【6】
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「ルナ、どうだ? 目標は見付かりそうか?」
《うーん、待ってね。今探してる》
さて一方、侵入者達を捜索するソル第六席とルナ第七席の兄弟。
彼等は黒煙に紛れたかのような蝙蝠の捜索を、そして白煙のような騎士の群れを、それぞれが担っていた。
言わずもがな、決して用意な行為ではない。
世界最大の広さを誇る城塞の、さらに気が遠くなるほど膨大な人数から侵入者のみを絞り出す行為も、騎士達を無駄なく的確に、僅かながらも確実な情報を頼りに侵入者を追い詰める指揮を執る行為も、常人に成せるものではないだろう。
だが彼等は十聖騎士だ。この帝国を守る、誇り高き者達だ。
その信念が、この困難な状況を切り抜ける精神力を与えているに違いない。
――――もっとも、今回に限ってはそればかりではないようだが。
「……それで、ルナ。やはり間違いないのか?」
《あぁ、うん。それだけは間違いないよ。侵入者は二人組で何故か聖女様を連れていて……、片割れはあの男さ》
「成る程な、仲間連れで聖女様を攫ったってワケか……。ククク、都合が良いじゃねェか。取っ捕まえて目の前に吊し立ててやれば、どんな奴だって抵抗できるもんじゃない。俺達の言いなりさ」
《フフフ、兄さんってば悪いなぁ。僕にも楽しませてよ?》
「当たり前だろ、ルナ。幸い人数は足りてるみたいだしな、思う存分楽しませて貰うとしようじゃねぇか」
彼等の下衆な会話に、周囲の騎士達はやれやれとため息を零す。
――――この人達の趣味は困ったものだが、剣と魔術の腕は確かで、趣味以外は至極まともな人物だ。
あとは少し自重というものを憶えてくれれば性格共に素晴らしい騎士と言えるのだけれど。
《……ん? 待って兄さん! 目標が高速で移動してる!! 近いよ!!》
「よし、奴ら追い立てられてて慌てたな! 良くやったぞルナ、お前の不可視の鎖が奴らを追い詰めた!!」
《褒めるのは後でいっぱいお願い! 兄さん、やっつけちゃえ!!》
「任せとけ! おい、第一から第三部隊までは俺についてこい!! 残りは全員中央塔の封鎖だ!! 行くぞ!!」
ソルの号令により、交錯する雨粒のように流れていた騎士は一斉に彼の示した方向へ走り出した。
規則正しく鳴り響く足音は正しく濁流の轟音が如く、然れどその統率は清流を流れる魚々が如く。
一匹一匹は大したことのない雑魚達が、指揮者たる紅魚によって何者にも勝る群魚となったのだ。
《兄さん急いで! 奴等がとんでもない速さで移動してるせいで精度が落ちてきてる!! そう長くは追い切れない!》
「振り切るつもりか!? ……だが舐められたものだな! この十聖騎士が第六席、ソル・バスタリテ・ヴォルジー第六席が!!」
気合いの咆吼と共に、彼は後方へ指二本で合図を送る。
その瞬間、彼が率いる第一部隊から第三部隊の騎士達が重装備の奥で目を見張り、互いに叫び合いながら立ち止まった。
合図がなければ危うく大倒れの大惨事だっただろう。いや、そうなった方がまだ、止まらなかった場合よりも被害は少なかったかも知れない。
「風よ。瞬く間に集う大地の祝福よ。この世で唯一隔てられる事無き自由なる翼よ!!」
詠唱ーーー……、彼の文言が紡がれる度、領域に風羽が収束する。
これはソル第六席が編み出した瞬速の移動方だ。かつてガルスがラドラバードの一件で用いていた風を纏うそれと同じ型だが、練度は桁違いと言える。
一歩で数十メートル、二歩で数百メートル、踏み込めば余波で人が薙ぎ倒れるほどの速度を可能とし、緩急を付けることで細かな移動も可能という、ソル第六席が得意とする剣術との組み合わせも可能な風魔法の一つだ。
「さぁーーー……」
広間から続く、直線上の廊下。
いつもなら長い長いと面倒声を上げるところだが、今回ばかりは都合が良い。
瞬間的な加速は相手の速度を遙かに上回るだろう。この直線ならば、尚更。
――――例え相手が何処へ逃げ込もうと関係あるものか。一瞬で、追いついて見せる!
