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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
帝国での日々(中・B)
174/421

【プロローグB】


これは、永きに渡る歴史の中で、研鑽を賭し続けてきた魔王と東の四天王と南の四天王。

妙異なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼女等のーーー……。


「おや、リゼラ様。お眠りになられないのですか?」


「もう少し起きとるからいけるいける」


「そうですか。あまり遅くまで起きているとお体に触りますよ。……特に夜食とか」


 ギックゥ!!


「……いや、妾、別に、ね? 眠くないっていうか、ね?」


「……リゼラ様?」


「ぬ、ぬぐぐ……」


「まぁまぁシャルナちゃん、リゼラちゃんを疑うのはよくないよ。もしかしたら本当に眠くないのかも知れないよ?」


「何処から出てきた貴殿」


「だから僕が子守歌を歌ってあやしてあげようベッドメイキングは完璧ですヘイカモッ! ヘイカモッヘイッ!!」


「マジで眠気吹っ飛んだんじゃが」


「軽く運動してから寝ますか。格闘とか」


「あぁ夜の格闘ってエロいよねぇぶッ!?」


覇道の物語である!!



【プロローグB】


「そうか、君が例の……。金か? 金が欲しいのかね? 金なら幾らでもあるぞ?」


「王と付く奴にまともなのはいないのか?」


 資料室の山に埋もれながら、刀剣を突き付けられる老父と突き付ける勇者。

 月光に潤い星々の光が美しいこの夜に、偶然から彼等は邂逅した。邂逅してしまった。

 王と勇者、どちらもどちら、らしい(・・・)という言葉をかなぐり捨てた二人が、今この場で出会ってしまったのである。

 よりにもよって秘密の夜更かしと侵入者という立場で、だ。


「……まぁ良い。別に今、貴様に用はない。そこで大人しくしていれば危害は」


 と、そこまで言いかけて、彼は指の爪先で顎を擦り掻いた。

 ふむといつもの声を漏らして、片瞼を伏せる。


「いや……、そうだな。聞きたいことがある」


「クッ、隠し金庫までもかね……!?」


十聖騎士(クロス・ナイト)の連中について聞かせて貰おう」


「……このスルー振り、我が盟友を思い出すよ。うん」


 長い話になると踏んだのか、国王ネファエロは片手の本を閉じて座席へと戻っていった。

 床に王衣の尾が引き摺られる様は高貴さを憶えるが、それ以上に弱々しい骸のような憶えを持つ。

 軽々しい口振りとは裏腹に、彼の体はイトウの話通り着実に呪術で蝕まれているのだろう。


「さて、何の話だったか……。スリーサイズァ待って待って冗談冗談冗談です」


 まぁ、病人だろうと容赦なく抜剣するんですけども。


「フッフッフ、この冗談が通じない感じ、我が盟友を」


「それはさっき聞いた。俺が聞きたいのは十聖騎士(クロス・ナイト)に関してだ」


「うぅむ、どうにも洒落の通じん男だね。まぁ君が言わんとすることは解る、イトウから大体の話は聞いているからね」


 ぎぃ、と質素な木椅子が軋みを立てる。


「……何だ、奴から事情は通じているのか。ならば身構える必要もなかったな」


「だから私に敵意はないと言っているだろう? こんな性格だがね、私もこの帝国の王であり女神様の御声を民々に伝える者の父だ。人を見る目はあるのさ」


「人を見る目、か」


「無論、君のことも一目見た時から悪人でないとは解っていた。そう、爆破と洗脳で民衆を扇動し、人を陥れ、時には暗殺も厭わない冷徹な男だ……。憲兵呼んでいい?」


「成る程、良い度胸だ」


 人、これを自爆という。


「ま、待ちなさい。だが君の中に何か、別のものが芽生えていることも私には解る。これは……、光かな? そう、光。素晴らしいスライム様こそ世界の真理にございま待って待ってヤバいヤバい」


 人、これを以下略。


「何故だ。一瞬、世界の真理スライムが見えた気がしたぞ……。君、本当に勇者かね? と言うか人間かね?」


「……設定的には?」


「設定」


 割と否定できないところが悲しい話。

 とまぁ、無駄話をしている間にも着々と時間は進み、カネダが立てた件の計画も進行している。

 ここで無駄話をしている暇はない、とフォールはネファエロ国王を急かし立てた。


「……ふむ、どうやら急いでいるようだね。いや、詳しいことは聞くまい。巻き込まれるのヤだし」


「王という言葉に泥を塗るような奴だな、貴様は。……で、どうなんだ」


「そうだね。正直なところ、私も十聖騎士(クロス・ナイト)を疑うようなことはしたくない。第一席カインは十聖騎士(クロス・ナイト)の中でも新参者の部類に入るが、彼は地位に恥じぬ働きをしてくれている。第二席のヴォルデンはイトウに次ぐ古株だ。彼の貢献は計り知れない。第三席のミューリーちゃんはセクハラしたら割とマジな感じの毒を盛ってくる」


