の騎士ならば音もなく気絶させられるしな」


「…………頼りになるようで何よりだ」


 こうしてイトウ主導の下、各自が証拠隠滅へと動いていく。

 『コイツいつも私のこと馬鹿にしてきやがってたから髭落書きしてやろう!』とか『凄い、女装はここまで進化したのか……』とか『ふーけいざい……、ふーけいざい……』とか。

 そんな下らないことを言い合いながら、どんな夜よりも騒がしかった夜の終わりとしては少しだけ似合わない、小さな喧騒と共に彼等は作業を進めていく。

 ――――そう、夜は終わったのだ。後は夜明けへの道を辿るだけ。ほんの僅かな作業と仕込み(・・・)を終えて、彼等はこの帝国城から脱出するだろう。

 終わったのだ。夜も、騒動も、何もかもーーー……。


「…………」


 ただ、一人。

 一室の外の扉に背を預けながら瞼を伏せる、彼を除いては。


「……貴様のような男が、私と出会うことを予測しなかったわけではあるまい」


 そんな彼を追うように、部屋から白衣の裾が歩み出る。

 彼は懐から萎びた煙草箱を取り出し、フォールへと一本を差し出した。


「知りたかったのでな」


「知る、か……。その感情を否定できない自分が恨めしく思う」


 壁面にマッチを擦り合わせ、焔が灯る。

 その紅色はやがて白色となり、白色は、灰色となり。

 二つの煙柱を、手の届きそうな天井へと吹き付けた。


「……貴様は知っていたんだろう、俺とカネダがこの帝国城へ侵入したことを。魔術や魔法の魔道分野に精通している貴様ならば、ルナ第七席の結界を解して情報を得るぐらい容易いはずだ」


「…………だが、手を出すつもりはなかった。私の立場が露見するからだ」


「しかし、貴様は手を出した。表舞台に上がって来ざるを得なくなった。……エレナが、いたから」


 ふぅ、と。


「……知っていて、貴様はそうしたんだろう。貴様は試したんだ。私のもう一つの目的(・・・・・・・)を知るために」


「少し、違うな。確信が欲しかったけだ。裏付けのような……」


「得られたか、裏付けは」


「あぁ」


 灰燼が落ち、イトウの靴底がそれを踏み躙る。

 通路を吹き抜ける風に、躙る足を剃り落とされた気がした。

 それは一種の恐怖だったのか、それとも錯覚だったのかは解らない。

 ただ、底が抜けてしまうような、何処までも深い闇に墜ちてしまうような、そんな感覚があった。


「貴様は、裏切り者と俺を潰し合わせたかったんだろう」


「……そうだ」


 ――――フォールは、あの預言(・・)を聞いた時から、一つの確信を得ていた。

 自分の歩む未来と、自分が歩むはずだった過去。その預言を聞いたときから。

 そしてそれは、イトウもまた、同じこと。


「私は、預言を信じていたわけではない。だが、時が経つにつれて預言は真実味を帯びていく。否定の選択肢を一つ一つ押し潰していく。まるで学術問題のようだった。答えではないものを求めるような、然れど足掻いても藻掻いても答えに辿り着いてしまうような、そんな作業だった」

 

 白煙が灰燼を解き、僅かな紅蓮が顔を覗かせた。

 ぢりと迫る灰色が指を焦がし、男の眼鏡を曇らせる。


「……どう考えても、私の推測と試行は預言の肯定にしかならなかった」


 灰色はまた、綻び墜ちて。


「フォール……、貴様が、エレナと出会った経緯も、あの子を変えた言葉も、何を企んでいるかも問いはしない。だが、これだけは問わせてくれ」


 白へと、消える。


「貴様は、預言に答えを見たのか?」


 ――――煙が風に連れ去られ、渦を巻いて虚空へと消えていった。

 ただ姿なく、残すものもなく、初めから存在していなかったかのように。

 その姿がーーー……、ただその儚き姿が、フォールにとっては、どうしようもなく。


「さぁ……」


 得難い、ものだったのだろう。


「……どうだろうな」



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