「行くぜぇんぶっ!!」
なに、が。
「ほ、ごっ……、かっ……」
起こったのか。
《に、兄さぁーーーっん!?》
「「「そ、ソル第六席ーーーーッッ!!」」」
騎士達の叫び声を聞きながら、ソルは速度のあまり一回転する視界の中で思考を巡らせていた。
疾駆を始めた瞬間だ。一歩目で、後方の騎士達が豆粒ほどの大きさになった瞬間だ。
瞬く間に過ぎていく背景からにょっきりと腕が生えてきた。廊下の最中、部屋の扉から、にょっきりと。
明らかに攻撃目的の、腕がーーー……。
「中々の速度だ。悪くない……」
腕の調子を確かめるようにぐるんぐるんと回しつつ、男は部屋から歩み出る。
いや、その男だけではない。続いて双銃を構え、銃口で帽子をせり上げる金髪の男も姿を現した。
たった二人。たった二人が、ソル第六席と幾百の騎士の前に立ちはだかったのだ。
「だが、遅いな」
二人の圧倒的な覇気に気圧され、騎士達は思わずたじろいでしまう。
言いしれぬ恐怖が彼等の足を竦ませ、背筋を凍らせる。眼球が渇き喉が締め付けられるようだ。
しかし、そんな中でも怯え一つ、震え一度とて見せぬ者が、一人。
「おいおい、今のが最高速度と思って貰っちゃ困るぜ……」
潰れた喉を咳払いで戻しつつ、ソル第六席は立ち上がった。
その双眸に油断はなく、眼前の両敵へ最大限の警戒と戦意を払っていることが解る。
「……お前達。どうして馬鹿正直に真正面から出て来たんだ?」
が、そんな戦意を腹底に這わせながら、ソル第六席。
「隠れてコソコソしてりゃ良かっただろう。まさか俺とこの数の騎士を相手に真正面から……、なんて考えるワケないよな? だったらせめて俺がはぐれるまで待てば良かったんだ」
「…………」
「何か言えよ。寂しくなっちゃうだろ? よく言うじゃないか。始める前はまず話合って互いの緊張を解すところから、ってな……。例えば、そう、聖っ……」
突然、ソルは喉を締め付けるように言葉を止めて俯いた。
――――当然だろう。聖女エレナの秘密は彼自身のものでもあるが、十聖騎士達のものでもある。
後方には数百人近い騎士。口に出せば今まで隠し通してきた帝国の暗部が露見しかねない。
「……成る程、騎士達の前で俺を止めたのはこの為か。ま、互いにバラして良いこともないよなぁ」
けらけらけら、と軽快な笑い声。
フォール達は応えない。
「……ルナ、コイツ等から目を逸らすな。聖女様の救出は後で良い。あの御方が何処にいるかは解らないが、二人の位置を捕らえてる限り問題はない。それに、あの人が何処からか脱出するなり俺の部下が見つけるなり、時間を掛ければ掛けるほどこっちが有利になるんだからな」
《うん、解ってるよ兄さん。奴等の動きは僕に任せて。……けれど、兄さんも油断しないでね》
「はっはっは。おいおい、ルナ……。そりゃ違うぜ」
フォールとカネダは、飄々とした彼が腰元から双剣を抜刀した瞬間、雰囲気が豹変したことが感じ取れた。
――――戦意が、顔を出したのだ。
「全速で、行くしかねぇだろ」
文言を紡ぎ、再びソル第六席の元へ舞風の塵燼が紡がれる。
後方の騎士達は彼の余波を恐れたのだろう、一本道の通路で踏み出すに踏み出せず、武器を構えこそすれ、こちらへ突貫してくることはない。
数秒、ほんの数秒だ。ソル第六席が詠唱を終えるまでの、僅かな時間。
「……ここまでは上手く行ってるな、フォール」
「あぁ」
彼等はそんな時間で、緊迫の狭間で吸い込む息のような会話を行う。
「さぁて、後はガルスと合流するまでの時間に間に合うかどうかの賭けになる。勝算の程は?」
