【プロローグ】
――――勇者、勇ましき者よ。聖なる女神より加護を与えられ賜うし者よ。
街は賑やかに、聖剣祭の宴に栄えています。これから数日、世界で最も賑やかな喜びが、笑顔が、この国には授けられるでしょう。
しかし気を付けて。何か、おぞましい闇がこの帝国に蔓延っています。勇者よ、この猶予が如き数日こそ貴方に残された最後の安堵。
そして、貴方に今、過去最大の試練が訪れようとしています。その試練は闇の果てにあり、私に見えるものではありません。
だからこそ、気を付けて。貴方の進む道にはいつでも苦難があるのだからーーー……。
これは、永きに渡る歴史の中で、雌雄を決し続けてきた勇者と魔王。
奇異なる運命から行動を共にすることになった、そんな彼等のーーー……。
「もぉおおやだぁあああ~~~~疲れたぁああああ~~~~~」
「おい、そこのソファに寝るんじゃない。まだ掃除してないんだぞ」
「もう構わんじゃろ……。ちょっと埃被っとっても死にゃあせんて」
「相変わらず酷い不精者だな、貴様は。……どれ、疲れたならマッサージをしてやろう」
「おぉおぉ、褒めて使わす。まずは脚から」
「頭の、マッサージだ」
ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり!!
「みぎゃああああああああああああああああああああああ!!」
激動の物語である!!
【プロローグ】
「んもー、休まる暇がないにゃー」
夜空に星が輝き、各家庭が夕食の皿を洗剤で擦り、温かな光の下で談話を楽しんでいる頃。
帝国城の中でも特に静かで民家の少ない農耕区にある一軒家は、窓が全て開け放たれ家具までもが外に出し切られているという状態になっていた。
「ゴルぁルヴィリアさぼるでないわ! 真面目に働かんか真面目にぃ!!」
「あぁうん。さっきまでサボってて怒られてたもんね、フォール君に……。タンコブ、大丈夫?」
「クッソ痛い!!」
「oh……」
何故こんな事に? 言わずもがな掃除の為だ。
――――あの無精男が住んでいて、尚且つガルスが数ヶ月近く帰っていないというだけでまるでゴミの山。まともな洗剤は置いてないし、体を洗えるものは擦り切れた石けん一個。適当に脱ぎ捨てられた白衣がそこら中に転がっているし、その中にはボツにされた資料だの食い終わった缶詰だのが丸め込まれている。
さらに言えば家具にはカビが生え机にはキノコが生え本棚には新種の生物が這っている始末。とてもこんな家では暮らすどころか一晩を過ごすことさえできないだろう。
と、言うことで入居数時間にも関わらず彼女達はこうして大掃除に取り掛かっている、というわけである。
ボロ屋敷を買い与える余裕もないから自分の家を差し出したとか言ってたクセに、自分の家がボロ屋敷とは何たる二重トラップ!
「にしてもそれ、何運んでるの? 随分重そうだけど……、複雑だねぇ」
「知らん! 何かよーわからん機械じゃが、掃除の邪魔だからフォールに出しておけと言われたのじゃ!!」
「り、リゼラ様! 力を抜かないで下さい!! おと、落としてしまいます!!」
「お、おぉすまぬ……。と言うかルヴィリア、御主ヒマなら変わらぬか! 身長差的にキツいんじゃが!!」
「えー、やだぁー」
「魔王命令じゃぞ魔王めぇーれぇー!!」
「だってシャルナちゃんのサラシがはだけてるの見てたいし……」
「なっ、何ぃ!? ……あっ」
シャルナが手を離した瞬間、当然が如くリゼラは機械の下敷きとなった。
それと共に作動したのだろう、機械は妖しい光を放ちながら駆動音を鳴り響かせる。
「り、リゼラ様ぁ!」
「ありゃりゃぁ~……、生きてるぅ?」
「生きとるからはよ除けろ……」
機械を片手で除けるシャルナと、そんな彼女に驚き跳ね上がるルヴィリア、と。
隣家との距離が数百メートルある農耕区でなければ近所迷惑待った無しな大騒ぎを繰り広げながら、彼女達の忙しない夜は明けていく。
まぁ、その夜もとある勇者のうるさいという一言と各自への拳骨で終わりを迎えるのだがーーー……、それはそれとして、置いておくとしよう。




