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最強勇者は強すぎた  作者: MTL2
祝福の聖女
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【エピローグ】

【エピローグ】


「ほう、これがか」


 暁が差し込む夕頃の中、フォールは一件の家を眺めながら感嘆の声を上げた。

 彼が訪れていたのは帝国中央地から離れた南部寄りにある家だ。密集した住宅地とは違う、閑散な農耕区にある小さな家。

 隣家とは数百メートルほど離れ、間には畑があり、道行く者々は老人か野良獣か、或いは風か。そんなとてものんびりした場所に立てられた、二階建て庭付きの一軒家である。


「あぁ、私の家だ。……とは言っても研究中でもない限り滅多に帰らん物置のようなものでな、幾つかの研究資料と道具を起きっぱなしにしてあるが、掃除すれば充分に仕えるはずだ。貴様ならば資料の分別ぐらいできるだろう」


「うむ、そうだな……」


「すげー! フォール、見てきて良いか? 見てきて良いか!」


「……イトウ、鍵」


「あぁ、そこの花壇の底に隠して……、いや、懐に入っていた。何故だ?」


 フォールが玄関の鍵を開けると、リゼラとルヴィリアの二人は喜びの声を上げて早速探索に奔りだしていく。

 ――――その家は、イトウの用意した家だった。フォールとの取引条件である帝国での活動拠点として、彼自身の住処を貸し与えたわけである。

 まぁ、本来であれば十聖騎士(クロス・ナイト)の高給に物言わせてボロ屋の一つでも渡せば良かったのだが、そこはそれ、彼の研究癖のせいで貯金を浪費しまくっているらしく、充分な予算がなかったんだとか。


「……まぁ良い。フォール、私は約束通り貴様の住処を用意した。金銭に関しては適当な研究を幾つか終わらせて近いうちに報奨金を廻そう。しばらくは我慢して貰う事になる」


「いや、構わない。家を用意してくれたことに感謝しよう。……それで、十聖騎士(クロス・ナイト)とやらの情報だが」


「それは明日の夜にでも……。それよりも私は帝国城に戻らねばならない。何せかなり無茶な形で誤魔化してきたからな、早く戻らなければこちらの身も危うい」


「……どんな形で誤魔化した?」


「人形をな。……昔、精巧に作りすぎて夜中出会ったガルスが気絶した代物だ」


 イトウはいつものように懐から煙草を取り出し、口端へと持って行く。

 そして火を灯し、じりと吸い上げ、白煙を噴き出した。


「……契約は遂行しろ。こちらも貴様を全力でサポートする」


「あぁ……、無論だとも」


 その確認を取ると、男は毛先ほど頬を緩ませながら踵を返して歩み去って行った。

 僅かに覗く夕日を背中に受けながら、自らの影を追うように、去って行ったのだ。


「……フォール」


 と、小さくなっていく男の背中を見送りながら、シャルナ。


「あの男は……、信用できるのか? いや、脱出の手助けや家まで用意してくれた男を疑うのは悪いと思うが、その、あの男は何処か信用ならない。我々に見せた激昂や貴殿との取引が嘘だったとは思わないんだ。だが、その、全てが全て本心からだったかと言われると、どうにも……」


「だろうな。あの男は信用すべきではない」


 きょとん、と。


「何だ?」


「い、いや、貴殿は親しげに話していたから……! そ、そうなのか?」


「考えてもみろ、あの男はこちら側が知りたいことは何一つ明かしちゃいない。そもそもどうして俺は追われることになった? 何故、魔族である貴様等はさっさと釈放された? さらに言えば聖剣祭が延期になった理由やアストラ・タートルについても何ら聞いていない」


 こつり、とフォールは組んだ腕を指先で叩いた。

 思案に釘撃つように、腹底へ留めるように。


「……聖剣(・・)聖女(・・)についても、な」


 帝国城へ続く、緑草繁る畑を通る一本の道。

 その道を行く白衣の男の背中はもう、見えないところまで遠ざかっていた。

 夕日を背に、陰りの中に双眸の硝子を潜ませる男は、もう。


「では……、信頼はできない、と?」


「だが信用はできる。あの男の目的に偽りはあるまい。あるのはこちらへの不信だけだ。むしろそれぐらい慎重な方がこちらも安心して利用できるというものだな」


「り、利用って……」


仕込み(・・・)は終えた。……後は三日以内(・・・・)、だ」


 ふと、シャルナは彼の中に微笑みを見た気がした。

 表情を浮かべる事など滅多にないはずの彼の口端が、上がった気がしたのだ。

 先程イトウが浮かべたそれのようにではなく、水面の芯まで凍てつかせるような、冷たい笑みを。


「……フォー」


「シャルナぁあああああああ家の中に真っ黒く〇すけでたぁあああああああああ!!!」


「ト〇ロ!? あなたトト〇って言うのね!?」


「あと何かルヴィリアが変な薬品被って幻覚見とるぅうううううううううううう!!!」


「何をやっているんだ、あの馬鹿共は……。で、シャルナ。何か言ったか?」


「…………シリアスをやり遂げたいな、と」


「そうか、諦めろ」


 こうして、奇しくも一軒家を手に入れた彼等はしばし帝国に根を張ることになる。

 イトウの思惑、十聖騎士(クロス・ナイト)の裏切り者、聖女という名の少年エレナ、聖剣、現れた神獣、彼等と擦れ違う盗賊と冒険者、第一席と共に暗躍する傭兵、とある勇者の目論見。

 幾重にも重なり、交差し、溶解する真偽と行動。世界最大の国家でこれから巻き起こるであろう数々の事件を知る者はまだ、いないーーー……。



読んでいただきありがとうございました

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