「充分だな。問題ない」
「俺もそこまで思い切りが欲しいね、と言いたいところだが確かにその通りだな。奴が乗ってきた次点で勝算は充分にできた。お前がそこまで言うのならアレも無駄にせず済むだろうよ。だったら……」
「うむ、このままーーー……」
「やっと、口を開いてくれたな」
だが、往々にして計算違いとは起こり得るものだ。
フォール達は二つの事柄に気付けなかった。いいや、気付けるはずもなかった。
何故ならその事柄は彼等が知る由もないところで、進んでいたのだから。
「クハハハハ……、良かったぜ。このまま何も喋らずなんて楽しくないモンなぁ」
ソル第六席は詠唱を終えても、未だ一撃を繰り出さず力を溜め続けていた。
彼の腹底から除いていたはずの戦意もまた顔を引っ込め、その代わり嘲笑のような、嫌らしい視線を覗かせている。
「……随分、お喋り好きだな。口の軽さは変わらないのか? ソル第六席」
「ははッ、誰かと思えばあの時の盗賊か。協力者はお前だったんだな……。なら尚更都合が良いッ!」
「……どういう意味だ? 変態野郎」
「酷い言い草だなァ。だが良いさ、お前達はその変態を笑えなくなる。……特にそっちの、フォールはな」
「……何だと?」
「解らないか? 今、お前の仲間がいる場所にコォルツォ第九席の直属部隊が向かってるんだよ」
彼の言葉に、そして自身の計算違いに、カネダは深く息を呑んだ。
――――迂闊だった。そうだ、コイツにはリゼラちゃん達がいるじゃないか。
コォルツォ第九席の直属部隊ともなれば、熟練の暗殺者達。帝国の闇を背負うと畏れられるあの男が生半可な命令を下すはずがない。
あぁクソッ、どうして気付かなかった!? 仲間が危機に陥ってるとなれば幾らコイツでも冷静ではいられないはず! リゼラちゃん達が、危ーーー……。
「そうか。大変だな」
まるで、他人事のように。
「おまっ……、フォール!!」
「案ずるな、カネダ。この程度で動揺するつもりはないし、するような事でもない。コォルツォ第九席が直接向かったわけでもないのだろう? ならばどうという事はない」
「そうじゃない、事態を軽く考え過ぎなんだよお前は!! いいか、その直属部隊ってのはっ……」
「奴等は馬鹿だが弱者ではない」
フォールはキッパリと、そう言い切った。
解っている。この男は、解っている。コォルツォ第九席の直属部隊が如何に危険か、リゼラ達が如何なる状況に晒されているか。
それでもなお、冷静なのだ。いつも通りの無表情や冷徹なそれではなく、ただ、冷静なのだ。
「はっはっは、動揺してくれると思ったんだけどな……。その様子じゃイトウ第四席の報告通り接触はしてないみたいだな。いや、もう利用価値がないから捨てちゃったとか?」
「無駄口を叩く暇があるなら掛かってこい。その程度の揺さぶりが通用すると思うのか」
「あァ、折角邪魔者が入らなくなったんだ……。言われなくても今からヒィヒィ啼かせてやるぜ仔猫ちゃァん!!」
「「待って?」」
フォール及びカネダ、停止。
ソル第六席、絶好調。
「……いや、今のは聞き間違いか。貴様、もういち」
「おっとベッドの上がお好みだったかァ? だったら一発ブチかました後にだな」
《あっ、ズルいよ兄さん! 一緒に楽しもうって言ったじゃん!!》
「大丈夫だって二人もいるんだから! な? 怒るなってルナぁ。資料で見た時からカワイイなぁって言ってたの知ってるからさ。一緒に調教する約束もしただろ?」
《もうっ、抜け駆けはダメだよ!!》