「自業自得という言葉を知っているか?」


「絶対王政なら……」


「死んでしまえ」


「ま、まぁ兎も角。第四席のイトウについては、うむ。最早言うまでもあるまい。第五席のユナさんは疑うことすら烏滸がましい。彼女のお陰で帝国にいる、いったい何人の孤児や孤独な人々が救われたか」


「……ふむ、続けてくれ」


「第六席のソルと第七席のルナ兄弟は見た目こそ奇妙だが、とても真面目な好青年達だ。彼等もないだろう」


 フォールは口から出掛けた毒をぐっと飲み込んだ。


「第八席のミツルギは性格悪い。財務の話通す度に毎度の損失とか言ってくるから超性格悪い。でも有能だからね、あと性格さえどうにかなれば良い感じにエロいんだが……」


「……チッ」


「はい次いきます。第九席のコォルツォはないだろう。断言しても良い。彼はあんな見た目や性格の割に十聖騎士(クロス・ナイト)の中でも一二を争う忠義者だ。だからあんな立場を任せられる。第十席のラドちゃんは、まぁ、私の友人の娘だからないだろうね。知ってるかい、あの子ってばビネルガ草という酒臭を含む草が大好きで嗅がせたら面白いんだよぉ」


「それもどうでも良い。……では正直、貴様から見て裏切り者は誰だと思う」


「そうだね」


 白髭が薄闇に揺れ、月光差し込む窓辺で星光に煌めいた。

 ネファエロ国王の蒼い瞳は何処か悲しげで、けれど真っ直ぐ、澱みない涼しさを見せている。

 それは、疑いや勘ぐりとは無縁の、ただただ純粋な彩りだった。


裏切り者はいない(・・・・・・・・)


「……何?」


「言葉通りだ。裏切り者はいない」


 フォールには、その言葉の意味が解らなかった。

 現に彼は呪術によって体を蝕まれている。その裏付けは盟友と呼ぶイトウが行っているはずだ。そして、その犯人が十聖騎士(クロス・ナイト)の誰かであるということも。

 だが彼は言う。裏切り者はいない、と。自身に仇なし帝国に刃向ける者はいないのだ、と。


「……意味が、解らんな」


「当然だとも、君が解るようなものか。良いかね、王とは人を疑ってはならない。それが臣下であるならば尚更のことだ。疑いは心に闇を生み、勘ぐりは人と人に亀裂を生む。王とは清廉潔白であらねばならない。王とは純真無垢であらねばならない。例えその身を悪心に貫かれようと、最期の刻まで困惑に目を見開いていなければならない」


「……今の貴様が、そうだと?」


「そうだ。或いは、私が何も成していないのであれば王としての矜持を捨て、悪逆暴虐の王となっただろう。そしてやがてはその行いを恥、残した何かに屠られて死しただろう」


 また、椅子がぎぃと音を立てた。


「……だが皆の私にはあの子(・・・)がいる。我が最愛の息子にして、誇り高き愛子がいる。ならば、最早この身に残る命などありはしない。私は王として死に、あの子にこの衣と王冠を授けるのだ」


 ――――例え、それが王たる者としての盲信だとしても、私は王なのだから。

 ネファエロ国王は微笑みを見せ、静かに俯いた。何処か、微笑みのような安らかささえ見せながら。


「……ここでぽっくり逝ったら最高にカッコイイ」


「そうだな、今の貴様は最高にカッコ悪いぞ」


 良い感じの台詞は最後まで言えないの法則、久々。


「まーぶっちゃけアレだよね。裏切り者とかカインで良いよ。だってあいつイケメンだし。ウチの妻でさえカッコイイとか言ってたし。違いますぅー。私の方がカッコイイですぅー。老紳士の渋さが解ってないだけなんですぅー」