「ハッハッハァ! モチロンさ愛しい弟よ!」
計算違い、二つ目。
「…………カネダ」
「…………何」
「空が…………、スライム」
「動揺しまくってんじゃねーか」
危険なのはリゼラ達ではなく自分達だったというオチ。
主にバックドア的な意味で。
「おい体調不良かぁ? 棄権するならベッドに運ぶぜェ」
「うるせェこのド変態!! 見ろよお前のせいでフォールが今まで見たことないぐらい真顔になってんじゃねーか!! と言うか何!? 調教云々言ってたのって女の子じゃないの!?」
「いやそういうの興味ないんで……」
《服装はカワイイけどぶっちゃけ女の子とか……、ないよね……》
「十聖騎士には変態しかいねーのか!?」
騎士達は思う。
だけではない。だけでは。
「まぁ何はともあれそういうワケだ……。俺達を楽しませてくれよ? |侵・入・者《こ・ね・こ》ちゃん、タチっ☆」
「だそうだカネダ。任せた。俺はリゼラ達が心配なのでそちらに向かうとしよう」
「任せられないヨ!? 何でナチュラルに全投げしようとしてんのお前!? さっきまでのカッコイイ台詞は何処行った!? 良い感じのシリアスは何処行った!?」
「……?」
「いや言ったよね? やってたよね!? 何言ってんのコイツみたいな顔しないでくれる!? 嫌だよもう俺変態の相手したくねーよ!!」
「えー、変態とか言うなよぉ。まだまともな部類だよ俺ら。なぁ、ルナ」
《だよね。あの人に比べたら……。そういう人を否定する発言よくないって言われない?》
「や、か、ま、し、い、わ!! いいか、人ってのは自分に被害が及ばない限り無関心なの!! そういうのに何も言わないヤツは野次馬と代わんないの!! 趣味を押しつけるんじゃないよ趣味を!! そういうのは本当に理解してくれる人を見つけるのが一番なんだよ!!」
「成る程、確かに百人の聞き相手より一人の語り相手だよなぁ」
《だよね。こっちから言うだけより話し合えた方がもっと楽しいよね》
「わかる」
「だから俺に向かっ……、フォール? フォール!?」
同士の希少な趣味人なりに通じ合うものがあったらしい。
なおフォールの趣味に到っては同士すら存在しないのは言うまでもない。
《ねぇ兄さん、あの人って意外と良いこと言うね。僕興味が湧いて来ちゃった》
「あ、アイツにする?」
《いいね!》
「良くないよ!?」
「大丈夫だ。貴様ならもう一回も二回も変わらん」
「これ以上ダメージ受けたら俺のバックドアがアウトドアになるわボケェ!!!」
「え? 外で? レベル高いなぁ、あんた」
《あ、僕いけます》
「はったおすぞ変態兄弟ッッッ!!」
「《えっ、攻めなの!?》」
「いや、ちが、あの…………、死ねッッッッッッッッッッッッッッ!!!」
カネダ、心からの叫びであった。
「……フフフ、まぁお喋りはここまでで良いじゃねェか。うだうだ話し合っててもこっちが有利になるだけだろ? それだけじゃつまらねェ。知るなら知るでよォ、ベッドの上がベストだとミューリー第三席も言」
その名を聞いた瞬間、絶叫に強張り疲労に上下していたカネダの肩がすとんと落ちた。
顔色は聖者のように清々しく、太陽のように神々しく、花々のように彩々しい。
そうーーー……、端的に言おう。
「フォール」
「何だ」
「無理」
「だな」
現実からの逃亡である。
「《あっ、逃げた!!》」
先程までの大立ち会いは何処へやら、二人は現実という悲しい事実から踵を返しての大逃走。
その余りにサッパリとした逃げ方に、ソル第六席は騎士共々呆気にとられ、ほんの数秒ほどだが動くことさえできなかった。