「凄まじい速度で株が落ちていってるが大丈夫か」


「大丈夫大丈夫、どーせ何言っても聞いてるの君だけだから。明日の朝、金庫から女の子のお店に行けるぐらいのお金が無くなってても君のせいだから!」


「いっその事ここで殺しておいた方が色々と綺麗に片付く気がしてきたぞ」


 間違いなくその通りである。


「まぁね、でもカインも悪い奴じゃあないんだ。彼あぁ見えて絶対裏ではやることやってるぜ。間違いない、そういう顔してる」


「よく謀反起こされないな貴様」


「あぁ、でも実は一回やられたことあるんだ……。若い時にね? 調子乗って職務放棄して女の子のお店に入り浸ってたらね? 妻がこう、書類と印鑑を」


「それは離婚調停だ」


 土下座五時間で赦して貰えたそうです。


「まぁ、カインじゃないとしたらもうミツルギしか……。でもあの子、体だけはエロいんだよなぁ」


「黙れクズ。私情が込み入るどころか私情100%の情報なぞアテになるか」


「でも最近、純正100%が良いって聞くし……」


悪性腫瘍100%(ておくれ)が何を言う」


 ご臨終推奨。


「……まぁ良い。情報だけには(・・・・)、感謝しよう。目星の参考にする」


「はっはっは、悪意を感じるよ」


「何だ、真正面から突き付けても良いぞ」


「不敬罪って知ってるぅ?」


「生憎と今はそんな罪など些細事な身でな。何なら暗殺の罪も被ろうか」


「イ、イイデス……」


「だろうな」


 フォールは軽く息をつき、体の調子を確認する。

 下らない会話ではあったが、多少は休むことができた。必要な情報も純度3%程度だが手に入った。

 ならば最早ここに留まる必要性はあるまい。悠長にしている時間も無いのだからそろそろ撤退するか、と。


「何だ、もう行くのかい? 寂しいからもう少し話し相手になってくれても良いのに」


「悪いがこちらは侵入者の身なのでな。やることもあれば為すこともある。老いぼれの駄談に付き合ってる暇はない」


「んもぅ、相変わらず冷たいねぇ」


 ぎぃ。軋みが、幾度めかの音を立てた。

 フォールはそんな音など意にも解さず、扉を僅かに開いて外を確認する。

 何人の騎士かが行き交っているが、あの慌てようならば充分に通り抜けられるだろう。恐らく、そろそろこちらの小細工もバレた頃だろうし、エレナも目的地に到着している頃だ。

 ――――無駄話に時間を割きすぎたが、間に合うだろうか。いや、間に合わせるしかあるまい。最悪は生贄をカネダに捧げればどうにか。いや、カネダを生贄に捧げればどうにか。


「君の強さは迷わないところにある」


 と、思考を打ち切って、またネファエロ国王の声。

 フォールは露骨に呆れの表情を浮かべたが、そんな彼を制止するように骨と皮だけの手が掲げられた。


「君はもうあの預言を知っているのだろう。常人ならば困惑と発狂に飲み込まれるであろう、あの預言を。……だが君はそうならなかった。そんな事よりもと自分の為すべきことを、いいや、為したいことを知っていたからだ」


「……ならば、何だと言うのだ」


「それはエレナにはない強さだ」


 僅かに、フォールの眉根が動く。

 ――――何故、この男が知っている?


「帝国の闇は深い。それはどうしようもなく、誰に止められるものでもない。栄光という光を求めるほど影という闇が濃くなっていく、とはよく言ったものだ。……闇というのはね、フォール。必ずしも一つの影からできるものではないのだよ。嫉妬、怨み、怒り、そんな単純な感情だけの闇なら、まだ良い。晴らす方法は明確だ」


「だけではない、と」


「そう。時として羨望、信頼、高潔。そういったものも闇となる。……そういったものが、あの子を縛る」


「……貴様は、何処まで知っている? どうして聖女の話を持ち出す?」


「何、これでもあの子の父親なのでね。今日、廊下で見かけたあの子が嬉しそうに微笑んでいたから何かあったのだろうと思っただけだ。そして後は、イトウの話と君の様子を照らし合わせれば自然と合点はいく」


「…………有能か無能か、本当に解らん男だな。貴様は」


「王とは偶像だ。実像であって良いのは象徴だけだ。……この国が王国ではなく、帝国であるのはそういう理由なのだよ」


 ぎぃ、と。また。


「……あの子は、闇を背負うべき宿命がある。王として本望だよ。あの子が受け継いでいることはね」


「本心か」


「言ったろう? 王としては(・・・・・)、さ」


 藻掻くような苦笑は多くを語りはしない。故に全てを物語る。

 彼のそんな表情を悟ってか、フォールは返答なく部屋を出た。それだけで、充分だった。

 心の内に何かを託された男と、星を見る老父の間には、それだけでーーー……。

 ――――バタン。


「え、待って。何で帰ってきたの?」


「…………」


「コレ完全に別れてたらカッコイイ感じで決まってたじゃない! はぁ~、これだからノリの読めない男ってのは……」


 と、ぶつくさ文句を言う国王ネファエロと、無言のまま部屋の奥へ戻っていくフォール。

 そして聞こえるーーー……。


「おいさっき侵入者いなかったか!? 何処いった!?」


「解らん! 誰かソル第六席呼んで来い!!」


「どういう事だ!? 探知は上手く行ってるはずじゃないのか!!」


 騎士達の、声。


「…………」


「…………」


 沈黙。視線、交差。

 老父は全て解っているという風に頷き、扉へと歩んでいった。

 そして扉に手を掛けて、にこりと微笑んで。


「おーい騎士さん達ここに侵入者いますよ助けてくだぇるのぶッッ!!」


 罪状に国王暗殺が追加された瞬間である。


「………………さて」


 片手に国王、片手に剣。

 背後には騎士が通る投下と、眼前には逃げ場のない司書室。

 さらに決め手は迫る計画時間と追跡者。これは、どういう事かというと、つまり。


「かなり……、マズいな」


 ――――勇者、絶体絶命なり。



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