「生贄。何処だ、何処で代わる?」
「お前ホント後で憶えとけよ!? そこだ、この通路超えた先にある曲がり角!! このまま走り抜けーーー……」
だが、ほんの数秒だ。ソル第六席に限ってはコンマ以下の誤差でしかない。
「……来るぞ」
彼等の狭間を縫い斬り、吹き荒ぶ烈風。
全速力で走っているはずなのに、その瞬間は自分達が止まったかのような錯覚さえ受けた。
――――速い。予想していたよりも数倍、速い。
「俺達の最大の差を教えてやろうか?」
いつの間にか、戦意はまた腹底から舌を出していた。
下卑た笑みと共に、白銀の双刃と共に。
「なァ、盗賊。お前がさっきから俺を色目みてーにジロジロ見てんのは驚いてるからだろ? 無理もないよなァ、お前が知ってんのは過去の俺だ。現在の俺じゃない。数年もあれば、成長だってする」
「ッ、のっ……!!」
「おいおい、そう睨むなよ。教えてやってるんだぜ? お前は知らない。そいつも知らない。要するにお前達は何も知らない。過去を、現在を、未来を、知らない! これが差だってなァ!!」
彼の慟哭に応えるが如く、風は幾度となく収束される。
瞬速の斬撃が、来る。
「……フォール。特にお前は、知らないよなァ」
それは、挑発だった。
ほんの一瞬、反応を遅らせることができれば良い。たったそれだけの意図で吐き出された、挑発。
「自分の、過去と未来を!!」
だが、それがフォールの琴線に触れた。
「…………」
フォールは鞘と瞼から銀影を導いた。
幾多の戦場を越えてきたソル第六席でさえ、否、そんな彼だからこそ解る純然たる殺気。
背筋が斬り裂かれ、臓腑が引き出されるようだ。頭蓋を揺さ振られ、心が砕かれるようだ。
――――もし、あの預言を知らなければ恐怖に屈していただろう。混沌に、牙を折っていただろう。
恐ろしいーーー……。だが、だからこそコイツは仕留めなければならない!
《……兄さん》
「あぁ……。お仕置きの時間だぜ、侵入者共ォオオオオーーーーッッッ!!」
疾駆、跳躍、飛空。
それはソル第六席が放った斬撃の中で、最速たる一撃だった。
向かい合う騎士達が体を除ける暇も、どころか彼の姿を捕らえる暇もない。
音さえも置き去りにしかねない、最速の、一撃。
フォールはそれを、真正面からーーー……。
「ンの、ドアホッッッ!!」
受けることは、ない。
カネダが彼を真横から蹴り飛ばし、脇の部屋へ叩き込んだからである。
「……何をする」
「何をするもクソもあるか! この天才が立てた計画を忘れたのか!? あんなワケ解らん易い挑発に乗る暇があったら、とっとと計画通りのルート行けってんだ!!」
「……貴様はどうする」
「こっちはこっちで何とかするっつーの! そもそも計画の要はお前なんだからお前が逃げねーと意味ないだろーが!!」
「…………」
腰元の埃を払いながらフォールは立ち上がり、物言わず頷いた。
対してカネダはそれに何を言うでもなく、面倒な子供でも追い払うかのようにシッシッと手を流す。
「……逃がすかよッ!!」
無論、ソル六席も見す見すフォールを逃しはしない。
廊下の赤絨毯を引き裂きながら加速を殺すと、返しの牙で大理石の床を抉って脇の部屋へと突っ込んでいく。
余りに一瞬の出来事。だがこうしてフォールとカネダは奇しくも二手に分かれる事となった。
一人は第六席に追われながら、一人はーーー……。
「……さァて」
幾百の騎士を、前にしながら。
「気合い、入れ直すとするかね」




